8月のフィールドワーク予定 2022/iakuのこと

あっという間に16日。今月は演劇の2公演のみだが、一方の『あつい胸さわぎ』再演はすでに終わり、他方の劇団銅鑼公演は陽性者が出たため中止に。8月に1公演しか見ないのは二十数年ぶりか。

『あつい胸さわぎ』は、役者はみな巧いし〝感動〟したが、同時に、演劇性から物語性(メロドラマ)への比重の移行を再確認した。

横山拓也の作品は2018年から見続けてきた。数えたら11作(『首のないカマキリ』は見逃した)。初めて見た「iaku 演劇作品集」(『あたしら葉桜』『梨の礫の梨』『人の気も知らないで』『粛々と運指』)のちらしに本人のコメントが記されている。「横山戯曲は岸田國士の系譜にあると考えている」と。岸田の『葉桜』(1926)と自身の『あたしら葉桜』の連続上演に触れたものだが、『あたしら』以外の作品もたしかに岸田的対話の妙が際立つ。ただし、この4作に魅せられたのは、(関西弁の)対話の妙もあるが、芝居の〝仕掛け〟が大きかった。

岸田は「『或ること』を言うために芝居を書くのではない。芝居を書くために『何か知ら』云うのだ」と何度か繰り返した。これは、芝居の内容(物語)より、芝居としての妙味、つまり演劇性(小説とは異なる)を優先するという作劇宣言である。横山作品も、語り方の工夫(手法)に芝居の妙が強く感じられ、その意味で、「岸田の系譜にある」といってよい。私が気に入ったのは、決定的情報の後出し(『あたしら』『梨の礫の梨』『人の気も知らないで』)や、攪乱された/二重の時間(『逢いにいくの、雨だけど』『雉はじめて鳴く』『The last night recipe』『フタマツヅキ』)などの〝仕掛け〟である。〝後出し〟は、観客に、それ以前の科白の想起と再吟味を促し、〝二重の時間〟は、各場面の、あるいは場面間の意味や関係性を宙づりにし、かえって、いまここでの科白に注視させる。このように、劇の〝仕掛け〟が、シンプルなセットや俳優の律動的な登退場と相俟って、上演を音楽に近づけるのだと思う。横山作品がしばしば良質な演劇的快楽をもたらす所以である。

ただ最近は、そうした要素がやや後退し、物語(メロドラマ)性が前景化してきた印象を受けることがある。特に二つの再演舞台(21年『逢いにいくの、雨だけど』、今回の『あつい胸さわぎ』)などはそう。再演で演技がこなれるせいか、ある意味、分かりやすく、より感動的になった。これをポジティブに捉える向きもあるだろう。だが、芸術の場合〝分かりやすさ〟は要注意だ。ここで想起したいのは、「異化」である。ブレヒトではなく、その基になったシクロフスキイの方。

「芸術の手法とは、事物を〈異化〉する手法であり、形式を難解にして知覚をより困難にし、より長びかせる手法なのである。というのも、芸術にあっては知覚のプロセスそのものが目的であり、そこで、このプロセスを長びかせねばならないからである。芸術は事物の成りたちを体験する方法であり、すでに出来上がってしまったものは芸術においては重要ではないのである」(ヴィクトル・シクロフスキイ「手法としての芸術」松原明訳/ゴシックは引用者)。

俳優座への書き下ろしは11月の新作『猫、獅子になる』で三作目だし、昨年は文学座で『ジャンガリアン』が上演された。後れを取った新国立劇場は12月に『夜明けの寄り鯨』を上演予定だ。横山作品が広く認知され、多くの観客を得るのはとても喜ばしい。ただ、今後も〝分かりやすさ〟より、演劇性を優先させた作品が書かれることを期待している。

5日(金)18:00 iaku『あつい胸さわぎ』作・演出:横山拓也/舞台美術:柴田隆弘/照明:葛西健一/照明オペ:平野明/音楽:山根美和子/音響:星野大輔/音響オペ:日本有香(Sugar Sound)/演出助手:朝倉エリ/衣裳:中西瑞美(ひなぎく)/舞台監督:青野守浩/[配役]武藤千夏(芸術大学の文芸学科学生):平山咲彩、武藤昭子(マスモリ繊維(株)社員+千夏の母):枝元萌(ハイリンド)、花内透子(マスモリ繊維(株)社員):橋爪未萠里、川柳光輝:田中亨、木村基晴(マスモリ繊維(株)社員):瓜生和成(小松台東)  @ザ・スズナリ

29日(月)19:00 劇団銅鑼 創立50周年 第2弾 No.57『ふしぎな木の実の料理法〜こそあどの森の物語〜』原作:岡田 淳(「ふしぎな木の実の料理法」理論社刊)/脚本:斎藤栄作/演出:大澤 遊/美術:池宮城直/照明:鷲崎淳一郎/音響:ステージ・オフィス/衣装:柿野あや/音楽:いとをひろみつ/振付:下司尚美/舞台監督:和田健汰/演出助手:吉岡琴乃/舞台監督助手:村松眞衣・大竹直哉/衣装スタッフ:髙辻知枝/音声ガイド:中島沙結耶・齊藤美香/イラスト:さいとう りえ/宣伝美術:山口拓三(GAROWA GRAPHICO)/票券:佐久博美/制作:平野真弓/[配役]スキッパー:齋藤千裕、ドーモ:深水裕子、ポット:佐藤響子、トマト:亀岡幸大、トワイエ:館野元彦、ギーコ:植木圭、スミレ:川口圭子、アップル:福井夏紀、レモン:佐藤凜、ナルホド:池上礼朗、マサカ:早坂聡美、バーバ(声の出演):北畠愛美 @シアターグリーン BIG TREE THEATER←「関係者の中に新型コロナウイルスへの陽性反応を示す者が複数名確認され…協議を重ねた結果、全公演の中止を決定 8/15」