英国ロイヤル・バレエ団<ロイヤル・ガラ>

昨日、英国ロイヤル・バレエ団<ロイヤル・ガラ>を観た(7月10日 18:30/東京文化会館)。
ごくごく簡単にメモする。
【第一部】

「ラ・ヴァルス」
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:モーリス・ラヴェル
小林ひかる、平野亮一、
ヘレン・クロウフォード、ブライアン・マロニー、
ローラ・マカロック、ヨハネス・ステパネク

「ラ・ヴァルス」を初めて聴いたのはこの文化会館で、サヴァリッシュ指揮スイスロマンド管弦楽団のアンコール。サヴァリッシュくるりと客席の方に向き 'Ravel, "La Valse"'と美声のバリトンで告げたのを想い出す。さすがにダンサーはみな一定の強度をそなえており、なかでもセンターの平野亮一が目についた。〝がたい〟が大きく勁そうで、かたちも好い。オケは低音がよく響き感じが出ていた。

「コンチェルト」 第2楽章
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ドミートリ―・ショスタコーヴィチ
メリッサ・ハミルトン、ルパート・ペネファーザー
ピアノ:ケイト・シップウェイ

ハミルトンはラインが美しく、アラベスクに味わいと色気がある(それがないとこの作品は成立しないが)。ピアノ演奏も素晴らしい。

クオリア
振付:ウェイン・マクレガー/音楽:スキャナー
リャーン・ベンジャミン、エドワード・ワトソン
(※特別録音された音源を使用)

踊りは悪くなかったと思うが、生演奏でないと印象が残りにくい。

アゴン」 パ・ド・ドゥ
振付:ジョージ・バランシン/音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
ゼナイダ・ヤノウスキー、カルロス・アコスタ

久しぶりにアコスタを見た。二人の踊り(からみ)になんというかポエジーを感じない。ブラボーが飛んではいたが(例のサクラも含む)。オケの演奏が甘く、ストラヴィンスキーの響きがしない。

「雨の後に」
振付:クリストファー・ウィールドン/音楽:アルヴォ・ペルト
マリアネラ・ヌニェス、ティアゴソアレス
ヴァイオリン:高木和弘
ピアノ:ロバート・クラーク

せっかくペルトの生演奏なのに、ピアノはよいがヴァイオリンが不安定すぎ。踊りについては何もない。にもかかわらず一階後方あたりから、例のブラボーが。NBSの公演にはいまだにサクラのブラボー隊が居る。恥ずかしいというか、いまだに自国の観客(バレエファン)を信じていないらしい。

ドン・キホーテ」 第3幕よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/音楽:ルートヴィク・ミンクス
ロベルタ・マルケス、スティーヴン・マックレー

ランチベリーの編曲は悪趣味きわまりない。こんな腑抜けた音楽の『ドン・キ』では盛り上がりようがない。つくづくロイヤルのダンサーは気の毒だと思うが、マックレーはよく廻り気を吐いた。マルケスは申し訳ないがどこかうらぶれた感じで・・・。米沢唯の方が技術も含めはるかに好い。[追記 NBSによれば、マルケスはこの「本番中に脚を痛め」たらしい。結果、「白鳥」初日のコジョカルの代役をキャンセルし(サラ・ラムが代役)、本来の2日目マチネーに専念するとの由。]

うたかたの恋」 第3幕より
振付:ケネス・マクミラン/音楽:フランツ・リスト
アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、リカルド・セルヴェラ

3年前の来日公演ではコボーとベンジャミンで全幕を見たが、ヨーロッパ文化の退廃を感じさせるなかなかの舞台だった。この日のコボーはやはり万全ではないのかいまひとつ。コジョカルも同じ。だが、リカルド・セルヴェラのブラットフィッシュはルドルフを元気づけようと道化た踊りを必死で踊り、ペーソスが滲み出た。素晴らしい。マクミランはこの手の振り付けが実にうまい。


——休憩 20分——

【第二部】

白鳥の湖」 パ・ド・カトル
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:P. I. チャイコフスキー
エマ・マグワイア、高田茜
ダヴィッド・チェンツェミエック、ヴァレンティノ・ズケッティ

高田茜はアシュトンの奇矯で細かな振りをよく踊っていた。

「温室にて」
振付:アラステア・マリオット/音楽:リヒャルト・ワーグナー
サラ・ラム、スティーヴン・マックレー
メゾ・ソプラノ: マリア・ジョーンズ

トリスタンとイゾルデ』の第三幕への前奏曲の(別ヴァージョン?)音楽。が、曲想と振り付けが合わないような。ふわっとしたドレスに身を包んだメゾ・ソプラノはダンサーのように美しい。だがドイツ語はあれでよいのか。[コメント欄に追記]

「春の声」
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:ヨハン・シュトラウスII世
崔由姫、アレクサンダー・キャンベル

よいと思うが、崔はもっと祝祭的な感触がほしい気もする。キャンベルは見覚えのあるダンサーだが、どこで見たのか。

「眠れる森の美女」 目覚めのパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン/音楽::P. I. チャイコフスキー
金子扶生、ニーアマイア・キッシュ

金子扶生は身体の勁さを感じる。まだ味は出ていないが、大器かも。

「ジュビリー・パ・ド・ドゥ」
振付:リアム・スカーレット/音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ラウラ・モレーラ、フェデリコ・ボネッリ

今回もっとも印象に残った。上演中は聴いたことのある音楽だと思いながら、作曲者名が出てこない。グラズノフだった。ラウラ・モレーラは舞台と観客を祝福する〝気〟に溢れていた。

「マノン」 第1幕第2場よりパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ、編曲:レイトン・ルーカス
リャーン・ベンジャミン、カルロス・アコスタ

ベンジャミンが新国立の『ロミ&ジュリ』でゲスト出演したとき、よいダンサーだと思った。「マノン」でもマクミランの味を出したが、さすがに年齢も感じた。これで引退らしい。

「シンフォニー・イン・C」 最終楽章
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ジョルジュ・ビゼー
サラ・ラム、ヴァレリー・ヒリストフ/マリアネラ・ヌニェス、ティアゴソアレス/崔由姫、アレクサンダー・キャンベル/イツァール・メンディザバル、リカルド・セルヴェラ

冒頭の「ラ・ヴァルス」もそうだが、この手の踊りは一定の上背を有する強度の高いダンサーが揃うとさすがに迫力が出る。特に崔由姫は印象的だった。

指揮者:ボリス・グルージン、ドミニク・グリア
オーケストラ: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

オケは合奏ではあまり感じないが、各パートのソロではとたんに質を保てなくなる。サッカーの日本代表同様、個の力が問題だ。ソロとフォワード。

英国ロイヤル・バレエ団は、前回も感じたが、スターが居なくなったとつくづく思う(もっともこのバレエ団に限らないが)。それでも、C席ですら13,000円もして、しかも三階左バルコニーの三列目。身体を大きく左に捻らないと舞台は見えない。そのうえ座席はかなり狭い。新国立劇場バレエ団がさらに充実すれば、こうした引っ越し公演の意味も大きく変わるだろう(すでに変わってきているが)。だが、そのためには、新国立のダンサーの待遇をドラスティックに改善しなければならない。いまのギャラ制では公演回数を増やすことができない。一刻も早く、職員同様、給料制にすべきだ。そうしない限り、ダンサー(合唱団もそう)は、職員のように、新国立の仕事だけで暮らしていけない。ダンサーの待遇が欧米のカンパニー並になれば、舞台に立つ場数も増えるし、実力もさらに向上するはず。同時に、海外の才能あるダンサーたちの入団も(日本人に限らず)増えるのではないか。簡単ではないのは分かっているが、そこを目指さない限り、日本の劇場文化の発展や成熟はありえないことも事実である。