新国立劇場 こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』2016 全キャスト/木村優里・渡邊峻郁!/米沢の組むべき相手

後半の二日間で全キャストを観た(7月23日 11:30, 15:00, 24日 11:30, 15:00/新国立劇場オペラハウス)。
一月半も経ったが、走り書きメモだけでも。

芸術監督:大原永子
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
原振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ
原台本:ウラジーミル・ペギチェフ/ワシリー・ゲリツェル
構成・演出:大原永子
装置・衣裳:ヴャチェスラフ・オークネフ
照明:鈴木武
音響:仲田竜太


オデット/オディール:小野絢子(21日11:30/23日15:00)米沢 唯(21日15:00/23日11:30)長田佳世(22日11:30/24日15:00)木村優里(22日15:00/24日11:30)
ジークフリード王子:福岡雄大(21日11:30/23日15:00)井澤 駿(21日15:00/23日11:30)奥村康祐(22日11:30/24日15:00)渡邊峻郁(22日15:00/24日11:30)
ロートバルト:貝川鐵夫(21日11:30/22日15:00/23日15:00/24日11:30)中家正博(21日15:00/23日11:30)小柴富久修(22日11:30/24日15:00)
道化:八幡顕光(21日11:30/22日11:30)福田圭吾(21日15:00/22日15:00)木下嘉人(23日15:00/24日15:00)小野寺雄(23日11:30/24日11:30)
王妃:本島美和(21日11:30/22日11:30/22日15:00/23日15:00/24日11:30/24日15:00)仙頭由貴(21日15:00/23日11:30)


共催:朝日新聞社 後援:朝日小学生新聞/渋谷区教育委員会/東京私立初等学校協会/東京都公立小学校長会
特別協賛:京王電鉄株式会社 協賛:小学館コカ・コーライーストジャパン株式会社 協力:株式会社東ハト

生オケはなく音源。特に木管がさえない。ヴァイオリンソロはよい。序曲はカーテンが閉まったまま。やがて暗転し完全な暗闇に。子供たちの恐がり喜ぶ声。東京にはこんな真っ暗闇はどこにもない。その意味で、よい体験。
23日 11:30 米沢・井澤組。仙頭の王妃はよい。井澤はサポートがぎこちない。米沢はソロはよいが、組むとあまり気が感じられない。小野寺の道化はよい。XX(メモが判読不能)は少し脚の動きが鈍いが、大きさと艶がある。中家のロートバルトはもっと悪役の造形がほしい(家庭教師もやっていた?)。
黒鳥の米沢。悪くない。ジークフリートと組まない分、生き生き? 井澤のヴァリエーション。ジャンプして両脚でトントンと叩く技、二回目はなし(それともそういう振りなのか)。あまり動機づけられていない印象。米沢のヴァリエーションはあまり調子よくない。グランフェッテ。ダブル、トリプル? フィニッシュで珍しくやや下手へ流れた。ラスト。ジークフリートがロートバルトと闘って勝利し、二人は結ばれる。その闘いはなんともぬるい。
3日15:00 小野・福岡組。木下の道化は、踊りも動きもきわめて音楽的かつ優雅で、素晴らしい。本島の王妃と中家の家庭教師は「対話」が成立していた。本島の役を生きる存在感でこの場面に生気が宿った(午前の仙頭によるキリッとした王妃造形はよいが、その場で「対話」するあり方はこれからか)。福岡王子の宮廷のソロはもっとメランコリックな詩情がほしい。
貝川のロートバルトは大きい。小野のオデットはノーマル。アダージョも。四羽の白鳥は実に素晴らしい。下手側から寺田・柴山・?・細田(キャスト表に無記載のため不明)。小野のオデットは今回も上手に退くとき、何か呟いていた(素直)。ソロヴァイオリンはいきがよい(たぶんゲストコンマスの女性だと思う)。一方、オーボエは鳴りが悪くいまにも音が詰まってとぎれそう(たぶん……)。
[舞踏会の場のメモがない]
24日11:30 木村・渡邊組。渡邊のジークフリートは少々ねっとり気味の真面目な演技。もっとその場での応答感がほしい気もする。道化の小野寺は踊りがきれい。昨日よりよい印象。本島の王妃はOK。家庭教師はやはり中家だ。昨日の午前も中家に見えた。
森の湖畔。木村のオデットは素晴らしい。ロシアばりのねっとりした踊り。フォルム的には白鳥にもっとも合っている。技術的にもまったく問題ないように見える。ジークフリートの渡邊はサポートが丁寧で安定している。久し振りに興奮。ドラマが立ち上がった。オデットのソロの喜びもよい。ロートバルトの貝川も木村に引っ張られていた印象。
舞踏会の場。木下の儀典長は道化時とは打って変わり、気を消した別人。渡邊王子は相変わらず真面目で、きっちり演技する。道化小野も悪くない。渡邊王子の影響か。木村オディールは細かな点で改善の余地はあるが「これで初役?」と思わせる。雰囲気はパーフェスト。ザハロワのイメージがあるように感じた。ジークフリートとのからみもよい。フェッテはトリプル、ダブル? 最後は少し回りきれなかったが、とてもチャレンジングでワクワクさせた。渡邊も回転の最後は危うかったが、これも木村のアグレッシヴな挑戦に触発されたのか。渡邊のヴァリエーションは基礎がしっかりしている。例のトントンを二回とも入れた。回転後の着地もぴたりと決まる。素晴らしい。
再び白鳥(森の湖畔)の場。ロートバルトとの闘い。ジークフリート渡邊の気を抜かないあり方で、オデットとの愛が奇跡を生んだと信じられた。そう信じられる舞台だった。当初はあまり工夫のない抜粋版に見えたが、とても充実した舞台だった。
ところで、米沢による井澤の教育係はもう卒業させてもよいのではないか。米沢唯にはぜひ中家正博と組ませてほしい。たぶん合うと思う。米沢には初めての『白鳥』で見せた、あのあり方(http://d.hatena.ne.jp/mousike/20120515/1337087553)をとことん貫き、追求して欲しい。それには、菅野が主役を降りたいま、中家と組ませるしかないのでは。
・・・・・・・・・・・【後から追加】・・・・・・・・・・・・・
中家正博を初めて見たのは、2010年に『角兵衛獅子』のゲネプロのときだ(新国立中劇場)。盗賊の役だったが、とても大きな踊りで強く印象づけられた。その後『ノートルダム・ド・パリ』のフロロ役を除き、さほど見ていない。新国立入団後は『くるみ』のアラビアもよかったが、なにより『ドン・キホーテ』のバジルは素晴らしかった(ブログにアップし損ねた)。踊りがきれいなだけではない。舞台上で身体がほぐれ絶えず笑顔を見せ、相手役の木村優里のみならず、他のダンサーたちとも気のやりとりを欠かさない。技術もあるしサポートにも安定感があり、片手リフトは一番長かった。こういうダンサーが米沢唯と組めば、化学反応が大いに期待できる。二人の『眠り』や『ジゼル』をぜひ見てみたい。
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24日15:00 長田・奥村組。家庭教師は再び中家。奥村はふぬけた王子。これで王になれるのか。木下道化。やはり王子役がしっかり立っていないと周りも……。ドラマがないまま、あっという間に一場が終わってしまった。
森の湖畔。小柴のロートバルトは悪の肚はできているが、羽ばたきが少し弱いか。もっと鋭い角度がほしい。オデットの長田は熟した白鳥。本格的。近年少し衰えを感じることもあったが、白鳥にはそれがない。奥村のサポートはどこか幼さがつきまとう。精神的にもっと重心を低くとるべきでは。(こうして見てくると、やはり芸術監督は、米沢唯に頼りすぎではないか。サポート力の弱い男性ダンサーを本番で鍛えるために、米沢のよさが出にくくなっているのでは?)。
舞踏会の場。木下道化。踊りもきれいだが、演技が実に細かく、舞台上の一人ひとりに「話しかけ」る。サッカーの香川選手が味方と細かいパス交換をするみたいだ(『パゴダの王子』再演の米沢のよう)。スペインの四人。寺田亜沙子をはじめ皆ノリノリ。花嫁候補から選ぶシーン。奥村王子は「ぼくいやだ!」といった感じがよく出ていて、本島王妃が母親に見えた。小柴ロートバルトは大きさ、悪のハード感がよく出ていた。長田オディールは見違えた。強度、艶、張りのある踊り。素晴らしいアダージョ。王子のヴァリエーションは渡邊と同じ振りつけ。奥村は以前より踊りがしっかりしてきた(なんといってもプリンシパルだ)。が、回転がいつものように気品に欠け、ノーブルに見えない。回るとき上半身が少し傾くせいか。長田オディールのヴァリエーションは、少しバランスに安定感がなかったが、悪くない。フェッテはシングルで通した。最後までもたなかったが、見ていて熱くなり感情が動いた。
奥村ジークフリートがロートバルトと闘うとき、前者が後者の羽根がもぎ取った後、勢いの余りそれを落としてしまった。ジークフリートは落ちた羽根を拾い、下手へ移動し、袖へ投げ込んだが、リズムが狂ってしまった。小柴ロートバルトがジークフリートに寄ってきて少し絡んだが……。ラストのポーズは女性がアラベスクして男性がサポート。その後普通に立って二人が寄り添う(ペアによって様々だった)。
なかなか終わらないカーテンコール。次もまたあるかと思いきや……。子供たち「あー」。