音楽堂 室内オペラ・プロジェクト第6弾 ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》2023

鈴木優人指揮のBCJ によるヘンデルジュリオ・チェーザレ》を聴いた(10月14日 土曜 15:00/神奈川音楽堂)。

昨年の新国立版より満足度は高い。セミステージのシンプルかつ効果的な演出(佐藤美晴)。余計なものがない分、音楽に集中できる。ステージのオケを小高い通路が囲む。円ではないが円環をイメージしたらしい(プレトーク)。また、見た目を含む適材適所な配役でドラマがグッと立ち上がった。

 全3幕 セミ・ステージ形式 イタリア語上演 日本語字幕付

指揮:鈴木優人/演出:佐藤美晴/管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン

クレオパトラ:森 麻季/セスト:松井亜希/チェーザレ:ティム・ミード/トロメーオ:アレクサンダー・チャンス/コーネリア:マリアンネ・ベアーテ・キーラント/ニレーノ:藤木大地/クーリオ:加藤宏隆/アキッラ:大西宇宙

タイトルロールのティム・ミードは歌唱、演技、姿のいずれも申し分なく、特に高速のアジリタは圧巻だった。何より華やかさがある。森麻季クレオパトラにピッタリ。ゆるやかなカンタービレよりアジリタやコロラトゥーラでよさを発揮した。特にコミカルな演技がいい。弟のトロメーロをやり込めるシーンは見応え(聞き応え)あり。悪役トロメーロのアレクサンダー・チャンスは出てきただけでこちらの体がほぐれ、頬が緩む。歌唱の安定は群を抜いていた。歌っていないときの〝受け〟のあり方が素晴らしく、つい注視してしまう。コスチュームは右腕に巻いたヘビ同様似合ってた。シェイクスピアの道化(wise fool)をやらせたら嵌まるだろう(歌手だけど)。キーラントは新国立ではタイトルロールをやったが、本意でなかったはず。“美しい”と口を揃えて言われ、セストの母でもあるコーネリアがやはり似合っている。白いコスチュームのゆったりした佇まいは、歌唱を含めよく効いていた。

トロメーロの配下で悪役アキッラの大西宇宙は声が太い。存在も。自分が殺すのを手伝った男の妻に求愛するのはシェイクスピア『リチャード3世』のリチャードを、いまわの際の改悛(?)は『リア王』のエドマンドを想起。新国立版では気づかなかった。チェーザレの副官クーリオを歌った加藤宏隆の声量は半端ではない。コーネリアの息子セスト役の松井亜紀はBCJ定期以外で初めて聞いた。バッハ等の宗教音楽よりセキュラーな方が合っている。クレオパトラの召使いニレーノは藤木大地。〝オカマ風〟キャラで終始コミカルに立ち回る。少しはみ出し気味だがOK。

オケ(BCJ)はリュート(野入志津子)、テオルボ(佐藤亜紀子)がよく効いてた。ハープ(伊藤美恵)も。ホルン(福川伸陽)がドラマでも活躍。チェーザレのアリアでは若松夏実のVnが美しかった。鈴木優人は歌手のノリによく呼応し、ヘンデル音楽を見事に造形したと思う。