神奈川県民ホール 開館50周年記念 オペラシリーズVol. 2 シャリーノ《ローエングリン》2024

シャリーノ作曲《ローエングリン》+《⽡礫のある⾵景》初日を観た(聴い)た(10月5日 土曜 17:00/神奈川県民ホール 大ホール)。簡単にメモする。

《⽡礫のある⾵景》(2022年)[⽇本初演]初演:2022 年11 月3 日 ヴィリニュス(リトアニア

ローエングリン》(1982-84年)[⽇本初演]⽇本語訳上演*⼀部原語上演:原作:ジュール・ラフォルグ/音楽・台本:サルヴァトーレ・シャリーノ/初演:1984年9⽉15⽇カタンツァーロ(イタリア)(初版初演:ミラノ1983年1⽉15⽇)/修辞:大崎 清夏/演出・美術:吉開 菜央・山崎 阿弥

指揮:杉山洋一/エルザ役:橋本 愛/演奏(○=「ローエングリン」◇=「瓦礫のある風景」:成田達輝 ○◇(ヴァイオリン/コンサートマスター)、百留敬雄 ○(ヴァイオリン)、東条 慧 ○(ヴィオラ)、笹沼 樹 ○◇(チェロ)、加藤雄太 ○◇(コントラバス)、齋藤志野 ○◇(フルート)、山本 英 ○(フルート)、鷹栖美恵子 ○◇(オーボエ)、田中香織 ○◇(クラリネット)、マルコス・ペレス・ミランダ ○(クラリネット)、鈴木一成 ○(ファゴット)、岡野公孝 ○(ファゴット)、福川伸陽 ○(ホルン)、守岡未央 ○(トランペット)、古賀 光 ○(トロンボーン)、新野将之 ○◇(打楽器)、金沢青児 ○(テノール)、松平 敬 ○(バリトン)、新見準平 ○(バス)、山田剛史 ◇(ピアノ)、藤元高輝 ◇(ギター)

振付:柿崎麻莉子/照明:高田政義/音響:菊地 徹/衣裳:幾左田千佳/副指揮:矢野雄太/音楽アシスタント:小松 桃、市橋杏子、眞壁謙太郎/演出助手:田丸一宏/スタイリング:清水奈緒美/ヘアメイク:石川ひろ子/舞台監督:山貫理恵/ステージマネージャー:杉浦友彦/プロダクションマネージャー:大平久美/制作:神奈川県民ホール、山根 郎、坂元恵

ローエングリン

あまちゃん』(2013)に出ていたあの橋本愛がここまでやれるとは!

大きめのチュチュで白鳥のコスチュームに素足。薄い紗のカーテン。後ろ向きで立ち、やがてこちらを向き、土俵より大きめの円形池(鏡)のなかへ(水が浅めに溜めてある)。その池が背後のカーテンに反射すると、水紋の動きが美しい。まるで月が輝いているかのよう。

橋本エルザは、はじめ息を吐く音…鳥の鳴き声のような喚声…センテンスを早口コトバでグリッサンドのように上昇音型でまくし立てる。何度も。見事。手の動きもよい。彼女の声に楽器群が音を添えたり、エコーのように応じたり…。

中間部は橋本の一人舞台。原作ラフォルグ「パルシファルの子、ロオヘングリン」(1886/吉田健一訳)のエルザ(地の文)とローエングリンを、すべて一人で演じる。途中、カーテンの向こうにベッドが見える。初夜のベッドかと思いきや、精神病院の病室ベッドらしい。すべては少女(まだ18歳にもならない)の〝妄想〟なのだろう。

途中でチュチュを脱ぎ捨てる。ラストはベッドへ赴き、枕を取り、また池の中へ。枕を抱いたまま童謡を歌う。その枕は空中へ上がっていく。暗転。

後半で上から肌色の羽毛でできた釣鐘のような物体が降りてきて、やがてまた上へ…。あれは何だったのか。羽毛のような材質からすると白鳥の胴体のようでもあるし、形状からは「道成寺」の鐘のようでもある。娘を裏切った山伏が鐘の中へ逃げ込む話は、ローエングリンが巫女のエルザから白鳥(枕)に乗って逃げ出す本作と似ていなくもない。もちろんエルザの方は大蛇となって隠れた男を焼き殺したりしないが、同等のパトスを橋本エルザの歌唱と演技に感じた。

演出・声のそれ・美術(吉開 菜央・山崎 阿弥)、動き(振付 柿崎麻莉子)、言葉/修辞(大崎 清夏)みなとてもよい。演奏もsure(指揮 杉山洋一)。何より橋本愛の才能に驚かされた。

少女の騎士(王子)願望。その騎士(ローエングリン)が〝典型的〟な女性(ふくよかな腰)を望むが、痩せた硬い腰の持ち主の自分は拒絶され…。これがすべて少女のモノローグとして語られ歌われる。ヴァーグナー版(1850)との落差も含め、とても面白い。

たまたま翌日ベッリーニ夢遊病の女》(1831)を見たが、ドニゼッティ《ルチア》(1835)も含め、コロラトゥーラと同等のものを、橋本エルザの超絶発声に感じた。なるほど、アミーナやルチアの歌唱を現代化するとこうなるのかと。

前半の《⽡礫のある⾵景》は25分ほどの曲だが、ロシアのウクライナ侵攻が念頭にあるらしい。最初、空調の音が気になった。効果音かと…。