11月のフィールドワーク予定 2022【追加+】【感想メモ付加】

今月はダンス公演が4【+1】、演劇が2、オペラ1、コンサート1。どれも楽しみだが、とりわけ横山拓也俳優座に書きおろす3作目は注目している。マギー・マランについては何も知らないが、以前見た『Salves—サルヴズ』は本当に面白かった! 当然『MayB』も期待してしまう。佐藤俊介のヴァイオリンと鈴木秀美のチェロの共演は以前に埼玉で聴いたが、今回スーアン・チャイのフォルテピアノが加わる。【←これ勘違いで、6年前の埼玉でもチャイがピアノフォルテ弾いてた。】楽しみ。

1日(火)19:00「パフォーミングアーツ・セレクション in Tokyo」『瀕死の白鳥』ミハイル・フォーキン原型 改訂:酒井はな+『瀕死の白鳥 その死の真相』演出:岡田利規 出演:酒井はな 編曲・チェロ:四家卯大/『When will we ever learn?』演出・振付:鈴木 竜 出演:飯田利奈子、柿崎麻莉子、鈴木竜、Ikuma Murakami 衣裳:渡辺慎也/『never thought it would』演出・振付:鈴木 竜 出演:柿崎麻莉子  舞台美術:宮野健士郎 衣裳:渡辺慎也@吉祥寺シアター

↑鈴木竜の『never thought it would』はLEDが何本もぶら下がった舞台で金箔みたいな全身タイツ姿の柿崎麻莉子が一人踊る。倒れた体が徐々に蠢き痙攣的に動くが、立ちそうでなかなか立たない。低音の断続的なパルス音から始まる音楽で絶え間なく動き踊る。それがとても魅力的で、注視させる強度があった。柿崎の身体は痙攣的かつエクスタティック。結局立ち上がり、その間LEDの色は変化するけど、舞台は薄暗いまま。体の動きをモーションキャプチャでデジタル化し可視化したのを、人体が逆に模倣したようなダンス。これは人工的な環境に苛まれた身体の苦痛と恍惚のダンスなのか。ラストで虫の鳴き声が聞こえたのは自然への回帰?(11/1 ツイート)

二つ目は岡田利規 演出・振付『瀕死の白鳥 その死の真相』。昨年は都合で見られず。酒井はなは新国立バレエでずっと見てきた。特に『ドン・キ』(佐々木大と)や『マノン』は忘れ難い。身体の美しさに密度の高さが加わったのは、この蓄積ゆえか。チェロは四家卯大(ハープなし)。『瀕死』はあっという間に終わり、酒井はハケずスタッフがマイクを装着。その間、四家は椅子の位置をミリ単位で動かす振りをして時間を潰し、楽屋裏をわざと見せる。チェロも酒井もシモテに向いて踊り始める。観客はカミテ袖から覗き見している趣向。途中何度も踊るのを止め、踊り手は初めから自分の死を分かって踊るべきか等の踊り方に加え、なぜ白鳥は死んだのか、鳥には砂嚢があること、丸いカラフルなもの(ペットボトルの蓋)が落ちていることなど、チェリストに説明し踊る。突然、うえっ! とえずき始め、やがて死に至る。こうして土に帰る、と。でもプラスチックは土に帰りません、でエンド。酒井は岡田節の科白を自身の声で自然に発話。チェリストとの関わり方も好い。四家は豊かな音色のチェロのみならず、酒井を活かす脇役としても見事。本作は、環境問題の国際会議等で上演したら喝采されるのではないか。ぜひ欧州で。(11/2 ツイート)

三つ目は鈴木竜 演出・振付『when will we ever learn?』。広襟上下の黒服男(鈴木)と女3(飯田利奈子・柿崎・Ikuma Murakami カーキのパンツ上下+タンクトップでIkumaも同性に見えた)。音楽は男声の英語歌。男が女3人に稽古をつけるようなやり取りから、振付家とダンサーの関係が見て取れる(岡田利規の「わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド」を想起)。やがて女達はジャケットを、さらにパンツを脱ぐ。男は威厳を保ち上着のまま。やがて動きの反復が目に付いてくる。男が女の胸部を叩く、女同士でハグし片方がそのまま相手の腹部までずり落ち…。後半では男女の立場が入れ替わる。途中、無音でMurakamiがゆっくりと動く。そこへ柿崎がつま先立ちで後方からゆっくり加わる。絶妙なバランスのダンス。とても好い。『never thought it would』と同じ文法。ラストで反戦歌「花はどこへ行った」が流される。知ってる歌詞と違ってた。最後〝「若い男ら」はどこへ行った? 制服を着て…〟と歌ってなかったか。さらにタイトルの「私たち」でなく〝「あなたたちは」いつになったら分かるのか?〟と。このとき照明は客側を照らした。いまなお戦争を止められない「あなたたち」=「私たち」へのメッセージ? 振付家(権力)とダンサー(従者)は非対称(支配・被支配)関係に他ならず、これが独裁者や戦争を生み出す萌芽だと? 反復時に立場を入れ替えたのは、その硬直関係を解きほぐすヒントなのか。(11/2 ツイート)

2日(水)19:00 DAIFUKU「à la carte」「HOME」小野絢子・近藤美緒・菅野英男・小柴富久修・宇賀大将・大和雅美・福田圭吾/「LOVEおっさんず」菅野英男・清水裕三郎・原 健太・小柴富久修・宇賀大将/「But Not for Me」近藤美緒・原 健太/「a day」福田圭吾・石山 蓮 @板橋区民文化会館小ホール

↑初日。新国立バレエ団員の別の姿を見る喜び。大和雅美振付『But Not for Meは近藤美緒と原健太の明朗なデュエット。大和が新国立で担った役とはかけ離れた世界(分かる気がする)。福田圭吾振付『a day。石山蓮は福田圭吾のalter egoか。まずはルイ・アームストロングが歌う What a Wonderful World の肯定的世界。その裏のconflict 。一方が他方の抹殺を試みる。が、色々あった挙げ句 逆に前者が後者を殺し幕。福田自身の内面? 福田圭吾振付『LOVEおっさんず』菅野英男・清水裕三郎・原 健太・小柴富久修・宇賀大将。立ちションから、宇賀を巡るおっさんたちのラブ・コメディに発展。後半の福田圭吾・大和雅美振付『HOMEは「サザエさん」をフレームに家族賛歌を舞踊化したコメディ。新国立バレエファンへの愉快なエンタメになっていた。レトロな吊り下げ照明と卓袱台。食卓シーンや小野サザエのハタキかけはプティの『こうもり』オマージュか。『シンデレラ』も入ってた?福田カツオに意地悪された近藤ワカメが『キャッツ』の「メモリー」で踊っていると、全身白タイツの小柴ネコが現れ、戸惑いつつPDDを踊る。近藤と入れ替わりに小野サザエが登場し、猫じゃらしで小柴ネコにミルタよろしく踊りを強要。〝ちゅ〜るちゅ〜るCIAOちゅ〜る〟の曲で。何度も踊り倒れる様と先日見たアルブレヒトとの落差! 大爆笑。小野サザエとマスオ宇賀の雨上がりPDDは『サザエさん』のピアノアレンジで。戦時の菅野波平のソロ+大和フネとのPDDはグッときた。PDDで女性を活かす菅野は健在。最後は精霊小柴に守られた家族が揃い幕。小野絢子らの楽しそうな姿は格別だ。(11/3ツイート)

4日(金)13:00 新国立劇場演劇『私の一ヶ月』作:須貝 英/演出:稲葉賀恵/美術:池田ともゆき/照明:杉本公亮/音響:星野大輔/衣裳:半田悦子/ヘアメイク:高村マドカ/演出助手:城田美樹/舞台監督:福本伸生/[出演]村岡希美 藤野涼子 久保酎吉 つかもと景子 大石将弘 岡田義徳 @新国立小劇場

3日目を観た。新国立劇場演劇で近年のベストだと思う。戯曲・演出共に極めて質が高く、適材適所の俳優もみな素晴らしい。手法的には平田オリザの〝同時多発会話〟と横山拓也の〝時間の多重性〟等を併せ、さらに発展させたような印象。三つの時空間がほぼ同時に進展する前半は、互いがどう関係するのか想像しながら見る。説明的でなく、見る者の思考と想像を掻き立てる。状況が分かってきた後半、泉が佐東に本音を話す場面、拓馬の十七回忌で彼の両親と泉が交わすやり取り(嫁に対する拓馬の母の本音)、明結(あゆ)が東京での一ヶ月を綴った散文詩を母に聴かせ、母が娘に「ありがとう」と応答するラスト。痺れた。父の真相を知った娘が自分を責める。それを声高に諫める佐東。ではどうすればいいのか? ただ生きていけばいいと(「ただただ生きな」)。このやり取りは、泉らの家族を作劇に〝利用〟した佐東の戯曲への自己批評になっている(戯曲では、幼い遺児にあたしたちみんな悪いと語らせ、舞台を見た拓馬の父が、あれはしんどかったと作者に打ち明ける)。重い感情がさらっと喚起される点も好い。過去と現在の〝対話〟を想像的に体験できる舞台。空席が目立つのは惜しい。(11/4ツイートに少し加筆)

5日(土)14:00 劇団俳優座公演 No.351『猫、獅子になる』作:横山拓也(iaku)/演出:眞鍋卓嗣/[出演]岩崎 加根子 塩山 誠司 清水 直子 安藤 みどり 志村 史人 若井 なおみ 野々山 貴之 小泉 将臣 滝 佑里 髙宮千尋 @俳優座劇場

6日(日)15:00 第4回「落語とコントはお友達」落語:「つる」田口 智也+「時そば」田村 智浩/コント:「湯切り名人の賭け」小宮 孝泰、菊池 夏野、仲道 和樹/落語:「お楽しみ」三遊亭 遊子 @アトリエ三軒茶屋

【11日(金)19:00 新国立劇場演劇『私の一ヶ月』作:須貝 英/演出:稲葉賀恵 @新国立小劇場】←追加(2回目)

15日(火)14:00 新国立劇場 開場25周年記念公演 モデスト・ムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》<新制作>プロローグ付き全4幕〈ロシア語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:大野和士/演出:マリウシュ・トレリンスキ/美術:ボリス・クドルチカ/衣裳:ヴォイチェフ・ジエジッツ/照明:マルク・ハインツ/映像:バルテック・マシス/ドラマトゥルク:マルチン・チェコ/振付:マチコ・プルサク/ヘアメイクデザイン:ヴァルデマル・ポクロムスキ/舞台監督:髙橋尚史/[キャスト]ボリス・ゴドゥノフ:ギド・イェンティンス/フョードル:小泉詠子/クセニア:九嶋香奈枝/乳母:金子美香/ヴァシリー・シュイスキー公:アーノルド・ベズイエン/アンドレイ・シチェルカーロフ:秋谷直之/ピーメン:ゴデルジ・ジャネリーゼ/グリゴリー・オトレピエフ(偽ドミトリー):工藤和真/.ヴァルラーム:河野鉄平/ミサイール:青地英幸/女主人:清水華澄/聖愚者の声:清水徹太郎/ニキーティチ/役人:駒田敏章/ミチューハ:大塚博章/侍従:濱松孝行/合唱指揮:冨平恭平/合唱:新国立劇場合唱団/児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団/管弦楽東京都交響楽団/共同制作:ポーランド国立歌劇場/令和4年度(第77回)文化庁芸術祭協賛公演/文化庁委託事業「令和4年度戦略的芸術文化創造推進事業」@新国立劇場オペラハウス

19日(土)15:00 『May B』演出・振付:マギー・マラン/出演:カンパニー・マギー・マラン/主催・企画・制作:彩の国さいたま芸術劇場(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団)/助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)独立行政法人日本芸術文化振興会/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 @埼玉会館大ホール

21日(月)19:00 佐藤俊介×鈴木秀美×スーアン・チャイ——ガット弦とフォルテピアノで聴くブラームスシューマン:幻想小曲集 Op.73(ヴァイオリン&フォルテピアノ)/ブラームスピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87/ブラームスピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 Op.8/佐藤俊介(ヴァイオリン)、鈴木秀美(チェロ)、スーアン・チャイ(フォルテピアノ)@浜離宮朝日ホール

23日(水祝)19:00 N響 #1970 定演〈B-1〉~ヴォーン・ウィリアムズ生誕150年~ヴォーン・ウィリアムズ:「富める人とラザロ」の5つのヴァリアント/メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64/ヴォーン・ウィリアムズ交響曲 第5番 ニ長調指揮:レナード・スラットキン/ヴァイオリン:レイ・チェン サントリーホール

【24日(木)19:30 『「櫻の樹の下には」~カルミナ・ブラーナを踊る~』構成・演出・振付:笠井 叡/[出演]ユリアヌス大植 カリオストロ島地 ジニウス辻本 ド・モレー未來 ジャンヌ柳本 ヘリオガバルス笠井/照明:森下 泰/音響:山田恭子/舞台監督:河内 崇/映像技術:岸本智也/衣裳:萩野 緑/音楽:角田寛生/映像:角田寛生 中瀬俊介/宣伝写真:笠井爾示/宣伝美術:NU/映像記録:中瀬俊介/制作:高樹光一郎 瀧本麻璃英/プロデューサー:笠井久子(一般社団法人天使館)/主催:一般社団法人天使館/助成:文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術創造活動活性化事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会/協力:公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団@吉祥寺シアター←追加

↑「白浪五人男」で「カルミナ」を踊るとは…。笠井降板→ジニウス辻本→ヘリオガバルスで「四人男」だが、みな個性豊か。見ていて頬が緩みっぱなし。素肌に学ランもどきの上下と下駄履き+赤の番傘から、後半は薄ピンクの襦袢に褌で刺青も露わに踊る。それで「カルミナ」となんの違和感もないから不思議。早々に柳本の下駄の歯が取れた。その歯で未来が歌舞伎のバタバタみたいに床を叩きリズムを付ける…。花吹雪に例の宙吊りで見得を切るラストの感触は、仏壇舞台の『NINAGAWAマクベス』みたい。ドレス姿の辻本は不気味なキレがあった。島地は音楽的で〝いまここ〟と俯瞰の眼が共存してる。指揮者か。野性味を孕みつつ優雅。(11/26 ツイート)
 

25日(金)19:00 新国立劇場春の祭典』演出・振付・美術原案:平山素子/共同振付:柳本雅寛/音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー/照明デザイン:小笠原 純/美術作品協力:渡辺晃一(作品《On An Earth》より)/ピアノ:松木詩奈、後藤泉/出演:米沢 唯、福岡雄大//『半獣神の午後』演出・振付:平山素子/音楽:クロード・ドビュッシー笠松泰洋/照明デザイン:森 規幸/照明:森 規幸/音響:河田康雄/音楽監修:笠松泰洋/衣裳:堂本教子/出演:奥村康祐、中島瑞生、福田圭吾、宇賀大将、小野寺 雄、福田紘也、石山蓮、太田寛仁、小川尚宏、上中佑樹、菊岡優舞、樋口 響、山田悠貴、渡邊拓朗、渡部義紀 @新国立中劇場

↑平山素子+柳本雅寛 振付『春の祭典』再演の初日。正面奥の高台に2台のピアノ。米沢は横綱の化粧まわしを思わせる衣裳。演奏が始まると塩がまかれた土俵のような円をゆっくり周り、ソロを踊る…。白のパンツにタンクトップの福岡登場。まだ絡んでないのに空気が変わる。二人のやりとりはまずまず。暗転後、中央で福岡に高く掲げられた米沢。その後の格闘技みたいな二人の応酬。男に挑むやんちゃ娘は、マッツ・エック(スモーク)を踊るギエムを想起。それを食い止めようとする男。面白い。再度の暗転後、衣裳を替えた二人。椅子を使ったアクロバティックなやりとり…。米沢の乗った椅子が倒れ、しょうがねえなあと戻す福岡。…次第に何かが立ち現れてくる。男に抵抗しつつ惹かれていく女。その女を抑えながらも愛おしさが募る男。ラストは(そう思い出した)床の敷物がどんどん奥へ引き込まれ、女が、そして男も巻き込まれ、同時に奥のピアノ台が次第に平面へ降りてきて、何もない空間に。…カーテンコールで思わず福岡に寄りかかる米沢。あの感情が二人のものでもあった証しか。ピアノの二人は好演したが強さ野蛮さが加わればさらによい。初演からもう14年か。

山新作『半獣神の午後』。笠松泰洋の曲で福田圭吾のソロ、ドビュッシー「シランクス」で奥村康祐と中島瑞生のデュエット、「牧神の午後への前奏曲」で群舞。…奥村の妖しいアウラ以外は何も現出せず。残念ながらチケット代が取れる作品には見えなかった。あのコスチュームは何? アラビア? 火(煙)は? ダンサーとお金はもっと有効に使って欲しい。(11/26 ツイート)