深津篤史を追悼する

演出家・劇作家の深津篤史(しげふみ)氏が、今日、肺小細胞がんのため亡くなったという。46歳か。
深津演出の舞台を観たのは再演を含めて6作にすぎない。彼自身が書いた作品は1つだけ。それでも、演劇人としての才能は圧倒的だった。

2005年10月 岸田國士『動員挿話』(場所はすべて新国立小劇場)
2008年2月 『動員挿話』再演
2008年9月 三島由紀夫『弱法師』
2009年2月 深津篤史『珊瑚囁(さんごしょう)』(栗山民也 演出/新国立劇場演劇研修所第2期生 修了公演)
2010年3月 別役実『象』
2012年6月 ハロルド・ピンター『温室』初日の感想メモ2回目観劇のメモ
2013年7月 『象』再演

『動員挿話』で深津篤史という演出家を初めて知った。岸田國士の〝可能性の中心〟をシンプルに(これが最も難しい)舞台化した素晴らしい演出。『弱法師』も印象的だが、なんといっても『珊瑚囁』。あの舞台は忘れ難い。深津の書いた芝居を観たのはこれが最初で最後となった。見ながら涙がぽろぽろ出た。神戸の震災時にコンクリート等で下敷きになった死者たちに声=言葉を与えたレクイエムだ。観た後、たまたま小劇場の外で煙草を吸っている(これがよくなかったのか)深津氏に遭遇。賛辞を述べると、「ファンタジー」のつもりで書いたと言っていた。ぜひ神戸で公演すべきだと伝えたのだが、結局、実現しなかったようだ。
その後の『象』と『温室』でも、作品をいったん解体し再構築する演出のあり方に変わりはなかったようだ(これが出来ない演出家は〝いわゆる〟な舞台ばかり作ることになる)。一方で、体力の問題なのか、役者の発話等まではディレクションが及んでいないような印象も受けた。それでも見終わった後、いろいろと考えさせられる質の高さはやはり群を抜いていたと思う。彼の演出舞台はもう二度と見ることができない。だが、彼の演出の感触は、幸運にもその場に居合わせたこの身体に深く刻印されている。いまはただ深津篤史氏の冥福を祈りたい。