新国立劇場バレエ「トリプル・ビル」2015

「トリプル・ビル」の初日と二日目を観た(3月14日, 15日 14時/新国立中劇場)。19日(木)の公演も観る予定だったが、仕事が入り諦めた。

『テーマとヴァリエーション』(1947)
振付:ジョージ・バランシン(1904-83)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
装置:牧野良三
衣裳:大井昌子
照明:磯野 睦
ステージング:ベン・ヒューズ
指揮:アレクセイ・バクラン
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団


プリンシパル:小野絢子 福岡雄大 (14日, 21日) /米沢 唯 菅野英男 (15日, 22日) /長田佳世 奥村康祐 (19日)
寺田亜沙子 奥田花純 柴山紗帆 細田千晶 飯野萌子
江本 拓 貝川鐵夫 井澤 駿 小柴富久修 原 健太(交替出演)

初日。席が近すぎた。小野絢子は『ラ・バヤデール』同様、踊りが伸びやかになり、気持ちを表に出そうとしている。高い技術を有する福岡雄大はもちろん悪くない。フィナーレの高揚感は小野の〝気〟が一役買っていたかも知れない。井澤駿の踊りはとても端正。演奏は東フィルとあるが(1〜3月担当の東響はオペラ劇場の《マノン・レスコー》と重なった)プログラムに名簿の記載がない。コンマス若い女性に見えたが、東フィルに女性コンマスはいないはず。ソロは悪くない。ポロネーズへの導入で金管(ホルン・トランペット)の歯切れが悪い。重い。バッハのカンタータ(コラール)を想わせる第7変奏が印象的。
二日目。米沢唯は少し不安定な菅野英男との絡みに多少ワサワサする感じもあったが、明るく華やかな踊り。菅野は体力的に若干きつそうに見えたが、パ・ド・ドゥで醸し出される温かな雰囲気は相変わらず。それにしてもプリンシパルは難しい踊り。群舞は全体的にきれいに踊るというより、勢いを重視しているような印象。オケは初日よりはよい。ただ、ホルンとトランペットのタンギングにもっと切れ味が出れば、ポロネーズの華麗さが増すのだが。トランペットはフラット気味。ヴァイオリンソロはよかったと思う。コンマスは渡辺美穂氏との由。この日の幕切れは昨日の高揚感とは別種の、親密で温もりのある感触があった。この演目は中劇場では少し狭いか。
[今回コンサートマスター(ミストレス)を務めた渡辺美穂氏は、ネット情報によれば、かつて東フィルで2ndヴァイオリンのフォアシュピーラーを務め、2012年9月から大阪フィルのコンマスに就任し、2014年12月31日に退団した。いまはフリーか。ところで東フィルのHPにコンマスの一人だった青木高志氏の名前がない。青木氏は25年間在籍した東フィルを今年の二月末すでに退団し、国立音大の准教授に就任するらしい。とすれば、青木氏の代わりに渡辺氏がコンミスとして復帰するのか。あれこれと多忙を極める東フィルの場合、コンマス二人ではとても対応しきれないはず。いずれ四月になればはっきりするだろう。]

『ドゥエンデ』(1991)
振付:ナチョ・ドゥアト(1957- )
音楽:クロード・ドビュッシー
装置:ウォルター・ノブ
衣裳:スーザン・ユンガー
照明:ニコラス・フィシュテル
音響:上田好生
ステージング:キム・マッカーシー


パ・ド・トロワ「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」(1915)
第1楽章 パストラル(牧歌)レント、ドルチェ・ルバート
本島美和 米沢 唯 (14日, 21日) 本島美和 丸尾孝子 (15日, 19日, 22日)


パ・ド・ドゥ「独奏フルートのためのシランクス」(1913)
五月女遥 八幡顕光


パ・ド・トロワ「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」(1915)
第3楽章(フィナーレ)アレグロモデラート・マ・リゾルート
福岡雄大 福田圭吾
輪島拓也 小口邦明
池田武志


パ・ド・シス「神聖な舞曲」(弦楽オーケストラ伴奏付き半音階ハープのための2つの舞曲から)(1904年)
奥田花純 八幡顕光
寺田亜沙子 奥村康祐
盆子原美奈 輪島拓也 (14日, 21日)
奥田花純 八幡顕光
寺田亜沙子 宝満直也
柴山紗帆 小口邦明 (15日, 19日, 22日)


全員「世俗の舞曲」(弦楽オーケストラ伴奏付き半音階ハープのための2つの舞曲から)(1904)

本島美和が水を得た魚のように生き生きと踊る。米沢唯は、三週間前『ラ・バヤデール』を踊ったダンサーとはまるで別人。現世を超越したニキヤより十歳以上も幼くなった少女が〝子供遊び〟のように踊る。輪島拓也は進境著しい。フィナーレの池田武志には驚愕。上背と強度。盆子原美奈、奥田花純もよい。いったんヒトの在り方をすべて括弧に入れ、何も前提せず、その素材(ヒト)を用いて、何もない空間に振付家自身のイメージを造形する。踊りが、身体の動きやかたちが音楽と完全に一体化していた。作品の魅力が十二分に感じられる完成度の高い舞台。
二日目。やはり完成度が高い。日常生活を送るうえで必要な人間の動きとはまったく異なる〝秩序〟に従い、ダンサーたちが迷いなく動き踊る。ヒトがモノになって動く。見ていて気持ちがよい。本島がハマっている。プログラムにドゥアトについての話が掲載されていた。振付への理解が深い(直前の評論家の解説よりも)。やはり池田が印象的。あと奥田と柴山紗帆も。「神聖な舞曲」は中国的な響き。

『トロイ・ゲーム』(1974)[新制作]
振付:ロバート・ノース(1945- )
音楽:ボブ・ダウンズ/バトゥカーダ
衣裳:ピーター・ファーマー
照明:立田雄士
音響:上田好生
ステージング:ジュリアン・モス


マイレン・トレウバエフ
福田圭吾 小口邦明 八幡顕光
原 健太 宝満直也
池田武志 福田紘也 (14日, 19日, 21日)


井澤 駿 小柴富久修
清水裕三郎 中島駿野
林田翔平 宇賀大将
高橋一輝 八木 進 (15日, 22日)

初日。前半は退屈でどうなることかと思ったが、ストーリーが加わると、少し面白くなった。池田! 福田紘也も印象的。本作はまあやってもよいが、やらなくてもよい。三作見終わってさほどの満足感はない。
二日目。初日に比して強度が弱い。井澤は別格。ただ、時々覇気がないように見えるのは、性格か、諸先輩への遠慮か、それとも・・・? 『こうもり』が楽しみ。
「トリプル・ビル」では毎度のことだが、今回も空席が目立つ。東京バレエ団の公演と重なったせいもあるのか。もっと工夫の余地があると思う。たとえば、公演名の「トリプル・ビル」はあまりにそっけない。プログラムの表紙も宮内・小嶋の写真をそのまま使うだけでは創意が足りない。今回の上演順は、これでよいのか。『トロイ・ゲーム』が最後だと、バランシンやドゥアトの芸術的な後味がマッチョな汗臭さですべて台無しにならないか。