新国立劇場バレエ団『コッペリア』2017 全3キャスト

いまプティ版『コッペリア』の無観客ライブ配信をやっている。新国立劇場初演は2007年(ルシア・ラカッラ&シリル・ピエール x3/本島美和&レオニード・サラファーノフ x2/寺島ひろみ&山本隆之 x1 +ルイジ・ボニーノ 全日/ガーフォース=東フィル 全6公演)。2009年に再演(タマラ・ロホ&ホセ・カレーニョ x2/本島美和&カレーニョ x1, 江本拓 x2/寺島ひろみ&山本隆之 x1/小野絢子&八幡顕光 x1+ルイジ・ボニーノ x5, ゲンナーディ・イリイン x2/ガーフォース=東フィル 全7公演)、2017年が3回目の再演(全4公演)だった。この演目は一度もブログに書いていないが、17年の短い手書きメモが見つかったので転記した。

コッペリア』を全キャストで観た(2017年2月24日 金曜 19:00, 25日 土曜 13:00, 18:00/新国立劇場オペラハウス)。 

この演目は久し振り[上記の通り8年振り]。三回目のはずだが初めて見るような感触。たしかにドリーブの音楽はいい。艶っぽく、親しみやすく、牧歌的。セットはシンプル。

初日[小野絢子&福岡雄大+ボニーノ]。スワニルダの小野はコケティッシュでコミカルな役柄にはまっている。テレビカメラが入っているので緊張しているだろう[約1ヶ月後にNHK BS プレミアムシアターで放映]。フランツの福岡は緊張した様子を少しも見せず堂々と踊る。大したもの。もっと軽みや洒脱さがほしいけど、それは贅沢か。スワニルダの友人たちはみな好いが、特に寺田亜沙子は先週のバランシン[「ヴァレンタイン・バレエ」の『テーマとヴァリエーション』]同様、迷いがなくノッている。木村優里も感じを出している。コッペリウスを踊るボニーノの細かなニュアンスはさすがという他ない。衛兵の福田圭吾はとてもよい。キレの好さ、といってもやりすぎない。ポール・マーフィー指揮の東響はまずまずか。弦楽器はさらに繊細さがほしいが、ニキティンのソロはよかった。リーフレットはあまりに貧弱[いまなお販売プログラムは復活してない]。

第2幕。コッペリウスの家の中。第1幕がカミテに平行移動したかたち。鍵を拾ったスワニルダと友人たちはその中へ侵入。怖がりながらも好奇心からあちこち覗く娘たち。コミカルでカワイイ踊り。同時に人形的なのが意味深。そこへコッペリウスが帰宅する。コッペリウスとコッペリア(自動人形)の踊りは面白い。やがてスワニルダが人形と入れ替わりパ・ド・ドゥを踊る。オーボエ、トランペット。コッペリウスの喜び。孤独な老人の望外の、奇跡的ともいえる喜び。グッときた。小野も無心で応じる。スワニルダと人形が別人だと分かり、裸の人形を抱いて崩れる。ボニーノの粋な演技と踊りが舞台に生気を与えた。

広場。若い男女がペアで踊る。男の〝コマネチ〟まがいの動きは可笑しい[これを最初にやるのは第1幕のチャールダッシュの最後]。スワニルダとフランツも。ここでテーマの入りにヴァイオリン群が入れなかった。ひどい。指揮のせいか。二人の素晴らしい踊り。ラストに近づくと、群舞のなかにコッペリウスが人形を抱いて入ってくる。やがて人形がばらばらに。すごい作品。何度もカーテンコールが繰り返された。ボニーノの存在が大きい。

25日マチネ[米沢唯&井澤駿+菅野英男]。11列右寄り。米沢のスワニルダはプティのニュアンスはやや薄めだが、綺麗な踊り。対他的なやりとりが増すにつれ、コミカルな味が出てきた。井澤フランツは素晴らしい。これまで課題だった〝意志〟が出てきた。踊りは大きいし、綺麗で華もある。主役の演技。ヴァリエーションは素晴らしかった。菅野のコッペリウスはボニーノを見た後だと細かなニュアンスに物足りなさもあるが、それなりに踊り演技してはいる。友人では原田舞子が目に付いた。衛兵の福田圭吾は一つ抜きん出ている。井澤[衛兵]は福田と比べれば・・・[判読不能]下がるとしても出来栄えでは文句なし。

プティ独特の腰を振る、一方の肩を回す、頭をぷるぷる揺する、投げキスする、大きく開けた口を掌で押さえる、足を床に滑らせる等々。チャルダーシュ、ラッスーは男たち、フリスカで女たちが加わる。

第2幕。娘たちが怖がりながら踊る。コケットリーが出る踊り。人形振りとコケットリー。戻ってきたコッペリウス。コッペリア(人形)とパーティ。シャンパン。踊り。菅野はボニーノよりノーブル。・・・[判読不能]夢中で踊るときと、あーあ、所詮は人形だ、つまらない、のメリハリがよい。おかしみ、ペーソス。

フランツ登場。菅野と井澤のからみ、よい。なにが? 血の通った対話が成立した。菅野の力(二人は同門なのか)。コッペリアになりすました米沢スワニルダと菅野コッペリウスのやりとり。人形振りは半端ではない。井澤フランツの魂が吹き込まれて行くにつれ、コッペリアに扮したスワニルダ(米沢)は人間らしくなっていく。が、実は振りをしているだけの素の部分との演じ分けが素晴らしい。二人のパ・ド・ドゥ。涙が出た。(なぜ? 生きているから?)。コッペリアに扮したスワニルダのヴァリエーションは圧巻。米沢唯のよさが十二分に出た。

広場で。二人の踊り。フランツの踊り。カッコイイ。大きさ。出来栄えのよさ。裸の人形を抱いてコッペリウス登場。ボニーノのようなペーソスは出なかったが、考えさせられた。

オケは今日の方がよい。だが、全体的に透明感や叙情的な味が薄い。

25日ソワレ[池田理沙子&奥村康祐+菅野英男]。奥村フランツはよく動く。癖のある回転は残念。池田スワニルダは何でも・・・[判読不能]こなせるが、生のハラハラ感(どうなるのか)や面白みがもっと出ると好い。菅野コッペリウスは鍵を落とすシーンでハンカチからなかなか落ちず、振るい落とした! 疲れが出てきた(見る方の話[←ひどいな])。