新国立劇場 演劇『スカイライト』本公演 2018/プレビューとの比較

『スカイライト』本公演の中日を観た(12月15日 18:00/新国立小劇場)。
やはりプレビュー初日とはまったく違う。2回のプレビューと三日間の稽古を経て10回余りの上演を重ねてきた舞台。俳優たちは役を生きつつ、さらに成長してきたのだろう(あの膨大な科白を毎回発するだけでも信じがたいが)。無意味な時間は皆無だった。
エドワード(葉山奨之)の吃音は演技だと分かると意味も呑み込みやすくなる。葉山は吃音が実に巧い(妙な言い方だが)。ただ、トーンの設定が総じて高いせいか、気持ちの強弱や感情の動きが目立ちにくいきらいも。キラ(蒼井優)とトム(浅野雅博)のやり取りはプレビューよりも対話的。驚きの再会から少しずつ打ち解けていくが、そのプロセスは丁寧に作られている。二人のぶつかり合いも振幅がいっそう激しい。トムの発話で客席から再三笑いが出るが、その裏に妻への罪悪感が隠されていた。それを見抜くキラの言葉と身体を介し、客席もトムの内側を理解する。プレビューではなかった体験だ。結果、本公演では、何よりキラとトムの互いへの愛がとても強く感じられた。
息子が最初に来訪した時、床の一部を踏むとギイギイ鳴った。トム(父)もそこを歩くとギイギイ。キラの慎ましい生活ぶりをプレビューより面白おかしく目立たせた。例のチーズも、プレビューよりかなり見すぼらしい! ラストの場で、エドワードの吃音を軽くしたのもよかったと思う。彼の吃音がトムとの価値観の違いを埋める徴だとしても(前ブログ参照)、ここでプレビュー同様吃音がひどくなると、救いとしてのエドの来訪が、かえって見えにくくなっただろう。
心に残ったキラの台詞。

教師として、唯一よかったって思えることが・・・これで全てに納得がいくって思えることがただ一つあって、それは本当に素晴らしい生徒を一人見つけることなの。

まったく!
ところで、台本にエドが吃音で喋る等の指示は見いだせない(『悲劇喜劇』2019年1月号)。ナショナル・シアターの舞台は2015年にライブ上演されたようだが、吃音の淵源はどうもそこらしい(未見のため不確実)。もしそうなら、演出家はそれに倣ったのか・・・(もしそうなら少し残念な気もする)。
蒼井優は予想通り演劇賞(紀伊國屋演劇賞個人賞)を受賞した。『アンチゴーヌ』だけでも受賞に値するが、本作でダメを押したに違いない。