劇場文化ではないが、三十年ほど前のこと、田中一村(1908–1977)という日本画家について美術史家の友人から教えられ、鮮やかで湿り気のない絵肌に魅せられた。その後『アダンの画帖——田中一村伝』(中野惇夫・南日本新聞社編 1995)等を読み、30歳から生活した千葉を離れ姉とも別れて奄美大島に居を移さざるを得なかった〝不遇の〟生涯に強く印象づけられた。以来、時折画集や「黒潮の画譜・十二景」(額装版)を眺めたり、一村ゆかりの千葉で企画展があれば足を運んだりもした。ただ、奄美を描いた一連の代表作は出品されず、直接見るには奄美の記念館へ行くしかなかった(全国巡回展を開催した1985〜86年にはまだ一村を知らなかった)。今回の東京での大規模回顧展はその望みを叶えてくれる。楽しみでしかない。
ラフォルグの短篇を原作とするシャリーノの《ローエングリン》は女優の橋本愛がエルザ役で出演する。ワーグナーと異なるのは明らかだが、具体的にどんな舞台になるのかまったく想像がつかない。小沢書店の吉田健一訳『ラフォルグ抄』は数年前に手放したので、講談社文芸文庫版を入手した。公演前に読んでおこう。
ベッリーニの《夢遊病の女》はベッリーニ大劇場の引越公演を見て以来だから、18年振り。アミーナはステファニア・ボンファデッリ、エルヴィーノはアンドレア・コロネッラだった。今回はローザ・フェオラが芸術上の理由で降板し(大野芸術監督によればアミーナ役に声が合わなくなったため)代わりに若手のクラウディア・ムスキオがアミータを、ベテランのアントニーノ・シラグーザがエルヴィーノを歌う。指揮は、昨年の《リゴレット》や7月の《トスカ》で巧みな棒さばきを聴かせたマウリツィオ・ベニーニが務める。
N響定期は、久し振りにブロムシュテットが振る。無事に来日してほしいと願うのみ。
新国立劇場演劇については特になし。
山崎広太のコンテは一昨年暮れの下駄ダンス以来。今度はどんなふうに度肝を抜いてくれるのか。
関かおりのダンスを見るのは『アイグレクタ』(彩の国さいたま芸術劇場 小ホール)以来だから11年振り。新作『モリンネ』はヤナーチェクのオペラ《利口な女狐の物語》から着想を得たらしく、この標題は—モリ:森、mori (死) リンネ:輪廻 ネ:音、根—だと。はて?
フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの弟であるミヒャエル・ハイドンが作曲した音楽舞台劇《ティトゥス・ウコンドン、不屈のキリスト教徒》は、250年振りの完全復活上演となるらしい。このジングシュピールは日本のキリシタン大名高山右近らがモデルの「日本劇」で、ダンス・振付に伊藤キムも参加している。どんな音楽劇になるのだろう。
新国立劇場バレエ『眠れる森の美女』では米沢唯に「心臓疾患」が見つかったためタイトルロールを降板。とても残念だけど、しっかり治してほしい。それに彼女のことだ、これを機に、また、新しい米沢唯を見せてくれると思う(『ダンスマガジン』24年11月号の米沢唯の連載第20回「バレリーナの頭の中」を読んだ。米沢は東京大学先端科学技術研究センターが主催する「第一回青少年高野山会議」三泊四日の合宿に参加。舞踊のクラスを受け持った米沢は、ダンス未経験の三人に寄り添い〝指導〟し成果発表を迎え…。読みながら、竹内敏晴だ、竹内氏が書き記した〝レッスン〟だ、と思った。相手のからだとこころへの対し方だけでなく、そのときの自分と相手のこころとからだの有り様を記述するその書きぶりも。否、竹内氏から受け継いだものはもちろんあるが、そこには独自のなにかが確かに見て取れる。彼女はすでに新たな〝米沢唯〟を生きている)。
BCJは〈B(ach)→C(ontemporary) 〉ならぬ 〈B(ach)→B(altholdy=Mendelssohn)〉と題し、バッハのカンタータと独唱・合唱を含むメンデルスゾーンの交響曲第2番《賛歌》を取り上げる。前者は宗教改革記念カンタータでバッハの長男ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハによる改訂版、後者の歌詞はルターが独訳した旧約聖書から採られたらしい。それを宗教改革記念日の10月31日に演奏するという周到さ。BCJらしい。
4日(金)「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、鹿児島県奄美パーク 田中一村記念美術館、NHK、NHKプロモーション、日本経済新聞社/協賛:DNP大日本印刷、日本典礼/特別協力:千葉市美術館/協力:ANA、Peach/監修:松尾知子(千葉市美術館 副館長)@東京都美術館
5日(土)17:00 《⽡礫のある⾵景》(2022年)[⽇本初演]初演:2022 年11 月3 日 ヴィリニュス(リトアニア)+《ローエングリン》(1982-84年)/日本初演/⽇本語訳上演*⼀部原語上演:原作:ジュール・ラフォルグ/音楽・台本:サルヴァトーレ・シャリーノ/初演:1984年9⽉15⽇カタンツァーロ(イタリア)(初版初演:ミラノ1983年1⽉15⽇)/修辞:大崎 清夏/演出・美術:吉開 菜央・山崎 阿弥/指揮:杉山洋一/エルザ役:橋本 愛/演奏(○=「ローエングリン」◇=「瓦礫のある風景」:成田達輝 ○◇(ヴァイオリン/コンサートマスター)、百留敬雄 ○(ヴァイオリン)、東条 慧 ○(ヴィオラ)、笹沼 樹 ○◇(チェロ)、加藤雄太 ○◇(コントラバス)、齋藤志野 ○◇(フルート)、山本 英 ○(フルート)、鷹栖美恵子 ○◇(オーボエ)、田中香織 ○◇(クラリネット)、マルコス・ペレス・ミランダ ○(クラリネット)、鈴木一成 ○(ファゴット)、岡野公孝 ○(ファゴット)、福川伸陽 ○(ホルン)、守岡未央 ○(トランペット)、古賀 光 ○(トロンボーン)、新野将之 ○◇(打楽器)、金沢青児 ○(テノール)、松平 敬 ○(バリトン)、新見準平 ○(バス)、山田剛史 ◇(ピアノ)、藤元高輝 ◇(ギター)/振付:柿崎麻莉子/照明:高田政義/音響:菊地 徹/衣裳:幾左田千佳/副指揮:矢野雄太/音楽アシスタント:小松 桃、市橋杏子、眞壁謙太郎/演出助手:田丸一宏/スタイリング:清水奈緒美/ヘアメイク:石川ひろ子/舞台監督:山貫理恵/ステージマネージャー: 杉浦友彦/プロダクションマネージャー:大平久美/制作:神奈川県民ホール、山根 郎、坂元恵海 @神奈川県民ホール
6日(日)14:00 新国立劇場オペラ《夢遊病の女》〈新制作〉全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉作曲:ヴィンチェンツォ・ベッリーニ/台本:ジュゼッペ・フェリーチェ・ロマーニ/指揮:マウリツィオ・ベニーニ/演出:バルバラ・リュック/美術:クリストフ・ヘッツァー/衣裳:クララ・ペルッフォ/照明:ウルス・シェーネバウム/振付:イラッツェ・アンサ、イガール・バコヴィッチ/演出補:アンナ・ポンセ/舞台監督:髙橋尚史/[キャスト]ロドルフォ伯爵:妻屋秀和/テレーザ:谷口睦美/アミーナ:ローザ・フェオラ(芸術上の理由でキャンセル)→クラウディア・ムスキオ/エルヴィーノ:アントニーノ・シラグーザ/リーザ:伊藤 晴/アレッシオ:近藤 圭/公証人:渡辺正親/合 唱:新国立劇場合唱団/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団/主催:公益財団法人新国立劇場運営財団、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁/制作:新国立劇場/共同制作:テアトロ・レアル、リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場/委託:令和6年度日本博 2.0 事業(委託型) @新国立劇場オペラハウス
11日(金)19:00 N響 #201 定演〈B-2〉シベリウス:交響詩「4つの伝説」作品22─「トゥオネラの白鳥」/ニルセン:クラリネット協奏曲 作品57/ベルワルド:交響曲 第4番 変ホ長調「ナイーヴ」/指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット/クラリネット:伊藤 圭(N響首席) @サントリーホール
12日(土)13:00 新国立劇場演劇『ピローマン』作:マーティン・マクドナー/翻訳・演出:小川絵梨子/美術:小倉奈穂/照明:松本大介/音響:加藤 温/衣裳:前田文子/ヘアメイク:高村マドカ/演出助手:渡邊千穂/舞台監督:下柳田龍太郎/[キャスト]カトゥリアン:成河/ミハエル:木村 了/トゥポルスキ:斉藤直樹/アリエル:松田慎也/父:大滝 寛/母:那須佐代子 @新国立小劇場
13日(日)15:00 Footnote New Zealand Dance x 山崎広太 協働ダンスプロジェクト『薄い紙、自律のシナプス、遊牧民、トーキョー(する)』振付・出演:山崎広太/振付補佐:アニータ・フンジカー/出演:セシリア・ウィルコクス、ベロニカ・チャング・リュー、松田ジャマイマ、松田憧祈、リーバイ・シャオシ/舞台美術:木内俊克、町田恵/音楽:ジェシー・オースティン・スチュワート/提携:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター/後援:世田谷区/助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))、独立行政法人日本芸術文化振興会/主催:一般社団法人ボディアーツラボラトリー、Footnote New Zealand Dance/活動助成:Creative NZ、公益財団法人セゾン文化財団/共同主催:愛知県芸術劇場(公益財団法人愛知県文化振興事業団)@シアタートラム
14日(月祝)13:00 吉祥寺ダンスLAB. vol.7 関かおり PUNCTUMUN 新作公演『モリンネ』振付・演出:関かおり/出演:内海正考、北村思綺、倉島 聡、小池陽香、佐藤桃子、髙宮 梢、真壁 遥 他/声の出演:林 眞暎(メゾ・ソプラノ)/指導協力:月村萌華(ソプラノ)/振付助手:北村思綺、髙宮 梢/舞台監督:湯山千景/照明:木藤 歩/サウンドデザイン:安藤誠英/衣装:臼井梨恵/宣伝美術:太田博久(golzopocci)/主催・企画・制作:団体せきかおり/共催:公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団/助成:芸術文化振興基金、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 @吉祥寺シアター
20日(日)15:30 藝大プロジェクト2024 第1回「西洋音楽が見た日本」ミヒャエル・ハイドン:音楽舞台劇《ティトゥス・ウコンドン、不屈のキリスト教徒》[出演者]俳優:小泉将臣(俳優座)、山森信太郎(髭亀鶴)、森永友基、岡野一平、稲岡良純(文学座)、渡邊真砂珠(文学座)、小口隼也、松平凌翔(俳優座)、市川フー(エンニュイ)、笹川幹太、久保田里奈、大石麻耶、大石麻耶/振付・ダンス:伊藤キム:ダンスアシスタント:金子美月/司会:朝岡聡/東京藝術大学音楽学部有志合唱(合唱指揮:中山美紀)/古楽科有志を中心としたオーケストラ(コンサートミストレス:戸田 薫)/舞台監督:浜田和孝/舞台美術:原田 愛、美術学部先端芸術表現科 原田研究室(遅亦周、呉詩瑶)/学術アドヴァイザー:西川尚生(慶應義塾大学)/構成・演出:布施砂丘彦 @奏楽堂
25日(金)18:30 新国立劇場『眠れる森の美女』振付:ウエイン・イーグリング(マリウス・プティパ原振付による)/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/編曲:ギャヴィン・サザーランド/美術:川口直次/衣裳:トゥール・ヴァン・シャイク/照明:沢田祐二/指揮:ギャヴィン・サザーランド(冨田実里)/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団/オーロラ姫:佐々晴香(ベルリン国立バレエ)/デジレ王子:井澤 駿 @新国立劇場オペラハウス
26日(土)13:00 新国立劇場『眠れる森の美女』オーロラ姫:廣川みくり/デジレ王子:速水渉悟 @新国立劇場オペラハウス
26日(土)18:30 新国立劇場『眠れる森の美女』オーロラ姫:小野絢子/デジレ王子:奥村康祐 @新国立劇場オペラハウス
31日(木・宗教改革記念日)BCJ #164定演〈B→B バッハからメンデルスゾーン=バルトルディへ〉J. S. バッハ:カンタータ第80番《われらが神こそ、堅き砦》BWV 80(W. F. バッハ版)/F. メンデルスゾーン=バルトルディ:交響曲第2番 変ロ長調《讃歌》 Op. 52/指揮:鈴木雅明/ソプラノ:ジョナ・マルティネス、澤江衣里/テノール:ベンヤミン・ブルンス/バス:小池優介/合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン @オペラシティコンサートホール