「バレエ・アステラス☆2013〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜」を観た(7月21日 13時/新国立オペラ劇場)。
ごく簡単にメモする。
バレエ・アステラス選考委員会・選考委員
安達悦子(東京シティ・バレエ団理事長)
岡本佳津子(公益財団法人井上バレエ団常務理事)
小山久美(公益財団法人スターダンサーズ・バレエ団代表・総監督)
小林紀子(小林紀子バレエ・シアター芸術監督)
牧 阿佐美(新国立劇場バレエ研修所長)
三谷恭三(牧阿佐美バレヱ団総監督)
公演監督:牧 阿佐美
舞台監督:森岡 肇
指揮:デイヴィッド・ガーフォース
演奏:新国立劇場アンサンブル
※一部録音音源による上演あり
【第1部】
『FANDANGOS Y BULERIAS』 演出・構成・振付:小島章司
カンテ:アギラール・デ・ヘレス,レージェス・マルティン,ラウル・オブレゴン
ギターラ:フェルミン・ケロル,フアン・ソト
新国立劇場バレエ研修所修了生・研修生
なぜフラメンコ? との疑問も、即興的なギター(ギターラ)と歌(カンテ)の魅力でいったん脇へ。孔雀が羽を拡げたような、ギラギラした自我(身体)の誇示がフラメンコの魅力だが、女性陣にはそれがない。胸の張りが不十分だし、踊りのパトスが客席まで届かない(少なくとも二階正面一列目までは)。男性では、背の高いダンサー(林田翔平)ともう一人(小野寺雄?)にその感触があった。でも、なぜフラメンコなのか。
『アントレ』 振付:G. アダモワ 音楽:A. ヴィヴァルディ
カザフスタン共和国国立 A. V. セレズニョフ記念アルマティ舞踊学校
『四季』の音楽に合わせたクラシカルな群舞。
『ハイオト』−人生 振付:Z. アクピロワ 音楽:ウズベク民謡
アヤジャン・ムカーノワ(カザフスタン共和国国立 A. V. セレズニョフ記念アルマティ舞踊学校)
民族衣装を身に着けた女性のソロ。
『エル・トゥラン』−闘いの荒野 振付:A. サディコワ 音楽:フォークロア・アンサンブル《トゥラン》
カザフスタン共和国国立 A. V. セレズニョフ記念アルマティ舞踊学校
騎馬民族としての出自を思わせる勇壮な踊り。
―休憩20分―
【第2部】
『くるみ割り人形』よりアダージォ 振付:V. ワイノーネン 音楽:P. I. チャイコフスキー
カザフスタン共和国国立 A. V. セレズニョフ記念アルマティ舞踊学校
ワイノーネン版のアクロバティックなアダージョは、招待された異国の劇場で研修生が踊るには少々酷か。だが、アイムハメトワ・ナゼルケはそれなりにしっかりと踊った。一方、プロのはずのオケはトランペットがよりによってクライマックスで外すとは。(〝新国立劇場アンサンブル〟の内実は顔ぶれを見るとほとんど東フィルか。)
『ジェンツァーノの花祭り』パ・ド・ドゥ 振付:A. ブルノンヴィル 音楽:E. ヘルステッド/H. S. パウリ
唐沢秀子★(バレエ・メンフィス)/ケンドル・ブリト(バレエ・メンフィス)
ブルノンヴィル的快楽を久しぶりに味わった。唐沢は愛らしい踊り、ブリトはタメのある柔らかい踊りで、魅せた。
『海賊』パ・ド・ドゥ 振付:M. プティパ 音楽:R. ドリゴ
小笠原由紀★(ドレスデン・ゼンパーオーパー・バレエ団)/クラウディオ・カンジアローシ(ドレスデン・ゼンパーオーパー・バレエ団)
小笠原は四方向(?)フェッテなどで技を見せたが、この役が合っているのか。カンジアローシは頑張って場を盛り上げた。
『白鳥の湖』第2幕アダージォ 振付:M. プティパ/L. イワーノフ 音楽:P. I. チャイコフスキー
堀口 純◎(新国立劇場バレエ団、新国立劇場バレエ研修所第2期修了生)/ 貝川鐵夫◎(新国立劇場バレエ団)
堀口は白鳥の衣装がよく似合う。脚にもっと雄弁さが出れば、ラインがよりくっきり見えるのだが。貝川はよくサポートしていた。ガーフォースのテンポはいくらなんでも遅すぎないか。
『ダイアナとアクティオン』グラン・パ・ド・ドゥ 振付:A. ワガノワ 音楽:C. プーニ
寺田 翠★(ウクライナ国立オデッサ歌劇場バレエ団)/大川航矢★(ウクライナ国立オデッサ歌劇場バレエ団)
外連味たっぷりの充実した踊り。寺田翠の開脚は尋常ではない。大川も高い技術全開で劇場を沸かせた。二人とも小ぶりだが、質の高い踊り手だ。
―休憩15分―
【第3部】
『サタネラ』 振付:M. プティパ 音楽:C. プーニ
寺田亜沙子◎(新国立劇場バレエ団、新国立劇場バレエ研修所第2期修了生)/奥村康祐(新国立劇場バレエ団)
今回もっとも印象的。寺田亜沙子の踊りには強度と様式性が感じられた。奥村はきれいな踊り。共にロマンティックな趣をよく出していた。カーテンコールでもお茶目な奥村。『ドン・キ』での共演が効いている。二人は場数が増えればさらによくなるはず。音楽は「ヴェニスの謝肉祭」を変奏したもの。
『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥ 振付:R. ヌレエフ 音楽:P. I. チャイコフスキー
オニール八菜★(パリ・オペラ座バレエ団)/フロロン・メラック(パリ・オペラ座バレエ団)
登場時の拍手はすごかった。パリ・オペラ座ブランドのオーラか。理想的な体型に恵まれた二人は、何もしなくとも佇まいだけでオーロラ姫とデジレ王子の気品が漂う。だが、踊りはこれからのようだ。特にメラックは。
『トリスタン』よりパ・ド・ドゥ 振付:K. パストール 音楽:R. ワーグナー
海老原由佳★(ポーランド国立歌劇場バレエ団)/ウラジミール・ヤロシェンコ(ポーランド国立歌劇場バレエ団)
海老原は思いきりのよい踊り。ヤロシェンコは別の作品でも見てみたい。二人ともキレのある踊り(古典ではどうなのか)。ラストでオケのホルンがロングトーンを三回とも・・・。
『タランテラ』 振付:G. バランシン 音楽:L. M. ゴットシャルク
佐久間奈緒★(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)/ツァオ・チー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
強度の高い踊り。チーのオッサンカットが気になるが。
『白鳥の湖』より "黒鳥のパ・ド・ドゥ" 振付:M. プティパ 音楽:P. I. チャイコフスキー
高橋絵里奈★(イングリッシュ・ナショナル・バレエ団)/アリオネル・ヴァーガス(イングリッシュ・ナショナル・バレエ団)
高橋はしっかりした踊りで、場数の多さを感じさせる。グランフェッテで少し息切れしたのは、ガーフォースのテンポが遅すぎたから? ヴァーガスも端正な踊りで悪くない。
【フィナーレ】
この公演は、公募により選ばれた「海外で活躍する日本人バレエダンサー」たちと、彼らを迎える劇場側のダンサーを同じ舞台で見ることができる。とても興味深い。
公募では「応募演目」を三作挙げるらしいので、「選考委員会」と公演監督が全体のバランス等に配慮して上演演目と順序を決めるのだろう(したがってもっとも得意の演目になるとは限らない)。「出演料」はパートナーにも支給されるとあるが、「交通費、宿泊費、衣裳や音源使用料および振付作品上演料等の必要経費は自己負担」との由(http://www.nntt.jac.go.jp/release/updata/30000536.html)。応募した本人は里帰りだからよいとして、問題はパートナーの諸経費だ。「交渉」次第とはいえ、それも本人が負担せざるをえないとなれば、やはり持ち出しになるのかも知れない。〝踊るためにお金を払う〟という日本のバレエ文化のいびつな〝慣例〟が、つい頭をよぎる。アマチュア団体ならともかく、「国立」の名を冠したこの劇場からは、その残滓すら一掃しなければならない。「新進芸術家育成事業」として文化庁からお金(税金)が投入されているのだから、よもや、そうした〝悪しき慣例〟を強化するような仕組みにはなっていないはずだ。そう信じたい。