新国立劇場バレエ『眠れる森の美女』2017 初日

『眠れる森の美女』の初日を観た(5月5日 14:00/新国立劇場)。
イーグリング改訂振付の本プロダクションは二年半ぶりの再演(2014年の初演についてはこちら)。結局、全キャスト見たが、初日分だけアップする(米沢・ムンタギロフの2日目は見ていない)。

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
編曲:ギャヴィン・サザーランド
振付:ウエイン・イーグリング (マリウス・プティパ原振付による)
装置:川口直次
衣裳:トゥール・ヴァン・シャイク
照明:沢田祐二
指揮:アレクセイ・バクラン
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団
芸術監督:大原永子プロフィール

【5月5日(金・祝)14:00】
オーロラ姫 : 米沢 唯
デジレ王子:ワディム・ムンタギロフ(シーズン・ゲスト・プリンシパル
リラの精:木村優
カラボス : 本島美和
フロリナ王女:小野絢子
青い鳥:福岡雄大

【5月6日(土)14:00】
オーロラ姫 : 米沢 唯
デジレ王子:ワディム・ムンタギロフ(シーズン・ゲスト・プリンシパル
リラの精:木村優
カラボス : 本島美和
フロリナ王女:小野絢子
青い鳥:福岡雄大

【5月7日(日)14:00】
オーロラ姫 : 池田理沙子
デジレ王子:奥村康祐
リラの精:細田千晶
カラボス : 本島美和
フロリナ王女:柴山紗帆
青い鳥:井澤 駿

【5月12日(金)18:30】
オーロラ姫 : 木村優
デジレ王子:井澤 駿
リラの精:細田千晶
カラボス : 米沢 唯
フロリナ王女:池田理沙子
青い鳥:奥村康祐

【5月13日(土)14:00】
オーロラ姫 : 小野絢子
デジレ王子:福岡雄大
リラの精:細田千晶
カラボス : 米沢 唯
フロリナ王女:柴山紗帆
青い鳥:井澤 駿

初日
プロローグ
序奏、バクラン、東フィル(コンマスの記載なし)メリハリ、弾性のある響き、期待させる演奏。
シャンデリアに乗ったリラの精(木村)が降りてきてカラボス(本島)と対峙。共に譲らぬ両者の力強さ。オーロラ姫の洗礼式(初演時の四日目に赤ちゃんを入れた籠を両側から抱えたお付きの二人が階段を下りるとき、あろうことか一方がつんのめり、籠から手を放してしまった)。相変わらずリラの精たちと六人の妖精の衣裳が見分けにくい。カヴァリエたちはなかなか。特に中家、木下、渡邊。井澤はリラの精の木村をサポートするが、少し不安定。六人の精たちのソロ。みなよい。寺田はこのところよさが際立つ、やわらかい踊り。柴山は難しい技をなんなくこなす。寺井(気品の精)は独特の鷹揚さがよい。五月女は相変わらず。真打ちの木村のソロは大きく踊るが、絶対に揺るがないという意志の強さも感じさせる。素晴らしい。木村&井澤が主演する12日(金)のチケットは仕事の都合で泣く泣く手放した(結局、仕事が早く終わったため、プロローグ後の休憩時に駆けつけた)。カラボスの本島は踊りと芝居が渾然一体。リラの精の木村のマイムはとても雄弁かつ力強い。二人の対決は見応えあり。王妃の仙頭由貴もよい。バクラン率いる東フィルもよい(初演時は悲惨だった)。
第1幕
オーロラの16歳の誕生日。オーロラは米沢。ちょっと固い印象。緊張とかではなく、こころのこわばりのようなものを感じる。踊り始めると次第に、少しずつだが内から出てくるものがあったが、これまでより少なめ。四人の王子たちにサポートされてのバランス。このあたりはさすが。後半では次々にサポートされながらポワントで回転するバランス。井澤のサポート時に逆方向へ傾きかけたが、米沢は冷静に持ち直した(井澤!)。他のサポートではまったく問題なし。オーロラのヴァリエーションはさすがの踊り。が、内側から出てくる量がいつもより少ない。これまでと異なる印象。カラボス(本島)登場・・・。リラの精(木村)登場・・・。
第2幕 第1場
鹿狩りの場面。森の中。伯爵夫人は堀口。ガリソン(王子の知人)は宝満。ともによい。王子(ムンタギロフ)のメランコリックなソロ。大きな踊り。王子のメランコリーはシェイクスピアを想起。リラの精登場。ムンタギロフと木村のからみはなんかよい。共に志向が大きい。幻影のオーロラ。このコスチュームはどうなのか(初演時も感じた)。胸の下のラインに見える模様(花?)がどうも。コール・ドの緑の衣裳も森の中ではどうか。王子はリラの精と宮殿へ。「パノラマ」の音楽はやはりあのデコラティヴな舟に合わない。
第2場
これも前回書いたと思うが、トランジショナルな音楽のなかでリラの精&王子とカラボスらが戦うのは少しちぐはぐに見える。王子と眠ったオーロラとの口づけ。二人だけになり薄闇のなかでのパ・ド・ドゥ。やはりR&Jのバルコニーシーンに似ている(二人は昨秋踊ったばかり)。作品のなかでこのPddは少し違和感を覚える。ドラマが止まるし、まあ止まってもよいが、なにか別のドラマになる。二人の踊りを見る喜びはあるが。米沢はここでは内から喜びが滲み出てくる。安心して身を任せ、踊っている。相手を心から信頼していることがよく分かる。ヴァイオリンソロはPAが大きすぎないか。人工的な響きにかなり違和感があり、踊りを阻害する。ダンサーによく聞こえるようにするためか。だが、こんなあからさまに増幅しているのが分かる演奏は初めてだ(4月8日のNHKでの「バレエの饗宴」もそうだった。同じコンマスのようだが)。トランペットの咆哮が弱い。二人の気持ちの高まりを指揮者が音楽で丁寧にサポートしていた点はとてもよい。
第3幕
渡邊の柔軟性から滲み出る美しい踊り。猫の中家は余裕の踊りで、その分ゆったりした時間。面白い。親指トムの八幡。フロリナ王女の小野はいつもどおり。青い鳥の福岡はあまりやる気がなさそう。抑えているのか。もっと高く飛んで欲しい。米沢とムンタギロフのアダージョ。二人の踊りを見ていると思わず頬が緩む。本当に嬉しそう。ムンタギロフもそう。ムンタギロフはジャンプで少しずれたが、それでも大きく素晴らしい踊りを披露。米沢は例のゆったりした時間を作り出す踊り。なにかが伝わってくる踊り。指揮者がしっかり合わせた。米沢はカーテンコールでボーッとしていた。指揮者を呼ぶのをうっかりしたり、ムンタギロフが自分にレヴェランスするためカミテに移動したのに気づかなかったり。本当に夢のように嬉しそう。その分こちらも嬉しくなる。この公演は、彼女が内的に回復していくプロセスを舞台化したような公演だった。だが、作品としてはいろいろとちぐはぐさも感じた。