『十二人の怒れる男』@シアターコクーン 2020

レジナルド・ローズの演劇版『十二人の怒れる男』3日目を観た(9月12日 18:30/シアターコクーン)。

新型コロナの影響で、演劇を見るのは3月26日の文学座アトリエ公演以来だから、ほぼ半年ぶり。本作は最初のテレビ版(1954)で親しんできた。シドニー・ルメット監督の映画版(1957)はもとより、演劇版も俳優座劇場で数回見ている(2011,2015,20172018)。が、1977年にローズ自身が改訂した最終版(96年にはハロルド・ピンターが演出)の上演は今回初めて見た。今年はたまたまこの版をオンラインで学生と読んでいる。見ないわけにはいかない。チケットは何度目かのチャレンジでやっと取れた。以下、簡単にメモする。

翻訳:徐 賀世子/演出:リンゼイ・ポズナー/衣裳・美術:ピーター・マッキントッシュ/出演:ベンガル(1番) 堀 文明(2番) 山崎 一(3番) 石丸幹二(4番) 少路勇介(5番) 梶原 善(6番) 永山絢斗(7番) 堤 真一(8番) 青山達三(9番) 吉見一豊(10番) 三上市朗(11番) 溝端淳平(12番) 

 舞台を観客席が取り囲むかたち。セットは2時間ぶっ続けで陪審員室のまま変わらない。照明や雨音等の効果はあるが、下手をすると単調になる。前半は抑え気味で、後半からラストへ向けて山場が来るように計算された演出。セリフの強弱は、音楽のように調整され、無闇に怒鳴らせない。これはいいと思う。ただし、日本語のセリフ回しが、外から修正(ダメ出し)されていないのか、即座に意味を飲み込みにくい箇所がいくつかあった(特に前半)。日本語を解さない(たぶん)外国人演出家の弱点かもしれない。

演劇版を見ると8番ではなく、これは3番のドラマだと思わされる。山崎は息子との葛藤から被告の少年に個人的感情を投影してしまうこの役をよく生きていた。ただ、追いつめられたラスト近くの、8番が「あなたの息子じゃない。あれは別の子だ」のあと、4番が "Let him live." と3番に言う。これを「死なせてはいけない」と発話(訳)したのには違和感があった。ここは俳優座台本のように「生かしてやりなさい」の方がニュアンスを捉えているし、グッとくる。

役者はみな個性的でよく感じを出していたと思う。特に、9番の老人、声のデカい偏見に満ちた10番、移民の11番、7番も人命より自分の都合を優先するいいかげんな野球狂を好演した。6番の労働者はリアリティがあった。8番はいいと思うが、もっと〝正義の味方〟像からはみ出してもよかった。陪審員長のベンガルは大好きな役者だが、声があまり出ていないので少し心配(フットボールのコーチには見えないか)。

舞台の本作を囲み形で上演すると、陪審室の暑苦しい閉塞した感じが出ない。もっとキャパの小さい劇場の方がよさそう。全体的にセリフが聞き取りにくかった。そこは残念だが、回が進めば芝居は「育つ」かもしれない。後半も見たいところだが、簡単には取れないし、そもそも演劇としてチケット代(10800円)が高すぎる。