『ラ・バヤデール』のゲネプロと初日を観た(3月1日,2日 14:00/新国立劇場オペラハウス)。
ゲネプロは、4年前の前回公演同様、アトレ会員の特典。ゲネプロ後に本公演を体験すると、観客が舞台芸術を完結させる上でいかに必要不可欠かよく分かる(竹内敏晴の〝舞台上演≒陶器製作〟説参照)。幕間の「オーケストラ返し稽古」で指揮者のバクランがかなり細かい指示を出す。第2幕後は部分的に弦楽器のみや木管のみで奏させるなど、リハーサルはかなり入念だった。が、今回は振付で気になることが。
第2幕 ガムザッティとソロルの婚約披露宴で、ニキヤが花籠を手に踊るアップテンポの音楽が踊り共々なかったのだ。見逃した? まさか。あれはいつも楽しみなのでそれはないはず。念のため隣席に確かめたら、丁度その話をしていたと。翌日の初日でも、あの場面は別の緩やかな音楽と踊りの後、そのまま毒蛇のシーンがきた。
牧版の初演は2000年11月。初日はアントニーチェワ(ニキヤ)、アコスタ(ソロル)、田中祐子(ガムザッティ)の配役で見たが、あの花籠踊りがあったかどうか覚えていない。とはいえ、その後の再演で何度も主演したザハロワがあの踊りを狂ったように踊っていた。それは脳裏に焼き付いている。
牧版は、1980年 マカロワがABTに振り付けた版(ランチベリー編曲)に基づくが、後者こそ、アップテンポの花籠踊りを改変(?)した淵源らしい。要するに、牧版では花籠の踊りもマカロワ版に倣い例の踊りは入れ替えた。が、2003年の再演以降マリインスキーからザハロワが客演したため、ロシアで一般的なアップテンポの踊りに戻し、それが前回の2015年まで踏襲された。たぶんそう。英国ロイヤルもマカロワ版だから、この花籠踊りは不在のはず。だが、ややこしいことに1991年の映像ではキーロフ(マリインスキー)からアスィルムラートワが客演したためアップテンポの花籠を踊っている(ソロル:ムハメドフ、ガムザッティ:バッセル、ブロンズアイドル:熊川哲也)。
マカロワはなぜあの踊りを“変えた”のだろう。花籠はソロルからの贈り物と知ったニキヤは、前半ではヴァイオリンソロの叙情的な音楽でソロルに向けてゆったり踊る。後半は一変してアップテンポになり正面を向いて快活に踊る。ここで拍手やbravaがきて、直後に籠の毒蛇に咬まれて死ぬ。この流れを、というか流れが切れるのを不自然と見なしたのか。
それにしても、なぜ芸術監督はこのタイミングで初演(牧版)の踊りに戻したのだろう。今回同様、ニキヤがすべて自前の4年前も出来たはずだが。いずれにせよ、あの踊りが見られないのは個人的には少し残念。
このプロダクションは美術セットと衣裳が素晴らしい。近年、『眠り』や『くるみ』で冴えないセットを見なれた眼には特にそう感じる。場面転換などは詩的ですらある。オケは前回と同じ東響。総じてよい。特にオーボエ。・・・続きは楽日を見てから。