新国立劇場オペラ 《トスカ》低血圧な音楽作り

プッチーニのオペラ《トスカ》の再演を観た(11月11日)。ごく簡単にメモしたい。

【指揮】沼尻竜典
【演出】アントネッロ・マダウ=ディアツ
【美術】川口直次
【衣裳】ピエール・ルチアーノ・カヴァロッティ
【照明】奥畑康夫
【トスカ】ノルマ・ファンティー
【カヴァラドッシ】サイモン・オニール
【スカルピア】センヒョン・コー
【アンジェロッティ】谷 友博
【スポレッタ】松浦 健
【シャルローネ】峰 茂樹
【堂守】志村文彦
【看守】塩入功司
【羊飼い】前川依子
【合 唱】新国立劇場合唱団
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

ノルマ・ファンティーニは二年前の《アンドレア・シェニエ》で見直した記憶があるが、今回はまずまずか。いつもながら、モティヴェーションが高く、観客を喜ばせようとベストを尽くす。舞台から人の好さを感じさせる。彼女は新国立の開場記念公演《アイーダ》に出ていたようだ。とすれば、ファンティーニは十五年に亘り、当劇場で唱っていることになる。高いモティヴェーションの理由のひとつかも知れない。
カヴァラドッシ役のサイモン・オニールは声が強く輝きもあるが、イタリアオペラに期待する感触とは異なる。指揮者の低温な音楽作りが影響したのか、少々冷たい感触が残った。もっと熱がほしい。プロフィールからすると、やはりドイツものの方が向いているのか。
スカルピア役のセンヒョン・コーは典型的な悪役造形。声量もたっぷりで、演技にも余裕が感じられる。実力十分の歌手だと思うが、喝采はいまひとつだった。本人は不満だろう。
堂守に扮した志村文彦は歌唱の輪郭がクリアで、好演した。アンジェロッティの谷友博は残念ながらその逆の印象。
沼尻竜典は東京フィルからきれいな音を引き出していたが、音楽が〝低血圧〟気味で、熱が生じない。歌手との合わせ方も、プッチーニの場合、オケが悲劇の主人公(歌い手)たちを迎えに行って手を差しのべるような、熱いパトスのやりとりがほしい。指揮者にブーイングが出たのもやむをえない。この指揮者にプッチーニを振らせたキャスティングに問題があったのではないか。