ムーティ conducts ヴェルディ/春祭オケは今回がベスト

春祭の特別公演「ムーティ conducts ヴェルディ」を聴いた(10月30日 19時/すみだトリフォニーホール)。
ごく簡単にメモする。

東京・春・音楽祭 特別公演 ヴェルディ生誕200年記念
ムーティ conducts ヴェルディ


 歌劇《シチリア島の夕べの祈り》序曲
 歌劇《シチリア島の夕べの祈り》第3幕より バレエ「四季」
――休憩――
 歌劇《運命の力》序曲
 歌劇《運命の力》第2幕より「天使の中の聖処女」
 歌劇《マクベス》第4幕より「虐げられた祖国」
 歌劇《ナブッコ》第3幕より「行け、わが想いよ、黄金の翼にのって」
 歌劇《ナブッコ》序曲


指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭特別オーケストラ
ソプラノ:安藤赴美子
バス・バリトン:加藤宏隆
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ、宮松重紀


主催:東京・春・音楽祭実行委員会
協賛:株式会社インターネットイニシアティブ
後援:イタリア大使館 / NPO日本ヴェルディ協会
協力:すみだトリフォニーホール

今回のオケメンバーはムーティが春祭で振ったベストではないか。かなり質が高い(コンマス矢部達哉都響)。特に前半の歌劇《シチリア島の夕べの祈り》第3幕より バレエ「四季」では、クラリネット(三界秀実=都響)、フルート(寺本義明=都響)、オーボエ(青山聖樹=N響)が素晴らしい。三界はかなりの弱音でも味わいを失わず、どこまでも音楽的。寺本の響きはくっきり感が強く、強度が高い。青山のオーボエは、どういえばよいのか、音の粒子が信じられないほど微細で、耳というより身体に沁み入ってくる感じ(テレビのN響ライブではけっして分からない)。ムーティは大枠でオケを掌中に収めながらも、ソロでは自由に歌わせる(と感じさせる)。牧歌的な響きに思わず頬が緩み、身体がほぐれた。
歌劇《運命の力》序曲を聴くのは、この数週間で三度目だ。エル・システマのユースオーケストラを振ったディートリヒ・バレーデス(ベネズエラ)とレオン・ボットスタイン(アメリカ)、そして今回のムーティムーティはこれまで何度この曲(に限らないが)を振っただろうか。マンネリズムに陥っても不思議ではない。だが、彼が導き出す音楽は、粗いところが微塵もなく、とても洗練されていた。メリハリや濃淡をつける際にも、やり過ぎることはけっしてない。日本のオケでこんな演奏ができるのか。
運命の力》第2幕より「天使の中の聖処女」。ソプラノの安藤赴美子は姿勢がやや後ろに反り返りすぎている。ステージでもっと楽に立ち、歩けるようになれば歌唱も違ってくるのでは(〝ムーティさま〟の眼前でリラックスしろという方が無理か)。
歌劇《マクベス》第4幕より「虐げられた祖国」と歌劇《ナブッコ》第3幕より「行け、わが想いよ、黄金の翼にのって」ではコーラスが活躍。悪くないが、少し平べったい感触が残る。発音を含め、もっと立体的な響きがほしい。
最後は歌劇《ナブッコ》序曲。やはりマッチョなムーティ。すごい統率力。
今日のようなオケメンバーでムーティが新国立のピットに入りヴェルディの歌劇を振る。一度でいいから見て/聴いてみたい。