新国立劇場バレエ『シルヴィア』初日/はからずも小野の非凡さが/音楽(指揮者)は物足りない

新国立劇場でビントレーのバレエ『シルヴィア』初日を観た(10月28日)。まずは簡単なメモから。

音楽:レオ・ドリーブ
振付:デヴィッド・ビントレー
美術:スー・ブレイン
照明:マーク・ジョナサン
庭師/エロス:吉本泰久 伯爵夫人/ダイアナ:湯川麻美子 伯爵/オライオン:古川和則 家庭教師/シルヴィア:小野絢子 召使い/アミンタ:福岡雄大 ゴク:福田圭吾 マゴグ:八幡顕光 ネプチューン細田千晶 マーズ:長田佳世 アポロ:さいとう美帆 ジュピター:寺田亜沙子
指揮:ポール・マーフィー 管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

ニンフたちが群舞を踊るホルン主体の音楽は、ワーグナージークフリートの主題そっくり。踊りも音楽同様、活き活きした踊り。プロローグの終わりで現実からファンタジーへ。ただアミンタは虚構の世界へ越境していないのか。エロスの吉本は客席と虚構との橋渡しが実に巧みで、よく似合う。湯川はどっしりして、舞台の重心を担った。古川は伯爵としては少し物足りないが、オライオン(裸)になるとぴったり。福岡は、盲目にされてからのソロで切れ味を見せた。オケは、特に弦楽器の細やかさが足りない。たぶん指揮者の所為。
第2幕、小野がイタリアン・フェッテの入り(?)で足を滑らし派手に転んだ。右上階辺りから若い男(少なくとも未成熟な声)の悲鳴があがった(よほど小野に同化していたのだろう)。その後の小野は、慎重になるかと思いきや、大胆に踊り、アドレナリン全開のような動き。普通こうはいかないだろう。はからずも小野の非凡さを見ることが出来た。オケは1幕よりは響きがなじんできたが・・・。古川は荒々しさや重量感が出ていて好演。小野と古川の絡みのパ・ド・ドゥは見応え十分。男二人のコミカルな踊りで舞台に味を加えた。一方の八幡はすぐ分かるが、他方の太めが福田だとは。彼はこんなに大きかったのか。
福岡の踊りは第3幕でも充実していた。欲を言えばもっと様式性がほしいところだが。
今回は全体的にせかせかした印象だが、見所の多い充実した舞台。ダンサーは高度なテクニックとスタミナが要求されるだろう。
小野は、結局、最後まで快活に踊り切り、初役・初日・映像収録等々の重圧のなか、主役の責任をりっぱに果たした。カーテンコールで小野が指揮者を呼ぶ際、めずらしく感情が少し外に出ていた。小野絢子は技術の安定がピカイチで常にきっちりと踊り切る。今回の転倒はもちろん残念だったが、楷書の枠からはみ出す踊りを期待する者としては、これがよい切っ掛けになればと願わずにはいられない。
オケはやはり繊細さや優美さが乏しく、ドリーブの美しい音楽が十全に顕現せず終わった。残念。その責任は指揮者にあると思われる。ポール・マーフィーは、これまで『火の鳥』や『パゴダの王子』等、この劇場での出演はすべて聴いたが、あまり音楽性が感じられない。特に、オケから美しい音色を引き出すことにまったく関心がないかのようである。ビントレーが彼を選ぶからには、別の美点があるのかも知れない。ただ、指揮者にとっては、オペラであれバレエであれ、音楽性以上に大事な要素があるとは思われないのだが。
来週末は別のキャストで観る予定だが、どんな舞台を見せてくれるのかとても楽しみ。
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