新国立劇場バレエ「DANCE to the Future 〜Third Steps〜」

新国立劇場バレエ(NBJ Choreographic Group)「DANCE to the Future 〜Third Steps〜」の2日目を観た(1月17日 14時/新国立小劇場)。簡単にメモする。

アドヴァイザー:平山素子
振付:マイレン・トレウバエフ、貝川鐵夫、福田圭吾、小口邦明、宝満直也、高橋一輝、広瀬 碧
照明:鈴木武
音響:河原田健児
舞台監督:森岡
舞台監督助手:北田稜子
芸術監督:大原永子
制作:新国立劇場

はなわらう」振付:宝満直也
音楽:高木正勝「Rama」
衣裳:堂本教子
出演:福岡雄大、米沢 唯、奥田花純、五月女 遥、朝枝尚子、石山紗央理、フルフォード佳林、盆子原美奈

男女の1ペア(米沢唯&福岡雄大)に六人の女性が踊る。どこかジェシカ・ラングと似た感触。限りなく明るいのに、来世の匂いがした。この劇場でいろんな振付を踊ってきた経験が活かされている。前回の宝満作品との繋がりは乏しいが、ダンサーを見る悦びはあった。米沢唯が表情豊かにかつ切れ味よく踊っていたのが印象的。音楽はアジア的? 民族的? 後半では人声も入っていた。 

「水面の月」振付:広瀬 碧
音楽:久石 譲「6番目の駅」
衣裳:広瀬 碧、本城真理子
出演:川口 藍、広瀬 碧

ライトとダークの衣装で二人の女性が踊る。姉妹のようにそっくりだ。あるいは分身なのか。音楽はピアノのソロ。照明。前回の「春」より内側へ引き締まり、余分なものが削ぎ落とされた印象。

「Chacona」振付:貝川鐵夫
音楽:J. S. バッハ「シャコンヌ
衣裳:千歳美香子
出演:奥村康祐、堀口 純、輪島拓也、田中俊太朗

黒タイツのダンサー4人。ひとりの女性が無音の闇から浮かび上がる開始は前作と同様。バロック音楽。この創作者は、それらしい作品をいくらでも作れそう。だが、いわゆる〝美的なかたち〟の安易な生成を抑制しているかに見える。オリジナル楽器を用いた古楽版の音源採用も、エネルギーを内にため込もうとする構えを後押ししている。今回もドゥアト的テイストが感取されるが、オリジナル(独自/原初)なものへの志向性も強く感じさせる。なんかグッときた。最初「この女性は誰?」と思ったら堀口純だった。

「Revelation」(招待作品) 振付:平山素子
音楽:ジョン・ウィリアムズシンドラーのリスト
衣裳:鳥海恒子
出演:小野絢子(16日)/本島美和(17, 18日)

闇の中で光の道が現れてはまた消える。木製の椅子がひとつ。金髪の女性によるソロ。ヴァイオレントな香り。自傷的。自虐的。優れた創作をいくつも生み出してきた平山素子にも処女作があり、H・アール・カオス(大島早紀子/白河直子)の影響下から出発した。本島美和は自らの女性性に暴力的な動きを突きつけ、妖しい空気を作り出す。ただ、後半、その感触を継続的に辿りえなかった。これは受け手の問題かも知れない。いずれにせよ、この感触は本島しか出せそうにない。初日はカバー歌手による演奏会形式の《さまよえるオランダ人》(中劇場)と重なったため見ていない。ザハロワが踊るとまったく別物になるとは聞いていたが、小野絢子はどうだったのか。
ところで、イツァーク・パールマンが奏でる明るめのヴァイオリンを聴くと、〝表象の(不)可能性〟に関する議論を想い出す。11年かけて撮った9時間半におよぶ映画『ショアー』(日本での公開は1995年)。その監督クロード・ランズマンの『シンドラーのリスト』批判等々。平山が創作したのは1999年らしい。そのころ見ていたら、スピルバーグのメロドラマに引っ張られ公平に受容できなかっただろう。だが、あの頃の文脈はすっかり薄れてしまった。
休憩20分

「The Lost Two in Desert」振付:高橋一輝
音楽:グレゴリー・プリヴァ「Ritournelle」
衣裳:竹内さや香
出演:高橋一輝、盆子原美奈

踊りから感取される情動とタイトルとがしっくりこないが、盆子原美奈のよさはしっかり伝わってきた。

Andante behind closed curtain」振付:マイレン・トレウバエフ
音楽:ダン・クレアリー「Andante in steel」
出演:湯川麻美子

湯川麻美子の独演。喝采を浴びるバレリーナの舞台裏。いわゆる〝おバレエ〟の美しさとは裏腹な苦悩や焦燥感等々。脱いだトゥシューズの紐で首を括る仕草には驚いた。コミカルでちょっとグロテスクな味付けが秀逸。開場以来この劇場で踊ってきた湯川へのオマージュだろう。トレウバエフは欧州と地続きのサンクトペテルブルク生まれ。彼の地の劇場文化はやはり成熟度が違う。

「Phases」振付:福田圭吾
音楽:スティーブ・ライヒ「New York Counterpoint: Fast」
   J. S. バッハ/Ch. グノー「アヴェ・マリア
衣裳:福田圭吾
出演:菅野英男、寺田亜沙子、五月女 遥、丸尾孝子、石山紗央理、成田 遥

はじめにバッハ/グノーの音楽がかすかに聞こえるが、すぐにライヒが勝り、緑の様々な色調のコスチュームを纏った女たちが素早い動きで踊る。例によって五月女遥はキレキレ。やがて、バッハ/グノーの音楽に戻り菅野英男と寺田亜沙子がデュエットを踊る。二つの音楽が融合することはないが接合はしていた。それでフェイズなのか。

「Dancer Concerto」振付:小口邦明
音楽:J. ブラームス「ピアノ協奏曲第2番 Op. 83 第2楽章 」
出演:細田千晶、小口邦明、小柴富久修(16, 18日)/宇賀大将(17日)、林田翔平、原 健太、若生 愛、柴田知世、原田舞子

太い骨格を感じさせるピアノコンチェルトのスケルツォ。〝アパッショナート〟のシンフォニックなバレエを踊るには小劇場は少し狭すぎるか。
生まれたばかりの作品を見る喜びはまた格別。前回に比して、どの作品も安易さを排し、地に足をつけての創作姿勢が顕著だった。アドヴァイザーを務めた平山素子の指導の結果だろう。それにしても、創作振付では音楽の選択がいかに重要かよく分かる。次回は中劇場に格上げされるらしい。それもよいが、生成の現場に立ち会うような小劇場版も続けてほしい。