青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクト アンドロイド版『変身』

アンドロイド版『変身』の初日を観た(10月9日 19:30/神奈川芸術劇場 KAAT)。簡単にメモする。

青年団国際演劇交流プロジェクト2014
原作:フランツ・カフカ
作・演出:平田オリザ
アンドロイド開発:石黒 浩(大阪大学ATR石黒浩特別研究所)
翻訳:マチュー・カペル 小柏裕俊
フランス語上演/日本語字幕付き

リプリーS1(アンドロイド) Repliee S1 (androïde)
アンドロイドの声:ティエリー・ヴュ・フー  voix: Thierry Vu Huu

イレーヌ・ジャコブ Irène Jacob  カンヌ映画祭女優賞『ふたりのベロニカ』(1991)
ジェローム・キルシャー  Jérôme Kircher
レティシア・スピガレリ Laetitia Spigarelli
ティエリー・ヴュ・フー  Thierry Vu Huu

舞台監督:播間愛子 中西隆雄 
舞台美術:杉山 至
照明・字幕:西本 彩
音響:泉田雄太
衣裳:カール=アンドレ・ティリオ
ロボット側ディレクター:力石武信(大阪大学石黒浩研究室/大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
通訳:原真理子
フライヤーデザイン:京(kyo.designworks)
宣伝写真:山本尚明
制作:西山葉子 西尾祥子(システマ) 赤刎千久子 垣谷文夫

音響協力:富士通テン(株)
企画制作:青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場大阪大学ATR石黒浩特別研究所
主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
エグゼクティブ・プロデユーサー:Festival Automne en Normandie
共同制作:Taipei Arts Festival, Centre Dramatique National de Haute-Normandie, TAP - Scène Nationale de Poitiers, Espace Jean Legendre, Compiègne – Scène Nationale de l’Oise en préfiguration
助成:国際交流基金、アンスティチュ・フランセ日本
提携:城崎国際アートセンター(城崎公演)、KAAT神奈川芸術劇場(横浜公演)
後援:豊岡市(城崎公演)
平成26年文化庁劇場・音楽堂等活性化事業

近未来の設定。移民問題、戦争・・・。平田らしい。原作に見出せる父と息子の確執は弱められている。
アンドロイドと役者との間合いは興味深い。初日のせいか少しズレることもあった。一方、役者同士の遣り取りだと、特に三人の場合、ゴムのように自在に伸び縮みするする。前者は見ていて少し緊張するが、後者は気持ちが好い。
下宿人の医者(ティエリー・ヴュ・フー)が登場すると、空気が変わった。家族の妹と母、たぶん父も、アンドロイドがグレゴワールだと信じているが、下宿人は信じていないからだ。というか、彼の登場で初めてそのことが観客にはっきりと認識される。彼は他者なのだ。妹や母と植物人間について話しているとき、脳外科の彼は「最後に残るヴァイタルなものっていうのは、脳しかなくなっちゃうんですね、いまのところは」といってグレゴワールの頭をぞんざいに触る。母と同様、われわれもはらはらするのは、アンドロイドをいつの間にか機械以上の存在と見做していた証拠だろう。
母(イレーヌ・ジャコブ)が、息子に詩を読んで聴かせるシーン。「・・・もしそれ人とは人のからだのことであると/さういうならば誤りであるように/さりとて人は心であるというならば/また誤りであるように/さりとて人は/からだと心であるというならば/これも誤りであるように/しかればわたくしが月を月天子と称するとも/これは単なる擬人でない」(宮沢賢治「月天子(がってんし)」)。その後、グレゴワールが母に電源を切ってくれないかと頼む。少しグッときた。が、平田の演出、役者の演技はあくまでも抑えたドライなもの。
人間とは、ヒューマン(人間的)とは何か。消去法で実験的に明らかにしようとしている。
役者はみなうまい。平田の芝居は質の高い役者でないと成立しないかも知れない。ちょっとモーツァルトを演奏する音楽家に似ている。たとえ楽譜どおりに音を出してもモーツァルト(音楽)になるとは限らない。