新日本フィル定期演奏会 サントリーシリーズ 室内楽のようなチャイコフスキー/『ハルサイ』は瑞々しいが

新日本フィルハーモニー交響楽団の第501回定期演奏会を聴いた(11月28日/サントリーホール)。
指揮はダニエル・ハーディング。曲目は、チャイコフスキー交響曲第4番 ヘ短調 op.36と、ストラヴィンスキーバレエ音楽春の祭典』。コンマスは崔文洙。
前半のチャイコフスキー室内楽のような趣きで、各声部がとてもよく聞こえる。ふっくら感があり、色彩も豊か。チャイコフスキー交響曲第4番といえば、チョン・ミョンフンN響との初共演(1998年)が典型的だが、勢いを重視し指揮者が強引に引っ張っていくような演奏が少なくない(かつてバレンボイムがただ一度N響を振ったときもそう)。ところがハーディングの場合、まるでモーツァルトみたいに、各楽器の素材の味を残しつつ丁寧にかつ豊かに音楽を作り上げていく。ただ、名手古部賢一の第二楽章のオーボエソロは珍しく変調だった。そういえば、もう一人の主席オーボエ奏者ホアン=マヌエル・ルンブレラスは今年の1月に母国スペインで病死したとの由(彼の気品ある繊細な音色はもう聴くことができない)。そのために古部氏がオーバーワークになっていたのだろうか。
春の祭典』では、ダイナミズムのレンジはたしかに広がった。が、エネルギーの噴出とか、野蛮さ、きな臭さ等とは無縁の、どこまでも美しく、瑞々しさすら感じさせる『ハルサイ』。前半のチャイコフスキーと基本的には変わらない。芝居で言えば、演目から蜷川幸雄ケレン味を予想したら平田オリザ張りの「静かな演劇」だった、そんな感じか。ハーディングは〝いわゆる〟〝典型的な〟在り方をなぞることは決してしない。それはよい。だが、今回の二つの演奏は、なにか物足りない感触が残った。1月にやはりサントリーホールで聴いた『ペトルーシュカ』ではもっと活き活きとして色彩感もより豊かだった印象があるのだが。このときは前半のチャイコフスキーのピアノ協奏曲を弾いたラルス・フォークトが、後半ではピアノパートを受け持った。その効果が大きかったということか。