新国立劇場 演劇『アルトナの幽閉者』

ジャン=ポール・サルトル(1905-80)作『アルトナの幽閉者』(1959)の初日を観た(2月19日 18:30/新国立小劇場)。
先に永戸多喜雄訳で戯曲を読んだ(岩切正一郎の新訳は刊行しないとのこと。翻訳権の問題か)。とても面白い作品。戦争責任と家族(特に父と息子)の問題が複雑に絡まっている。敗戦により、ヨーロッパの最強国になったドイツ。何度も戦後日本がダブってしまった。
上村聡史演出の舞台はどうだったか。家族の問題は浮き上がったが、戦争責任や残虐行為の問題の方はあまり食い込んでこない。
フランツ役の岡本健一と父の辻萬長はさすが。特に第五幕における二人の対話にはぐっと引き込まれた。息子(フランツ)から、自分を受け容れてくれますかとの問いに、拒絶せざるをえない父(辻)の絶妙な返答は、深い悲しみを内側に感じさせ見事だった。また、幽閉されたフランツの狂気の場面は見応えがあり笑いも誘ったが、戦争オタクのような趣きが無きにしも非ず。
だが、開幕当初は少し失望。対話劇なのに、その愉楽があまり感じられなかったから。レニ役(吉本菜穂子)のアニメ声優みたいな声に始終違和感を覚えた。この声の持ち主とフランツが近親相姦? リアリティがない。ヴェルナー役(横田栄司)は大柄で姿はよいが、いかにも新劇臭く江守徹の口真似にしか聞こえない。ヨハンナ役の美波は姿かたちが魅力的で、元女優のこの役にぴったり。眼の愉悦。ただ、台詞回しがやや平板なのが惜しい。研修所出身の二人(北川響と西村莊吾)はまずまずだが、前者は演技が少しきれいすぎる。
大広間のセット(池田ともゆき)はグレーを基調に、部分的に金箔を用いて巨大な造船会社を経営するゲルラッハ家の「醜悪な家具」を表現していた。ただ、細かく作りこむでもなく、かといってさほどシンプルでもない。ちょっと中途半端な印象。フランツの部屋は小道具をたくさん使っていたが、あまり閉塞感や息苦しさはない。
とにかく上記二人の質の高い演技のお陰で芝居は成立したが、脇役のキャスティングには問題があった。新国立には〝しがらみ〟はないはずだが。