2016-03-16 新国立劇場バレエ DANCE to the Future 2016【再掲】

一月にはてなダイアリーからはてなブログへ移行した際、この記事に限り(?)第1部「Immortals」のコメントまでしか公開できていなかった。編集画面にすると記事全体がすべて見えるが、「公開する」をクリックすると見える記事は相変わらず。試行錯誤の末、編集形式を「はてな記法」から「見たまま」に変えて全文を入れ直せばうまく行くことが判明。そこで、記事の日付は変わってしまうが、やむなく丸ごと再掲することにした。本来の日付は2016年3月16日。

「DANCE to the Future 2016」を観た(3月12日 14:00,13日 14:00/新国立中劇場)。
新国立劇場バレエ団の中から振付家を育てるプロジェクト」の4回目(Fourth Steps)。第3部のジェシカ・ラングに委嘱した作品も含め、「ビントレーの遺産」と呼ぶに相応しい公演。が、相変わらず客入りはあまりよくない。残念。
初日は1階中央から、二日目(楽日)は2階3列目のやや左から見た。ピットや前の座席は取り払われ、ステージは客席の最前列と同じ地平。

第1部・第2部
NBJ Choreographic Group 作品
照明:鈴木武
音響:河原田健児
アドヴァイザー:平山素子

第1部

「Immortals」
振付:高橋一輝
音楽:ヴィヴァルディ/M.リヒター
出演:盆子原美奈、中島駿野、林田翔平、奥田祥智、佐野和輝、八木 進、吉岡慈夢

 盆子原美奈のソロから始まる。男6人、女1人。ヴィヴァルディの『四季』を紗幕越しに聴くような編曲。ネオクラシカルというのか、踊りも構成もオーソドックスだが、盆子原の魅力が十二分に引き出される。高橋のミューズなのか。二日目も盆子原の美しい肢体が脳裏に焼き付いた。

「Fun to Dance〜日常から飛び出すダンサー達〜」
振付:小口邦明
音楽:M.グレコ
出演:小口邦明、若生 愛、宇賀大将、小野寺 雄、フルフォード佳林、益田裕子

レッスン音楽とは思えないほどゴージャスなピアノ曲に合わせて、バーレッスンのシーンから様々なダンスが繰り広げられる。ダンサーたちのコスチューム同様、カラフルな印象。短パンの小野寺雄と小口邦明のデュエットは動きに工夫があり面白かった。たしかに踊る喜び(Fun to Dance)は伝わってきた。二日目はさらによく見えた。笑いもはまったし、何よりみな実に楽しげに踊っていた。

「Disconnect」
振付:宝満直也
音楽:M.リヒター
出演:五月女 遥、宝満直也

ピアノから弦楽へ。「シンドラーのリスト」に似たメランコリックな音楽。暗闇のなか、男女の「繋がれない」あり方がダンスとして模索される。本格的な作品への志向。五月女遥は相変わらずすごい切れ味。
休憩20分
第2部

「如月」
振付:原田有希
音楽:D.ヒース
出演:五月女 遥、玉井るい、柴田知世、原田有希、盆子原美奈、益田裕子、山田歌子

女声で始まり、「春の祭典」の暴力性を抑えたような音楽が続く。思いこみの強さは個性か。ダンサーの魅力を引き出すのではなく、自分の観念をダンス化するために、駒として扱う。

「Giselle」
振付:米沢 唯
音楽:A.アダン
出演:小野絢子(12日)/米沢 唯(13日)

下手奥から少女が駆け込んでくる。初め小野絢子だと分からなかった。頭と背中に大きな赤いリボンを付け、ストライプの胴衣にチュチュに裸足。両手で両足首を掴み、股ぐらからこちら(観客席)をのぞき込み、舞台奥へどんどん歩いていく。無邪気に。ここで拍手が。やがて、真顔で客席の方へ駆け寄り何かを捜し始める。こんどは中央へ。そしてさよならの仕草。断念。女として社会化される以前の、生まれっぱなしの、生の躍動。マッツ・エック? ギエム? 実存的? それはそうだが、そうしたインタータクスチュアリティや言辞以前の、この世に生を享けた少女の生な感触をメタフォリックに造形した結果ではないか。あまりに短いが、始まった瞬間から頬が弛み、注視させられた。創り手にはこれで充分だったのだろう。あれ以上、長く作ると嘘になる? 偽りは微塵もなかった。二日目は創った本人が踊る。前日の小野とはまったく異なる印象。あまりに生々しいため、笑えない。頬も緩まない。走り込んできた後、横転し、口から何かを吐き出すような仕草・・・。そして、両手で両足を掴んだまま奥へ歩いていく。これは米沢唯の半生か。客席まで上がってきて何かを探し、中央奥へ戻って、さよならをする。何を探し、何にさよならをしたのか。自分自身? 分からないが、何か尋常ならざるものを、〝真実〟を見た感じ。

「カンパネラ」
振付:貝川鐵夫
音楽:F.リスト
出演:宇賀大将(12日)/貝川鐵夫(13日)

初日はリストの音楽を聴きながら「Giselle」の余韻に浸ってしまった。二日目は、見入った。下は袴のようなパンツに上半身裸。上半身の鋭い造形。白鳥のよう。こんな貝川鐵夫は初めて見た。涙が出た。素晴らしい。

「beyond the limits of ...」
振付:福田圭吾
音楽:トミー フォー セブン
出演:奥村康祐、寺田亜沙子、奥田花純、堀口 純、木下嘉人、玉井るい、林田翔平、原 健太

ハードな音楽。照明も普通に効果的。黒っぽいタイツに十字型のシルバーライン。例によってプロっぽい作品。いいと思う。福田圭吾は使える作品を普通に創ることができる。
休憩25分
第3部

「暗やみから解き放たれて」Escaping the Weight of Darkness
初演:2014年3月18日 新国立中劇場
振付:ジェシカ・ラング
音楽:O.アルナルズ/N.フラーム/J.クレイマー/J.メトカーフ
装置:ジェシカ・ラング(モロ制作会社ステファニー・フォーサイス、トッド・マックアレンのデザインによる裝置使用)
照明:ニコール・ピアース
衣裳:山田いずみ
出演:小野絢子、福岡雄大、八幡顕光、米沢 唯、奥村康祐、貝川鐵夫、福田圭吾、奥田花純、五月女 遥、細田千晶、丸尾孝子、川口 藍、広瀬 碧、宝満直也、若生 愛、朝枝尚子、小野寺 雄、原田有希

初演の印象と基本的には変わらない。やはり津波で死にゆく人々のありようを想起した。ただ、ステージが客席の最前列と同じ高さのため、フィクション性が少し薄れた印象。二日目は2階から見たので、難点は解消された。この日は特に貝川がよかった。人々が海底で転がりながらあの世へと、光の世界へと旅立っていく。この世に残した愛する人々への未練から、行きつ戻りつしながら、また、死に赴きながらも、助け合いながら、「暗やみから解き放たれて」いく。ぼんぼりのような宙に浮かぶ灯りがとても美しく、死にゆく人々の魂のよう。涙が出た。ぜひ被災地で上演して欲しい。