第13回世界バレエフェスティバル <プログラムA> 9年ぶりに見た

初日を観た(8月1日 14:00/東京文化会館)。バレエフェスを見るのは第11回(2006)以来だから9年振り。今回はD席で4階左バルコニーの3列目。それでも12,000円。われながらよくSで見ていたものだ。
日本人アーティストへの軽視やブランド志向等に違和感を覚え、次第に足が遠のいていた。今回久し振りに見たのは、日本人のダンサーたちをより深く理解するために必要だと思ったから。たぶん。

指揮:ワレリー・オブジャニコフ ロベルタス・セルヴェニカス
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター:依田真宣)
ピアノ:フレデリック・ヴァイセ=クニッテル(「3つのグノシエンヌ」「アザー・ダンス」「トゥギャザー・アローン」)
主催・制作:公益財団法人日本舞台芸術振興会
後援:外務省/文化庁/各国大使館
協力:東京バレエ団

指揮者が二人いたとは。迂闊にも最後のカーテンコールで初めて気づいた。4階からだとあまりよく見えないのだ。

チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
ヤーナ・サレンコ スティーヴン・マックレー

トップバッターにふさわしい清新さか。ほかにいうことは特になし。

「3 つのグノシエンヌ」
振付:ハンス・ファン・マーネン/音楽:エリック・サティ
マリア・アイシュヴァルト マライン・ラドメーカー

フレデリック・ヴァイセ=クニッテルが下手奥で弾くサティの音楽に聴き入りながら(4階左バルコニーからだと彼の姿は見えない)、手前で踊るふたりのダンサーに見入る。生のピアノはさほど音量はないから(奥に位置するためなおのこと)、床を擦るシューズのキュッキュッという音がなんかよい。生ならではの味わい。

「お嬢さんとならず者」
振付:コンスタンティン・ボヤルスキー/音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
アシュレイ・ボーダー イーゴリ・ゼレンスキー

ちょっと太めのアシュレイ・ボーダー扮するお嬢さんにイーゴリ・ゼレンスキーのならず者。ショスタコーヴィチの3曲目で二人が絡む(後者が前者に言い寄る)シークエンス。チェロのソロ(金木博幸)がじつに素晴らしい。マヤコフスキーの映画台本が原作らしい。ソ連期の匂い。やる気満々のゼレンスキー。作品への愛。彼はまだまだ踊れる。

白鳥の湖」より"黒鳥のパ・ド・ドゥ"
振付:マリウス・プティパ/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
タマラ・ロホ アルバン・レンドルフ

ロホのテクニックはたしかにすごい。絶妙なバランスと左右に流れずまっすぐ前進するフェッテ。だが、何も感じない。ヴァイオリンのソロは音程が不安定に感じる。ヴィブラートが細かすぎるせいか。

「フェアウェル・ワルツ」
振付:パトリック・ド・バナ/音楽:フレデリック・ショパン、ウラジーミル・マルティノフ
イザベル・ゲラン マニュエル・ルグリ

ルグリのサポートは相変わらず盤石。テープ音源でのショパンは音量は十分だが味気ない。
以上が第 1 部(14:00〜15:10)で15分休憩。
第2部の冒頭は、5月2日に亡くなったマイヤ・プリセツカヤ(1925-2015)の追悼。第1回バレエフェス(1976)で踊った「瀕死の白鳥」の映像が映し出された。

「アザー・ダンス」
振付:ジェローム・ロビンズ/音楽:フレデリック・ショパン
アマンディーヌ・アルビッソン マチュー・ガニオ

パリ・オペラ座の現役二人は体型に恵まれ申し分のない技術でどこまでも優雅な踊り。ただ、観る側(というか私)は心も感情もまったく動かない。情熱的な作品だと違うのか。ヴァイセ=クニッテルのピアノはさっぱりとした、淡泊な演奏。ピアノの位置が中ほどまで前進したため集中しずらかったのか。

「マンフレッド」
振付:ルドルフ・ヌレエフ/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
マチアス・エイマン

男声ダンサーのソロ。チャイコフスキーの音楽にも助けられ、エイマンは男らしく気を吐いた踊り。

「ジゼル」
振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー/音楽:アドルフ・アダン
サラ・ラム ワディム・ムンタギロフ

女性の方は、特になにもない。ムンタギロフは悪くないが・・・。ヴィオラのソロは音程が少し不安定。

「ライモンダ」より第 3 幕のパ・ド・ドゥ
振付:ユーリー・グリゴローヴィチ(プティパに基づく)/音楽:アレクサンドル・グラズノフ
マリーヤ・アレクサンドロワ ウラディスラフ・ラントラートフ

アレクサンドロワは貫禄の踊り。ラントラートフもよい。前者のカーテンコールでの投げキスには思わず笑った。すごいパトス。
以上が第 2 部(15:25〜16:20)で15分休憩。

失われた純情 「いにしえの祭り」
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:リヒャルト・シュトラウス
アンナ・ラウデール エドウィン・レヴァツォフ 
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ

全幕を見れば面白いのかも知れない。

「シンデレラ」
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
アリーナ・コジョカル ヨハン・コボー

パ・ド・ドゥだけでは物足りない。コボーも年を取った。

「オールド・マン・アンド・ミー」
振付:ハンス・ファン・マーネン/音楽:J. J. ケイル、イーゴリ・ストラヴィンスキー、ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト(録音)
ディアナ・ヴィシニョーワ ウラジーミル・マラーホフ

マラーホフが老人役。じっさい老人に見えた。衝撃的。それだけ時間が経ったのか。生きる気力をなくした老人を若い女性が元気づけ(踊らせ)ようと、あの手この手でちょっかいを出す。いろいろあった傷心のマラーホフをまだバリバリ踊れるヴィシニョーワが本当にエンカレッジしているように見えた。グッときた。はじめはジャズ風の歌。次にストラヴィンスキーの「サーカス・ポルカ」(曲中シューベルトの「軍隊行進曲」がパロディー風に奏された)。地に倒れた相手を、風船を膨らませるしぐさで息を吹き込み、互いに生き返らせる。面白い。かつ象徴的。最後はモーツァルトのピアノコンチェルト第23番第2楽章。幕切れのゆるやかなフラッシュライトは、かつてマラーホフが踊ったストロボライトを駆使した「コート」への惜別に見えた。ヴィシニョーワがコミカルな振りを全力で踊り、老いたマラーホフが集中して呼応する。これを見ただけでも来た甲斐があった。

「パリの炎」
振付:ワシリー・ワイノーネン/音楽:ボリス・アサフィエフ
ヤーナ・サレンコ ダニール・シムキン

バリバリのケレンだが、二人とも洗練された大変きれいな踊り。ちょっと野性味が欲しい気も。サレンコは冒頭の「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」とは別人に見えた。
以上が第 3 部(16:35〜17:30)で10 分休憩。

白鳥の湖」第 2 幕より
振付:レフ・イワーノフ/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
ウリヤーナ・ロパートキナ ダニーラ・コルスンツェフ

ロパートキナはさすがに本格的。コルスンツェフを久し振りに見た。サポート要員だが。ヴァイオリンソロがたどたどしく聞こえる。チェロのソロが悠然としているだけに、両者のかけ合いが残念ながら対話に聞こえない。

「トゥギャザー・アローン」
振付:バンジャマン・ミルピエ/音楽:フィリップ・グラス
オレリー・デュポン エルヴェ・モロー

デュポンが両手の振りから次の動作への移行をリピートするとき、なぜかグッときた。引退した彼女のこれまでのダンサー人生(具体的には何も知らない)が突然照射されたように感じたのだ。下手奥に戻ったピアノ演奏は素晴らしかった。

「オネーギン」より第 1 幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アリシア・アマトリアン フリーデマン・フォーゲル

フォーゲルはオネーギンのタイプに見えないが、よいのではないか。アマトリアンも。ミラーダンスの女性は誰? オケの特にヴァイオリン群のメロディーラインに艶と切れ味が乏しい。

ドン・キホーテ
振付:マリウス・プティパ/音楽:レオン・ミンクス
ヴィエングセイ・ヴァルデス オシール・グネーオ

いくら技術を見せてバランスしてもラインがきたないと・・・。バレエはサーカスとは異なる。
これで第 4 部(17:40〜18:35)終了。
締めは「眠れる森の美女」よりアポテオーズの音楽に合わせてフィナーレ。
九年ぶりのフェスだったが、やはりスターの不在が印象的。前からいわれていたが、ここまでとは思わなかった。昔の名前がこんなに多いとは。そもそも出演者に芸術監督は何人居たのか。元を入れると5人?
観客席の印象もだいぶ変わった。まず〝さくらブラボー〟がなかったのは喜ばしい。周りは総じて以前より素人臭い。4階席だからか。否、知らない(と思われる)演目や、オケではなくピアノ伴奏になる(じっと静かに見ることが要求される)と、途端に咳が多発し落下音が増えるのは座席の等級に関係なさそうだ。NBSの客も庶民化され、層が拡がったということか。これは佐々木氏の影響力の変化と関係あるのか。相変わらず「Tadatsugu Sasaki presents」の文字が大書されてはいるが。
東フィルは、二人のコンマス(荒井英治・青木高志)が抜けた穴を埋め切れていない。5月の新国立《ばらの騎士》もそうだが、今回はその感をいっそう強くした。コンマスに昇格した若い二人には申し訳ないが、本来は一定のプロセス(テスト期間等)を経る必要があったのではないか。オケにはそうした余裕がないほど緊急事態だったのか。例のオーボエ奏者も大きなミスはなかったとはいえ、あの音色では世界バレエフェスに相応しいとはとてもいえない。