映画『幕が上がる』

映画『幕が上がる』を見た(3月12日 12:15/イオンシネマ板橋)。
平田オリザが原作者でなければたぶん見なかったと思う。そもそも〝ももクロ〟についてつい最近まで何も知らなかった。小説版は二年ほど前、若い知人に教えられ、面白く読んだ。

ふだん映画はほとんど見ない。今回久し振りに映画館へ行き、本篇前の予告を見ながらちょっと吐き気がした。あんなジャンクフードのような映像が量産されているのか。『幕が上がる』が始まって正直ほっとした。本作は、ももクロの出演に最大の特徴がある。いいかえると、映画の満足度としては少し物足りない。脚本(喜安浩平)はももクロありきで書かれたのだろう。撮り方もいたって平凡。ただ、監督の本広克行は、ももクロたちのリアルなありようを映画のストーリーとは異なる位相で写し撮ってはいる。平田氏が期待しているように、この映画がきっかけで(高校)演劇人気に繋がればよい。だが、イオンシネマの客席には私を入れて六人だけ。少し拍子抜けした。
映画版は、吉岡先生が主人公のように感じた。かつては学生演劇の女王と言われた吉岡は、いったん役者を諦め女子高の美術教師として赴任。演劇部の生徒に前歴がバレて、指導を懇願される。ひたむきな生徒たちと大会を目指すうち、役者への思いに再び火が点く。オーディションを受けて選ばれ(SPACの宮城聰が演出家として出ていた)、母の反対を押し切り、教え子たちが全国大会への奮闘を続ける途上で教員を辞め、役者の世界へ再び飛び込む・・・。吉岡先生役の黒木華は、朝ドラ「花子とアン」の妹役のイメージから、当初は適役とは思えなかった。が、見終わって納得。映画の中ほど、吉岡先生の提案による自主公演「肖像画」のシーンで初めて感情が動いた。教室内の円形に並べられた席から見守る家族や知人の前で、演劇部員が次々に自分自身を演じていく。教室で演劇が創られる場面を見ると胸に沁みるのはなぜだろう。ももクロのなかでは主役の百田夏菜子、ユッコ役の玉井詩織はさすがによい素材。中西役の有安杏果は原作のイメージとは異なる。彼女に合わせ設定を少し変更したのはそのためだろう。志賀廣太郎が演じた滝田先生の存在はよく効いていた。さおりの母清水ミチコも。
5月に本作の舞台版が上演されるらしい。台本は原作者本人だが、演出は映画と同じ本広克行、出演もやはりももクロ。一体どんな舞台になるのだろう。