3月のフィールドワーク予定 2024

2月は怒濤の15公演だったが、今月は3公演のみ。少し落ち着いて本が読めそうだ。

バレエ『パキータ』全幕は米沢唯と中家正博の主演。以前から待ち望んできた二人の共演は新国立劇場では一向に叶わず、22年、同じく日本バレエ協会の『ラ・エスメラルダ』でやっと実現した。予想通りとても好かった。今回は ABT版《ライモンダ》等を手がけたアンナ=マリー・ホームズの復元全幕版で踊る。楽しみ。

芸監の大野和士が振る《トリスタンとイゾルデ》はブランゲーネの藤村実穂子に加え、都響がピットに入るのも注目だ。

BCJの《マタイ》はエヴァンゲリストにブルンスを迎え、ソプラノにブラシコヴァ、アルトにアレクサンダー・チャンスという布陣。優人氏がどんな受難曲に仕上げるのか。興味津々。

10日(日)18:00 日本バレエ協会 アンナ=マリー・ホームズ版『パキータ』全幕〈世界初演/原振付:ジョセフ・マジリエ/改訂振付:マリウス・プティパ/復元振付・演出:アンナ=マリー・ホームズ/演出補:リアンマリー・ホームズ・ムンロー/原曲:エドゥアール・デルデヴェス/プティパ版追加曲:レオン・ミンクス/アンナ=マリー・ホームズ版作曲・編曲:ケヴィン・ガリエ(アンサンブル・アドレアティコ)/舞台監督:森岡 肇/照明デザイン:沢田 祐二/舞台:東宝舞台株式会社/指揮:井田勝大/管弦楽:ジャパン・バレエ・オーケストラ/バレエミストレス:佐藤 真左美 角山 明日香 中村 彩子 八木 真梨子/総監督:岡本 佳津子/制作担当チーフ:本多 実男/制作補佐:江藤 勝己 前田 藤絵/[主要キャスト]パキータ:米沢 唯/リュシアン:中家正博/イニゴ:高橋真之/ドン・ロペス:マシモ・アクリ/主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団/協賛:チャコット株式会社 @東京文化会館

14日(木)16:00 新国立劇場オペラ リヒャルト・ヴァーグナートリスタンとイゾルデ》全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:大野和士/演出:デイヴィッド・マクヴィカー/美術・衣裳:ロバート・ジョーンズ/照明:ポール・コンスタブル/振付:アンドリュー・ジョージ/再演演出:三浦安浩/舞台監督:須藤清香/[キャスト]トリスタン:トリスタン・ケール(急病のため降板)→ゾルターン・ニャリ/マルケ王:ヴィルヘルム・シュヴィングハマー/ゾルデ:エヴァ=マリア・ヴェストブルック(本人都合により降板)→リエネ・キンチャ/クルヴェナール:エギルス・シリンス/メロート:秋谷直之/ブランゲーネ:藤村実穂子/牧童:青地英幸/舵取り:駒田敏章/若い船乗りの声:村上公太/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽東京都交響楽団新国立劇場オペラハウス

29日(金)18:30 BCJ #160 定演 受難節コンサート2024 J. S. バッハ《マタイ受難曲 BWV 244》指揮:鈴木優人エヴァンゲリストベンヤミン・ブルンス/ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ、松井亜希/アルト:アレクサンダー・チャンス、久保法之/テノール:櫻田 亮バス:加耒 徹、マティアス・ヘルム/管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン @東京オペラシティコンサートホール

オフィスコットーネプロデュース『兵卒タナカ』2024

『兵卒タナカ』の初日を観た(2月3日 土曜 18:00/吉祥寺シアター)。

作:ゲオルク・カイザー(1878-1945)/翻訳:岩淵達治/演出:五戸真理枝(文学座)/企画:綿貫 凜/美術:池田ともゆ/照明:松本大介(松本デザイン室)/音響:青木タクヘイ(ステージオフィス)/衣裳:加納豊美(アトリエ・DIG)/振付:永野百合子(妖精大図鑑)/舞台監督:尾花 真(青年座)/演出助手:城田美樹/ドラマトゥルク:木内 希/宣伝美術:郡司龍彦/宣伝写真:杉能信介/Web 製作:木村友彦/制作:落合直子 小野塚 央 大友 泉/制作デスク:津吹由美子/制作協力:J-Stage Navi/主催:(有) オフィスコットーネ/提携:公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団/助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会/協力:アルファエージェンシー/オフィス PSC/エンパシィ/劇団道学先生/劇団離風霊船/青年座映画放送/文学座/妖精大図鑑/ワタナベエンターテインメント

1940年にこんな〝戦争劇〟が書かれていたとは。カイザーは「上官を告発しないビュヒナーのヴォイツェクに対して、タナカは事件を起こし、制度を告発する」、その意味で本作は「『ヴォイツェク』以上の作品であると豪語した」らしい(新野守広/プログラム)。なるほど。ラストの五戸演出は、現在の日本をも痛烈に照射/批評していた。以下、ダラダラと感想をメモする。ネタバレがあるので注意。

[配役]タナカ:平埜生成/村人&ヨシコ:瀬戸さおり/タナカの父&妓楼の玄関番&弁護官:朝倉伸二/田中の母&女将:かんのひとみ(劇団道学先生)/ワダ&陪審判士Ⅱ:渡邊りょう/村人&下士官&裁判長:土屋佑壱/タナカの祖父&陪審判士Ⅰ:名取幸政(青年座)/村人&第二の士官&書記:村上 佳(文学座)/村人&第三の士官&衛兵:比嘉崇貴(文学座)/村人&第一の士官/衛兵:須賀田敬右(青年座)/村人&第四の士官&他:澁谷凜音(青年座)/村人&芸妓:永野百合子(妖精大図鑑)/村人&他:宮島 健

舞台には段差のある方形の台が中央に設えられ、上方にはバランスボール大の球体が不気味に吊されている。

冒頭で生成り襤褸を身につけた男女が亡霊のように登場。上から降りてきた球体に手を伸ばし、みな我先に縋り付く。音楽は笙を使った雅楽風だが、背後にグレゴリオ聖歌「怒りの日 Dies Irae」らしき男声合唱が微かに聞こえた。

第1幕は兵卒タナカ(平埜生成)が戦友ワダ(渡邊りょう)を連れ、故郷の農家に帰還する。戦友を連れ帰ったのは妹を嫁にやるためだが、家には不在。山向こうの豪農へ手伝いに行ったと、親は表情を変えずに言う。村の飢饉を新聞で知ったタナカらは、家族のために魚の干物や焼酎などを鞄に入れてきた。が父母は息子をもてなす旨酒や生魚や煙草などを用意しており、驚く息子に、貯めた金で買ったと無頓着。お相伴にあずかりにきた亡霊のような村人たちに、持参の焼酎や魚を分け与えるタナカと戦友。両親の語りは狂言のような趣があった。

第2幕は妓楼の場。タナカやワダを含む兵卒たちが妓楼の門を叩く。玄関番と女将はタナカの両親と同じ役者だが、この効果については後ほど。女将の指示で障子戸から芸妓が一人ずつ現れ、歌い踊る。喜ぶ兵卒らは〝コイントス〟で誰が座敷に上がるか決めていく。以下これが繰り返されるが、同じ芸妓(永野百合子)が複数回登場。永野はダンサー兼振付家だけに日本舞踊もダンスも見応えあり。やがてタナカが最後に残り、現れたのは、予想通り、妹ヨシコ(瀬戸さおり)だ。真相を語る妹。女なら誰でもよいわけではないの、と少し自慢げ。帰郷時の豪勢な歓待は、飢饉や災害で膨らんだ借金の返済に妹を売った金が元手だった。愕然とする兄。再度、妓楼の門を叩く音。下士官だ。女(妹)を上官へ譲れと玄関番に迫られ、ふたり隠れる。が、タナカは妹を刺し殺し、下士官も殺してしまう。下士官ウメズ役の土屋佑壱は明朗かつ自在な発話と運動神経のよさで魅せた。

第3幕軍法会議の場。裁判官は下士官ウメズの土屋。弁護官はタナカの父と妓楼の玄関番を演じた朝倉伸二。後ろに控える陪席判士Ⅰはタナカ祖父の名取幸政、判士Ⅱは戦友ワダの渡邊。これらの一人二役(三役)も後述。会議前半は、タナカの犯行動機をあれこれ探る土屋裁判官の独壇場。彼は色恋沙汰など週刊誌が飛びつきそうな推理をコミカルに展開する。シモテ後方で妓楼の女将や芸妓らも聞いているが、たぶん戯曲にその指示はないだろう。タナカが真実を語るシーンに殺された妹が登場するのも、五戸がよくやる手法(2019年の『どん底』や2022年の『貴婦人の来訪』もそうだった)。人払い後も黙秘を続けるタナカに、業を煮やした書記(村上佳?)がエレキギターを取り出しガンガン弾き始める(五戸演出『コーヒーと恋愛』は生ギターだった)。ついにタナカが真実を述べるくだりに。先立つ笑いやエレキの効果が、より粛然とこの場面にフォーカスさせた。判決は、もちろん死刑。ただし、救われる道が一つある、と裁判官。それは、みずから陛下に嘆願を申し出ること、と。これにタナカは、陛下こそ自分に赦しを乞うべきだと応じる。農民たちはどんなに凶作が続いても税を納めねばならない。兵士や士官の上等の制服も天皇が閲兵する観兵式の費用も、すべて農民(国民)から吸い上げた税で賄われる。つまり、自分の娘を女衒に売らねば生きていけない理不尽の淵源は、この制度であり、その頂点に陛下が居る。この仕組みさえなければ、妹が妓楼で働く必要も、いわんや自分が妹を殺し、上官を殺すこともなかった。ゆえに、タナカは「陛下があやまるべきであります」と言明するのだ。無論こんな訴えが受け入れられるはずもない。続く処刑の場では、後方から銃を持つ農民たちが現れ、銃を有する軍人ではなく、他ならぬ農民たち自身が前方に立つタナカに銃口を向け、暗転して幕となる。幕切れの音楽は雅楽なしで「怒りの日」だけが響く。

ラストシーンの演出は初めピンと来なかったが、あとで腑に落ちた。むしろ今の日本の絶望的状況がまざまざと浮かんだから。自分(国民/農民)たちを苦しめる制度とそれを改善(改革)しない元凶(政府/天皇)を正当にも批判する個人が、まさにその被害者たちによって攻撃され叩き潰される。ネットでは、今日も同じ愚行が繰り返されているだろう。タナカを処刑するのは、苦境にあえぐ農民たち自身であり、そこには彼の家族や同僚たち等々が含まれる。一人二役三役にしたのは、効率性もあろうが、盲目的にあの制度を支える〝群れ〟と、制度を告発する〝個人〟との対照性を際立たせるためではないか。見事な演出だと思う。

とすれば、吊るされたあの球体は、冒頭の雅楽を含め、天皇を象徴するのかもしれない。その背後で響いた「怒りの日」はどうか。この音楽(詩)は、終末思想と結びついており、趣旨は、世界が灰燼に帰し、審判者(キリスト)が現れてすべてが正しく裁かれる、その日こそ「怒りの日」だと。裁くといえば、第3幕の軍法会議で裁判官がタナカを裁いた。だが、たとえば『ヨハネの黙示録』に結実する終末論が広がった背景には、ローマ帝国によるキリスト教への迫害があった。つまり、タナカを追い込んだ農民の迫害(苦境)こそ「怒りの日」を待望させる土壌でありドライブだった。とすれば、天皇(吊るされた球体)の崇拝(雅楽)が皮肉にもみずからを苦しめる制度の維持・強化に直結し、結局、すべてをシャッフルしてまっとうな世の中に作り直す契機(怒りの日)を待ち望むことになる。幕切れで再度流れた「怒りの日」は、あの裁判が不当であり、真に裁かれるべきは、裁判官のみならず、天皇を崇め、先の制度を盲目的に支持する者たちの方である、そう告げていたのではないか。

戯曲が読みたくなった。

2月のフィールドワーク予定 2024【再追加】【+感想メモ】

今月はバレエ4【+1】,コンサート4,演劇3,オペラ1【+1】の全13【15】公演と多め。すでに2公演が終了。

ゲオルク・カイザー(1878-1945)の『兵卒タナカ』はまったく知らなかった。1940年にこんな〝戦争劇〟が書かれていたとは。カイザーは「上官を告発しないビュヒナーのヴォイツェクに対して、タナカは事件を起こし、制度を告発する」、その意味で本作は「『ヴォイツェク』以上の作品であると豪語した」らしい(新野守広/プログラム)。なるほど。ラストの五戸演出は、現在の日本をも痛烈に照射/批評していた。感想メモ

ヨハネ受難曲》はなんども聞いたが第二稿(1725)は初めて。聞き慣れた第一稿(1724)や第四稿(1749)と大部分は同じだが、冒頭は後の《マタイ》第2部開始のコラール「おお、人よ」だし、第13曲と19曲のテノールアリア(吉田志門)の〝けば立った〟感触やとりわけ終曲「キリスト、神の子羊よ」の〝しょっぱさ〟などから、後味は別物だった。

一方、27c曲でイエスクリスティアン・イムラー)が十字架の傍らに立つ母や弟子らに「婦人よ、見なさい、これがあなたの息子です!」また「見なさい、これがあなたの母です!」と言い、直後に歌われるコラール「かれはすべてを然るべく慮り」でグッときた。さらに、続くイエスの「成し遂げられた!」後の、アルトアリア「成し遂げられた!」(久保法之)は胸に沁みた。

3日(土)8:00 フィスコットーネ プロデュース『兵卒タナカ』作:ゲオルク・カイザー/翻訳:岩淵達治/演出:五戸真理枝(文学座)/企画:綿貫 凜/出演:平埜生成 瀬戸さおり 朝倉伸二 かんのひとみ(劇団道学先生) 渡邊りょう 土屋佑壱 名取幸政(青年座) 村上 佳(文学座) 比嘉崇貴(文学座) 須賀田敬右(青年座) 澁谷凜音(青年座) 永野百合子(妖精大図鑑) 宮島 健/美術:池田ともゆ/照明:松本大介(松本デザイン室)/音響:青木タクヘイ(ステージオフィス)/衣裳:加納豊美(アトリエ・DIG)/振付:永野百合子(妖精大図鑑)/舞台監督:尾花 真(青年座)/演出助手:城田美樹/ドラマトゥルク:木内 希/宣伝美術:郡司龍彦/宣伝写真:杉能信介/Web 製作:木村友彦/制作:落合直子 小野塚 央 大友 泉/制作デスク:津吹由美子/制作協力:J-Stage Navi/主催:(有) オフィスコットーネ/提携:公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団/助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会/協力:アルファエージェンシー/オフィス PSC/エンパシィ/劇団道学先生/劇団離風霊船/青年座映画放送/文学座/妖精大図鑑/ワタナベエンターテインメント吉祥寺シアター感想メモ

4日(日)15:00 BCJ #159 定演 J. S. バッハ《ヨハネ受難曲BWV 245(第二稿)指揮:鈴木雅明エヴァンゲリスト:吉田志門/ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ/アルト:久保法之/バス:クリスティアン・イムラー、加耒 徹/合唱・管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン @オペラシティコンサートホール→感想メモは上記

6日(火)18:30「流れゆく時の中に―テネシー・ウィリアムズ一幕劇―」『坊やのお馬』『踏みにじられたペチュニア事件』『ロング・グッドバイ』作:テネシー・ウィリアムズ/演出:宮田慶子/翻訳:鳴海四郎 (坊やのお馬)/翻訳:倉橋 健 (踏みにじられたペチュニア事件/ロング・グッドバイ)/美術:土岐研一/照明:中川隆一/音響:信澤祐介/衣裳:西原梨恵/演出助手:日沼りゆ(第15期修了)/舞台監督:松浦孝行/演劇研修所長:宮田慶子/主催・制作:新国立劇場/キャスト:新国立劇場演劇研修所第17期生=飯田桃子 小林未来 佐々木優樹 田崎奏太 立川義幸 根岸美利 樋口圭佑 新国立劇場演劇研修所修了生=二木咲子(第1期修了) 須藤瑞己(第15期修了)/ギター演奏:伏見 蛍 @新国立小劇場

8日(木)14:00 新国立劇場オペラ ガエターノ・ドニゼッティ《ドン・パスクワーレ》全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:レナート・バルサドンナ/演出:ステファノ・ヴィツィオーリ/美術:スザンナ・ロッシ・ヨスト/衣裳:ロベルタ・グイディ・ディ・バーニョ/照明:フランコ・マッリ/ドン・パスクワーレ:ミケーレ・ペルトゥージ/マラテスタ:上江隼人/エルネスト:フアン・フランシスコ・ガテル/ノリーナ:ラヴィニア・ビーニ ほか/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽:東京交響楽団新国立劇場オペラハウス

↑何より歌を堪能した。ソロも重唱も掛け合いも合唱も好い。初演より楽しめたかも。2時間半も手頃。歌手はみな質が高い。題名役イタリア人(バス)ペルトゥージは役にはややノーブル寄りだが流石に自在。マラテスタ上江隼人(バリトン)は確かな歌唱とイタリア語に声量も充分。他の歌手と細かく絡み、早口言葉で主役と互角に競演した! エルネストのアルゼンチン人(テノール)ガデルは明るく潤いある歌声、ノリーナのイタリア人(ソプラノ)ビーニの荒削りも若さの勢いで尻上がりに魅せた(開演前 壁越しの発声練習に頬が緩んだ)。イタリア人バルサドンナの棒は東響にイタオペの息吹を吹き込んだ(第2幕冒頭、アリアの前奏でTrpが…ガンバ!)。

〝残酷なブッファ〟(辻昌宏/プログラム)? 確かに。絵画における「不釣り合いなカップルの系譜を辿って」(伊藤直子/同前)はとても興味深い。

10日(土)13:30 パリ・オペラ座バレエ団 日本公演『白鳥の湖』全4幕/音楽:ピョートル・チャイコフスキー/振付・演出:ルドルフ・ヌレエフマリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)/装置:エツィオ・フリジェリオ/衣裳:フランカ・スクアルチャピーノ/照明:ヴィニーチョ・ケーリ/[主要キャスト]オデット&オディール:ヴァランティーヌ・コラサント/ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ/ロットバルト:アントニオ・コンフォルティ/指揮:ヴェロ・ペーン/演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団東京文化会館

↑4階バルコニー席。ヌレエフ版は初めて。ラストからすると悲劇性は最も高そう。が、オデットとの出会いがジークフリートの夢想ならどうなのか。第1幕で場を支配する家庭教師の王子との踊りは、最初は師弟関係を、二度目は同性愛的ニュアンスが濃い。

さらにヴォルフガングとロットバルトの一人二役は、彼が王子に女性との愛を断念させる企みの示唆とも取れる。ただ、王子の夢想と現実の境界があいまいなため、結局はっきりしない。

ジークフリートのギョーム・ディオップは1幕のデュエットやソロなど、非凡さを感じさせた。2幕3幕のヴァリエーションも見応えありだが、可動域が広い為か見慣れぬ軌道があり、その分、様式的でないと感じる部分も。

オデット/オディールのヴァランティーム・コラサントは、ラインはさほど出ないけど、実質的というか、これまで踊ってきた時間を感じさせる。

ヴォルフガング/ロットバルトのアントニオ・コンフォルティは1幕の王子とのデュエットや他の幕での動きやマイムの強度は高いが、3幕のソロで回転が二度とも崩れたのは残念。東京シティフィルを振ったヴェロ・ペーンは白鳥のテーマはかなり遅め、他は適切なテンポとコントロールで、丁寧な音楽作り。

1幕のパド・トロワ(ブルーエン・バティストーニ、イネス・マッキントッシュ、アルチュス・ラヴォー)は牧歌的。バティストーニは両回転したが少し乱れた。

今夜(2/16)は『マノン』を見る。3階バルコニー席。休憩後にアテンダントが「椅子に背中を付ける」注意喚起をするのは有り難い。が、できれば開演前、アナウンスメントに加え、やはり個別にしてもらえたらさらによい。でないと、前半悲惨なことになる可能性が高いので(個人で注意すると逆ギレする人が…)。2/16 のツイートに少し加筆修正

11日(日)14:00「大塚直哉レクチャー・コンサート in 埼玉会館 Vol.2  J. S. バッハの楽器博物館」出演:大塚直哉(ポジティフ・オルガン、チェンバロクラヴィコード、お話)/ゲスト:尾崎温子(バロックオーボエオーボエ・ダモーレ、オーボエ・ダ・カッチャ) 佐藤亜紀子(バロックリュート、テオルボ) 森川麻子(ヴィオラ・ダ・ガンバ)/[曲目]J. S. バッハ:カンタータ《天は神の栄光を語り》より〈シンフォニアBWV 76/8/J. S. バッハ:前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV 998/J. S. バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバチェンバロのためのソナタ ト長調 BWV 1027/J. S. バッハ:オーボエチェンバロのためのソナタ ト短調 BWV 1030bより ほか/主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/後援:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)@埼玉会館小ホール

12日(月祝)14:00 横山拓也×瀬戸山美咲 『う蝕』作:横山拓也/演出:瀬戸山美咲/出演:坂東龍汰 近藤公園 綱啓永正名僕蔵 新納慎也相島一之/美術:堀尾幸男/照明:齋藤茂男/音響:井上正弘/衣裳:髙木阿友子/ヘアメイク:大宝みゆき/演出助手:須藤黄英/舞台監督:田中直明/宣伝美術:相澤千晶/宣伝写真:阪野貴也/世田谷パブリックシアター芸術監督:白井晃/主催:公益財団法人せたがや文化財団/企画制作:世田谷パブリックシアター/後援:世田谷区 @シアタートラム

↑席は前から2列目の左端で多分最悪(会員だけど)。大規模な地盤沈下が離島を襲い〝う蝕〟(虫歯)のような陥没に人々が飲み込まれた…。舞台は巨大なダンボール箱の口を客側に開いたかたち。中央は少しせり出す。(席から見えた限りで)内側カミテにベンチが半ば埋まり地面もダンボールの堆積。正面奥は(席からは)見えず。ダンボールのセットは能登半島地震被災者の避難生活を想起させる。芝居は移住者の歯科医(新納慎也)と、遺体の身元確認に派遣された歯科医たち(坂東龍太、近藤公園)、後から来た若い歯科医等が「あるかないかわからないもの」に振り回される対話劇。亡くなった人(霊)と生き残った人の対話から何かが立ち上がれば…。沈丁花の〝触媒〟で生者と死者が弁別される狙いだろうが、鈴の効果音だけでは分かりにくい(席のせいか)。通常〝ツッコミ芸〟で面白可笑しく展開した果てに話の本質を現出させる横山流がイマイチ機能せず。関西弁でないから? (若手俳優に「ツッコミ担当」は荷が重かったか。)横山演出だとどうだったか。新納慎也の発話/台詞には血が通ってた。第2場の正名僕蔵の登場で初めて体がほぐれ、頰が緩んだ。

世田谷パブリックシアター は20年以上前から会員だが、ここ数年 〝前列の壁側から詰める〟みたいな酷い席ばかり。会員を大事にしない劇場は…。今回『う蝕』のプログラムは1500円。写真集のような作りはどうなのか。

後に『う蝕』の戯曲を捲ると1場のト書きに※で「佐々木崎は加茂と木頭を認識しない(発せられるセリフは聞こえていない)。あとから登場する剣持も同様」とか「沈丁花の香りに意識がいくと、加茂と木頭の存在が認識されるようになる…」、3場には「根田、持っていた沈丁花をたむけるように、そっと置く。/※その行為で、加茂と木頭の存在が認識されなくなる」と記されていた。そういうことか。

2列左端から見た限り、幕切れの根田や剣持のセリフでようやく、二人が生者でないと気づいた。まともな席で見ていれば、第1場から生者と死者の微妙な遣り取りを味わえただろうし、呼び寄せた歯科医二人に死なれ「どう思ったらいいのか分からない」根田の苦悩や身代わりに死なせた木頭への剣持の罪悪感も腑に落ちたはず。舞台(ダンボールの内側)が大きく見切れるA列 B列の特に端から、生者/死者を分かつ微妙な演技の機微を読み取るのは、物理的に難しい。世田谷パブリックシアターがそこを客席にしたのは大変残念だ。2/12, 13 のツイートに加筆修正

13日(火)19:00 「B→C バッハからコンテンポラリーへ」259 薬師寺典子(ソプラノ)[曲目]ヒンデミット:《14のモテット》(1940~60)から「イエスが生まれた時」*/J.S.バッハカンタータ第29番《われらは御身に感謝する、神よ、御身に感謝する》BWV29から「御身の愛をもってわれらをかえりみたまえ」*/早坂文雄:《春夫の詩に據る四つの無伴奏の歌》から「うぐひす」「漳州橋畔口吟」/ブソッティ:《シルヴァーノ・シルヴァーノ ── 人生の劇》から「フォリオ・ラ・カティカンタ」(2006)/ヴィトマン:サウンド・チューブ(2007)*/日野原秀彦:声とチェロによる《色と空と形の踊り》(2024、薬師寺典子委嘱作品、世界初演)**/観世小次郎信光:《吉野天人》から「見もせぬ人や花の友」/サーリアホ:おまえは飛び去った(1982)*/桑原ゆう:ふたつの声のための《二人同夢》(2024、薬師寺典子委嘱作品、世界初演)/J.S.バッハカンタータ第199番《わが心は血の海を泳ぐ》BWV199から「わが身をこの傷の中に横たえ」「わが心はなんという喜びに満ちていることか」*/リゲティ:ヴェレシュの詩による3つの歌曲(1946~47)*/サーリアホ:雨ぞ降る(1986)*/シャリーノ:《ヴァニタス》(1981)から「究極のバラ」*/**/[共演]大須賀かおり(ピアノ)*/山澤 慧(チェロ)@オペラシティ リサイタルホール

↑ピアノ(大須賀かおり)やチェロ(山澤慧)との共演もいいが、無伴奏の三曲は圧巻。早坂文雄「うぐひす」《春夫の詩に據る四つの無伴奏の歌》で薬師寺の歌声がこちらの耳元を強振/共振した。ほんとの鶯が聞いたら鳴き返すと思う。30年前オーチャードの《ノルマ》(大野和士指揮)でリッチャレルリの歌声が最後列の自分の顔を〝触った〟。比喩でなくそう感じたのだが、あれ以来の経験だ。ブゾッティ「フォリオ・ラ・カティカンタ」は舌で音を鳴らし、生き生きと女に歌いかける。こぶしのような独特の歌い回しがとても好い。桑原ゆうが薬師寺に書き下ろした「ふたつの声のための《二人同夢》」はこの日のベストか。今昔物語の話を編集した歌詞は夫婦の語りだが、それをソプラノと謡で使い分け自在に歌う。狂言語りの趣きもあり、実に面白い。最後「…夢覚めぬ」の繰り返しで yume yume yume が meyu meyu に目眩く聞こえ、薬師寺の強度の高い美声と相まって、〝いまここ〟が永遠に続くかのよう。日野原秀彦が薬師寺に書き下ろした「声とチェロによる《色と空と形の踊り》」は、沈黙からかすかに生まれてくる音たち、ざわめきのような、ゲップのような、能の謡のような音/声を聞き取る面白さ。ピアノの大須賀がマレットやカードで内部奏法するなか、口にあてがった筒をピアノの内に向けて歌う「サウンドチューブ」は、歌手がそのまま歩いて退場するシアトリカルな作品。…コンテンポラリーは充実していた。バッハのカンタータ特に199番は長年BCJに親しんだ耳には少し様式を食み出す印象。いずれにせよ、考え抜かれたプログラムは(カーテンコールを含め)最後までいっさい客に媚びない。薬師寺典子の姿勢は一貫していた。見事。2/15 ツイート

14日(水)19:00 N響 #2006 定演〈B-1〉ラヴェル:スペイン狂詩曲/プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調/ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」/指揮:パブロ・エラス・カサド/アウグスティン・ハーデリヒ(ヴァイオリン)/吉田珠代(ソプラノ)@サントリーホール

↑ラベル《スペイン狂詩曲》はシャブリエほど馴染みがないけど《ダフニスとクロエ》風の幻想な響きと色彩感溢れる好演奏。プロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》は奏者のアウグスティン・ハーデリヒが素晴らしかった! 潤いある艶やかな音色で少しパールマンを想起。聴き入っていた一楽章で携帯が鳴った。残念。続くアンダンテの豊かな抒情は全く揺るがず、カスタネット入り三楽章はスペイン風で激しく弾き切った。プロコはドライで諧謔味のイメージだったが違った。アンコール曲はあまりの美しさに落涙。カルロス・ガルデル作曲(ハーデリヒ自身の編曲)「ポル・ウナ・カベーサ」(首の差で)だった。アルゼンチンタンゴの名作らしい。稀有なヴァイオリニストに出会えた幸。ファリャ《バレエ音楽「三角帽子」》マシーン振付は未見だが、女声(吉田珠代)や団員の手拍子・掛け声入りの序奏、民族舞曲、ファゴットの滑稽なフレーズ等々、活気に満ちた熱のある、しかも高性能な演奏。ヴァイオリン奏者のアンコールを含め、いずれもスペインにちなんだ曲目だが、パブロ・エサス・カサドはいわゆる熱狂や陽気さだけを強調する音楽作りから一線を画す、きわめて質の高い演奏をN響から引き出した。2/15 のツイートを少し修正

16日(金)19:00 パリ・オペラ座バレエ団 日本公演『マノン』全3幕/音楽:ジュール・マスネ/振付:ケネス・マクミランオーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ/原作:アベ・プレヴォー/装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス/照明:ジョン・B.リード[主要キャスト]マノン:ドロテ・ジルベール/デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン/レスコー:パブロ・レガサ/レスコーの愛人:ロクサーヌストヤノフ/指揮:ピエール・デュムソー/演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団  @東京文化会館

【18日(日)13:30 パリ・オペラ座バレエ団 日本公演『マノン』全3幕/音楽:ジュール・マスネ/振付:ケネス・マクミランオーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ/原作:アベ・プレヴォー/装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス/照明:ジョン・B.リード[主要キャスト]マノン:リュドミラ・パリエロ/デ・グリュー:マルク・モロー/レスコー:フランチェスコ・ムーラ/レスコーの愛人:シルヴィア・サン=マルタン/指揮:ピエール・デュムソー/演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団  @東京文化会館】←追加

23日(金祝)13:00 新国立劇場バレエ団『ホフマン物語振付・台本:ピーター・ダレル/音楽:ジャック・オッフェンバック/編曲:ジョン・ランチベリー/美術:川口直次/衣裳:前田文子/照明:沢田祐二/[主要キャスト]ホフマン:福岡雄大オリンピア:池田理沙子/アントニア:小野絢子/ジュリエッタ:柴山紗帆/リンドルフ ほか:渡邊峻郁/指揮:ポール・マーフィー/管弦楽:東京交響楽団新国立劇場オペラハウス

24日(土)13:00 新国立劇場バレエ団『ホフマン物語[主要キャスト]ホフマン:井澤 駿/オリンピア:奥田花純/アントニア:米沢 唯/ジュリエッタ木村優里/リンドルフ ほか:中家正博新国立劇場オペラハウス

25日(日)13:00 新国立劇場バレエ団『ホフマン物語[主要キャスト]ホフマン:奥村康祐/オリンピア:奥田花純/アントニア:小野絢子/ジュリエッタ:米沢 唯/リンドルフ ほか:中家正博新国立劇場オペラハウス

【27日(火)19:00 オペラ《長い終わり》初演(日本語)作曲・台本・芸術監督:高橋 宏治/演出:植村真/指揮:浦部 雪/私:中江 早希(ソプラノ)/声(ヴォイス):薬師寺 典子(ソプラノ)/ヴァイオリン:松岡 麻衣子/ヴァイオリン:清水 伶香/ヴィオラ:甲斐 史子/チェロ:原 宗史/打楽器:牧野 美沙/ピアノ:弘中 佑子/ドラマトゥルク:田口 仁/音響:増田 義基/舞台監督:服部 寛隆/録音:元木 一成/映像記録:後藤 天/プロデュース:進藤 綾音@すみだトリフォニー 小ホール】←追加

 

1月のフィールドワーク予定 2024【再追加】【改訂】【+感想メモ】

新年初めの月は4公演と少なめだが、楽しみなものばかり。大好きな『魔笛』の音楽に笠井叡がどんな振付・演出をするのか。あの沢口靖子主演の舞台と聞くだけで興味津々だが(なぜか科捜研モノなど必ず見てしまうのは坂口に限りなくgoodnessを感じるせいかも)そこに生瀬勝久や亀田佳明も出演するという。劇場も近いし見ない選択肢はない。N響定期ではソフィエフ指揮で首席ヴィオラ奏者の村上とゲストコンマスの郷古が共演する(昨年1月のソフィエフ+N響は入院と重なり断念)。ベルトマン演出の新国立オペラ《オネーギン》はスタニスラフスキーの息吹が感じられた舞台(2019)。再演ではどんな印象を受けるか楽しみだ。ショパンピリオドコンクールの勝者がコンチェルト1番と2番で鈴木優人指揮するBCJと共演し、1843年製のプレイエル弾く。生で聞くとどんな響きがするのか。

【27日は《オネーギン》終了予定の17時過ぎに初台から原宿へ直行し「NHKバレエの饗宴」を見ることに。冒頭の演目は間に合いそうにないがやむをえない。】

【「バレエの饗宴」の上演順は下記の通り。米沢・速水の『ドン・キ』がトリに。】

8日(月 祝)15:00 ポスト舞踏派 ダンス公演『魔笛』振付・演出・構成:笠井 叡/出演:森山未來、辻󠄀本知彦、菅原小春、島地保武、大植真太郎、笠井 叡/主催:一般社団法人天使館/提携:KAAT 神奈川芸術劇場/助成:文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))独立行政法人日本芸術文化振興会神奈川芸術劇場 KAAT ホール

↑楽しめた。番傘に下駄で客席から登場。例の「白浪五人男」風。冒頭、オペラの幕切れ音楽で笠井がエネルギッシュに踊ると一気に体と頬が緩む。笠井が喋り、ダンサーがペアでソロを踊るが、なんと音楽はオペラの終曲から“逆打ち”に進む。面白い。砂漠にピラミッドはエジプト神イシスとオシリス神殿のイメージかと思いきや、そこへ爆弾が垂直に降ってくる。東京大空襲ウクライナ侵攻? 否イスラエルのガサ攻撃はエジプトと地続きだ。ダンサーは最後に役の衣裳を着ると序曲が流れ大団円へ。お約束の宙吊りで〝こんな地球なんか〟とオサラバする笠井、5人の名乗り、金銀吹雪。笠井の精一杯の抵抗だろう。

笠井の元気すぎる(?)踊りと5人の個性的な踊りが見られたし、実に楽しい時間だった。“逆打ち”にしたのは、いま「人間が神になる」(笠井の『魔笛』解釈)どころか逆行している世界への痛烈な批判かもしれない。大好きなパミーナとパパゲーノのデュエット(7番)がなかったのは残念。1/9のツイートを少し修正

17日(水)18:00 二兎社公演 47『パートタイマー・秋子』作・演出:永井 愛/出演:沢口靖子 生瀬勝久 亀田佳明 土井ケイト 吉田ウーロン太 関谷美香子 稲村 梓 小川ゲン 田中 亨 石森美咲 水野あや 石井愃一/美術:大田 創/照明:中川隆一/音響:市来邦比古/衣裳:竹原典子/舞台監督:澁谷壽久/主催:二兎社/共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場 @芸劇シアターウェスト

24日(水)19:00 N響 # 2003 定演〈B-1〉モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調ベートーヴェン交響曲 第3番 変ホ長調「英雄」/指揮:トゥガン・ソヒエフ/ヴァイオリン郷古廉(N響ゲスト・コンサートマスターヴィオラ村上淳一郎(N響首席奏者)サントリーホール

コンマストゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団コンミス藤江扶紀が客演。ソヒエフがロシアのウクライナ侵攻前まで音楽監督だったオケだ。《モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調》は、郷古廉と(特に)村上淳一郎が互いに聴き合う楽しい演奏。物悲しいアンダンテは後半「英雄」のアダージョと同じハ短調か(堀朋平/Program Note)。なるほど。郷古の明澄、村上の滋味。互いに&ソヒエフとハグ。

アンコールは《モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラの為の協奏曲》から3楽章「主題と変奏」。二者が掛け合いながら主題を変奏していく息の合った好演。再度ふたりのハグ。なんか好い。《ベートーヴェン交響曲 第3番 変ホ長調「英雄」》は、指揮者が手綱を引く馬車に同乗し、どんどん進んでいく感じ。ウクライナやガザの悲惨な現状下、ソヒエフはこのスコアからどんな英雄像を読み取っているのか。強音でも叩きつけず、熱はあるがファナティックではない。塩梅がいいと言うか、どこまでも心地いい。ブレヒトガリレイの生涯』(1938/43)の台詞が浮かんだ——「英雄のいない国は不幸だ」「違う、英雄を必要とする国が不幸なのだ」。葬送のアダージョは厳かで吉村結実のオーボエは心に沁みるけど、次第に明るくひらけていく展開に、慟哭から転じる反動は感じられない。

スケルツォは森の中で種々の生命が蠢き、トリオの野性味あるホルン三重奏は、たしかに「狩に出る英雄のイメージ」(堀/同前)を髣髴させる。《ヴァーグナージークフリート》の禍々しさは皆無だが。フィナーレの変奏はどこか物語的。勇壮ではあるが楽しさに溢れてる。〝素材〟のよさを活かすソヒエフに、すっかり魅せられた。1/26 のツイートを若干修正

27日(土)14:00 新国立劇場オペラ 《エウゲニ・オネーギン》全3幕〈ロシア語上演/日本語及び英語字幕付〉作曲&台本:ピョートル・チャイコフスキー(原作:プーシキンの同名韻文小説)/指揮:ヴァレンティン・ウリューピン/演出:ドミトリー・ベルトマン/美術:イゴール・ネジニー/衣裳:タチアーナ・トゥルビエワ/照明:デニス・エニュコフ/振付:エドワルド・スミルノフ/舞台監督:髙橋尚史/タチヤーナ:エカテリーナ・シウリーナ/オネーギン:ユーリ・ユルチュク/レンスキー:ヴィクトル・アンティペンコ/オリガ:アンナ・ゴリャチョーワ/グレーミン公爵:アレクサンドル・ツィムバリュク/ラーリナ:郷家暁子/フィリッピエヴナ:橋爪ゆか/ザレツキー:ヴィタリ・ユシュマノフ/トリケ:升島唯博/隊長:成田 眞 ほか/合唱指揮:冨平恭平/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽:東京交響楽団新国立劇場オペラハウス

【27日(土)17:30 NHKバレエの饗宴 2024[上演順]〈第1部〉東京シティ・バレエ団:『Lheure bleue』(ルール・ブルー)/振付:イリ・ブベニチェク/音楽:バッハ、モーツァルト、ボッケリーニ/出演:岡博美,平田沙織,植田穂乃香,折原由奈,石塚あずさ,吉留諒,沖田貴士,福田建太,岡田晃明,林高弘/20分休憩//〈第2部〉永久メイ&フィリップ・スチョーピン:『眠りの森の美女』からグラン・パ・ド・ドゥ/振付:コンスタンチン・セルゲーエフ(プティパ版に基づく)/音楽:チャイコフスキー/出演:永久メイ(マリインスキー・バレエファーストソリスト),フィリップ・スチョーピン(マリインスキー・バレエファーストソリスト)//金子扶生&ワディム・ムンタギロフ:『くるみ割り人形』からグラン・パ・ド・ドゥ/振付:ピーター・ライト(イワノフ版に基づく)/音楽:チャイコフスキー/出演:金子扶生(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル),ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)//舞台転換//中村祥子&小尻健太:『幻灯』(改訂版)/振付:小尻健太/音楽:リヒタ(録音音源使用)/出演:中村祥子(Kバレエカンパニー名誉プリンシパル),小尻健太(「尻」は中が「九」ではなく「丸」)//〈第3部〉新国立劇場バレエ団:『ドン・キホーテ』第3幕/振付:マリウス・プティパ&アレクサンドル・ゴルスキー/改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ/音楽:ミンクス/出演:米沢唯、速水渉悟 ほか//指揮:井田勝大/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団NHKホール】←追加

30日(火)19:00 第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサートモーツァルト:《フィガロの結婚》序曲 K. 492/ショパンピアノ協奏曲第2番短調 Op. 21/ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op. 11/*ピアノ:エリック・グオ(第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者)/指揮:鈴木優人/管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン/*使用楽器:プレイエル(1843年7月18日完成 10月9日エピネイ子爵が購入/マホガニーケース/製造番号 No.10456/長さ205cm/タカギクラヴィア所有/2018年度ショパン国際ピリオド楽器コンクール認定楽器)/主催:ジャパン・アーツ/共催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団/後援:ポーランド文化・国家遺産省、アダム・ミツキェヴィチ・インスティチュート、駐日ポーランド共和国大使館、ポーランド国立フレデリック・ショパン研究所(NIFC)、ポーランド広報文化センター/協力:タカギクラヴィア @東京オペラシティ コンサートホール

【31日(水)「みちのく いとしい仏たち」展東京ステーションギャラリー小津安二郎紹介展示コーナー特別展 築山秀夫コレクション「小津安二郎と深川」古石場文化センター】←再追加

12月のフィールド予定 2023【追記】+感想メモ

久し振りに上岡敏之指揮の演奏(読響)を聴く。新日本フィル音楽監督として最後に振ったとき以来か。

新国立の《こうもり》を振るパトリック・ハーンは 21/22シーズンから(かつて上岡が首席指揮者を務めた)ブッパタール響と歌劇場の総監督に最年少で就任した28歳のオーストリア人。ジャズピアニストとしても種々の受賞歴があるらしい。初日は N響定期と重なったため 3日目を観る。楽しみだ。

民藝が 2018年に連続上演した「神と人とのあいだ」第一部『審判』(1970)第二部『夏・南方のローマンス』(1987)は見応えがあった。今回の『巨匠』は同じく木下順二が 1967年にNHKで放送されたポーランドのテレビドラマに感銘を受け、1991年に書き下ろした戯曲だ。ナチス占領下のワルシャワで、極限状況に追い込まれた老俳優がマクベスの〝短剣のモノローグ〟を朗読…。どんな舞台になるのか。

新国立バレエの『くるみ割り人形』は米沢唯、小野絢子、速水渉悟の三人が出演する日を見る。今年のフィールドワークはそれで終わり。

この一年はいろいろあったが、舞台から〝気〟や〝エネルギー〟をもらいながら何とかサバイブできた。舞台に上がったアーティストたち、その舞台を支えたスタッフたちに、感謝したい。

6日(水)19:00 N響 #1999 定演〈Bプロ〉ハイドン交響曲 第100番 ト長調「軍隊」/リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調・レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ指揮:ファビオ・ルイージ/ピアノ:アリス=紗良・オットサントリーホール

↑アリス 紗良 オットがリストのピアノ協奏曲第1番を赤いドレスに素足で弾いた。ペダルを直に感じる為? 1番は14歳でオケと初共演した曲だという。ピアノにかなり負荷をかけたからアンコールはサティの《ジムノペディ》(第1番)を弾くと。超弱音で弾き始め最後はピアノを労るように音が消え入る。紗良は自由奔放で変人(褒めてる)。

ハイドン交響曲100番「軍隊」は面白かった。ロマン派や後期ロマン派を散々聞いた耳にハイドンの古典的書法は新鮮に響くのか。シンプルだけどユーモラス(シンバル+小太鼓+トライアングル、休止等)、端正さと遊びが共存している。

レーガーの《モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》は、例のK331ピアノソナタのテーマを変奏し、最後はフーガで締めくくる。ペトレンコ+ベルリンフィル来日のB プロでやったらしい(Aプロしか聞いてないが)。ルイージ指揮は面白くないとは言わないけど、あまり…。12/7 のツイートに加筆修正

8日(金)18:00 北とぴあ国際音楽祭 2023 ラモー作曲 オペラ《レ・ボレアード》指揮・ヴァイオリン:寺神戸 亮/演出:ロマナ・アニエル/振付・バロックダンス:ピエール=フランソワ・ドレ/バロックダンス:松本更紗、ニコレタ・ジャンカーキ、ミハウ・ケンプカ(以上2名 クラコヴィア・ダンツァ@ポーランド)/アルフィーズ:カミーユ・プール(ソプラノ)/アバリス:シリル・オヴィティ[本人都合でキャンセル]→大野彰展(テノール)/アダマス&アポロン:与那城 敬(バリトン)/カリシス:谷口洋介(テノール)/ボリレ:山本悠尋(バリトン)/セミル&ポリムニ:湯川亜也子(ソプラノ)/ボレアス:小池優介(バリトン)/ニンフ:鈴木真衣(ソプラノ)/アムール:鈴木美紀子(ソプラノ)/合唱・管弦楽:レ・ボレアードピリオド楽器使用)@北とぴあ さくらホール

9日(土)18:00 東京二期会・二期会21 プレゼンツ・スペシャルコンサート ~上岡敏之×東京二期会プロジェクトⅠ~ ストラヴィンスキー詩篇交響曲》/モーツァルト《レクイエム》ニ短調 K. 626/指揮:上岡敏之/ソプラノ:盛田麻央、メゾソプラノ:富岡明子、テノール:松原友、バス:ジョン ハオ/合唱:二期会合唱団/合唱指揮:根本卓也/管弦楽読売日本交響楽団東京芸術劇場コンサートホール

10日(日)14:00 新国立劇場オペラ ヨハン・シュトラウスⅡ世《こうもり》全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:パトリック・ハーン/演出:ハインツ・ツェドニク/美術・衣裳:オラフ・ツォンベック/振付:マリア・ルイーズ・ヤスカ/照明:立田雄士/舞台監督:髙橋尚史/ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン:ジョナサン・マクガヴァン/ロザリンデ:エレオノーレ・マルグエッレ/フランク:ヘンリー・ワディントン[健康の理由でキャンセル]→畠山茂/オルロフスキー公爵:タマラ・グーラ/アルフレード:伊藤達人/ファルケ博士:トーマス・タツル/アデーレ:シェシュティン・アヴェモ/ブリント博士:青地英幸/フロッシュ:ホルスト・ラムネク/イーダ:伊藤 晴/合唱指揮:三澤洋史/合唱:新国立劇場合唱団/バレエ:東京シティ・バレエ団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

↑7回目の再演。初日はN響サントリー定期と重なり、すでに3回エクスチェンジ済みで、3日目の左バルコニーを改めて取った。アルフレードの伊藤達人が素晴らしい! 輝きある歌声で、芝居もドイツ人ソプラノ歌手の元カレ役を自然にこなす。このプロダクションは全部見ているがテノールのベスト。東京シティ・バレエの男性ダンサーたちは端正でキレのよい踊り。これもベストだと思う。若手指揮者ハーンは意外に正攻法で響きがよく整い、音楽は自然。

アイゼンシュタイン役のマクガヴァンはしっかり汗を掻き舞台を牽引した。ロザリンデ役のマルグエッレは姿が綺麗でエンターテイニング。ファルケ役のタツルはOK。アデーレ役のアヴェモは声量の問題もあるが、喜劇に必須の感情表出が足りない。フロッシュ役のラムネクがポルカで歌った。吃驚。フランク役の畠山茂は代役をよく務めた。

オルロフスキー役のグーラは声が出ていない。体調なのか。イーダ役の伊藤晴はいい仕事をした。12/10 のツイートに加筆修正

【追記】1幕フィナーレで「…たとえ消え去ろうとも 幻影が/かつて君の心を満たしていたものが/ワインがもう君の慰めになってくれる/忘れ薬として/幸せ者は忘れるのさ/どうしても変えられないことなんか!」(オペラ対訳プロジェクト)でなぜかグッときた。伊藤達人はロザリンデとのデュエットも絶妙で美しい。ソロのみならず二重唱でも優れ、欧米女性歌手と歌で愛を語れる男性歌手は、日本では残念だが希少価値。伊藤は2015年の研修所公演でも際立っていた。あれから本公演の《タンホイザー》や《鶯》の代役を経て正キャストで活躍する舞台を見るのは格別だ。

【11日(月)13:05 小津安二郎:モダン・ストーリーズ selected by ル・シネマ『父ありき 4Kデジタル修復版』©1942/2023 松竹株式会社/1942,92min. モノクロ/出演:笠智衆 佐野周二 津田晴彦 佐分利信 坂本武 ほか @ル・シネマ宮下】

【12日(火)13:05 小津安二郎:モダン・ストーリーズ selected by ル・シネマ『長屋紳士録 4Kデジタル修復版』©1947/2023 松竹株式会社/1947,72min. モノクロ/出演:飯田蝶子 青木放屁 小澤榮太郎 笠智衆 坂本武 ほか @ル・シネマ宮下】←小津の誕生日

14日(木)19:00 劇団民藝『巨匠―ジスワフ・スコヴロンスキ作「巨匠」に拠る―』作:木下順二/演出:丹野郁弓/装置:勝野英雄/照明:前田照夫/衣裳:緒方規矩子/効果:岩田直行/舞台監督:中島裕一郎/[配役]A:齊藤尊史/俳優:神 敏将/老人:西川 明/女教師:細川ひさよ/前町長:小杉勇二/ピアニスト:花城大恵/医師:天津民生/ゲシュタポ:橋本 潤/通訳:山本哲也/兵士たち:保坂剛大/兵士たち:工村健人/避難者たち:今野鶏三/避難者たち:滑川龍太/避難者たち:釜谷洸士/避難者たち:一之瀬朝登/避難者たち:河南フミ/避難者たち:齊藤みのり/避難者たち:石川 桃/避難者たち:船津優舞/助成:文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))独立行政法人日本芸術文化振興会紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

↑先月亡くなった鈴木瑞穂らが民藝を退団後 1972年に創立したのが劇団銅鑼。ご近所なのでよく見てる。今週たまたま木曜に民藝の『巨匠』を見た翌日、銅鑼の新人試演会『ガラスの動物園』を連続して見ることに。

『巨匠——ジスワフ・スコヴロンスキ作「巨匠」に拠る——』は NHKが放送したポーランドのTVドラマに木下順二が〝感動〟し、エッセイ「芸術家の運命について」を執筆(1967)。このドラマを再構成したのが本作だ(1991)。5回目再演の今回 初めて見たが、エッセイを超えるものは見出せず。というか、そこまでに達していない印象だった。役者が役を生きればなにかが現出するはずだが、〝新劇臭い〟発話ではそれも難しい。

木下順二の「呪縛から逃れない道を探る」(プログラム)という演出家は敢えてそうしたらしい。木下が原作の前後に加えたメタ的役柄のAや「語りの要素」が関係するとしても疑問。観客は俳優の無意識=からだの発動(元ぶどうの会 竹内敏晴/スタニスラフスキー)を観る為にこそ劇場へ行く。同じ演出家の『夏・南方のローマンス』(2018)ではその発動を体感したのだが。

15日(金)19:00 劇団銅鑼 試演会 2023『ガラスの動物園』作:テネシー・ウイリアムズ/小田島雄志訳/演出:大谷賢治郎/演出助手:三浦琉希/装置:髙辻知枝/照明:館野元彦/音響:坂口野花/音響操作:真原孝幸/衣装:中村真由美・庄崎真知子/舞台監督:池上礼朗/協力:Labo/制作:齋藤裕樹/出演:伊藤大輝、井上公美子、大橋由華、中山裕斗 @銅鑼アトリエ

↑新人4人はみな筋がいい。語り手 トム役の中山裕斗は〝クオリティスタート〟で見事に舞台を作り、アマンダ役の大橋由華は振り幅大の母のパトスをよく制御し、ローラ役の井上公美子は受けの演技が素晴らしく、ジム役の伊東大輝バリトンの台詞回しに奥行きがありノーブル。

ローラとジムのローソクのシーンはグッときた。アトリエの四方を客席が一列で囲み、セットはテーブルや電話、蓄音機、ガラスの動物等、椅子以外全て天井から吊されている。トムのフィルターを通した追憶劇の、脆く儚い世界を見事に作り上げた。大谷賢治郎の演出は適切かつ秀逸。

というわけで今回の満足度は民藝より銅鑼の新人公演がかなり優った。12/16 のツイートに加筆修正

22日(金)19:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:ウエイン・イーグリング/美術:川口直次/衣裳:前田文子/照明:沢田祐二/クララ&こんぺい糖の精:小野絢子/ドロッセルマイヤーの甥&くるみ割り人形&王子:福岡雄大/指揮:アレクセイ・バクラン管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/合唱:東京少年少女合唱隊新国立劇場オペラハウス

【24日(日)13:00 芸劇 dance ワークショップ2023 発表公演 √オーランドー 身体的冒険と三百年の遊び/原案:ヴァージニア・ウルフ『オーランドー』/講師・構成・振付・出演:中村蓉/出演:芸劇danceワークショップ2023『√オーランドー』参加者;秋山舜稀 内田颯太 川島信義 佐藤正宗 中野亜美 中野利香 中森千賀 幡野智子 廣庭賢里 巻島みのり 森口ありあ 大和奈月 山本結 吉村元希 律子/スペシャリスト(各専門分野の視点から作品創作にご協力をいただく方々):浅野ひかり(現代美術):三村一貴(中国語中国文学)ほか @芸劇シアターイースト】←追加

↑中村蓉の公演は初めて見た。面白い。WSの参加者を活かす舞台。ピナ・バウシュ特に瀬山亜津咲がさいたまゴールド・シアター(もうない)を振付・演出したwork in progress の公演を想起。舞台が閉じてない(ピナは閉じてた)。

舞台正面奥に扇や松で飾られた目出度いオブジェ。原作の謝辞になぞらえた中村の〝挨拶〟後、一人のメンバーが登場、その動き(行動)を別のメンバーが追いながら言語化し、それをさらに中村が追いながら言語化していく。このアクションを続々登場するメンバーが繰り返す。ヴァージニア・ウルフの原作『オーランドー』(1928)は主人公の行動を追いながら〝伝記作者〟が(当然)虚実ないまぜに書き記したフィクション(小説)だ。冒頭のシークエンスはこの原作構造に「発表公演」の取り組みを、さらなるメタ視線として重ねたように見えた。

舞台は小説『オーランドー』の主要な出来事を語るテクストが字幕で表示され、パフォーマンスが展開される。凍ったテムズ河の氷上でオーランドーがサーシャとスケートする場面、逃げ出したトルコでの暴動後オーランドーが昏睡し女性に変身する場面、遊牧民族(ジプシー)と行動を共にする場面等々。昏睡するオーランドーを女性が丁寧にケアする場面はなぜか見入った(音楽はブラームスピアノ曲「4手のためのワルツ集(16のワルツ)」から15番)。あのメンバーはナースなのか。横で「純潔」「貞節」「謙譲」をチアガールが賛美し、そこへオーランドーがベッドから〝幽体離脱〟して「真実」のカードを持ち…。

男女が互いに対で動きつつ対話するシークエンスは面白い。卵焼きになにをかけるか、インドア派かアウトドア派か等々。価値観に違いがあっても一緒に居られるか。無理、無理じゃない…動きとやりとりが次第に激化し、いつの間にか互いの意見が反転する。からだへの負荷が〝なぞられた〟発話を〝生きられた〟発話へ変えていく。対話とは互いに変わることだった。

女性経済学者のメンバーがオーランドーの行動に関する質問に次々答えていくシーンも印象的。メンバー数人にサポートされリフトされる女性学者は、インタビュアーにその都度マイクを口にあてがわれ、答える。結構アクロバティック。質問(中村?)はスピーカーから。答え:オーランドーは経済学的に言うと浪費が過ぎる…。質問:ではどうすべきだったか? 答え:投資すべきだった!(場内笑い)。このシークエンスも発話を〝なぞり〟から遠ざけ自発性に近づける仕掛けが見事。青年団(平田オリザ)の演技術を想起した。

暗転後「19世紀の夜明け…イギリス全土の上空に大きな雲が居座る」場面。メンバー数人うつ伏せに横たわり中央に中村も。上手のAmazonならぬAsazonボックス(アイデア等を定期便で届けた現代美術の浅野ひかりに因むらしい)から雲を模したスモークが湧き出てる。メンバーは徐々に捌け、中村だけ残る。男女が箱を持ち去りつつ「女の子は嫁に出すからつまらん」と。小津安二郎『晩春』(1949)で父役の笠智衆が吐くセリフ。続いて紀子(原節子)が嫁に行く前、親子で京都旅行した帰り際に交わす対話が音声だけ流れる。このまま父と一緒に居たいと言う紀子、それは違うと父。ここで踊る中村のソロに正直な願望(娘)と社会的制度(父の言葉)の葛藤に苦悶する様が見えた。最後は父に従う娘。はいと答える原の声に合わせ頷き発する中村。はいと頷く後の、うなだれる中村のからだ。そのシルエットは、笠が娘の婚礼後 自宅で一人うなだれるラストのシルエットと重なる。『晩春』にも出てくるワーグナーの結婚行進曲は、ここではトロンボーン重奏+ハープ演奏。この場面によく合ってた。12/30 のツイートに加筆修正

24日(日)18:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』クララ&こんぺい糖の精:米沢 唯/ドロッセルマイヤーの甥&くるみ割り人形&王子:井澤 駿 新国立劇場オペラハウス

【25日(月)13:35 映画『PERFECT DAYS』(124分)監督:ビム・ベンダース/脚本:ビム・ベンダース&高崎卓馬/製作:柳井康治/エグゼクティブプロデューサー:役所広司/プロデュース:ビム・ベンダース&高崎卓馬&國枝礼子&ケイコ・オリビア・トミナガ&矢花宏太&大桑 仁&小林祐介/撮影:フランツ・ラスティグ/美術:桑島十和子/スタイリング:伊賀大介/ヘアメイク:勇見勝彦/編集:トニ・フロッシュハマー/リレコーディングミキサー:マティアス・ランパート/インスタレーション撮影:ドナータ・ベンダース/インスタレーション編集:クレメンタイン・デクロン/キャスティングディレクター:元川益暢/ロケーション:高橋亨/ポスプロスーパーバイザー:ドミニク・ボレン/VFXスーパーバイザー:カレ・マックス・ホフマン/[キャスト]平山正木:役所広司/タカシ:柄本時生/アヤ:アオイヤマダ/ニコ:中野有紗/ケイコ:麻生祐未/ママ:石川さゆり/ホームレス:田中 泯/友山:三浦友和/竹ぼうきの婦人:田中都子/酔っ払いのサラリーマン:水間ロン/子供:渋谷そらじ/子供:岩崎蒼維/迷子の子供:嶋崎希祐/母親:川崎ゆり子/赤ちゃん:小林 紋/明神主:原田文明/旅行客:レイナ/番台:三浦俊輔/銭湯の老人:古川がん/かっちゃん:深沢 敦/常連客:田村泰二郎/居酒屋の店主:甲本雅裕/年配女性:岡本牧子/レコードショップの店員:松居大悟/レコードショップの客:高橋 侃/レコードショップの客:さいとうなり/レコードショップの客:大下ヒロト/野良猫と遊ぶ女性:研ナオコ/OL:長井短/地元の年配男性:牧口元美/地元の年配男性:松井 功/でらちゃん:吉田 葵/写真屋の主人:柴田元幸/古本屋の店主:犬山イヌコ/バーの常連客:モロ師岡/バーの常連客:あがた森魚/女子高校生:殿内虹風/ケイコの運転手:大桑 仁/電話の声:片桐はいり/タクシー運転手:芹澤興人/駐車場係員:松金よね子/佐藤:安藤玉恵 @TOHOシネマズ 池袋】←追加

28日(木)14:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』クララ&こんぺい糖の精:柴山紗帆/ドロッセルマイヤーの甥&くるみ割り人形&王子:速水渉悟新国立劇場オペラハウス

太陽劇団『金夢島』2023

太陽劇団の『金夢島(かねむじま)』を観た(10月24日 火曜 18:00/芸劇プレイハウス)。

太陽劇団を見るのは2001年の『堤防の上の鼓手』(新国立中劇場)以来だから、実に22年振り。『鼓手』は俳優が(文楽)人形振りを見事に演じきる驚嘆すべき舞台だった。ただ演者らが東洋人に似せて顔を細目(吊り目)に作っていたのは少し違和感もあった。が、今回はまったく異なる印象。以下、簡単にメモする。

東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクション 太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』フランス語上演(多言語の使用場面あり)・日本語字幕付き

演出:アリアーヌ・ムヌーシュキン(2019年京都賞受賞)/創作アソシエイト:エレーヌ・シクスー/音楽:ジャン=ジャック・ルメートル/出演:太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)

日本の大衆演劇(芝居)へのオマージュか。日本への愛が強く感じられた。ピナ・バウシュとロベール・ルパージュを合わせたような印象も。

老いた女性コーネリアがベッドで夢を見る。…日本の島(佐渡)で国際演劇祭を開催し、町おこしを企図する市長と、カジノリゾート開発(どこかで聞いたような)を目論む海外資本グループとの対立が展開される。舞台では、移動式ベッドのコーネリア+守護天使ガブリエルと、彼女が夢見る島での出来事が同時に現前し、進行する。能舞台や銭湯など、場面によって様々に変わるセットが素早く設えられるが、その間、舞台手前で芝居が繰り広げられる。素朴だか効果的な道具立ての数々(主に日本の古典芸能や大衆演劇を思わせる)を含め、見ていてとても楽しい。ヘリコプターの場面はルパージュばりのローテクの面白さ。日本の人形劇一座、中東一座、香港の劇団、アフガニスタンの難民劇団、ブラジルの劇団等々、いろんな国の演劇グループがフェスティヴァルのリハーサルをおこなう。その際、国の政治的な問題が顕在化するという趣向。富士山の背景画を設えた銭湯で女同士、男同士が入浴するシーンはリアルでとてもコミカルだった。

…ラストは巨大な鶴が奥から登場し、全員が扇子を持って舞踊(羽衣)を踊るなか "We’ll meet again" が流れる。ここはピナっぽい。「戻ってきた鶴」とは〝鶴の恩返し〟ではないか(佐渡木下順二が『夕鶴』で用いた「鶴女房」の伝説の地)。ムヌーシュキンたちは日本文化への恩返しに戻ってきた、そして「いつかまた会いましょう」と。なんかグッときた。(後ろの女性は "We’ll meet again" の歌詞を小声で口ずさんでいた。)

他にも、劇中で引用されたセリフや言葉が印象に残った。本屋のシーンで『桜の園』を注文していた女性客が、すでに読んだという『三人姉妹』のイリーナのラストのセリフを語る(もちろんロシア語で)——

やがて時が来れば、どうしてこんなことになったのか、なんのために苦しんできたのか、それが分かる日がやって来る。[…]でも、それまで生きていかなくてはいけないのね……。働かなくてはいけないのね。(浦雅春訳)

さらに、トーゼンバフが決闘に行く前の(死を賭した)セリフを店主が暗誦する——

あなたに恋してもう五年になるけど[…]でも、ただひとつ、たったひとつぼくの心をさいなむ棘がある——あなたはぼくのことを愛していない!(同上)

また、もっと前だったか、ジョン・ダン(1572-1631)の有名な英文の一節を誰かが暗誦した。スペインの内戦を扱ったヘミングウェイの長篇『誰がために鐘は鳴る』(1940)のタイトルおよびエピグラフに使われたあれだ。

誰一人として、自己充足的な孤島ではない。全ての人間は大陸の一部であり、本土の一部である。一塊の土が海によって洗い流されるなら、ヨーロッパはそれだけ小さくなる。それは一つの岬、或るいは、あなた自身の荘園、または、あなたの友人の荘園が、洗い流されたのと同じことである。誰かが死ねば、それだけ私は小さくなる。何故なら、私は全人類と関連があるからである。それ故、誰のために鐘は鳴っているのか、使いの者を出して聞く必要はない。鐘はあなたのために鳴っているのである。(湯浅信之訳)

これは厳密には詩ではないし説教でもない。ダンが流行性の熱病にかかり死線をさまよった経験から書かれた「不意に起きる出来事についての祈祷」と題する瞑想録(1623)の一節だ。ムヌーシュキンも「一時病に伏し」たらしい(ごあいさつ/プログラム)。とすれば、チェーホフのセリフもそうだが、ダンの瞑想は、自身のコロナ禍での経験や戦争で斃れた死者への思いを代弁させていたのかもしれない。

iaku『モモンバのくくり罠』2023

iakuの新作『モモンバのくくり罠』を観た(11月29日 水曜 19:00/シアタートラム)。

関西弁の対話から笑いが噴出し、ちょっと吉本新喜劇みたい。が、横山氏のことだ。笑わせながらも扱う問題はマジである。

作・演出:横山拓也出演:枝元萌 祷キララ 緒方晋(The Stone Age) 橋爪未萠里 八頭司悠友 永滝元太郎

主催:一般社団法人iaku/提携:公益財団法人せたがや文化財団&世田谷パブリックシアター/後援:世田谷区/助成:文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))独立行政法人日本芸術文化振興会 

母(枝元萌)の考えから自給自足の山中で育った娘(祷キララ)が、その暮らしに違和感を覚え〝普通〟を求めて山を下り、1人で生活する。だが、生きづらい。染みついた〝普通でなさ〟が軋みを生むのか。娘は久し振りに父(永滝元太郎)の車で山の家へ帰り、自分の不幸を母のせいだとなじる。激しい応酬のなか、父が会社を辞め、バーを経営していることが明らかに。そこへ突然、バーの傭われママ(橋爪未萠里)が現れたり、母の百原[ももはら]真澄を初めて「モモンバ」と呼んだのが、獲物の解体を経験しに来ていた動物園職員(八頭司悠友)の小学時代だったとか、なにかと母の世話を焼く猟師仲間(緒方晋)は過去にライフル事故で母の足を負傷させた負目があった等々…どんどん話がややこしくなる。

だが、芝居の主題は明確だ。親の(身勝手な)価値観を植え付けられた子どもはどうするのか。「宗教二世」の苦境にも繋がるが、修正するのは難しい等々。結局〝普通でなさ〟(価値観)を奇貨(宝)として生きるあり方が示され、幕となる。

負い目や罪悪感の問題は『逢いにいくの、雨だけど』(2018)のメインテーマだった(岸田國士の戦争劇『かへらじと』に同様の設定がある)。この作家のこだわりか。

それにしても関西弁の芝居は観ていてとても楽しい(朝の連ドラ『ブギウギ』もそう)。役者がみな達者でないと、こうはいかないが。祷(いのり)キララは初めて見た(と思ったが濱口竜介監督の『ハッピーアワー』(神戸が舞台/2015)に出ていたらしい)。

来年2月には別の新作『う蝕』が瀬戸山美咲演出で上演される。キャストはなかなかの顔ぶれ。場所は同じくシアタートラム。横山拓也の〝快進撃〟は暫く続きそうだ。