新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』上田公演 2021【追記】

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』の上田公演を観た(11月7日(日)14:00/サントミューゼ 大ホール)。簡単な感想メモを記す。この版については初台の本公演メモと共に、後ほどアップしたい(本公演 全4キャストの感想メモ)。

振付:マリウス・プティパ&レフ・イワーノフ+ピーター・ライト/演出:ピーター・ライト/共同演出:ガリーナ・サムソワ/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/美術・衣裳:フィリップ・プロウズ/照明:ピーター・タイガン/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/[主要キャスト]オデット&オディール:米沢 唯/ジークフリード王子:速水渉悟(怪我のため降板)→福岡雄大/王妃:本島美和/ロットバルト男爵:中家正博/ベンノ:中島瑞生/クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、池田紗弥/ハンガリー王女:廣田奈々/ポーランド王女:飯野萌子/イタリア王女:奥田花純

速水渉悟が怪我で降板し、米沢・速水の舞台は実現せず残念だった。結局、初台と同じ米沢・福岡のペアとなったが、二人の2回目(10月30日)が岡田利規の演出オペラ《夕鶴》と重なったため、上田で改めて見られてよかったと思う。

前奏曲の葬列。王妃(本島)の嘆きが初めて見えた。席は18列だがピットの奥行きがあまりない分、ステージが近く感じた【この公演は客を50%の市松模様に制限】。第1幕の王子の福岡雄大は、マリッジブルーからわりあい早く気張らしへ転換? ベンノの中島瑞穂は手足が長く華やか。踊りもよい。ただ、演技は応答の動きが小さく分かりにくい。これからか。第2幕。福岡王子はオデットへの思いをけっこう出していた。二人が見つめ合う頻度も高め。米沢唯のオデットは初台同様しなやかで伸びやか。マイムの美しさと雄弁は特筆もの。ちょっとユーモアも感じる(年長者が年下に諭してるような感じも)。速く強い動きは強度が高い。ジークフリードへの思いは募るが、どこか超然さも残している。完全に人ではないから? 悲劇的結末への予感を表出?

オケは編成を若干縮小か(弦バス3名)。すっきりした響きで初台とはひと味違う。

第3幕ハンガリー王女の廣田奈々はアウラが濃い。ポーランド王女の飯野萌子は踊りが自在でからだ全体の表情が豊か。イタリア王女の奥田花純は相変わらず勘がよく、運動神経のよい動き。チャルダッシュ細田・木下)は相互性の高い踊り(男女が互いを支点に…)。ナポリはタンバリンを男女で交互に。オディール(米沢)登場。ジークフリード(福岡)にエスコートされシモテから退場。それらはすべてオデットとは別人(悪魔)のあり方。スペインの男性の帽子は悪魔? パ・ド・ドゥ。オディールの王子へのもたれ掛かり方! いかにも誘惑。ロットバルトに囁いたあとの動きがとても素早い。飛びつく動き。バランス。すべて悪魔の娘。けっして相手に気を許さない。福岡のヴァリエーションは抑えたロイヤル(王子)の踊り。そこにオディール(オデット)への思いがつい出てしまう。好い。米沢のフェッテは豪快とも違う。その後の動きもすべて、あくまで悪魔の娘として王子を騙すためのもの。ロットバルト中家正博の芝居は徹底している。フェッテの直前で、オディールに出の合図を送っていた(初めて気づいた)。ヴァイオリンソロは音程がややフラット気味。

第4幕。スモークの量が初台より少なめ。というか、奥行きが短いのか。いやコール・ドを1列減らした(30→24)ためらしい。オディールの「身投げします」のマイムが弱々しい。それほど打ちひしがれているのか。ジークフリードとのパ・ド・ドゥ。福岡は初日より感情を表に出そうとしている(出し方がちょっとぎこちないけど)。パ・ド・ドゥののち、オディールが再度マイムし湖に身を投げる。飛び込み方もよい。ロットバルトとジークフリードとの闘い。加勢する白鳥たち。フクロウの頭をもぎ取り、慌てた隙に飛び込むジークフリード(飛び込み方はいまひとつ)。ロットバルトが白鳥たちに追い詰められるシーン。中家は初台のときほど演技する面積が位置的に残ってなかった。ベンノ中島がカミテから登場。王子の行方を白鳥たちに尋ねるが、あとの応答が弱い。湖の向こうに二人が仲良く佇む姿。ベンノがジークフリードの亡骸を抱いて正面から前へ。何度見てもグッとくる。

会場に大勢居た子供たちはどう思ったかな。すっきりしたオケは悪くない。冨田実里は初台よりも自分の棒を振っていた印象。初めからひとりで仕上げていたらさらに違っていただろう。

【追記 サントミューゼは新国立劇場とよく似ている。それもそのはず、どちらも同じ建築家(松本市出身の柳澤孝彦)が手がけたという。大ホールのキャパは1530席(ピット時は1376席)で4階席がないため新国立の1800席よりは少なめだが、インティメットな感触でとても居心地が好かった。舞台の間口もほぼ同じぐらいか(奥行きはさすがに新国立ほどではなさそう)。他に320席の小ホールや大ホールの主舞台と同じ広さの大スタジオ等もあるようだ。また市立美術館が隣接している。山や河など豊かな自然に恵まれているし、また訪れてみたいと思わせる劇場だった。】

iaku 新作『フタマツヅキ』2021【追記】

横山拓也(iaku)作・演出の新作『フタマツヅキ』2日目を観た(10月29日 金曜 19:00/シアタートラム)。

家族がテーマ。もしくは、夢を持つことの世代間ギャップ。噺家くずれのダメ親父と彼をけなげに支える母親。そんな父をひとり息子は嫌っている。この時間軸に、二人の出会いから一緒に暮らし始めた過去の時間が加わり、現在の時間と交互に、ときに交錯し、進行する。「二重の時間軸」とリズミカルな「場面転換」は横山演劇の特色だし、魅力でもある。以前はこうした仕掛け自体に、受け手は(恐らく創り手も)演劇的な喜びを見出していた。それが、仕掛けは次第に手段として後景に退き、ドラマの中身に重点がシフトしてきた印象だ。以下、簡単にメモする。

鹿野克[すぐる](開店休業中の落語家・二荒亭山茶花):モロ師岡

鹿野花楽(克と昌子の息子):杉田雷麟[らいる]

鹿野雅子(克の妻):清水直子

竹橋由貴(花楽の幼なじみ):鈴木こころ

沢渡裕美(ギャラリーサワタリのオーナー):ザンヨウコ

二荒亭茶ノ木(二荒亭山茶花の弟弟子):平塚直隆(オイスターズ)

スグル:長橋遼也(リリパットアーミーⅡ) 

マサコ:橋爪未萠里 

舞台の中央には、ちゃぶ台の狭い和室と小さなテーブルセットのダイニングがある。襖で隔てたこの二間続きのセットと、これを取り巻くなにもない空間が演技場となる。横山の舞台は、従来、洗練された段差のあるセットへ役者がテンポよく出入りし移動することで、小気味のよい場面転換を実現していた。今回は、中央のフタマツヅキのセットを役者が手動で回転させて場面転換する。少し野暮ったい感じだが、その分、生な感情がじかに湧いてくる気もした。

モロ師岡は少し枠からはみ出しがちだが、元芸人で噺家の独特な味はよく出ていた。初舞台という杉田雷麟は花楽役の真っ直ぐな性格をよく生きた。清水直子は〝無職〟の夫を甲斐甲斐しくいたわる妻役の演技が見事。母の甲斐甲斐しさに息子の花楽は苛立つが、花楽の誕生前の時間軸(芸人の克を応援するのが雅子の生きがいに…)から、観客は理解できる仕掛け。由貴役の鈴木こころには何度も笑わされた。花楽の幼なじみで、いつかエステティシャンになり裕福になって好きな人(花楽らしい)と暮らすのが夢。現実は回転寿司のバイトリーダーで、専門学校に行くお金もないが、けなげに生きる20歳の元気な女性。花楽に放つ軽口は救いとしての笑いを生む。沢渡裕美のザンヨウコは現実のギャラリーオーナーにそっくり。過去の克との微妙な関係を絶妙に匂わせた。ラスト近くで克(モロ)はテーブルの上に座り、襖の向こうで泣き崩れる妻に向けて「初天神」を一心に語る。噺のなかの息子〝金坊〟のセリフは、子供時分に覚えた花楽に言わせる。初めは嫌がるが次第に本気でやり始める花楽。本作のクライマックスだ。このとき、側でかつての弟弟子(平塚直隆)が口をあんぐり開けて聞いている、その表情が実に秀逸だった。過去のスグル(克)を演じた長橋遼也はめっちゃうまい。マサコ(雅子)役の橋爪未萠里は横山演劇に必須の女優。二人の優れた演技が本筋を見事に歴史化していた。

文学座公演の『ジャンガリアン』も横山氏の新作だ。とても楽しみ。

【追記】横山演劇の「二重の時間軸」が興味深いのは、第一に、二つの時間が積層し攪乱される点。観客は当初それが異なる時間軸と分からないまま見続ける。やがて、あれはそういうことだったのか、とあとで納得することになる。これは現実世界のメタファーだ。ひとは簡単に分かり合えないし、他人を理解するにはかなり時間がかかるだろう。二つ目は、現在の時間に生きる人間の身体が、過去に生きた人間の身体と、同じ平面に現前し、交差し、場合によっては、両者が(暗黙の)対話を交わすのを、観客が目の当たりにできる点。そこから、演劇ならではの希有な喜びと思考が生まれると思う。

11月のフィールドワーク予定 2021【コメント付】

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』の上田公演で米沢唯は速水渉悟と組むはずが、速水が怪我で降板。本公演同様、福岡雄大と踊ることになった。大変残念だが、若い速水は今後のバレエ団を、というか日本のバレエ界を背負って立つべき逸材だ。この際じっくり養生して欲しい。横山拓也(iaku)の『フタマツヅキ』に続き、文学座公演の『ジャンガリアン』も新作だ。横山演劇の肝である「場面転換の妙」と「二重の時間軸」が、後者ではどんな舞台を生み出すのか。楽しみにしている。

2日(火)14:00 新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』振付:マリウス・プティパ&レフ・イワーノフ+ピーター・ライト/演出:ピーター・ライト[主要キャスト]オデット&オディール:柴山沙帆/ジークフリード王子:井澤 駿/王妃:本島美和/ロットバルト男爵:中島峻野/ベンノ:福田圭吾/クルティザンヌ(パ・ド・カトル):奥田花純、広瀬 碧/ハンガリー王女:中島春菜/ポーランド王女:根岸祐衣/イタリア王女:赤井綾乃/指揮:ポール・マーフィー @新国立劇場オペラハウス

5日(金)17:00 チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien 新作音楽劇 ワークインプログレス公演/作・演出:岡田利規/作曲:藤倉 大/出演:青柳いづみ、朝倉千恵子(ワークインプログレス公演は出演なし)、大村わたる、川﨑麻里子、椎橋綾那、矢澤 誠/演奏:Klangforum Wien(映像出演)、吉田 誠(クラリネット)、アンサンブル・ノマド弦楽四重奏)/ドラマトゥルク:横堀応彦/舞台監督:川上大二郎/音響:白石安紀(石丸組)/サウンドデザイン:永見竜生(Nagie)/照明:髙田政義(RYU)/映像:山田晋平(青空)/撮影:冨田了平:宣伝美術:大竹竜平/プロデューサー:黄木多美子、水野恵美/プロダクションマネージャー:遠藤七海/制作デスク:斉藤友理/主催:独立行政法人国際交流基金/企画制作:一般社団法人チェルフィッチュ、株式会社precog(本公演は2023年にウィーン芸術週間委嘱作品として発表予定)@タワーホール船堀 小ホール

7日(日)14:00  新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』/オデット&オディール:米沢 唯/ジークフリード王子:速水渉悟(怪我のため降板)→福岡雄大/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団 @サントミューゼ(上田市)大ホール

12日(金)19:00 新国立劇場 演劇『イロアセル』[フルオーディション4]作・演出:倉持 裕/美術:中根聡子/照明:杉本公亮/映像:横山 翼/音響:高塩 顕/音楽:田中 馨/衣裳:太田雅公/ヘアメイク:川端富生/振付:小野寺修二/演出助手:川名幸宏/舞台監督:橋本加奈子/出演:伊藤正之 東風万智子 高木 稟 永岡 佑 永田 凜 西ノ園達大 箱田暁史 福原稚菜 山崎清介 山下容莉枝 @新国立小劇場

15日(月)18:30 文学座公演『ジャンガリアン』作:横山拓也/演出:松本祐子/出演:たかお鷹 高橋克明 林田一高 奥田一平 川合耀祐 吉野由志子 金沢映実 吉野実紗/美術:乘峯雅寛/照明:賀澤礼子/音響:丸田裕也/衣裳:山下和美/舞台監督:加瀬幸恵/演出補:五戸真理枝/制作:田中雄一朗、最首志麻子、白田 聡/宣伝美術:チャーハン・ラモーン @紀伊國屋サザンシアター

18日(木)16:00 オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World リヒャルト・ワーグナーニュルンベルクのマイスタージンガー》[新制作]全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:大野和士/演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク/美術:マティス・ナイトハルト/衣裳:シビル・ゲデケ/照明:ファビオ・アントーチ/振付:ラムセス・ジグル/演出補:ハイコ・ヘンチェル/舞台監督:髙橋尚史/[キャスト]ハンス・ザックス:トーマス・ヨハネス・マイヤー/ファイト・ポーグナービャーニ・トール・クリスティンソン(本人の都合で降板)→ギド・イェンティンス/クンツ・フォーゲルゲザング:村上公太/コンラート・ナハティガル:与那城 敬/ジクストゥス・ベックメッサーアドリアン・エレート/フリッツ・コートナー:青山 貴/バルタザール・ツォルン:菅野 敦(下記交代から玉突き式に)→秋谷直之/ウルリヒ・アイスリンガー:鈴木 准/アウグスティン・モーザー:伊藤達人(ダーヴィッド役の変更により)→菅野 敦/ヘルマン・オルテル:大沼 徹/ハンス・シュヴァルツ:長谷川 顯/ハンス・フォルツ:妻屋秀和/ヴァルター・フォン・シュトルツィング:トミスラフ・ムツェック(健康上の理由で降板)シュテファン・フィンケ/ダーヴィット:望月哲也(健康上の理由で降板)→伊藤達人/エーファ:林 正子/マグダレーネ:山下牧子/夜警:志村文彦/合唱指揮:三澤洋史/合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団/管弦楽東京都交響楽団/協力:日本ワーグナー協会/令和3年度(第76回)文化庁芸術祭協賛公演/文化庁委託事業「令和3年度戦略的芸術文化創造推進事業」/新国立劇場東京文化会館ザルツブルクイースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の国際共同制作 @新国立劇場オペラハウス

19日(金)19:30 N響 #1943 定演〈池袋Cプロ〉ブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンチック」指揮:ファビオ・ルイージ東京芸術劇場コンサートホール

N響は優秀。緻密で強い演奏に感心はしたが、からだは反応せず。もっと森の匂いや気配を感じる弾性のある音が聴きたかったらしい。開演前のブルックナー《弦楽五重奏曲 ヘ長調》 第3楽章は好かった。ブルックナー節を室内楽で満喫した。/ふっくら感の乏しい押し潰すようなルイージの強音は、自分の好みとは合わなかった。彼の指揮を生で聴いたのは2006年 新国立劇場《カヴァレリア・ルスティカーナ&道化師》以来。[と思いきや、2007年にドレスデン国立歌劇場(ゼンパーオーパー)の来日公演で《ばらの騎士》と《サロメ》を聴いていた。]ブロムシュテットでは音の響きに思わず頬が緩んだが、今後ルイージの作る音楽に自分のからだがどう反応するか。確かめたい。(11/20ツイート)

20日(土)15:00 「砂川涼子 ソプラノ・リサイタル」W. A. モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より「岩のように」 歌劇《フィガロの結婚》より「恋人よ、早くここへ」 歌劇《イドメネオ》より「お父様、兄弟たちよ、さようなら」 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》より「恋人よ、さあこの薬で」/P.マスカーニ:「セレナータ」 「花占い」 「月」/R.シュトラウス:「朝」/R.レオンカヴァッロ:「朝」/O.レスピーギ「夜」/A.ドヴォルザーク:歌劇《ルサルカ》より「月に寄せる歌」/ピアノ:園田隆一郎 @成城ホール

26日(金)19:00 BCJ #145 定演〈待降節カンタータ〉教会カンタータ・シリーズ vol. 79 J. S. バッハ:トッカータとフーガ ヘ長調 BWV 540*, カンタータ第61番《いざ来ませ、異邦人の救い主よ》BWV 61, クリスマス・オラトリオ BWV 248から第1部、第2部、第3部/指揮:鈴木優人/ソプラノ:森麻季/アルト:アレクサンダー・チャンス(入国制限の隔離措置の緩和が見通せないため)→青木洋也/テノール:櫻田 亮/バス:ドミニク・ヴェルナー/オルガン:鈴木雅明*/合唱・管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

27日(土)14:00 新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future: 2021 Selection/照明:眞田みどり/音響:仲田竜/Choreographic Group アドヴァイザー:遠藤康第1・2部新国立劇場バレエ団 Choreographic Group 作品より)『Coppélia Spiritoso』振付:木村優/音楽:レオ・ドリーブ 他/出演:木村優子 木村優里|『人魚姫』振付:木下嘉人/音楽:マイケル・ジアッチーノ/出演:米沢 唯 渡邊峻郁|『コロンバイン』(「DANCE to the Future 2020」未公開作品)振付:髙橋一輝/音楽:ソルケット・セグルビョルンソン/出演:池田理沙子 渡辺与布 玉井るい 趙 載範 佐野和輝 髙橋一輝|『≠(ノットイコール)』振付:柴山紗帆 益田裕子 赤井綾乃 横山柊子/音楽:渡部義紀/出演:益田裕子 赤井綾乃 横山柊子 柴山紗帆|『神秘的な障壁』(「DANCE to the Future 2020」未公開作品)振付:貝川鐵夫/音楽:フランソワ・クープラン/出演:米沢 唯(27日)/木村優里(28日)|『Passacaglia』振付:木下嘉人/音楽:ハインリヒ・ビーバー/出演:小野絢子 福岡雄大 五月女遥 木下嘉人||第3部 ナット・キング・コール組曲(DANCE to the Future 2011にて初演)振付:上島雪夫/音楽・歌:ナット・キング・コール ほか/照明:杉浦弘行/衣裳:有村 淳/出演:本島美和 寺田亜沙子 奥田花純 細田千晶 益田裕子 今村美由起 貝川鐵夫 福田圭吾 小野寺 雄 福田紘也 中島瑞生 渡部義紀 赤井綾乃 朝枝尚子 徳永比奈子 廣田奈々 @新国立中劇場

 

10月のフィールドワーク予定 2021【再追記】

今月は楽しみな演目が揃った。大好きなロッシーニの《チェネレントラ》を新国立劇場が新制作する。ただ、イタリア人指揮者が「本人の都合」でキャンセルし(14日間隔離の都合か)、代わりに振るのがワグネリアンなのは少し心配だが(ゼッダ氏の薫陶を受けた園田隆一郎はスケジュールが合わなかったのか…)。

新国立劇場バレエ団がピーター・ライト版『白鳥の湖』の新制作をついに上演する。昨秋 吉田都芸監着任の冒頭に予定されていた演目だ。どんな舞台になるのか(来月は米沢唯と速水渉悟が主演する舞台も上田市で見る予定)。【←残念ながら速水は怪我で降板。米沢は上田でも福岡雄大と組むことに…】【主要キャスト等を追記した】

N響池袋定期で94歳のブロムシュッテットが登場し、ドヴォルザークの8番等を振る。岡田利規が演出するオペラ《夕鶴》も楽しみでしかない。

演劇ではiakuの新作『フタマツヅキ』と劇団銅鑼が手がける小山祐士の一幕物『従姉妹たち』がある。

1日(金)19:00 新国立劇場オペラ〈新制作〉ロッシーニチェネレントラ》全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉令和3年度(第76回)文化庁芸術祭オープニング・オペラ/指揮:マウリツィオ・ベニーニ(「本人の都合により」キャンセル)→城谷正博/演出:粟國 淳/美術・衣裳:アレッサンドロ・チャンマルーギ/照明:大島祐夫/振付:上田 遙/舞台監督:髙橋尚史/[キャスト]ドン・ラミーロ:ルネ・バルベラ/ダンディーニ:上江隼人/ドン・マニフィコ:アレッサンドロ・コルベッリ/アンジェリーナ:脇園 彩/アリドーロ:ガブリエーレ・サゴーナ/クロリンダ:高橋薫子/ティーズ:齊藤純子/合唱指揮:三澤洋史/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

3日(日)14:40 映画『コレクティブ 国家の嘘』監督:アレクサンダー・ナナウ/製作:アレクサンダー・ナナウビアンカ・オアナベルナール・ミショーハンカ・カステリコバ/脚本:アントアネタ・オプリアレクサンダー・ナナウ/撮影:アレクサンダー・ナナウ/編集:アレクサンダー・ナナウジョージ・クレイグダナ・ブネスク/音楽:キャン・バヤニ/出演:カタリン・トロンタンカタリン・トロンタン カメリア・ロイウカメリア・ロイウ テディ・ウルスレァヌテディ・ウルスレァヌ ブラド・ボイクレスクブラド・ボイクレスク ナルチス・ホジャナルチス・ホジャ/2019年製作/109分/ルーマニアルクセンブルク・ドイツ合作 @シアター・イメージフォーラム

【7日(木)16:00 映画『由宇子の天秤』監督・脚本・編集:春本雄二郎/プロデューサー:春本雄二郎 松島哲也 片渕須直/ラインプロデューサー:深澤知/キャスティング:藤村駿/撮影:野口健司/照明:根本伸一/録音:小黒健太郎/整音:小黒健太郎/美術:相馬直樹/装飾:中島明日香/小道具:福田弥生/衣装:星野和美/ヘアメイク:原田ゆかり/音響効果:松浦大樹/医療監修:林恭弘/ドキュメンタリー監修:鎌田恭彦 清水哲也/メイキング:荒谷穂波/[配役]木下由宇子:瀧内公美/小畑萌:河合優実/小畑哲也:梅田誠弘/長谷部仁:松浦祐也/矢野志帆:和田光沙/小林医師:池田良/池田:木村知貴/前原滉/永瀬未留/河野宏紀/根矢涼香/富山宏紀:川瀬陽太/矢野登志子:丘みつ子/木下政志:光石研ユーロスペース←追記

【11日(月)14:00 新国立劇場オペラ〈新制作〉ロッシーニチェネレントラ》全2幕 @新国立劇場オペラハウス】←好いプロダクションだったので3階から再見

21日(木)19:00 劇団銅鑼 Ⅼabo企画 #1〈ラボ自主企画公演〉『従姉妹たち』作:小山祐士/演出:川口圭子/[出演]馬渕真希 永井沙織 福井夏紀 髙辻知枝 宮﨑愛美/[スタッフ]美術設計:村松眞衣/照明プラン:高見澤絹/照明オペレータ:亀岡幸大/音響プラン:真原孝幸/音響オペレータ:中島沙結/大道具:鈴木正昭/チラシデザイン・題字:猪瀬光博/方言指導:(兵庫弁)北畠愛美+(広島弁)干畠 悠/舞台監督:説田太郎/企画制作・美術プラン・チラシ絵:川口圭子@ 劇団銅鑼アトリエ

22日(金)19:30 N響 #1940 定演〈池袋Cプロ〉グリーグ:「ペール・ギュント組曲 第1番 作品46/ドヴォルザーク交響曲 第8番 ト長調 作品88/指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット @芸劇コンサートホール

23日(土)14:00 新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』令和3年度(第76回)文化庁芸術祭主催公演/振付:マリウス・プティパ&レフ・イワーノフ+ピーター・ライト/演出:ピーター・ライト/共同演出:ガリーナ・サムソワ/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/美術・衣裳:フィリップ・プロウズ/照明:ピーター・タイガン/[主要キャスト]オデット&オディール:米沢 唯/ジークフリード王子:福岡雄大/王妃:本島美和/ロットバルト男爵:貝川鐵夫/ベンノ:速水渉悟(怪我のため降板)→木下嘉人/クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、柴山紗帆/ハンガリー王女:廣田奈々/ポーランド王女:飯野萌子/イタリア王女:奥田花純/指揮:ポール・マーフィー/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

24日(日)14:00 新国立劇場バレエ団『白鳥の湖[主要キャスト]オデット&オディール:小野絢子/ジークフリード王子:奥村康祐/王妃:本島美和/ロットバルト男爵:中家正博/ベンノ:福田圭吾/クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり/ハンガリー王女:細田千晶/ポーランド王女:池田理沙子/イタリア王女:五月女遥/指揮:ポール・マーフィー 新国立劇場オペラハウス

29日(金)19:00 iaku『フタマツヅキ』作・演出:横山拓也/出演:モロ師岡 杉田雷麟 清水直子 橋爪未萠里 ザンヨウコ 平塚直隆 長橋遼也 鈴木こころ@シアタートラム

30日(土)14:00 全国共同制作オペラ 東京芸術劇場シアターオペラvol.15 歌劇『夕鶴』(新演出)全1幕(日本語上演 英語字幕付き)作曲 : 團伊玖磨/指揮:辻 博之/演出:岡田利規/[スタッフ]美術:中村友美/衣裳:藤谷香子/照明:髙田政義/音響:石丸耕一/映像:山田晋平/ドラマトゥルク:横堀応彦/舞台監督:酒井 健/コレペティトゥール兼音楽コーチ:岩渕慶子/演出助手:生田みゆき、成平有子 /[出演]つう:小林沙羅(ソプラノ)/与ひょう:与儀 巧(テノール)/運ず:寺田功治(バリトン)/惣ど:三戸大久(バスバリトン)/ダンス:岡本 優(TABATHA)、工藤響子(TABATHA)/子供たち:世田谷ジュニア合唱団(指導:掛江みどり)/管弦楽:ザ・オペラ・バンド @芸劇コンサートホール

31日(日)14:00  新国立劇場バレエ団『白鳥の湖[主要キャスト]オデット&オディール:木村優里/ジークフリード王子:渡邊峻郁/王妃:本島美和/ロットバルト男爵:中島駿野/ベンノ:木下嘉人/クルティザンヌ(パ・ド・カトル):奥田花純、広瀬 碧/ハンガリー王女:中島春菜/ポーランド王女:根岸祐衣/イタリア王女:赤井綾乃/指揮:冨田実里 新国立劇場オペラハウス

秋元松代『近松心中物語』KAAT 2021【追記】

秋元松代の『近松心中物語』を観た(9月9日 木曜 18:30/KAAT神奈川芸術劇場 ホール)。

【追記:席は平日夜割引 A席の2階5列(最後列)で3000円。夜割は15回公演のうち2回だけだが、大変有り難い。ちなみにS席 9500円、A席 6000円】

40年前に見た帝劇の舞台が、長塚圭史の演出で、等身大の、明るく哀しい舞台に生まれ変わった。適材適所のキャスティングはめったに出会えないが、出演者は子役を含めみな役にはまっていた。ちょっと心配していた大阪弁もみな巧かった(指導者の記載が見当たらないけど)。以下、感想メモをだらだら記す。

作:秋元松代(1911-2001)/演出:長塚圭史/音楽:スチャダラパー/美術:石原敬/照明:齋藤茂男/音響:武田安記/衣裳:宮本宣子/ヘアメイク:赤松絵利/振付:平原慎太郎/所作指導:花柳寿楽/音楽アドバイザー:友吉鶴心/演出助手:大澤遊/舞台監督:横澤紅太郎

[出演]亀屋忠兵衛:田中哲司/傘屋与兵衛:松田龍平/遊女梅川:笹本玲奈/傘屋お亀:石橋静河丹波屋八右衛門:石倉三郎/傘屋お今:朝海ひかる綾田俊樹、石橋亜希子、山口雅義、清水葉月、章平、青山美郷、辻本耕志、益山寛司、延増静美、松田洋治蔵下穂波,藤戸野絵、福長里恩/藤野蒼生(子役Wキャスト)

舞台の床は焦げ茶色の三角形。奥へいくと狭まり(三角形の頂点)、上も同型同色の天井で閉じられ、左右の袖は襞に見える折り目のような複数の壁が三角形の二辺を塞ぎ、演者は襞の間から出入りする(美術:石原敬)。基本、三角形の〝なにもない空間〟に最低限のセットが加わる。どの場もシンプルだ。そのぶん物語の中身がすっきりと飲み込める。

飛脚宿 亀屋の場では、床に数個の帳場机が整然と置かれ、奥の一つに亀屋後家 妙閑が座る。番頭や手代らの佇まいが好い。傘屋の場では、千手観音などの仏像や甲冑や琴など古物をぎっしりはめ込んだフレームが帳場の背後に降りてくる。瞬時に古道具古物商の店の間が現出する仕掛けだ。封印切りの越後屋の場は、華やかな朱色の行灯が座敷にいくつか置かれるだけ。八右衛門の来訪に忠兵衛と梅川が隠れるのは中二階ではなく、同じ座敷の行灯の奥、屏風の陰だ。傘屋長兵衛の表の場は、カミテに中二階の窓がありその下に大長持が置かれている。五十両の件で家を出ていた与兵衛がお亀に詫びにくるのだが、月明かりに忍んできた与兵衛が二階のお亀に地上から囁く図は、『ロミ&ジュリ』のバルコニーシーンのよう。蜆川堤の場では、川に見立てた長い布があるだけだ。最初は一筋、やがて三筋に。両端を持つ二人の黒子が布を波打たせると川の流れになる。驚いたのは、黒子が布を高く持ち上げ、その下を与兵衛とお亀に潜らせる趣向だ。数回繰り返されるが、まるで縄跳び遊びのよう。従兄弟同士で幼馴染みの道行きにはぴったりだった。

長塚演出の田中哲司は正直いつも不満だったが、見た中でベスト。なまの自分を無理なく出す。それが功を奏した。気弱で律儀で短気の忠兵衛をぶっきら棒に生きてみた。そんな感じ。封印切りもそうだが、心中シーンの、おたおたした、かっこ悪い、無様なあり方が、とてもかっこよかった。梅川役の笹本玲奈は儚げな美しさが姿・科白・所作によく出ていた(見世女郎にしては少し品がありすぎたか)。与兵衛の松田龍平は例の脱力系が全開で、ひょうひょうとしたあり方が役にはまり何度も笑わされた。生きる気力の無さそうなさまが、同郷で幼なじみの忠兵衛に頼りにされると、一変。見違えるほど生き生きし、後先考えずに五十両(約500万円)を貸してしまう。いやはや。お亀の石橋静河は、音感のよさ(大阪弁)に舌を巻いた。科白回しと動きも素晴らしく、箱入り娘のあっけらかんとした率直さが見事に生きられていた(『未練の幽霊と怪物』とは別人に見えた)。そんなお亀と与兵衛が「曽根崎心中」の蜆川まで逃げた挙げ句、心中未遂でお亀だけ死ぬ。他方、与兵衛は「済まんけど、寿命のくるまで生かしといてや」と死にきれずに生き残る。なんとも皮肉だ。石倉三郎が演じた八右衛門は、忠兵衛に封印を切らせる大事な役。〝友人〟忠兵衛との年齢差が少し気になったが、安定感があり悪役になりすぎない点は見事だった。朝海ひかるが扮したお今は大店の女房として未熟な義娘夫婦を躾ける一方、情もなくはない(二人の叔母でもある)。その機微を巧みに演じていた。亀屋後家 妙閑(女)と傘屋 長兵衛(男)の二役を演じた綾田俊樹は、いずれも養子の息子への情愛が滲み出た。さすが。

ラップグループのスチャダラパーによる音楽もまったく違和感なし。出演者が鉦や太鼓を叩き、秋元が作った歌詞を唄う。簡素な舞台によく合っていた。結果〝美的〟にならず、カラッとした明るい心中物語に仕上がった。でも要所ではグッとくる。

秋元はなぜ二つの心中カップルを作品に盛り込んだのか。梅川と忠兵衛の心中は、近松浄瑠璃原作にはないが、典型的かつ理想的に見える。その意味で、フィックションの純度が高い。一方、お亀と与兵衛の場合、お亀のミーハー的な「曽根崎心中」への憧れが突発的に心中を敢行させ、与兵衛は死にきれず未遂となる。この点について作者は「与兵衛を死なせないことによって、元禄期の町人と昭和の時代のわれわれとの通路にすることができる」と書いていた(「あとがきにかえて」『元禄港歌・近松心中物語』新潮社、1980)。これは言いかえれば、お亀と与兵衛の心中〝未遂〟は、前者の美的な心中よりもフィクション性が低く、現在の観客には身近ということだ(後者が、前者より、客席から近い舞台手前で演じられたのはこの事と無関係ではないはず)。【また、一方のカップルは遊女と大店の養子だが、他方は遊女ならぬ大店の娘と婿養子の夫婦である点にも観客との「通路」(近さ)が見出せる。】蜷川演出では、前者の心中は、まさに虚構美の極致だったと記憶する。だが、今回の長塚演出では、ここでも(特に忠兵衛は)リアルで無様な演技をさせていた。梅川の哀しく美しい死に方で、辛うじて心中の〝理想〟をとどめていたが。いずれにせよ、三百年前の封建的な時代に流行った「心中物語」をフラットな現代社会(ほんとか)の観客に無理なく受容させるには、後者の「通路」が必須だったのだろう。加えて、昭和から平成を経て令和となったわれわれには、フィクション性の高い前者ですら、一定のリアル(無様)が必要になった。演出家はそう感じたのではないか。

かつての蜷川演出では冒頭で一気に観客を圧倒し、フィクション世界へワープさせる絢爛で厚塗りの舞台だった。今回の長塚演出は、観客の想像力を尊重し徐々にその世界へと導いていく。80年代は前者が効果的で意味を持った。だが、やがて、それだと鬱陶しい、うるさいと感じるようになる。激しくシャウトする舞台から、静かな舞台へ。前者はもちろんエネルギーに満ちていた。そのギラギラしたエネルギーが耐えがたくシンドイと感じるほど、みな疲れてしまったのだろうか。かつて蜷川演出の『ハムレット』(スパイラルホール/私は未見)が朝日の劇評で批判されたのも、同じ問題だったと記憶する(蜷川はその反論を壁に貼り出したらしい)。今回の舞台にもエネルギーはあった。むろんそれは人を圧倒する類いのものではない。注視し、耳を澄ませば、間違いなく感取できるもの。つまり、舞台と客席のあいだで行き来するエネルギーの交流だ。90年代以降、個人的には次第に蜷川演出を見なくなっていった(浅丘ルリ子主演の『にごり江』などは違っていたし、後の一連のチェーホフなども趣が変わっていたが)。その理由は主役にアイドルを登用しチケットが取れなくなったから、だけではない。今回の公演で、そのことを改めて思い返した。

KAATでは、嬉しいことに、椅子やテーブルやソファなど「居場所」があちこちに作られていた。たとえ舞台を見なくとも、憩える場所としての劇場を捉え直す芸術監督の意向だろう。家からはちょっと遠いけど、応援したくなった。

 

「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜—アイヌであればこそ」展 2021【図版を追加】

「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜——アイヌであればこそ」展を見た(9月10日 金曜 15:00/東京ステーションギャラリー)。勧められて見たが、見てよかった。

アイヌ民族の両親から生まれた藤戸竹喜(1934-2018)の木彫り作80余点。熊、群熊、長老(エカシ、フチ)、観音像、狼、狐、海の生物等々。そのいずれにも命が宿っているかのようだ。熊のからだを覆う毛は〝毛彫り〟で作り出すらしいが、いかにも柔らかそうで、硬い木材にはとても見えない。

「川の恵み」(2000)は川の急流に遡上した鮭を熊たちが捕まえ、小石の河原で食べるさまを彫った作。親熊と2頭の小熊が河原で鮭に噛みつき、裂けた内蔵のイクラに喰らいついている。全体の構成の大胆さと今にも動き出しそうなディテールには舌を巻く。これが一本の木から彫り出されたとは!

19点の連作「狼と少年の物語」(2016-2017)も印象深い。川べりでアイヌの幼子が両親からはぐれ流れにさらわれるが、狼の夫婦が岩に引っかかったその子を助け、山の巣穴に連れ帰り、狼の子と区別なく育てる話だ。19点の制作年月を見るとばらばらで、物語の順序とは一致しない。何点か狼を彫る中で、連作を思いついたのかもしれない。1900年ごろ絶滅したといわれる狼を藤戸が彫りたいと思ったのは、少年期にエゾオオカミの複製を見たのがきっかけという。狼を彫るとき、藤戸はタモの埋もれ木を好んで使った。「土に埋もれ灰色に変色した埋れ木で狼を彫って、なんとか狼を蘇らせたかったのかもしれない」とは本人の言葉だ。たしかに「倒木し、土中などでさら100年、200年と眠り続けた埋もれ木は、エゾオオカミが哭き、森を駆け抜けていた時代に生きていたものだ」(五十嵐聡美/図録)。

この連作から柄谷行人柳田國男論を思い出した(『世界史の実験』2019)。柄谷によれば、柳田の山人研究は、それを滅ぼした者(柳田を含む)による山人の供養である。つまり「滅ぼされた先住民を、それを滅ぼした者の子孫であると同時に、その先住民の血を引いているかもしれない柳田が「一巻の書」を成すことによって、弔うこと」であると。さらに柳田は「山人」論が批判されると、今度は絶滅されたとみられた狼を論じはじめる。柳田が採取した狼の記録には、婦女や童子が「悪い」狼と闘って殺した話のほか、村人が一匹の狼に袂をくわえられ怯えながらも引かれるまま草叢に入ると、目の前で狼の群れが地響きを上げて通りすぎたという「送り狼」の話もある(狼史雑話」1932)。柳田は、柄谷によれば、狼は狩猟採集民(山人)の狩猟仲間であり、狼が敵視されるのは定住農耕民の段階以後とみていた。まるで柳田は山人と狼を同一視し、その絶滅を「弔い」供養しているかのようだ。

藤戸竹喜が狼を彫り、また狼がアイヌの子を助けた話を彫るのも、その絶滅を「弔い」供養するためといえる。だが、藤戸自身、狩猟採集民(アイヌ)の血を丸ごと引く身であれば、弔いの対象は、狼らと共存しえたアイヌ民族(文化)とその世界(アイヌモシリ)だったのかもしれない。

9月のフィールドワーク予定 2021【懐かしい表紙を追加】【再追記】

f:id:mousike:20210902140122j:plain   f:id:mousike:20210902140053j:plain玉三郎仁左衛門のコンビで歌舞伎を見るのは本当に久し振り。二人がおかると勘平/平右衛門で出演の『仮名手本忠臣蔵』が歌舞伎の初見だった(塩冶判官は〝受け口〟の七代目芝翫/由良之助は團十郎)。今回 演目は違うが、その外伝というから感慨深い。秋元松代の『近松心中物語』はもちろん帝劇での蜷川演出で見て以来となる。30年後のいま、新たに長塚圭史の演出で松田龍平石橋静河らがどんな舞台を見せてくれるか。楽しみだ。

15年間継続してきた新日本フィルの定期会員は金曜ソワレが終了したため更新せず、9月から東京芸術劇場N響定演(金)にサブスクライブした。指揮者の顔ぶれや曲目もあるが、居住地から15分で行けるアクセスはかなり魅力的。Cプロは60〜80分で休憩なしだが、そのぶん料金はリーズナブル。N響にはNHKホールの改修後もぜひここで続けてほしい。コンマスの篠崎氏は「音が安定していて、すごく素敵なホール」と評価しているようなので尚更だ。

3日(金)19:00 新国立劇場 演劇『ガラスの動物園』〈フランス語上演/日本語字幕付〉作:テネシー・ウィリアムズ/演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ/制作:国立オデオン劇場/フランス語翻訳:イザベル・ファンション/ドラマトゥルグ:クーン・タチュレット/美術・照明:ヤン・ヴェーゼイヴェルト/衣裳:アン・ダーヒース/出演:イザベル・ユペール ジャスティーン・バチェレ シリル・グエイ アントワン・レナーツ @新国立中劇場 ←「新型コロナウイルス感染症の影響による日本への入国制限の緩和等が現時点で見通せない」ため「公演を中止し、2022年秋への延期を検討する」とのこと

3日(金)「木下晋展 生の脱皮の証し」@ギャラリー枝香庵(銀座3丁目)

【4日(土)「目力(めじから)展—見る/見られる関係性」板橋区立美術館←追記

5日(日)18:00 九月大歌舞伎 第三部『東海道四谷怪談「四谷町伊右衛門浪宅の場」「伊藤喜兵衛内の場」「元の浪宅の場」「本所砂村隠亡堀の場」作:四世鶴屋南北お岩/お花:玉三郎/直助権兵衛:松緑/小仏小平/佐藤与茂七:橋之助/お梅:千之助/按摩宅悦:松之助/乳母おまき:歌女之丞/伊藤喜兵衛:片岡亀蔵/後家お弓:萬次郎/民谷伊右衛門仁左衛門 @歌舞伎座

9日(木)18:30 近松心中物語』作:秋元松代/演出:長塚圭史/音楽:スチャダラパー/美術:石原敬/照明:齋藤茂男/音響:武田安記/衣裳:宮本宣子/ヘアメイク:赤松絵利/振付:平原慎太郎/所作指導:花柳寿楽/音楽アドバイザー:友吉鶴心/演出助手:大澤遊/舞台監督:横澤紅太郎/[出演]亀屋忠兵衛:田中哲司傘屋与兵衛:松田龍平/遊女梅川:笹本玲奈傘屋お亀:石橋静河丹波屋八右衛門:石倉三郎/傘屋お今:朝海ひかる綾田俊樹、石橋亜希子、山口雅義、清水葉月、章平、青山美郷、辻本耕志、益山寛司、延増静美、松田洋治蔵下穂波,藤戸野絵、福長里恩/藤野蒼生(子役Wキャスト) @KAAT ホール

【10日(金)15:00 「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜—アイヌであればこそ」展東京ステーションギャラリー←追記

10日(金)19:30 N響 #1936 定演〈池袋Cプロ〉バルトーク組曲中国の不思議な役人」、《管弦楽のための協奏曲》指揮:パーヴォ・ヤルヴィ @芸劇コンサートホール

13日(月)19:15 シーユーインヘル「君が忘れたダンスフェス」A 横山彰乃×34423/池ヶ谷奏×鳥羽絢美×西澤真耶×林田海里/伊藤まこと @こまばアゴラ劇場

26日(日)15:00 BCJ #144 定演/L. v. ベートーヴェン:静かな海と楽しい航海 作品112、交響曲 第2番 ニ長調 作品36、オラトリオ《オリーヴ山のキリスト》作品85/指揮:鈴木雅明/ソプラノ:キャロリン・サンプソン(海外からの渡航制限等の状況により)→中江早希/テノール:鈴木 准/バス:加耒 徹/合唱・管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

【30日(木)16:20 映画『MINAMATA ミナマタ』監督:アンドリュー・レビタス/[キャスト]W・ユージン・スミスジョニー・デップヤマザキ・ミツオ:真田広之ノジマ・ジュンイチ:國村 隼/アイリーン:美波/キヨシ:加瀬 亮/マツムラタツオ:浅野忠信/マツムラ・マサコ:岩瀬晶子/ミリー:キャサリンジェンキンス/ロバート・“ボブ”・ヘイズ:ビル・ナイ/シゲル:青木 柚/[スタッフ]製作:サム・サルカル ビル・ジョンソン ガブリエル・タナ ケビン・バン・トンプソン デビッド・ケスラー ザック・エイバリー アンドリュー・レビタス ジョニー・デップ/製作総指揮:ジェイソン・フォーマン ピーター・タッチ スティーブン・スペンス ピーター・ワトソン マリー=ガブリエル・スチュワート フィル・ハント コンプトン・ロス ノーマン・メリー ピーター・ハンプデン ノブ・ハセガワ ジョー・ハセガワ/脚本:デビッド・ケスラー スティーブン・ドイターズ アンドリュー・レビタス ジェイソン・フォーマン/撮影:ブノワ・ドゥローム/美術/トム・フォーデン/衣装:モミルカ・バイロビッチ/編集:ネイサン・ヌーゲント/音楽:坂本龍一/音楽監修:バド・カー @イオンシネマ板橋】←再追記