新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 2016 Autumn」

「DANCE to the Future 2016 Autumn」の初日を観た(11月18日 19:00/新国立小劇場)。
団員の振付作品を上演するこの企画は、3月に引き続き早くも5回目。アドヴァイザーは平山素子から中村恩恵に交代。さらに「生演奏によるImprovisation」が新たに加わった。その演奏者は三日間とも異なるため全部見たかったが、別の公演等と重なり断念。
席は中央ブロックの前から七列目。もう少し後ろが好みだが、ダンサーをよく見ることはできた。

アドヴァイザー:中村恩恵
照明:鈴木武
音響:福澤裕之
平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催公演

第一部

「ロマンス」
振付:貝川鐵夫
音楽:F. ショパン ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op. 11より第2楽章
衣裳:植田和子
出演:小野絢子、玉井るい、益田裕子、木村優子、中沢恵理子

カミテからシモテへ照明が放たれるなか、シモテからヌードっぽいコスチュームの女性がひとりまたひとりと光源に向かって歩いてくる。横から見るシルエット。はかなく美しい。小野絢子はなかでも圧倒的に洗練され、きめ細かく、きれい。五人の踊り。レオタードの背中が大きく開いている。後半、その背中を客席に向け少しねじった姿態は、少々グロテスクな、見てはいけないものを見たような感触(実存的とまではいわないが)。転調の際、手をかざす動きはバランシンを想起。音楽がよく感じられる振り付け。

「angel passes」
振付:貝川鐵夫
音楽:G. F. ヘンデル オラトリオ《メサイア》HWV 56よりPart I "Aria"
衣裳:植田和子
出演:小野寺 雄(井澤駿が怪我のため全日小野寺に)

中央にスポットライト。ソロ。・・・よく分からなかった。小野寺向きの踊りではない? 音楽は第3曲のアリアでテノールが『イザヤ書』40章4節を英語で歌う。

「ブリッツェン」
振付:木下嘉人
音楽:M. リヒター Infra 5
出演:米沢 唯、池田武志、宇賀大将

いかにもコンテンポラリー。米沢唯は黒の短パンに白シャツ。脚の筋肉が印象的な、力強い踊り。フォーサイスを踊らせたい。池田武志の安定したサポート。宇賀大将もかっこいい。

第二部

「Disconnect」
振付:宝満直也(初演 2016年3月「DANCE to the Future 2016」にて上演)
音楽:M. リヒター On the nature of Daylight
衣裳:堂本教子
音楽協力:稲葉智子
出演:五月女 遥、宝満直也 

今年3月の中劇場では、空間での二人の動きによる構図が印象的だった。が、この小劇場では二人のdisconnectされたあり方に注意がいく。五月女遥の俊敏さは相変わらず。西洋人など長身のダンサーが踊ったらまた違う趣が出るかも。

「福田紘也」
振付:福田紘也
音楽:三浦康嗣、Carsten Nicolai、福田紘也
出演:福田紘也

カミテ奥で小さな椅子に座りうなだれている福田紘也。中央にはテーブルが。カミテから原健太が登場し、テーブルから少し離れたカミテの床の奥と手前にコーラのボトルを1本ずつ、さらにシモテの床にも同様に1本ずつ置き、最後にテーブル上のカミテ寄りにも1本置いて去る。床の4本のボトルにはコーラが五分の一ほど、テーブルのボトルには半分ほど入っていたか。やがてトイレのフラッシングの音と共に福田は立ち上がり、左右の床に置かれたコーラを1本ずつ手に取り、飲み干していく。が、テーブルの上にもう1本ボトルがあるのを見ると・・・。ここから飲みたい欲望を抑えるべく葛藤するダンスが始まる。テーブル上で倒立したり・・・強度が高くかつキレのある動きの果て、ついにそのボトルも飲み干し、ぶっ倒れて終わる。面白い。福田はコーラを禁じられているのか。太るから?

「3匹の子ぶた」
振付:宝満直也
音楽:D. ショスタコーヴィチ ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 Op. 67より第4楽章
衣裳:堂本教子
出演:小野絢子、八幡顕光、福田圭吾、池田武志

選曲がすばらしい。東欧かどこかの民話のような味。子供でも楽しめる。以前ここで上演の『音のいない世界で』を想起した(作・演出:長塚圭史/振付:近藤良平/2012)。小野はこの手のものをやらせると魅力が横溢する。私の頬っぺにお兄ちゃんたちの脂ぎった頬っぺを付けちゃいやー!(リハーサルでの本音を採用したのか) 八幡(久し振り)もいいし、福田圭吾もよい。池田の踊りはシャープな切れ味。オオカミというより悪魔か(後者が前者に化けた?)。衣裳もぴったり。ちなみにこの音楽は、作曲家の親友イワン・ソレルチンスキーの死を悼み、彼に捧げられたらしい。宝満が使った第4楽章は「ユダヤ的旋律」が導入されている。ソレルチンスキーはレニングラード・フィルの音楽監督も務め、盛んにマーラーユダヤ人)の音楽をソビエトに紹介したとのこと。作曲家が本作に「ユダヤ的旋律」を盛り込んだのも、今回の舞台から東欧的な匂いが感じられたのも、そのためか。(第3楽章はノイマイヤーの『かもめ』第2幕で使われているようだ。)

第三部

生演奏によるImprovisation(即興)
音楽監修:笠松泰洋(ob.全日)
演 奏:中川俊郎(pf.)+木ノ脇 道元(fl.)(18日)/スガダイロー(pf.)+室屋光一郎(vl.)(19日)/林 正樹(pf.)+佐藤芳明(acc.)(20日
出演(全日):米沢 唯、貝川鐵夫、福田圭吾、木下嘉人、福田紘也、宝満直也 

ピアノ(+ゴミ箱パーカッション?)、フルート(大小持ち替え)、オーボエ(リコーダーも)のトリオ(クラッピングもあったか)が始まると、カミテから六人のダンサーたちが登場。男五人に女一人。みな黒の山高帽を被り、同じ柄の服を着ている。女はスカートにヒール。女は男たちの帽子や上着を持ち、彼らの動向をじっと見守る。だが、そのたたずまいは不気味で、なにやら狂気を湛えているような印象。男たちは互いにさぐり合い、様々に動き踊る。・・・女は靴を脱ごうとするが、片方が脱げない。結果、片方のヒールと素足のまま、ぎくしゃくと歩く。・・・男が女の素足に別の靴を履かせる。が、ぎくしゃく歩きは相変わらず。・・・やがて女は脱げないヒールがもどかしく、仰向けにバタバタもがき狂気炸裂。あわてて駆け寄る男たち。・・・カミテ奥のピアノ前で、男(木下)が女のヒールをなんとか脱がせてやる。解放された喜びの踊りをひとしきり踊る女。・・・男(福田圭吾)が俯せに倒れる。ご臨終? そのお尻に男たちがなにか・・・。女もそこを覗き込むが、男がやめるようたしなめる。顔ならぬお尻のうえに男が上着を、女が帽子を被せる。倒れた男の後ろで別の男(福田紘也)が「お兄ちゃーん!」と悲痛の叫び。(←順序はあやしい)・・・ピアニストが紙切れでピアノ線をうちわのように扇ぎ、その紙をびりっと破って終わり。
貝川はいつものバレエ公演とは打って変わり、弾けた踊りを披露。米沢は、終始舞台のフィクション性を緩めぬよう〝気〟を送りつつ、男たちを注視。踊りを見せることより、笑いを取るより(十分可笑しかったが)、虚構を作ることを優先。そう見えた。福田紘也は迷いがない。今回出品した四人の男とこれまで振り付けてきた男一人、前回創作した女一人(つまり全員振付経験者)。プレーヤーは三人とも質が高い。ピアニストの中川俊郎はこの5月「一柳慧――ミュージック・ポリスティック」で一柳のピアノ協奏曲第4番「JAZZ」2台ピアノ版を聴いたばかり(デュオの相手は中川健一/初演は山下洋輔と神奈川フィル)。集中力の持続がハードに要求される即興は舞台人にとってとても重要。観客にとっても見る力が鍛えられる。ぜひ今後も続けて欲しい。