7月のフィールドワーク予定 2022【加筆】

ペレアスとメリザンド》は質の高い歌手陣と緻密な演出で、見応えはあったが疑問も感じた。プロダクションが初演されたエクサンプロヴァンス等の欧州並に、オーソドックスな舞台の歴史が積み重なっているとは言えない文脈では唐突感が禁じ得ない。男性の女性に対する〝ロマンティック〟な幻想破壊は、《アルマゲドンの夢》の演出と共通している。オランピアが合いそうな声質のソプラノをメリザンド役に選んだのは、神秘的な女性像を相対化したいから?(これが欧州では普通なのか。)今回の生々しいメリザンド造形には少しちぐはぐな印象も(巧いんだけど)。メリザンドがペレアスの下腹部をまさぐるシーンで、左バルコニーから濁点付の「あー!」と叫ぶ男の声が。客席のみならず歌手陣やオケも面食らったに違いないが、演出家(来日せず)が知ったら「しめしめ」か。

柄谷行人の講演を久し振りに聴いた(オンラインだけど)。柄谷氏の著作は最初の漱石論から『探求』を経て『トランスクリティーク』の前ぐらいまで、本に未収録のものを含めほぼすべて読んでいる(最初に読んだのは『マルクスその可能性の中心』か中上健次との対談『小林秀雄をこえて』? 後者には小林論の「交通について」が収録されていたと思う)。その後、つまり世紀が変わった頃から、関心が文学・批評から劇場芸術にシフトし、読むのはアラカルト的になった。今回、ユーモアをまじえた話しぶりに、変わっていないなと安堵した。例の交換様式「D(Aの高次元での回復)」について語るのを聞きながら、なぜかシモーヌ・ヴェイユの〝神秘主義神学〟を想起。秋に新著『力と交換様式』が岩波から出るという。ぜひ読みたい。

岸田國士戦争劇集」と題する公演で『かへらじと』(1943)が上演される。知ったときは驚いた。上演の珍しさ(戦後初めてか)もあるが、なにより、以前に「岸田國士の戦争劇」と題する『かへらじと』論を書いていたから。構成・演出の谷賢一氏は論文を読んでくれたらしい。同時上演の『動員挿話』論も書いたことがある。この演出家と響き合う部分があるのかもしれない。ちょっと怖い気もするが楽しみ。【1943年に上演された『かへらじと』は、実は岸田が「中央公論」に掲載したそのままではなく、軍部の意向を受けて改訂(改竄)されたと思われる「認可脚本」だった(先に言及の論文は両者の違いに焦点を当てたもの)。その意味で、今回の上演は事実上の本邦初演と言えるかもしれない。】【と思ったら、文学座研修科 発表会(2020年/鵜山仁 演出/文学座アトリエ)でやったようだと谷賢一氏。本公演としては初めてかもしれない、と言い直そう。】

1日(金)18:00 生誕90年/画業60年ゲルハルト・リヒター展」@国立近代美術館

2日(土)14:00 新国立劇場オペラ《ペレアスとメリザンド》全5幕〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉/作曲:クロード・アシル・ドビュッシー/原作:モリス・メーテルランク/指揮:大野和士/演出:ケイティ・ミッチェル/美術:リジークラッチャン/衣裳:クロエ・ランフォード/照明:ジェイムズ・ファーンコム/振付:ジョセフ・アルフォード/演出補:ジル・リコ/舞台監督:髙橋尚史/ペレアス:ベルナール・リヒター/メリザンド:カレン・ヴルシュ/ゴロー:ロラン・ナウリ/アルケル:妻屋秀和/ジュヌヴィエーヴ:浜田理恵/イニョルド:九嶋香奈枝/医師:河野鉄平/合唱指揮:冨平恭平/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団 @新国立劇場オペラハウス

3日(日)14:00 柄谷行人さんに聞く〜疫病、戦争、世界共和国〜」聞き手:國分功一郎/コメンテーター:斉藤幸平/主催:東京大学大学院総合文化研究科・教養学部附属共生のための国際哲学研究センター(UTCP)@東京大学駒場キャンパス(Zoom ウェビナーで視聴)

6日(水)小菅優佐藤俊介 デュオ・リサイタル 第一次世界大戦クラシック音楽~作曲家に想いを馳せて~」P. ヒンデミット:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.11-1/E. イザイ:子供の夢 Op.14/M. ラヴェルクープランの墓 より 第2曲 フーガ、第3曲 フォルラーヌ ※ピアノ・ソロ/C. ドビュッシー:ヴァイオリンとピアノのソナタ/E. W. コルンゴルト:空騒ぎ Op.11 より “Dogberry and Verges”/E. グラナドス(F.クライスラー編):スペイン舞曲集 Op.37 より 第5番 アンダルーサ(祈り)/E. エルガー:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 Op.82/小菅 優(ピアノ)佐藤俊介(ヴァイオリン)@ヤマハホール

8日(金)19:00 DULL-COLORED POP 第25回本公演「岸田國士戦争劇集」『動員挿話』『かへらじと』作:岸田國士/構成・演出:谷 賢一(DULL-COLORED POP)/関連上演(または配信):『戦争指導者』『空の悪魔(ラジオ・ドラマ)』/演出助手:刈屋佑梨、石井泉/美術:濱崎賢二/映像:松澤延拓(株式会社カタリズム)/映像助手:イノウエタケル/照明:緒方稔記(黒猿)/音響:佐藤こうじ( Sugar Sound)/衣裳:友好まり子/所作指導:石原舞子/制作:DULL-COLORED POP/協力:アゴラ企画、アトリエ春風舎/助成:公益財団法人セゾン文化財団、文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業/[出演](『動員挿話』『かへらじと』)白組:倉橋愛実(DULL-COLORED POP)、荒川大三朗、石川湖太朗(サルメカンパニー)、石田迪子、伊藤麗、函波窓(ヒノカサの虜)、國崎史人、古河耕史/[声の出演](『かへらじと』『空の悪魔』):石井泉、小野耀大、小幡貴史、勝沼優、椎名一浩、田中リュウ、服部大成、間瀬英正、溝渕俊介、宮部大駿 @アトリエ春風舎

13日(水)19:00 岸田國士戦争劇集」[出演](『動員挿話』『かへらじと』)赤組:阿久津京介、東谷英人(以上DULL-COLORED POP)、越前屋由隆、齊藤由佳、原田理央(柿喰う客)、ふじおあつや、松戸デイモン、渡辺菜花 @アトリエ春風舎

16日(土)15:00 BCJ #150 定演 F. J. ハイドン:オラトリオ《天地創造》Hob.XXI-2/指揮:鈴木優人/ソプラノ:ジョアン・ラン/テノール:櫻田 亮/バス:クリスティアン・イムラー/合唱・管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン @オペラシティコンサート ホール タケミツメロリアル

31日(日)12:30 新国立劇場バレエ団 こどものためのバレエ劇場2022『ペンギンカフェ』振付:デヴィッド・ビントリー/音楽:サイモン・ジェフス/美術・衣裳:ヘイデン・グリフィン/照明:ジョン・B・リード/[第1部]トークショー「いっしょに考えよう!消えゆく生き物たちを救うには?」(20分)ゲスト解説者:成島悦雄/司会:⽯⼭智恵(フリーキャスター)[第2部]『ペンギン・カフェペンギン:池田理沙子/ユタのオオツノヒツジ:木村優里+中家正博/テキサスのカンガルーネズミ:髙橋一輝/豚鼻スカンクにつくノミ:奥田花純/ケープヤマシマウマ:木下嘉人/熱帯雨林の家族:柴山紗帆+趙 載範/ブラジルのウーリーモンキー:渡邊峻郁 @新国立劇場オペラハウス

31日(日)16:00  新国立劇場バレエ団『ペンギンカフェ』ペンギン:赤井綾乃/ユタのオオツノヒツジ:米沢 唯+井澤 駿/テキサスのカンガルーネズミ:福田圭吾/豚鼻スカンクにつくノミ:五月女 遥/ケープヤマシマウマ:奥村康祐/熱帯雨林の家族:柴山紗帆+趙 載範/ブラジルのウーリーモンキー:速水渉悟 @新国立劇場オペラハウス