新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』2023

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』の初日、3日目のマチネとソワレ、6日目のソワレを観た(10月20日 金曜 19:00,22日 日曜 13:00,18:30,28日 土曜 18:30/新国立劇場オペラハウス)。

振付:マリウス・プティパ+アレクサンドル・ゴルスキー/改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ/音楽:レオン・ミンクス/美術・衣裳:ヴャチェスラフ・オークネフ/照明:梶 孝三/指揮:マシュー・ロウ(28日ソワレ 冨田実里)/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

[初日]キトリ:米沢 唯/バジル:速水渉悟/ドン・キホーテ:趙 載範/サンチョ・パンサ:福田圭吾/ガマーシュ:奥村康祐

指揮者マシュー・ロウ(オランダ国立バレエの音楽監督)は初めて聴いた。勢いに任せず丁寧にコントロールするタイプか。各声部がよく聞こえ、音楽が整っている。舞台上も同じ。主演者はもとより、みな隅々までよく整い、雑なところが見当たらない。3年前の勢いは必ずしも感じないが、そのぶん綻びがなく、全体的にクオリティが上がった印象(改訂振付アレクセイ・ファジェーチェフの来日指導が理由かもしれない)。

プロローグ。キホーテの趙は少しおとなしめ。パンサの福田は相変わらず。このとき一階右後方で災害アラームのようなスマホ音(?)が。

第1幕。キトリ米沢とバジル速水の息はピッタリ。速水は自信をもって舞台に立っている。ジャンプは高くピルエットは正確できれい。それをこれみよがしな印象なしにやってのける。米沢は嬉しそうにキトリを生きていたが、思うように出力が上がらない感じも。自分を拉致しそうなキホーテにみんなで踊りませんかとメヌエットを一緒に踊るシーンは、やはりグッとくる。米沢の goodness が滲み出た。ガマーシユの奥田は素晴らしい。福田パンサはトランポリンで見事な空中芸を見せた。『くるみ割り人形』「ロシア」の側宙といい、余人をもっては代え難いダンサーだ。エスパーダの木下嘉人はカッコいい。街の踊り子の奥田花純は踊りはいいが、大勢集う街の場で少し小さく(ドメスティックに)見える。

第2幕。1場。カスタネットの朝枝尚子は内に秘めたパトスを爆発させる。相変わらずカスタネットのリズムがよい。オケは、爆発よりバランスを重視している。メルセデス渡辺与布は華やかで大きな踊り。そこになぜか妙な〝面白さ〟が滲む(性格?)。フェイク自殺のシーンでバジルは脚を掻く。面白い。速水のコマのような回転! 飛び込む米沢…。2場。ジプシーの頭目 中家正博はツボを外さず、動きがきれい。3場。森の女王 吉田朱里は手脚が長い。森の精を支配するにはこれからだが、自信がついてきた(継続すれば芸監の期待に応えらそう)。キューピッドの五月女遥はうまい。最後に下手へはける高速のパドブレがすごい。ドゥルシネアの米沢は〝さすが〟としか言いようがない。

第3幕。アントレの音楽でいつものようにワクワクせず。演奏が落ち着いているからか。ファンダンゴは…いいと思ったことがない。PDD 笑顔の二人。米沢の長いバランス! 初めて見た。素晴らしいアダージョ。速水のヴァリエーションは力強く美しい。米沢のヴァリエーションはまずまず。コーダーへ。米沢のフェッテは赤い扇子でアクセントをつけトリプル? ただただすごい! 会場は爆発した。速水もマジでくるくる回る。カーテンコール。スタンディング、口笛、すごい歓声。客席(左上方)はいつもと違う反応で、新鮮だった。今後も二人のペアでもっと見たい。

 

[22日 13:00]キトリ:池田理沙子/バジル:福岡雄大ドン・キホーテ:趙 載範/サンチョ・パンサ:福田圭吾/ガマーシュ:奥村康祐

指揮者ロウはダイナミクスが細かい。舞台上の進行に合わせている。というか、振り付けが音楽に沿って作られているというべきか。

友人ピッキリアの飯野の踊りは音楽的。メロディやリズムに体が同期し、見ていて気持ちが好い。福岡は新たな気持ちで踊っているように見える。芝居にも工夫を凝らし、池田とのやりとりはコミカル。リフトはやはりうまい。キトリがキホーテに拉致されそうな例の場面で、キトリがみんなで踊りましょうと促しバジルに扇子を所望。すると福岡は扇子をピシャリとキトリの手に叩きつける。まあバジルったらとキトリ。バジルのソロもキレがあった。片手リフトもさすがにいい。懸命に踊る姿を見ていて、なんかグッときた。キホーテ趙は初日よりよい。福田パンサは本当に素晴らしい。演技が生きていて、トランポリンにも工夫がある。東フィルはトランペットが疲れ気味。コンマスは後ろ姿から三浦氏か。

三階はかなり空席が。福岡に拍手が少ない。(フォワイエのビデオは開演前だけでなく、休憩中も音を出してる。)

第2幕。キトリがバジルに飛び込むシーンは、はみ出しそうなくらい。カスタネットの踊りの朝枝はパトスの強さ。オケは洗練された演奏。極端なクレッシェンドはしない。ジプシーの頭目は中島瑞生、OK。あの二人は誰(役として)? アップテンポのコール・ド、音楽はアゴーギクがかなり。ハンガリアン(ロマの)ダンスのラッス(緩やか)とフリス(速い)のコントラストが気持ちいい。風車にキホーテ(の人形)が引っ掛かり飛ばされるの見損ねた。

休憩時、1幕の音楽が聞こえてくる(生の余韻を疎外するのはやめてほしい)。

第3幕。アントレ直前のスネアの〝ドロドロ〟はさほどクレッシェンドせず(ワクワク感が弱いのはそのせいか)。アダージョ、なぜかグッときた。池田も悪くない。福岡ヴァリエーション、二回目ジャンプの着地は危うかった。少し動揺もあったようだがなんとかまとめた。ブラボーが飛んで安堵(こっちが)。池田のヴァリエーション、いいと思う。コーダで福岡は空を蹴り上げるクペ・ジュテ・アン・トゥールナン(?)をコントロールして(歯を食いしばって)やり切った。ラストのキメ(ファイヴ・フォーティ?)は強め。福岡らしい。池田のフェッテは開始はダブル(?)後半シングルでしっかり(愚直に)。ブラボーがかかった。福岡のピルエットも根性で。よかったと思う。

 

[22日 18:30]キトリ:小野絢子/バジル:中家正博/ドン・キホーテ:中島駿野/サンチョ・パンサ:小野寺雄/ガマーシュ:小柴富久修

小野絢子はとてもよい。街の娘だ。中家のリフトは高い! それがどれほど尊いか。踊りは形がきれいで伸びやか。ソロもまずまず。エスパーダの中島瑞生は見違えるほど素晴らしい! 舞台では大きく高いことはいいことだ。直塚の街の踊り子は強度と大きさがあり、瑞生とのバランスがとてもよい。駿野キホーテは力強さ、意志がある。トウヘンボク感はやや薄めか。小野寺のパンサ造形はこれからか。トランポリンもひと工夫欲しい。

第2幕。フェイク自殺はまずまず。カスタネットの原田舞子が素晴らしい! カスタネットのリズムがきわめて正確で、うちに秘めた思いを伸びやかに表現。それを受けてエスパーダ瑞生が踊る。すると今度はメルセデス益田裕子が負けじと華やかに踊る。なるほどそういうことか。この場のドラマがここまで立ち上がって見えたのは初めてだ。パンサはもっと可愛らしさがほしい(素が見えてしまう)。

夢の場の中島春菜、悪くない。

第3幕。ボレロの仲村啓が素晴らしい! 滞空時間が長く形もいい。アダージョ。中家のサポートの堅実さ、リフトの長さ、かたちのよさ。小野も新鮮な気持ちで踊っている。そう見える。花純の1stヴァリエーション、よく踊っている。中家のヴァリエーション、余計なものは一切なし。振付をして語らしめる。人工美ならぬ自然美。素晴らしい! 基本がからだに入っている。飯野の2ndヴァリエーションは実に音楽的。芸監を柔和にしたような。どんどん踊りがよくなっている。小野ヴァリエーションはキメが細やか。コーダで中家は開脚してジャンプしながらマネージュするグラン・ジュテ・アン・トゥールナン(?)。きれい。自然。素晴らしい。小野のフェッテはダブルからシングル。最後は少し…OK。カーテンコールコールで中家が真ん中で嬉しそうにレヴェランス。こっちも嬉しくなる。もっと中家の主役が見たい。

 

[28日 18:30]キトリ:木村優里/バジル:渡邊峻郁/ドン・キホーテ:中島駿野/サンチョ・パンサ:宇賀大将/ガマーシュ:奥村康祐/指揮:冨田実里

この日はごく簡単に。キトリ木村 特になし。バジル渡邊 キレはある。3幕アダージョは普通によい。パンサ宇賀 マイムが大きく明快でとてもよい。ロレンツォ清水 よい。ガマーシュ奥村 とてもよい。ジュアニッタ山本 強度がある。ピッキリア花形 きれい。エスパーダ井澤 もっと。街の踊り子柴山 役に合っている。カスタネット原田 しっとりとじわじわ高まる、素晴らしさを再確認。ジプシーの頭目 瑞生は何かを掴んだか、思い切り演技してる。森の女王 内田 ゆったりと優雅に踊る、主役ができそう。キューピッド廣川 いいと思うが、少しコケティッシュすぎ? 指揮が冨田に変わり、音楽が少し〝スポーティ〟になったか。