新国立劇場オペラ[新制作]《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》 素晴らしいプロダクション

新制作《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》の初日を観た(5月14日 19時/新国立劇場オペラハウス)。
久々に素晴らしいプロダクション。ジルベール・デフロの演出がいい。オケ(レナート・パルンボ指揮)も、弦の響きに弾性があり、低音も充実。ブラスの咆哮はいつになく強烈だが、歪みも濁りもない。フルートをはじめ木管もよく歌う。東フィルは3月におこなった創立100周年記念のワールド・ツアー以降、《ヴォツェック》といいバレエ《カルミナ・ブラーナ》もそうだが、調子がよいようだ。この公演の二日後、ゼッダが振ったサントリー定期を聴いたが素晴らしい演奏だった(二人ともイタリア人指揮者だ)。この質をぜひ維持してほしい。

指揮:レナート・パルンボ
演出:ジルベール・デフロ
美術/衣裳:ウィリアム・オルランディ
照明:ロベルト・ヴェントゥーリ


《カヴァレリア・ルスティカーナ》全1幕(初演1890年)
作曲:ピエトロ・マスカーニ
原作:ジョヴァンニ・ヴェルガ/台本:ジョヴァンニ・タルジョーニ・トッツェッティ&グイード・メナーシ
キャスト
サントゥッツァ:ルクレシア・ガルシア
ローラ:谷口睦美
トゥリッドゥ:ヴァルテル・フラッカーロ
アルフィオ:成田博之
ルチア:森山京


《道化師》プロローグ付全2幕(初演1892年)
作曲/台本:ルッジェーロ・レオンカヴァッロ
キャスト
カニオ:グスターヴォ・ポルタ
ネッダ:ラケーレ・スターニシ
トニオ:ヴィットリオ・ヴィテッリ
ペッペ:吉田浩之
シルヴィオ:与那城 敬


合唱:新国立劇場合唱団(指揮:三澤洋史)
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団


《カヴァレリア・ルスティカーナ》
セットは古代の劇場跡。石でできた観覧席(テアトロン)の小高い残骸が上手と下手に二カ所、舞台手前を見下ろしている。狭間の中央部には残骸はなく、奥の開けた平原が遙かに臨める。円形舞台(オルケストラ)の中心部(ここにテュメレーと呼ばれる祭壇があったらしい)はちょうどプロンプターボックスの当たりか。下手にはオリーブの木。舞台手前に柱の基部のみが切り株のように数本見える。テアトロンから少し近すぎるがスケーネー跡との設定だろう。平原の向こうに広がる空の色が、時間と共に変化する。これがとても美しい。教会等のセットはないが、キリストの聖像を担いでの行進が復活祭の雰囲気を生々しく伝える。
サントゥッツァ役のルクレシア・ガルシア(ソプラノ)は豊かで柔らかな歌声。中低音も充実している。ベネズエラ出身でヴァイオリンから始めたというから、エル・システマか。トゥリッドゥ役のヴァルテル・フラッカーロ(テノール)は、今回さほど強声の一本調子に陥らず好演。ローラ(メッゾソプラノ)の谷口睦美は姿形のよさに加え、歌唱も演技もなかなかのもの。ルチアの森山京子、アルフィオの成田博之もまずまず。アンサンブルがとてもよかった。合唱の質の高さはいうまでもない。なんといってもパルンボ指揮の東フィルが出色で、tutti後の弱音がとても繊細。本作の美しい音楽を再認識させてくれた。

《道化師(パリアッチ)》
劇場跡で旅芸人の一座が芝居を演じる。素晴らしい趣向。前のプロダクションではカニオのアリオーソ「衣裳を着けろ」が終わると、あまり楽しみはなかった(ジャコミーニの劇場全体を振動させる歌唱には度肝を抜かれたが)。今回は、このアリオーソも全体のピースにすぎない。間奏曲が奏されるなか、カニオが道化の衣裳を引き摺りながら奥へ去って行く。ほどなく、観覧席跡の裂け目から道化の衣裳を身に着けた芸人たちが野生動物のようにすっくと立ち並び、こちら(本当の観客席)の方を見つめている。なぜかグッときた。この間、二台の箱馬車を両袖寄りに移動させ、二幕が始まる。コメディア・デラルテ風の劇中劇は素晴らしかった。演出のジルベール・デフロはストレーレルに師事したとある。なるほど。数年前パブリックシアターでストレーレルが演出したミラノ・ピッコロ座の『アルレッキーノ――二人の主人を一度にもつと』を観たが、めっぽう面白かった。直伝の芝居が活き活きしているのも頷ける。第二幕はこんなに面白かったのか。演出がみずからを主張せず、作品そのもの(音楽やプロット等)を活かす。客席を巻き込む趣向もいい(右と左の画像は「旅芸人たち」が客席に配ったちらし)。サーカス学校出身のアクロバット(天野真志・Bila Olga)や犬(わんわん大サーカス)まで登場させるこだわりで、芸人たちの悲哀を効果的に表出した。

カニオ(パリアッチョ/テノール)のグスターヴォ・ポルタは、アリア以外では声が拡散する感じだが、ここぞというときはさすがの歌唱。座長としての演技も嵌まっている。ネッダ(コロンビーナ/ソプラノ)のラケーレ・スターニシは声にふっくら感は乏しいが、全力の演技でよい仕事をした。トニオ(タッテオ/バリトン)役のヴィットリオ・ヴィテッリは歌唱も演技も質が高く、狂言回しとして舞台を引き締めた。吉田浩之のペッペ(アルレッキーノテノール)役は既視感があるが、優しい歌声で貢献。シルヴィオバリトン)の与那城敬は、以前より身体も声も大人になった印象。好演したといってよいが、演技も歌もまだ硬い。コーラス陣は芝居を含めほんとうに素晴らしい。 
イタリア人の指揮者がイタリアものを振るとやはり気持ちがよい。オケは、チェロのソロ(服部誠)をはじめ、香り豊かな音色と悲劇的な響きで、客席を魅了した。ブラスの咆哮も崩れることなく見事。バンダのトランペット(古土井友輝)は秀逸。まだ藝大の学生だとか。
カーテンコールは相変わらず、カーテンを開きっぱなしで何度もレヴェランスさせる(舞台監督:村田健輔)。終演時間よりも、客席と舞台の対話を大事にしてください。【追記 ただし今回はカーテンが上下ではなく左右に開閉する形式だった(?)ように記憶する。また、歌手たちは舞台で何度もレヴェランスすることにあまり戸惑いは見られなかった。あらかじめこのやり方を周知していたのかも知れない。】