青年団 第84回公演『眠れない夜なんてない』2021 初日・5日目

『眠れない夜なんてない』の初日と5日目を観た(1月15日 19:00,19日 14:00/吉祥寺シアター)。初日の席は最前列で全体像が見えにくかった。受付では4列目のチケットを渡されたが、支援会員でない同行者の席が最前列で不安そうだったので交代したためだ(飛沫の問題はまったくなかったので念のため)。二回目は4列目の中央で見やすかった。

作・演出:平田オリザ[出演]猪股俊明(客演)羽場睦子(客演)山内健司 松田弘子 永井秀樹 たむらみずほ 小林智 島田曜蔵 能島瑞穂 井上三奈子 堀 夏子 村田牧子 井上みなみ 岩井由紀子 吉田 庸[スタッフ]舞台美術:杉山 至/舞台監督:中西隆雄 小川陽子/照明:井坂 浩/照明操作:西本 彩 高木里桜/音響:泉田雄太/音響操作:秋田雄治/衣裳:正金 彩/宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子/宣伝写真:佐藤孝仁/宣伝美術スタイリスト:山口友里/制作:太田久美子 赤刎千久子 金澤 昭

初日のアフタートークで、平田作品が好んで「日常」を描く話がフロアから出た。たしかに。もっとも今回の設定は「マレーシアの日本人向けリゾート地」だから、観客には必ずしも〝日常〟とはいえないが、そこで暮らす人々には日常だろう。その何気ない日常にじつは様々な非日常が、というか非日常への回路が隠されている。平田オリザは、一見すると平凡な日常会話が、それこそ「眠れない夜」に繋がりかねない非日常と表裏にあるさまを描くのだ。

入居者の千寿子(能島瑞穂)を日本から訪ねてきた友人の直枝(松田弘子)は、お土産に大量のチューインガムを千寿子に渡す。そこに隠された高校時代の二人の関係(後者による前者への陰湿ないじめ)はあとで顕在化する。入居者の磯崎賢一(猪股俊明)は一見ふつうの高齢者だが、後に、病気(たぶん癌)が見つかっていたことや、シベリア(抑留)帰りの過去が、娘二人の来訪により明らかになる。他にも短期入居者のカップル(島田曜蔵・井上みなみ)がじつは〝離婚旅行〟で来ていたこと、ビデオの配達人 原口充(吉田庸)の日本での「引きこもり」や彼と千寿子との意外な〝関係〟が、少しずつ分かってくる。ただし、平田作品の場合、そこから大きく展開して意外な結末に至ることはまずない。代わりに、歌がうたわれ(プチ カタルシス)、日常の向こうにかすかな希望(明日はみんなで日の出を見に行く)が示唆されて終わる。

[ちなみに、近年見る機会が増えたiaku(横山拓也)の場合、何気ない日常と、隣接する非日常やその後の展開が、リアルな時間性をこえて(あるいは時間性を攪乱して)、交互に、もしくはカットバックで舞台化される。ちょっとフォークナーの小説みたいだ。観る者はそこから何が得られるか。あっという驚きと認識の喜び、何気ない日常の不可知性、わからなさ等々。]

二回目は2008年の初演舞台をビデオで見たうえで臨んだ。

セリフが重なるシークエンスやチューインガムの〝ラブシーン〟など、全体的に初日よりスムーズ。後者のシーンで、ソファーに座っていた千寿子(能島)は、いったん風船を大きく膨らませたあと少し小さく萎ませ、テーブルを隔てた反対側のスツールに座る原口(吉田)の膨らんだガム風船に、身を乗り出して近づく。なんともいえない緊迫感。このとき能島はテーブルのラジカセのボリュームを巧みに上げていた(初日は見えなかった)。が、けっして初演時のように風船を接触させない。コロナ禍ではリスクが大きいからだろう。ビデオでは男が女のガムを吸引するが、今回の台本では「千寿子がすべて口に入れる」とあり、千寿子の〝積極性〟を強調する狙いだったのか(蜷川幸雄 演出の唐十郎 作『黒いチューリップ』で李麗仙と柄本明が同じチューインガムを口に含み、そのままどんどん離れていってガムを引き延ばしたシーンを思い出した)。その後、千寿子はガムにまつわる高校時代のいじめ被害を原口に話し、自分の時代にも登校拒否があればよかった、と。だから、直枝(松田)には絶対ここへ来させない、どこまで行っても日本が追いかけてくる、等々。

父(磯崎健一)の病気を知った娘 好江(たむらみずほ)と保奈美(岩井由紀子)が三橋明(山内健司)に、父の病気のことや日本に帰りたがらない理由について相談する。三橋は、たぶん日本が嫌いなんだと思う、と応じる。これは自分の話で磯崎さんの気持ちは分からない、としながらも、むしろ磯崎さんの方がそうかもしれない、一度、国に捨てられてますからね、と。シベリア帰りの磯崎は満州に住んでいた(日本は「国体護持」つまり天皇制さえ維持できれば、日本軍兵士や満州居留民らを労働力としてソ連に提供することもやむなしと考えていた)。こうしたやりとりが、昭和が終焉しようとする1988年12月に設定された舞台で展開されるのだ。

ところで三橋は還暦(つまり終戦時は17歳)の設定で、演じた山内は58歳ぐらいだからこの配役に計算上は問題ない。初演版(2008年)は時代設定が異なるものの、三橋を演じた篠塚祥司は当時64歳。ビデオを通してだが、戦時を語るに十分耐える身体性と見えた。これは、たぶん絶対年齢というより、観る者との相対的な年齢差に関わるのだろう。私は劇中の沼田勇人(島田曜蔵)同様、「怪傑ハリマオ」のジャスト世代だ。幼いころ三橋と同年の母親に風呂敷を頭に巻いてもらい「真っ赤な太陽、燃えている〜」と唄いながら近所を走り回っていた。そのせいか、戦争を語る山内の、巧みではあるがコミカルに傾きがちな発話に少し違和感を覚えた。おそらく、より若い世代の観客には特に問題ないだろうし、彼の軽妙さは歴史への啓蒙の意味ではむしろ好ましいのかもしれない。いずれにせよ、昭和が終わろうとしているとき、彼らは軍歌や「怪傑ハリマオ」を一緒に歌う。一方で、健一は、昔ばっかり思い出すくせに、戻りたいとは思わない、とも言うのだ。彼が発する「天皇より先に死なないよ、俺は」のセリフは初日より力強く響いた。日本の暗い過去を共有する健一と三橋のあうんの呼吸(共感)がよく利いている。

マレーシアの日本人向け保養地で交わされる日常的な対話から、昭和が終わろうとする日本での自粛のこと、ひきこもり(外こもり)やいじめの問題、戦争の過去などが、じんわりと浮かび上がってくる。久し振りに見るフルレングスの平田作品はやっぱり面白いし、見応えがあった。もっと東京での公演を増やしてほしいと思うのは自分だけではないはずだ。

〈Composium 2019〉武満徹作曲賞本選演奏会

コロナの影響で昨年5月31日から延期になっていた〈Composium 2020〉を聴いてきた(2021年1月19日 18:30/東京オペラシティコンサートホール:タケミツ メモリアル) 。これについてはいずれメモしたいが、そのまえに、前年の感想をどこかに書いたはずだがブログには見当たらない。調べたらツイートしてた。以下にこれをそのまま貼り付けたい。

〈Composium 2019〉武満徹作曲賞本選演奏会に行ってきた(6月9日 15:00 東京オペラシティコンサートホール:タケミツ メモリアル)。面白かった。今回の審査員はフィリップ・マヌリ Philippe Manoury。応募総数83作からマヌリが選んだ4作品(いずれも15分前後)を聴いたわけだが、3作が中国人で1人はアルゼンチン人。中国人の三作はいずれもスケールが大きく、独りよがりでない。

最も気に入ったのはシキ・ゲン Shigi Geng(24)の《地平線からのレゾナンス Resonanz vom Horisont for Orchestra。弦楽を主体とした音楽は心地よく、後半で遥かに響くレゾナンス(記憶)はリリカル。もう一度聞きたいと思った。

ツォーシェン・ジン Zhuosheng Jin(28)の《雪路の果てに At the End Of Snow Line For full Orchestraは「故郷三部曲」の第一部らしい。響きに厚みがあり、技巧的な面も窺える。政治(思想)的な感触もあったか。

スチ・リュウSiqi Liu(28/女性)の《三日三晩、魚の腹の中に Im des Fisches drei Tage und drei Nächte für Orchesterは旧約の『ヨナ書』が題材でブラスが咆哮するドラマティックな作品。

パブロ・ルビーノ・リンドナー Pablo Rubino Lindner(33)の《Entelequias for orchestraは弦のモコモコ感は面白いが、集中して聞きにくい印象。力量はあるのだろうが、お金を払って聞きたいとは思わない。

審査結果は、ゲンとリンドナーが1位、2位がリュウで3位がジン。マヌリは総評で匿名での審査について言及した。4作のうち2作がドイツ語のタイトル、他は英語とスペイン語。が、開けてみたら3人が中国人で驚いたと。受賞スピーチは英語だが、ゲンだけ日本語だった。

ゲンは当初 武満徹に影響され、日本文化への興味から日本語の勉強を続けていると。この作曲家は、作品からも、真率で真っすぐ取り組んでいると感じさせる。

日本人の応募は国別では最多の16人。だがマヌリの三つの基準では誰も残れなかった。なぜだろう。たまたまなのか。

阿部加奈子指揮の東フィルは、ファイナリストが異口同音に感謝した通り、質の高い演奏だった。ただ指揮者の特にカーテンコール時のステージマナーは改善の余地がある。表彰式のややぎごちない進行(通訳の囁くような発語等)も。

2020年12月の公演メモ/新国立《こうもり》/岩松了の新作/新国立バレエ『くるみ割り人形』/BCJ定演/民藝+こまつ座『ある八重子物語』/風姿花伝『ミセス・クライン』/都響《くるみ割り人形》/BCJ《第九》

 2020年12月に観た公演について簡単にメモする。

5日(土)14:00 新国立劇場オペラ オペレッタ《こうもり》指揮:クリストファー・フランクリン/演出:ハインツ・ツェドニク/美術・衣裳:オラフ・ツォンベック/振付:マリア・ルイーズ・ヤスカ/照明:立田雄士/ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン:ダニエル・シュムッツハルト/ロザリンデ:アストリッド・ケスラー/フランク:ピョートル・ミチンスキー.オルロフスキー公爵:アイグル・アクメチーナ/アルフレード:村上公太/ファルケ博士:ルートヴィヒ・ミッテルハマー/アデーレ:マリア・ナザロワ/ブリント博士:大久保光哉/フロッシュ:ペーター・ゲスナー/イーダ:平井香織/合唱:新国立劇場合唱団/バレエ:東京シティ・バレエ団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

 大好きな演目。どこをとっても素晴らしい音楽だ。歌手はみな質が高いし、演技もうまい。

序曲では特に身体は反応せずだが、アデーレ(マリア・ナザロワ)の歌唱とコミカルな芝居で一気に頬が緩んだ。ロザリンデ(アストリッド・ケスラー)とアイゼンシュタイン(ダニエル・シュムッツハルト)のオーストリア組は歌唱が柔らか。前者は少し暗めの熟成した歌声、後者は細かい演技で汗を搔いた。素晴らしい。ファルケ(ルートヴィッヒ・ミッテルハマー)の歌声は端正でノーブル、フランク(ピョートル・ミチンスキー)は渋い。オルロフスキー(アイグル・アクメチーナ)は童顔だが、歌唱は濃厚で強い。アルフレード(村上公太)も歌は好い。フロッシュのペーター・ゲスナーは健闘した。もっと軽みが欲しいが、伝統芸みたいな役だから一朝一夕にはいかないか。彼は日本で活動している演劇人(プログラム略歴の「岸田國夫」國士が正しい)。

感染防止のため、特に2幕は演出を変えていた。ソリストがコーラスと交わらないよう後者の演技はすべて手前のステージ。チャルダッシュはダンサー(東京シティバレエ)との絡みはなく、他の歌手たちも等間隔で棒立ちなのは少し気の毒。ひと工夫欲しかった。奥の一段高いフロアは紗幕越しに見えるが、少し狭苦しい。「兄弟姉妹になりましょう」でやっと紗幕が上がる。コーラスの歌詞は時節柄、特別の感慨を抱かせた。

指揮のクリストファー・フランクリンは割合あっさりしている。可もなく不可もなしか。海外の歌手や指揮者はコロナ禍によく来てくれた。PCR検査がもっと安価で頻度も上がれば、演出の幅も広がるのではないか。

8日(火)18:00 M&Oplays『そして春になった』作・演出:岩松 了/出演:松雪泰子 ソニン 瀧内公美 片桐はいり[スタッフ]照明:沢田祐二/音響:高塩 顕衣裳:飯田恵理子/ヘアメイク:大和田一美/映像:荒川ヒロキ/舞台監督:南部 丈/美術:中根聡子/ステージング:仁科 幸/制作:近藤南美/制作助手:寺地友子/制作デスク:大島さつき/宣伝:ディップス・プラネット/宣伝美術:坂本志保/プロデューサー:大矢亜由美 @下北沢本多劇場

岩松了の新作 初日。簡単なセットに台本を持ちながらの二人芝居。コロナ禍から当初は朗読配信の予定で書き始めたのか。発話だけで一気にコンテクストを現出させる 片桐はいりはさすが。対する瀧内公美 も負けてはいない。新国立劇場『どん底』(2019年10月)のナターシャ役で初めて見たが、改めてセリフのレンジが広く自在な役者だと感心した。二人の役は映画監督の妻と監督が育てた若手女優。前作『二度目の夏』に似たチェーホフ的背景だが、内容は正直よく分からない(!)。それでも両者の〝気〟のやりとりに引き込まれた。やはり生の舞台は好い。松雪泰子/ソニンも見てみたかった。 

12日(土)13:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:ウエイン・イーグリング/美術:川口直次/衣裳:前田文子/照明:沢田祐二/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/合唱:東京少年少女合唱隊[主演]クララ/こんぺい糖の精:小野絢子/ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:福岡雄大新国立劇場オペラハウス

 何度見てもいまひとつのプロダクション(演出・振付・特に美術)。紗幕越しに見るパーティのシーンは地味。紗幕はその後の夢の世界をより輝かせるためだろうが、そもそも、当の夢の世界がさほどでもない。続く「冬の樅の森で」のクライマックスで雪景がマジカルに現出すればここまでの不満は報われるのだが、背景の美術がお粗末すぎて…。雪の結晶たち(コール・ド)は、その分、照明できらきら輝いてはいた。気球がフライングで少し降りてきてしまった。

冒頭の小部屋のシーンは以前より演技が理にかなっている印象。小野はいまひとつ伸びやかさがない。福岡は堅実。ねずみの王様は奥村だったのか。前のように好き勝手にやっていない印象。コーラスの録音は音質があまりよくない。

二幕で宮殿から出入りする趣向どうなのか。アラビアの本島はよかった。その途中で何度か落下音が。バタフライがつまずいたのはサポートが原因か。花のワルツは少しバタバタ感が。コール・ドで一人女性が転んだ。パ・ド・ドゥの福岡は油が抜けた感じ。エネルギーが感じられない。サポートもどっしり感がない。小野は少しガクッとなり、リズムが狂ったか、その後もなんかおかしい。福岡のヴァリエーショはきれいに踊ろうとしているように見えたが、こちらも、おかしい。小野のヴァリエーション。腕の使い方が前と違う印象。やっぱり変。新監督から教わったことが頭に残っているのか。本番は全部忘れて好きに踊ったらいいのに。カーテンコールで福岡は珍しくねずみの王と手を繋いだ。らしくない(前は頑なに拒否していた)。やっぱりおかしいぞ。イーグリング版は、客が帰っていく音楽で幕切れとなる。その間にクララが見た夢の世界という設定。目覚めた姉弟ドロッセルマイヤーと甥を見送れるのはそのためだ。が、チャイコフスキーが作曲した終曲を聴けないのはなんとも…。2017年の初演時に不満点を詳しくメモしているので、いずれアップしたい。というか、早く牧版に戻すか、新制作してほしい。

12日(土)18:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』クララ/こんぺい糖の精:米沢 唯/ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:井澤 駿新国立劇場オペラハウス

 こっちがファーストキャストだ。夫人の本島は本当に見る喜びがある。フリッツを叱る仕草等、家を支える気品のある母親。井澤は勢いがあった。米沢はドラマの流れのなかにある。というより、その流れを作っており、動きのすべてが生きている。貝川は杖を落とした。老人福田圭吾はキレがある。ネズミの王(渡邊)は魔法で固まったクララ(米沢)に「カワイイ! 胸キュン」の仕草(そう見えた)。気球で離れるとき、クララは「さよなら」と地上のねずみらに手を振る。クララ米沢のユーモア。

アラビア木村は顔を黒く塗ってたか。自分の身体をモノみたいに「自己放棄」する感触がもっとほしい。ロシアに木下か。驚いた。蝶々柴山をドロッセルマイヤー中家がサポートする。『ドン・キ』と同じだ。それにしてもこの振付は無意味に難しすぎ。浜崎の華やかさは「花のワルツ」に合っている。速水はちょっとごつすぎるか。パ・ド・ドゥ。難しい振りを米沢はよく踊った。井澤は気合いが入っていた。こんな井澤は見たことない。オケもよく鳴っていた。それにしても最後まで難度の高い振り。井澤ヴァリエーションは福岡とは異なる振りだが、珍しく意志を感じさせる力強い踊り。米沢のヴァリエーションは脚の高さがこれまでと違う? コーダも迫力があり素晴らしい! 米沢は二回目のカーテンコールでクララの子役(佐原舞南)を前に出し、共にレヴェランス。こうでなくっちゃ。最初は指揮者を自分と井澤の間つまり真ん中に招いた。前に出てしっかりオケにもお礼する。いつもながら舞台マナーが素晴らしい。舞台上の演者は技術面だけでなく、人間性が丸見えになる。それを見るのも舞台を見る喜びのひとつ。

16日(水)19:00 BCJ #138 定演〈創立30周年記念演奏会〉(2020/5/24からの延期公演)J.S.バッハ:ファンタジアとフーガト短調 BWV542 */カンタータ第78番《イエスよ、あなたはわが魂を》 BWV78/《マニフィカト》変ホ長調BWV243a(初期稿)/指揮:鈴木優人/オルガン:鈴木雅明*/合唱と管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン他 @東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリア

 鈴木雅明のオルガンは即興的な感触の強い、気迫のこもった演奏で、グッときた。一方、鈴木優人の指揮でBCJを聴くと、どうしても気のエネルギーが足りないと感じてしまう。カンタータは普通にやると、なんというか……。ソプラノとアルトのデュエットも客席まで届かない。フラウト・トラヴェルソ(鶴田洋子)のソロはよかった。菅きよみの後継者か。

18日(金)19:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』クララ/こんぺい糖の精:米沢 唯/ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:井澤 駿新国立劇場オペラハウス

 米沢&井澤の二回目。1階15列の中央からだと全体がよく見えるし、オケのバランスもよい。子役の二人は初日より大きい。夫人本島は本当に見る喜びがある。芝居にも踊りにも気品が。ルイーズ柴山、詩人 原、青年 速水、老人 福田圭吾は、みな丁寧な踊り。柴山は鉄骨が入っているみたいにしっかりした踊り(硬いという意味ではない)。グロース・ファーターのファミリーロマンスは面白い趣向だが、シュタルバウムが祖父(老人)から杖を取ってしまうところはこの日もスムーズでない。「戦い」の騎兵隊長速水の回転!「樅の森」で井澤は初日ほどの熱はなくサポートがスムーズでない。にもかかわらず米沢はおくびにも出さす、乗り切った。雪の結晶のコール・ドは元気がよくきれい。ただ、全体的に初日のソワレの方がよい。

19日(土)17:30 劇団民藝こまつ座公演『ある八重子物語』/作:井上ひさし/演出:丹野郁弓/出演:日色ともゑ 桜井明美 中地美佐子 有森也美 篠田三郎 ほか/装置:勝野英雄/照明:前田照夫/衣裳:宮本宣子/音楽:八幡 茂/効果:岩田直行/所作指導:西川瑞扇/舞台監督:風間拓洋 @東京芸術劇場シアターイース

演目の予備知識はなく、有森が舞台でどんな演技をするのか興味があり、なにより劇場が近いので見た(!)。面白かった。新派ファンの古橋院長(篠田三郎)に、看護婦(藤巻るも)や女中(中地美佐子)、事務方(横島亘)の三人が新派劇の口真似をするシーンは、新派にさほど馴染みがなくても楽しい。本作の中心となる第二幕は京都帝大生の一夫(塩田泰久)が『女形の研究』の執筆に入れ込み過ぎて寝坊し入営に間に合わず、〝徴兵忌避者〟として姉のゆきゑを訪ねてくる話だ。が、こうした戦時下の深刻な筋書きにもかかわらず、最後まで誰も死なない。女形(みやざこ夏穂)がセリフの稽古をしながら幕毎に薬をもらいに来るシーンはハラから笑った。芸者を演じる三人の女優を見る喜びも大きい。第一幕の月乃(吉田陽子)は入院患者だが一目で分かる花柳界らしい佇まい、第二幕のゆきゑ(桜井明美)が醸し出す本格的な色気(『夏・南方のローマンス』は素晴らしかった)。全篇を通じての花代(有森也美)の人の好さ等々。冒頭と幕切れでの注射器による「滝の白糸」の水芸や、第三幕で着付けをパジェントリーとして見せる趣向など、祝祭的な明るさが強く感じられた。帰宅後、調べてみると水谷八重子十三回忌追善・新派特別公演として1991年に初演されている。なるほど。舞台の祝祭性が腑に落ちた。コロナ禍で閉塞しがちな気分を解放させてくれるタイムリーな公演だった。

20日(日)14:00 風姿花伝プロデュースvol.7『ミセス・クライン Mrs KLEIN』作:ニコラス・ライト/翻訳:小田島恒志、小田島則子/演出:上村聡史/出演:那須佐代子 伊勢佳世 占部房子/美術:乘峯雅寛/照明:阪口美和/音響:加藤温/衣裳:半田悦子/ヘアメイク:鎌田直樹/演出部:黒崎花梨/舞台監督:梅畑千春/宣伝美術:チャーハン・ラモーン/絵画提供:佐和子/WEB:小林タクシー/制作:斎藤努加藤恵梨花・高村 楓・北澤芙未子/風姿花伝スタッフ:中山大豪/プロデューサー:那須佐代子/企画・製作:風姿花伝プロデュース @シアター風姿花伝

 コロナ禍が襲った年の最後にこんな質の高い舞台を見ることができて幸運だった。精神分析家の女性3人が交わす対話は、知的な言葉の背後に熱い感情がフツフツと、いまここで湧き出してくる。三人の演技はいずれも極めて質が高い。実に見応えのある公演だった。

精神分析メラニー・クラインとその娘、さらにクラインの新しい助手の三人。みなユダヤ人で、クラインと娘はベルリンからロンドンに移住して8年ほど、助手はナチスの迫害を逃れて来たばかり。舞台はロンドンにあるミセス・クラインの書斎。娘(伊勢佳世)は母(那須佐代子)を憎みながらも、煙草を吸うときのマッチの擦り方、酒を注ぐよう母の助手(占部房子)に「ここまでお願い」とピンポイントでグラスを指す仕草などは、母親そっくり。その可笑しさと痛々しさ。息子の死(自殺)について、自分が傷つかないですむ解釈を次々に繰り出す母。那須の人物造形は極めて秀逸で眼を見張った。一気にまくし立てるセリフ回しは凄まじい。すべて自分の思い通りにやらないと気が済まない。その「すべて」には娘や助手も含まれる。その性格が登場後、他者と関わる前、すでに表現されていた。その可笑しさ、ユーモア。深刻さと同時に可笑しさやユーモアが表出された点が素晴らしい。伊勢は裕福なユダヤ人女性の華やかさや、精神分析家の娘としての複雑な思いをよく表現していた。占部は、有無を言わせぬミセス・クラインの要求を当惑しながらも受け止める絶妙なあり方を見事に演じた。那須『リチャード三世』(2013)『長い墓標の列』で、伊勢は『ソウル市民』(2005)『アンチゴーヌ』(2018)『OPUS/作品』(2013)で、占部は『焼き肉ドラゴン』(2008、2011)『月の獣』(2015)等で見て、注目していた。その三人が揃った舞台は、予想通り、いやそれ以上に極上だった。

26日(土)14:00 都響くるみ割り人形》op.71 全曲 指揮:大野和士/女声合唱/⼆期会合唱団(事前収録による出演) @サントリーホール

踊りに合わせる(遅めの)テンポで聞き慣れた耳には、すべてが快速で進む。それが爽快で気持ちいい。クリスマスツリーが(クララの視点で)次第に大きくなる様を髣髴させる例のクレッシェンドは凄まじい。「冬の樅の森で」は大野の手が伝える激しい振動で、深く濃密な高まりが現出した。「花のワルツ」も速めのテンポで、優雅さとは無縁。チェロが主導する単調の第二主題は、続く「パ・ド・ドゥ」の〝悲劇性〟を予告する。後者の粛然とした導入からクライマックスに至るシークエンスにはグッときた。この至福感から現実へと覚醒していくヴァイオリン群の冷たい美しさ! 極寒を知るロシア人ならではの音楽だ。本作が《悲愴》と地続きであることがよく分かる演奏だった。《第九》に代えて《くるみ》を選んだ大野和士の意図はよく伝わってきた。

サントリーホールへ来ると必ず水内庵(みのちあん)で食事する。ざるそばと玉子丼が目当てだ。それがなんと2日後に閉店するという。店主の娘さんによれば、コロナ禍で中断した後の再開が体力的にきつくなり決断したとのこと。落ち着いたら規模を縮小して、娘さんら〝若手〟で再開すると聞き、ほっとした。

  

27日(日)14:00 BCJベートーヴェン生誕250年記念〉J. S. バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582*/ベートーヴェン交響曲第9番 ニ短調 op.125《合唱付き》指揮:鈴木雅明/オルガン:鈴木優人*/ソプラノ:森 麻季/アルト:林美智子/テノール:櫻田 亮/バス:加耒 徹/合唱&管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリア

ピリオド楽器の演奏は聴覚のみならず触覚に訴えてくる(特に弦楽器)。この感触はバッハの時代の音楽よりもベートーヴェンの方がはるかに強まる。この日の席は舞台から遠い3階正面だったため、さほどでもなかった。が、定演(11/28)で5番交響曲を1階9列で聴いたとき(通常より舞台が張り出し実質は6列か)、弦楽器奏者の激しいボーイングによる波動が、こちらにびしびし伝わってきた

今回の《第九》は、2019年1月の演奏同様、1楽章でオーボエ(とフルート?)に「あれ?」と思う箇所が。それはともかく、スケルツォでは(モダンより)ティンパニがいっそう強く響く(前回はもっと攻撃的だった)。アダージオではこの楽章の「無言歌的な性格」がよく分かった(第二主題で合唱を始める案もあったらしい)。例の第4ホルンのソロはナチュラル・ホルンの場合、ハンドストップを交互に駆使して上昇し下降する。藤田麻理絵(新日フィル)は見事に吹ききった。ただ、当然ながらハンドストップは閉鎖音となり、音色は死んでしまう。当時はそうした響きで満足していたと思っていた。が、大崎滋生の実証的研究によれば、第3楽章の第4ホルンのパートは有弁(クラッペン)ホルン、すなわちヴァルブ・ホルンを前提に書き下ろされたという(『ベートーヴェン像 再構築3』2018年)。大崎氏の論述はかなり説得的だが、鈴木氏の見解も聞いてみたい。第4楽章のコーラスは、前回同様、実に印象的。いわゆる〝第九〟ではなく、シラー/ベートーヴェンの歌詞をメロディにのせて、あたりまえに歌う。叫ぶのではなく〝歌う〟のだ。結果は革新的な素晴らしさ。「身体のすべてが鳴っている感じ。これを聴くと、これまでの《第九》のコーラスは、スポーティというか体育系のノリで声を発していたと思えてくる」(19年のメモ)。海外からソロイストを呼び寄せた前回は、彼/彼女らの歌唱にも歌曲のような趣があった。今回はさほど感じない。が、バスの加耒徹の歌唱は詩の意味をかみしつつ十分な声量で聴衆に語りかけ、申し分なかった。森麻季はいいと思う。櫻田亮の歌唱はきれいだが、もう少し声量を上げたいし、トルコ行進曲の様式をもっと出してもよい。林美智子は真面目に歌っていたが、声が届いてこない。終曲後の沈黙が皆無だったのは残念。会場はほぼ満席だった。

1月のフィールドワーク予定 2021【追記】【追加】

コロナ禍により実演者と受容者が同じ時空を共有して初めて成立する実演芸術の上演が、困難もしくは厳しく制限されるようになった。関係者たちは知恵を絞り、インターネットを介した映像や音楽の配信などで、一定の喜びや利益を生み出した。これはネットや IT技術の進化がなければありえなかったろう。だが、ネットを媒介した映像や音楽の受容には、決定的な要素が欠けている。それは、実演者と受容者の〝生身のからだ〟が相互に反応して起きる「共振作用」(別役実)である。この相互作用が決定的なのは、なにより「お客さんの波動が芝居をつくる」(片桐はいり)からであり、「演技は観客の息づかいにふれ、観客のからだにおいて成り立つ」(竹内敏晴)からである。まさに、これを体験するためにこそ劇場やホールに足を運んできたといっても過言ではない。2020年は、実演芸術を愛する者なら誰でもからだが(で)知っているこの事実を、あらためて確認した一年だった。

明日7日に二回目の緊急事態宣言が出るらしい。新国立劇場バレエ団の「ニューイヤー・バレエ」は「公演関係者」に陽性者が出たため中止となった。大変残念だが仕方ない。その「関係者」については詮索しないようにしたい。東京の感染者は1日で1500人を超える勢いだ。注意しているつもりでも、いつどこで感染するか分からない。今月は、下記の通り、公演数は少ないが、実演芸術ならではの共鳴作用をじっくり体験したい。

5日(火)14:00 青年団 第82回公演『コントロールオフィサー』+『百メートル』二本立て公演/作・演出:平田オリザ/[出演](コントロールオフィサー)永井秀樹 立蔵葉子 海津 忠 島田桃依 串尾一輝 尾﨑宇内 中藤 奨 木村巴秋/(百メートル)永井秀樹 海津 忠 串尾一輝 尾﨑宇内 中藤 奨 木村巴秋[スタッフ]舞台美術:杉山 至/舞台監督:黒澤多生/照明:井坂 浩/衣裳:正金 彩/フライヤーデザイン:カヤヒロヤ、西 泰宏/制作:太田久美子、金澤 昭 @アトリエ春風舎

9日(土)14:00 新国立劇場バレエ団〈ニューイヤー・バレエ〉第1部『パキータ』音楽:レオン・ミンクス/振付:マリウス・プティパ/美術:川口直次/衣裳:大井昌子/照明:立田雄士/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/出演:米沢 唯、渡邊峻郁//第2部『Contact』音楽:オーラヴル・アルナルズ/振付:木下嘉人/出演:小野絢子、木下嘉人『ソワレ・ド・バレエ』音楽:アレクサンドル・グラズノフ/振付:深川秀夫/出演:池田理沙子、中家正博『カンパネラ』音楽:フランツ・リスト振付:貝川鐵夫/ピアノ演奏:山中惇史/出演:福岡雄大//第3部『ペンギン・カフェ音楽:サイモン・ジェフス/振付:デヴィッド・ビントリー/美術・衣裳:ヘイデン・グリフィン/照明:ジョン・B・リード/[出演]ペンギン:広瀬 碧/ユタのオオツノヒツジ:米沢 唯/テキサスのカンガルーネズミ:福田圭吾/豚鼻スカンクにつくノミ:五月女遥/ケープヤマシマウマ:奥村康祐/熱帯雨林の家族:本島美和、貝川鐵夫/ブラジルのウーリーモンキー:福岡雄大 @新国立劇場オペラハウス←1/4のウイルス検査で「公演関係者」に陽性反応が出たため中止

10日(日)14:00 新国立劇場バレエ団〈ニューイヤー・バレエ〉『パキータ』木村優里、井澤駿//『Contact』米沢 唯、渡邊峻郁/『ソワレ・ド・バレエ』池田理沙子、中家正博/『カンパネラ』速水渉悟//ペンギン・カフェペンギン:広瀬 碧/ユタのオオツノヒツジ:米沢 唯/テキサスのカンガルーネズミ:福田圭吾/豚鼻スカンクにつくノミ:奥田花純/ケープヤマシマウマ:奥村康祐/熱帯雨林の家族:小野絢子、中家正博/ブラジルのウーリーモンキー:福岡雄大新国立劇場オペラハウス←同上

【11日(月/祝)14:00 新国立劇場バレエ団〈ニューイヤー・バレエ〉上記9日と同キャストで、下記の通り、無観客上演を無料ライブ配信

1月7日に改めてその他の公演関係者にウイルス検査を行ったところ全員陰性の結果となり、また保健所からは新国立劇場内には濃厚接触者はいないとの判断をいただきました。

公演中止の判断の時点では、公演準備が整う見通しが立たなかったため、やむなく中止とさせていただきましたが、このたび、皆様になんらかの形で公演をお届けするべく検討した結果、1月11日(月・祝)に無観客で上演し、無料でライブ配信を行うことといたしました。(新国立劇場HP)

タイムスケジュール

第1部 14:00~14:40

<休憩25分>

第2部 15:05~15:35

<休憩25分>

第3部 16:00~16:45

15日(金)14:00 新日本フィル #36 定演ルビーアフタヌーン コンサート・シリーズ〉ベートーヴェン交響曲第 8 番 ヘ長調 op. 93/モーツァルト:ピアノ協奏曲第 20 番 ニ短調 K. 466*/ベートーヴェン交響曲第 6 番 ヘ長調 op. 68「田園」指揮:上岡敏之佐渡裕/*ピアノ:田部京子すみだトリフォニーホール

15日(金)19:00 青年団 第84回公演『眠れない夜なんてない』作・演出:平田オリザ[出演]猪股俊明(客演)羽場睦子(客演)山内健司 松田弘子 永井秀樹 たむらみずほ 小林 智 島田曜蔵 能島瑞穂 井上三奈子 堀 夏子 村田牧子 井上みなみ 岩井由紀子 吉田 庸[スタッフ]舞台美術:杉山 至/舞台監督:中西隆雄 小川陽子/照明:井坂 浩/照明操作:西本 彩 高木里桜/音響:泉田雄太/音響操作:秋田雄治/衣裳:正金 彩/宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子/宣伝写真:佐藤孝仁/宣伝美術スタイリスト:山口友里/制作:太田久美子 赤刎千久子 金澤 昭 @吉祥寺シアター

17日(日)15:00 鈴木雅明 指揮 BCJ メンデルスゾーン《エリアス》キャロリン・サンプソン(ソプラノ)→中江早希/マリアンネ・ベアーテ・キーラント(アルト)→清水華澄/セイル・キムテノール)→西村 悟/エリアス:クリスティアン・イムラー(バス)→【加耒 徹】合唱&管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン @オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

18日(月)19:00 〈リーラ・ジョセフォウィッツ&トーマス・アデス デュオ・リサイタル〉ヤナーチェク《ヴァイオリン・ソナタアデス《マズルカ op.27》(2009)[ピアノ・ソロ]/アデス《おとぎ話の踊り》(2020)[日本初演][ルイ・ヴィトン財団、東京オペラシティ文化財団共同委嘱作品]/ストラヴィンスキー《協奏的二重奏曲》ナッセン《リフレクション》(2016)/ラヴェル《ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番》/リーラ・ジセフォウィッツ(ヴァイオリン)+トーマス・アデス(ピアノ)@東京オペラシティ リサイタルホール←「12月23日に政府が発表した、新型コロナ変異ウイルスの感染拡大を受けたイギリスからの入国禁止措置により、トーマス・アデスの来日は不可能となり」中止

【19日(火)14:00 青年団 第84回公演『眠れない夜なんてない』作・演出:平田オリザ @吉祥寺シアター←初日は最前列で全体像が見えなかったため、もう一度(支援会員は何度でも見られる)

19日(火)18:30 コンポージアム 2020 武満徹作曲賞 本選演奏会/審査員:トーマス・アデス/杉山洋一(指揮)/東京フィルハーモニー交響楽団[ファイナリスト](エントリー順)シンヤン・ワン(中国)『ボレアス』/フランシスコ・ドミンゲス(スペイン)『MIDIの詩』/デイヴィット・ローチ(イギリス)『6つの祈り』/カルメン・ホウ(イギリス/香港)『輪廻』@オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル←上記の通りアデスは来日できないが「会場での演奏は予定通り行います。審査、結果発表の各方法につきましては後日お知らせします」とのこと→【*2020年度武満徹作曲賞審査員トーマス・アデスは、高音質・高画質の通信を用いて当日の本選演奏をロンドンで聴き、審査を行います。審査結果は本選演奏会翌日にホームページ等で発表の予定です。】

23日(土)14:00 新国立劇場オペラ ジャコモ・プッチーニ《トスカ》全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:ダニエレ・カッレガーリ/演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ/美術:川口直次/衣裳:ピエール・ルチアーノ・カヴァッロッティ/照明:奥畑康夫/[出演]トスカ:キアーラ・イゾットン/カヴァラドッシ:フランチェスコ・メーリ/スカルピア:ダリオ・ソラーリ/アンジェロッティ:久保田真澄/スポレッタ:今尾 滋/シャルローネ:大塚博章/堂守:志村文彦/看守:細岡雅哉/羊飼い:渡邉早貴子/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽:東京交響楽団 @新国立劇場オペラハウス

新国立劇場 2020/2021シーズン開幕バレエ『ドン・キホーテ』全6キャスト

以下のメモは配信収録の10月31日分まで書いて息切れし、放置していた。が、昨夜 吉田都に密着したNHKプロフェッショナル 仕事の流儀」を見て、書きかけを思い出し、楽日の手書きメモを転記しアップすることにした。

吉田都 新芸術監督の記念すべきオープニングは、当初ピーター・ライト版『白鳥の湖』の新制作が予定されていたが、新型コロナの影響で来秋(2021)に延期。代わりに、5月の上演がコロナ禍で中止となっていた『ドン・キホーテ』が選ばれ、その全6キャストを見た(10月23日19:00,24日13:30,25日14:00,31日13:00/18:30,11月1日14:00)。

 前回2016年5月の『ドン・キ』は手書きメモだけでブログにはアップせず。その前の回は新国立が初めて海外ゲストなしの『ドン・キ』を上演した記念すべき公演だった(2013年6月)。あれから7年か。 

コロナ禍で8ヶ月ぶりとなった本公演。生の舞台は何ものにも代えがたい喜びをもたらしてくれる。そのことを強く再確認した。

以下、例によって、だらだらとメモする。

音楽:レオン・ミンクス/振付:マリウス・プティパ+アレクサンドル・ゴルスキー/改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ/美術・衣裳:ヴャチェスラフ・オークネフ/照明:梶 孝三/芸術監督:吉田 都/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

 まずは初日の幕開け公演から。 米沢唯と井澤駿は、幾重ものプレッシャーがかかるなか、初日を開ける大役を見事に果たした。

10/23(金)19:00 

キトリ(ドゥルシネア):米沢 唯 /バジル:井澤 駿 

ドン・キホーテ:貝川鐵夫/サンチョ・パンサ:福田圭吾

ロレンツォ:福田紘也/ガマーシュ:奥村康祐 

キトリの友人:奥田花純(ジュアニッタ)、飯野萌子(ピッキリア)

エスパーダ:木下嘉人/街の踊り子:寺田亜沙子

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:細田千晶 

ジプシーの頭目:中家正博 

二人のジプシー:井澤 諒、宇賀大将 

森の女王:木村優里/キューピッド:五月女遥 

ボレロ:益田裕子、速水渉吾

GPDD 第1ヴァリエーション:奥田花純/第2ヴァリエーション:池田梨紗子 

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

ここ数年、ダンサーたちの技量が上がり、層もいくらか厚くなってきていた。が、一方で、最後のひとはけ、というのか芸術的な仕上げに物足りなさを感じてきたことも確かだ(『ドン・キ』はそうでもなかったが)。今回はすみずみまで血が通った舞台。長い中断後ということもあるが、踊りも演技もコール・ドを含めて活気があった。

プロローグ

キホーテもパンサも好い加減さは見られない。

第1幕 バルセロナの街

第1幕の幕があがると、久し振りの明るいステージが眩しく、感慨深い。米沢はこれまでとは少し感触が違う。新芸監でのシーズン開幕とあって、さすがにのびのびとはいかない。その分、ナチュラルというより、フィクショナルな空間を作っていくようなあり方。井澤は踊りがきれいでキレもある。少し見違える感じ。中央で華やかな踊りが続くなか、カミテの隅で小芝居が展開されるのは、これまでと同じだが、そこに手抜きは一切見られない。

エスパーダの木下はキリリとした踊りと動き。初日の緊張が解けたらさらにのびのび踊れるだろう。

冨田の指揮は、これまで棒の振りが舞台を見る妨げになると感じたが、今回それはない。東フィルの演奏も悪くない。ただ、すべてが前景化され奥行きがさほど感じられない印象(バクランのパトスが身体に残っているのでつい)。華やかさが売りの本作ではそれでよいともいえるが。

第2幕

第1場 居酒屋

カスタネットの踊り(細田)はもっと内から情念が出てくる感じがほしい。初役のせいもあるのか、カスタネットのリズムがオケよりかなり速くなりがち。オケも盛り上がりがやや表面的か。

メルセデス(渡辺)は大きく華やかな存在感。バジル井澤、キトリ米沢、ロレンツォ福田紘也のコミカルなやりとりに、前方カミテの客から笑いが出た。

第2場 風車

ジプシーの頭目(中家)は上背があり、芝居もうまい。ジプシーたちのアップテンポの踊りはまずまず。キホーテが人形芝居の小屋を壊すシーン。風車との戦い等。OK

第3場 夢

 森の女王木村は大きくsure な踊り。悪くない。キューピッド五月女は、らしくない点もあったがまあOK。ドゥルシネア米沢のヴァリエーションはポエジーが出ていた(かつての吉田都みたい)。片脚けんけんで拍手するのはやめてほしい(スポーツやサーカスじゃないんだから)。コール・ドもよい。オケは木管クラリネット)の歪み音が。

 今日は客席の落下音がない!

 第3幕 公爵の館

 本島の公爵夫人はもったいない。

 原田舞子がenterし細部まできっちり音楽に合わせて踊る踊りに目を見張った。速水のボレロよい。アダージョ。米沢は色気がある。踊り、表情、とてもよい。町娘が恋人へ送る視線。井澤のサポートはずいぶんよくなった。例の角度。ラストの静止!

井澤のヴァリエーションはきれいなうえに、これまでより力強さが加わっている。米沢のヴァリエーションは、前と違う。上半身の傾斜が大きく、動きが娘らしいきびきびシャキシャキ感。フェッテは、なんだこれは! まったく軌道がずれない。舞台に突風が吹いた。客席からは思わず声が出ていた。井澤の回転もきれいかつキレていた。

奥田、池田のヴァイエーションは踊りの質が上がった。奥田は思い切りのよさに加え、丁寧さが。

カーテンコール。スタンディング。吉田都が出てくると、ほぼ全員がスタンディングで喝采した。

 

10/24(土)13:30

キトリ(ドゥルシネア):木村優里 /バジル:渡邊峻郁

ドン・キホーテ:趙 戴範/サンチョ・パンサ:高橋一輝

ロレンツォ:中島駿野/ガマーシュ:小柴富久修

キトリの友人:廣田奈々(ジュアニッタ)、横山柊子(ピッキリア)

エスパーダ:井澤 駿/街の踊り子:柴山沙帆

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:朝枝尚子

ジプシーの頭目:中家正博

二人のジプシー:福田圭吾、木下嘉人

森の女王:細田千晶/キューピッド:広瀬藍

ボレロ:益田裕子、速水渉悟

GPDD 第1ヴァリエーション:五月女遥/第2ヴァリエーション:廣川みくり

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

趙のキホーテは存在感がある。実際に本を読んでいるように見えた。騎士道に取り憑かれた感じがよく出ていた。大きさ、迷いのなさ。高橋パンサは軽め。

第1幕

木村キトリはよく踊っているのだが、こちらに響いてこない。バジル渡邊とのユニゾンの踊りがいまひとつ合っていない。ぴったり揃う必要はないが、強度が違いすぎる印象。渡邊のソロは少し軽いか。片手リフトの2回目はうまくいかず。

ロレンツォ中島はよい。友人二人もOK。ガマーシュは小柴だったのか。まずまず。エスパーダ井澤は大変よい。形がきれいで踊りは端正。白タイツがよく似合う。町の踊り子柴山はナイフを倒した(しっかり立っていなかった? そもそも立てる側に問題がある? リノリュームのせい?)。パンサのトランポリンは初日とは違った面白さがあった。

第2幕

第1場 居酒屋

カスタネットの踊りの朝枝は、音楽を身体で感じながらスパニッシュ風のフォルムで踊る。カスタネットのリズムも速すぎず、むしろ遅めで、とても感じが出ている。

エスパーダ井澤は、二人の女の間でそれらしい(いわくありげな)雰囲気を出しながら踊る。

第2場 風車

二人のジプシー木下・福田圭吾はキレキレ。ジプシーの頭領 中家とのやりとりはとてもよい。キホーテの風格と一途さ。

第3場 キホーテの夢(森)

森の女王、細田まずまず。ドゥルシネア木村よい。キューピッド広瀬、すごく合っている。

第3幕 公爵の館

ボレロの速水は今日の方がさらによい。アダージョ、あまり覚えていない。渡邊のヴァリエーションはしっかり踊っているが、もう少し重みがが出たらもっとよい。

木村はいつも通り。グランフェッテは最後までよくやり通した。ただ「やったあ!」といった表情はどうなのか。その場に捧げる気持ちがほしい。終演後のカーテンコールも同じ。

 

10/25(日)14:00

キトリ(ドゥルシネア):柴山沙帆 /バジル:中家正博

ドン・キホーテ:趙 戴範/サンチョ・パンサ:高橋一輝

ロレンツォ:中島駿野/ガマーシュ:小柴富久修

キトリの友人:廣田奈々(ジュアニッタ)、横山柊子(ピッキリア)

エスパーダ:井澤 駿/街の踊り子:木村優

メルセデス:益田裕子/カスタネットの踊り:朝枝尚子

ジプシーの頭目:速水渉悟

二人のジプシー:福田圭吾、木下嘉人

森の女王:細田千晶/キューピッド:広瀬 藍

ボレロ:川口藍、渡邊峻郁

GPDD 第1ヴァリエーション:五月女遥/第2ヴァリエーション:廣川みくり

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和 

 趙キホーテは大変好い。思い込みが強い堅物だが、芯が強く、真に善きものを見抜く老人。そんな感じ。

柴山キトリのバレエは本格的。彼女はターボエンジンを備えている(何度も言うが)。中家バジルも本格的。明確な意志。高いリフトへの意志。演技がすべてハッキリしている(目線がオーディエンスに向きすぎの感も)。デュエットのキメの箇所で、トランペット4人のうちのがひとりが上がりきらず(頼むよ)。ガマーシュ小柴は今日の方がよい。演技にすべて血が通っていて面白い。キホーテがキトリに求愛するときのマイムで「気」が舞台に横溢した。趙キホーテの一挙手一投足には明確な意図が感じられる。すごい集中力。中家バジルの友人二人を交えたソロは2回目のジャンプ・ピルエットで軸が少しシモテに傾いた。才能に見合った場が与えられ、生き生き踊る二人の姿は見ていて気持ちが好い。

第2幕

第1場

カスタネット朝枝は音楽をよく感じて踊る。次第に盛り上がっていくプロセスを身体と踊りで体現している、そう見えた。メルセデス益田はきめ細やかな感触。エスパーダ井澤は今日も二人の女と訳ありの関係を匂わせるあり方。踊りも気合いが入っていて格好いい。バジル中家は細かな演技で回りと生きた関係を作っていた。キトリ柴山もそこにうまく入っていた。

第2場

ジプシーの頭目速水は昨日とは違った演技。木下・福田は今日もキレキレ。キホーテはしっかり紐を切ったが人形劇の小屋は倒壊せず(以前の公演でもあった、仕込みのせいか)。

幕間で、風車と闘って傷つき気を失った趙キホーテは、悪夢に襲われる。そのさまを表現する動きは音楽と深く呼応して見事だった。

第3場

森の女王 細田は丁寧な踊りだが、他を慈しむ女王の風格や気品がもう少し出せたら。ドゥルシネア柴山はよいと思う。キューピッド広瀬はやはり合っている。キホーテとの絡みもよい。キホーテの夢から覚めた動きは素晴らしい。公爵夫人本島との対話にもノーブルさがある。

第3幕

原田舞子のアントレの踊りは音楽にきっちりフィットした踊りで目を見張った(吉田都ばり?)。ファンダンゴでシモテの女性にアクシデント。3日間で4公演目か。コロナ禍で中止が相次いだ後の全幕連チャンだから、疲れが出たのだろう。

アダージョでバジル中家は前回と同じところでバランスを崩した。やはり主演回数が足りないのか。怪我の影響か。その後の演技は慎重になり、やや精彩を欠いたのは残念。キトリ柴山は悪くない(もっと笑顔が欲しいが)。バジルのヴァリエーション。前半は少し引きずった印象だが、後半はよかった。キトリのヴァリエーションは軸が内側にぎゅっと凝縮したような好い踊り。フェッテは扇なし。最後は少し誤魔化したがよいと思う。強度が高く正統的に踊れる二人。ただ、中家はセンターでの場数が圧倒的に少ない。そのあたりを芸監はどう考えるか。

 

10/31(土)13:00

キトリ(ドゥルシネア):池田理沙子 /バジル:奥村康祐

ドン・キホーテ:趙 戴範/サンチョ・パンサ:高橋一輝

ロレンツォ:中島駿野/ガマーシュ:小柴富久修

キトリの友人:廣田奈々(ジュアニッタ)、横山柊子(ピッキリア)

エスパーダ:井澤 駿/街の踊り子:木村優

メルセデス:益田裕子/カスタネットの踊り:朝枝尚子

ジプシーの頭目:速水渉悟

二人のジプシー:福田圭吾、木下嘉人

森の女王:細田千晶/キューピッド:広瀬 藍

ボレロ:川口藍、中家正博

GPDD 第1ヴァリエーション:五月女遥/第2ヴァリエーション:廣川みくり

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和 

 趙キホーテは本当に本を読んでいるように見える。

第1幕

コール・ドは元気を取り戻した。池田キトリは町娘のあり方がよく伝わってくる。よく踊っている感じ。奥村バジルは元気いっぱいで思い切りがよく、二人の呼吸もよく合っている。明るく楽しいカップル。それが舞台上で周りに伝わっていく。キホーテがキトリに求愛するシーンはとてもリアル。キホーテのシリアスなあり方。キトリの戸惑い。バジルは「マジで?」 ちょっと遡るが、きれいな娘たちに囲まれたパンサのシーン。娘たちはほんとにきれい。二人のソロもよかった。エスパーダ井澤も。それにしても、ナイフは立たないな。片手リフトの2回目で、長く保ったが、この日もすぐに拍手が入り、タンバリンが聞こえない。残念。

第2幕

カスタネット朝枝、初めは二人がギターを持って踊り始め、朝枝はまだ見えない。やがてシモテの袖からゆっくり姿を現し、カスタネットを鳴らしながら、中央に出て踊る。まずはゆっくりと抑えて踊るが、やがて孔雀が羽を広げるように(あれは雄だが)情念を表に出しクライマックスを迎える。また静まって…。オケはやや物足りない。もっとパトスを吐き出すような響きがほしい。

 

いよいよネット配信収録の日。劇場内は異様な緊張感が漂う。

10/31(土)18:30

キトリ(ドゥルシネア):米沢 唯 /バジル:速水渉悟

ドン・キホーテ:貝川鐵夫/サンチョ・パンサ:福田圭吾

ロレンツォ:福田紘也/ガマーシュ:奥村康祐

キトリの友人:奥田花純(ジュアニッタ)、飯野萌子(ピッキリア)

エスパーダ:木下嘉人/街の踊り子:柴山沙帆

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:細田千晶

ジプシーの頭目:中家正博

二人のジプシー:井澤 諒、宇賀大将

森の女王:木村優里/キューピッド:五月女遥

ボレロ:川口藍、渡邊峻郁

GPDD 第1ヴァリエーション:奥田花純/第2ヴァリエーション:池田梨紗子

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

貝川キホーテはシャープでコミカル。かつヒューマン。やや戯画的。福田パンサが勘所を外さない巧みさで、バランスが取れている。

第1幕

米沢キトリはいきいきスマイルで劇場内の緊張感もなんのその。とてもチャーミング。速水は初っぱなから高いジャンプでみんな吃驚。芝居も動きもダイナミック。こんなバジル見たことない。リフトも高い。米沢とのからみもよい。が、キトリがバジルの肩に乗らず。なんとかフィッシュダイブの姿勢を作った。その後、米沢は速水を見て「やっちゃたねー」と茶目っ気たっぷりの表情。キトリとバジルの関係(ドラマ)は壊れなかった。さすが。(このときなにがあったのかは翌日知った。)

ロレンツォ福田紘也は、漫画のような顔。ガマーシュ奥村はまずまず。米沢との相性はよい。ソーセージを盗んだパンサをロレンツォが追いかけるシーンは、(福田)兄弟喧嘩か。エスパーダ木下。街の踊り子柴山は安定感が増した。それにしても、ナイフは倒れすぎ。バジルのソロは、ミスの直後だけに、少し抑え気味となった。もっとできるはず(とその時は思った)。

第2幕

カスタネット細田は初日よりはよいが、まだカスタネットのリズムが速すぎ、内に秘めた情念が見えない。メスセデスの渡辺は少し大味だが妙な面白さがある。木下エスパーダもよいが、別キャストの三人の方が、曰く付きのドラマを感じさせる。

速水はここで大技を見せた。もうひとつ、キトリが序奏をつけて身体を投げだし、それをバジルが受け止めるシークエンス。ここで速水はピルエットしたまま手拍子を打ったと思う。そんなことができるのか! キホーテが居酒屋の店主の足に槍でトンと突くシーンは、足から離れすぎ(趙を見習って欲しい)。バジルの狂言自殺のシーン。キトリの胸を揉み揉み(!)。キホーテがキトリに懇願されてロレンツォにうんと言わせたのちにバジルは立ち上がる。このタイミングはよかった(初日は早すぎた)。

ジプシーキャンプ。アップテンポの群舞は少し物足りない。キホーテはやや芝居がかりすぎの感。

夢のシーン

森の女王、まずまず。キューピッド五月女はいつものスムーズでキレのある踊り。ドゥルシネア米沢は、キホーテの理想の女性に見合う優美さがよく出ていた。

第3幕

ボレロの川口と渡邊。初日よりキレがあり、スペイン風の気が入っていた。

アダージョ。バジルの強さ、大きさから、キトリの感じが初日とはかなり違う。米沢は大人の色気が感じられる。第1幕にアクシデントがあっただけに、観客はみな息を詰めて見ている。そんななか、大きく華やかなパ・ド・ドゥが展開された。リフト、フィッシュダイブ。緊張感が迫力を増大させた。

速水のソロ。例の空中を蹴り上げる踊り。迫力はあるが、これ見よがしではない。キトリのソロ。初日より大人の踊り。フェッテ。初日より、厳しさが感じられた。この緊迫したなかで、よく回りきれるものだ。速水の回転も力強くかつきれい。

カーテンコール。まず、速水だけ出てきて、レヴェランス。あとから米沢。速水に拍手を送る。初日に続き、スタンディング。指笛が飛び交う。今日は茶髪の兄ちゃん姉ちゃんが多かった。速水ファンか。速水の高いジャンプや超絶のピルエットは、これ見よがしというより、どこか無償の、捧げ物の趣がある。そこがとてもよい。

翌日の千穐楽が終わった後、事情を聞いて驚いた。米沢は31日当日の朝から腰に痛みがあったらしい。第1幕のアクシデントは、てっきりパートナー(速水)とのタイミングのズレが原因かと思い込んでいた。二人が組むのは初めてだったから、つい、速水の経験不足なども頭に浮かんだ。が、そうではなかったようだ。速水渉悟には大変申し訳ない。第2幕の後、柴山・中家は万一のためスタンバイしていたという。知らなかった。そんな状態であのフェッテをやり遂げたのか! 速水も不安な様子など素振りも見せず、力強く、大きく、質の高い踊りと演技を見せた。脱帽です。

 

千穐楽 11月1日(日)14:00

キトリ(ドゥルシネア):小野絢子 /バジル:福岡雄大

ドン・キホーテ:貝川鐵夫/サンチョ・パンサ:福田圭吾

ロレンツォ:福田紘也/ガマーシュ:奥村康祐

キトリの友人:奥田花純(ジュアニッタ)、飯野萌子(ピッキリア)

エスパーダ:木下嘉人/街の踊り子:寺田亜沙子

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:細田千晶

ジプシーの頭目:中家正博

二人のジプシー:井澤 諒、宇賀大将

森の女王:木村優里/キューピッド:五月女遥

ボレロ:益田裕子、速水渉悟

GPDD 第1ヴァリエーション:奥田花純/第2ヴァリエーション:池田梨紗子

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

 第1幕

二人とも〝安心して〟見ていられる。小野は明るく快活なキトリ。踊りもよい。福岡はキレがあり、sure。芝居もマンネリにならず、よく考えている。二人ともベテランの演技。二回目の片手リフトは長め。この日も拍手が邪魔してタンバリンが聞こえない。パートナーシップが長いだけにさすがの演技だが、その分ハラハラドキドキはない。カンパニーとしてはこういう日があってもよいか。

第2幕

カスタネット細田はリズムも速すぎず、今日が一番好かった。メルセデス渡辺はもう少し踊りの強度がほしい。エスパーダ木下は少し疲れが見える。小野・福岡は正統的と思わせる踊り・演技で申し分ない。狂言自殺のシークエンスはこれまでとは違ったやり方。好かった。

ジプシーキャンプのシーン。今日のコール・ドはまずまず。

夢のシーン。小野よい。木村よい。五月女は疲れか。夢から覚めたキホーテは元気よく立ち上がりすぎ(趙を見よ)。

 

今回音楽は特に問題ない。指揮者はいい仕事をしたとは思う。が、満足とまではいかなかった。バレエ音楽に+α (深い音楽性)を望むのは〝贅沢〟とみる向きもあろうが、今後も期待し続けたい。

今シーズンも販売プログラムが復活しなかったのは残念。公演中止が相次ぎ、そうした余裕がないのは分かっている。だが、国立と名の付く劇場で子供だましの無料リーフレットしかないのは、やはり異常である。オペラや演劇部門にできてバレエ部門にできないはずはない。

 

12月のフィールドワーク予定 2020【追加】

オペレッタ「こうもり」とバレエ「くるみ割り人形」はどちらも大好きな音楽だ。が、新国立劇場が採用した後者のイーグリング版は振付・美術・演出(特に曲の削除と順番の変更)のいずれも評価できない。ゆえに見るのは初日の小野・福岡組と米沢・井澤組(2回)だけ。できれば大野和士が振る都響の『くるみ』全曲で耳直ししたい。あとは岩松了の新作、BCJの定演+第九。先日の古楽による5番シンフォニーは感動した。鈴木雅明氏の熱い指揮に応えようと、弦楽器(特にヴィオラとチェロ)が必死でボーイングする姿は、まるで鈍足の老馬を駆って必死で鞭を入れるジョッキーのようで、胸が熱くなった(ピリオド楽器はモダンほど“快足”ではないが、添加物はいっさい含まれない)。BCJは昨年一月に海外からソリストを呼んで第九を演奏したが、今回はすべて日本のアーティスト。劇団民藝の公演は、劇場が近いので行く気になった。【演目のテーマと出演者の顔ぶれから、追加で『ミセス・クライン Mrs KLEIN』を観ることにした。】

5日(土)14:00 新国立劇場オペラ オペレッタ《こうもり》指揮:クリストファー・フランクリン/演出:ハインツ・ツェドニク/美術・衣裳:オラフ・ツォンベック/振付:マリア・ルイーズ・ヤスカ/照明:立田雄士/ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン:ダニエル・シュムッツハルト/ロザリンデ:アストリッド・ケスラー/フランク:ピョートル・ミチンスキー.オルロフスキー公爵:アイグル・アクメチーナ/アルフレード:村上公太/ファルケ博士:ルートヴィヒ・ミッテルハマー/アデーレ:マリア・ナザロワ/ブリント博士:大久保光哉/フロッシュ:ペーター・ゲスナー/イーダ:平井香織/合唱:新国立劇場合唱団/バレエ:東京シティ・バレエ団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

8日(火)18:00 M&Oplays『そして春になった』作・演出:岩松了/出演:松雪泰子 ソニン 瀧内公美 片桐はいり[スタッフ]照明:沢田祐二/音響:高塩 顕衣裳:飯田恵理子/ヘアメイク:大和田一美/映像:荒川ヒロキ/舞台監督:南部 丈/美術:中根聡子/ステージング:仁科 幸/制作:近藤南美/制作助手:寺地友子/制作デスク:大島さつき/宣伝:ディップス・プラネット/宣伝美術:坂本志保/プロデューサー:大矢亜由美 @下北沢本多劇場

12日(土)13:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:ウエイン・イーグリング/美術:川口直次/衣裳:前田文子/照明:沢田祐二/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/合唱:東京少年少女合唱隊[主演]クララ/こんぺい糖の精:小野絢子/ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:福岡雄大新国立劇場オペラハウス

12日(土)18:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』クララ/こんぺい糖の精:米沢 唯/ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:井澤 駿新国立劇場オペラハウス

16日(水)19:00 BCJ #138 定演〈創立30周年記念演奏会〉(2020/5/24からの延期公演)J.S.バッハ:ファンタジアとフーガ ト短調 BWV542 */カンタータ第78番《イエスよ、あなたはわが魂を》 BWV78/《マニフィカト》変ホ長調 BWV243a(初期稿)/指揮:鈴木優人オルガン:鈴木雅明*/合唱と管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン他 @東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリア

18日(金)19:00 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』クララ/こんぺい糖の精:米沢 唯/ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:井澤 駿新国立劇場オペラハウス

19日(土)17:30 劇団民藝こまつ座公演『ある八重子物語』/作:井上ひさし/演出:丹野郁弓/出演:日色ともゑ 桜井明美 中地美佐子 有森也美 篠田三郎 ほか/装置:勝野英雄/照明:前田照夫/衣裳:宮本宣子/音楽:八幡 茂/効果:岩田直行/所作指導:西川瑞扇/舞台監督:風間拓洋 @東京芸術劇場シアターイース

20日(日)14:00 風姿花伝プロデュースvol.7『ミセス・クライン MrsKLEIN』作:ニコラス・ライト/翻訳:小田島恒志 、小田島則子/演出:上村聡史/出演:那須佐代子 伊勢佳世 占部房子/美術:乘峯雅寛/照明:阪口美和/音響:加藤 温/衣裳:半田悦子/ヘアメイク:鎌田直樹/演出部:黒崎花梨/舞台監督:梅畑千春/宣伝美術:チャーハン・ラモーン/絵画提供:佐和子/WEB:小林タクシー/制作:斎藤努加藤恵梨花・高村 楓・北澤芙未子/風姿花伝スタッフ:中山大豪/プロデューサー:那須佐代子/企画・製作:風姿花伝プロデュース @シアター風姿花伝←追加

26日(土)14:00 都響くるみ割り人形』op.71 全曲 指揮:大野和士女声合唱/⼆期会合唱団(事前収録による出演) @サントリーホール

27日(日)14:00 BCJベートーヴェン生誕250年記念〉J. S. バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582*/ベートーヴェン交響曲第9番 ニ短調 op.125《合唱付き》指揮:鈴木雅明/オルガン:鈴木優人*/ソプラノ:森 麻季/アルト:林 美智子/テノール:櫻田 亮/バス:加耒 徹/合唱&管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリア

新国立劇場バレエ団 ダンス『SHAKESPEARE The Sonnets』2020【一部修正】

Shakespeare THE SONNETS』の2日目/千穐楽を観た(11月29日14:00/新国立中劇場)。初日の小野絢子・渡邊峻郁の舞台も見たかったが、BCJの定演と重なり断念。この2日目もオペレッタ《こうもり》とぶつかったが、こちらは次週の土曜日に振り替えた。

構成・演出・美術原案:中村恩恵首藤康之

振付:中村恩恵

音楽:ディルク・P・ハウブリッヒ

照明:足立 恒

音響:内田 誠

出演:首藤康之、米沢 唯

 2011年、12年とはまったく異なる印象。ひとり踊り手が代わるだけで、こんなに違って見えるのか。今回は、詩人=劇作家が詩を書き、人物を造形するクリエーションと、子孫(DNA)を後世に残していく行為が重なって見えた(154篇から成るシェイクスピアの『ソネット集(十四行詩)』は大半が美青年に関するもので、1〜17番は「きみ」(青年)の美を子孫として残せと勧める内容。ダークレディが登場するのは127番からで、美青年との三角関係を含む愛憎がドラマティックに歌われる。私の愛誦詩は29番)。

薄暗い舞台のシモテに本と羽根ペンが置かれた文机、奥のややシモテに鏡台、奥ややカミテに洋服のボディスタンド。すべて以前と同じセット。

首藤は腕が長い。素肌にヨウジヤマモトを身に纏い、両腕を広げてページをめくり、ソネットを朗読する(たぶん小田島雄志訳)。

私には2人の恋人がいる。

慰めになる人と、絶望させる人と(#144)

〝気〟のこもった素早い手の動きは、創作の苦悶を見事に表出した。蝋燭の火が灯る鏡台は楽屋を想起させる。創作の舞台裏か。そこにベージュの下着(?)姿で座る人形然とした米沢を、詩人は自分のイメージ通り生きた女に造形していく。ロミ&ジュリというよりコッペリウスと人形のよう(私にはこのあともロミ&ジュリは見出せず)。女は指輪を嵌められた途端に硬直し、男からすり抜けて行く。代わって黒を着た奔放なダークレディが登場。ここで米沢はオディールのようにもっと挑発的でもよかったか。

昔の人は黒を美しいとは思わなかった。

思ったとしても美の名ではよばれなかった(#127)

詩人が顔に墨を塗りオセローとなってデズデモーナと踊る。床の照明が白黒のチェック柄になり、オセロゲームの盤上に見えた。ハンカチを契機に責め殺されるデズデモーナ。首藤が実にコミカルな動きで、死んだデズデモーナを薔薇でくすぐるとパックとタイターニアに早変わり。面白い。タイターニアが洋服のボディスタンドに抱きつくシーンは、今回も笑えた。もちろん妖精パックの媚薬で彼女が驢馬に恋する可笑しさを狙ったものだが、「恋は盲目」を見事に表象しえて秀逸だった。シャイロックとお金のシーンは今回も疑問(ユダヤ教徒シャイロックはたしかに金貸しだが、なぜそうなのか。そのユダヤ人がなぜキリスト教徒に嫌われるのか。シャイロックが借金の形に肉1ポンドを要求するのは、キリスト教徒への積年の恨みから。結局、その何倍もの仕返しを食らうが。シェイクスピアは『ヴェニスの商人』を喜劇として書いたとしても、シャイロック=金の亡者では、ユダヤ人もシェイクスピアも浮かばれまい)。

鏡をみてそこに映るあなたの顔に言いなさい。

今こそ、その顔がもう一つの顔を作るときだと(#3)

詩人が美青年に結婚を促す三場では、共に鬘で父子となる。これもある意味クリエーション(再創造=再生産)だ。その後二人は文机の上下で相手をトントンとノックする。ここはとてもよい。世代(親子)間のやりとり(対話)を象徴的に表しているように見えた(今回初めて気がついた)。その後、二人は机の上に片足ずつ置いて靴紐を解き、服を脱ぐ。このシーンも印象的。ここからあとは、親と子の自然の別れが表象されているように感じた(振付の意図は男女なのか)。縦(前後)の位置で、米沢が振り向くと、静かに去って行く首藤。やがて、詩人のコスチュームを身につけた首藤が、手前でゆっくり本を閉じる。ほぼ同時に米沢は後方の鏡台の前で蝋燭を消し、ゆっくり鏡を閉じる。『ベートーヴェンソナタ』の幕切れを思い出した。終演=終焉(死)=再生へ? 米沢は中村恩恵が乗り移ったかのよう。踊りもそうだが、あり方までそう見えた。首藤は、終始、気が漲っていた。これが最後なのか。今日は首藤康之に敬意を表し、ヨウジヤマモトで舞台を見届けた。

中村恩恵は、創作者の苦悩と喜びに強く共振し、共感するのだろう。本作(2011,2012,2020)だけでなく『小さな家』(2013)も『ベートーヴェン・ソナタ』(2017,2019)もそうだった。次の創作が楽しみだ。