佐藤俊介 plays J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ 全曲

標記のコンサートを聴いた(4日 15:00 佐藤俊介所沢市民文化センター ミューズ キューブホール)。
出遅れたため東京公演はすでに売り切れで、所沢公演の残っていた一枚をかろうじて入手。このホールは初めてだが音響はとてもよく、三方からステージを囲む客席はかなりの傾斜で聴き(見)やすかった。市民文化センターの環境もよく、気に入った。以下、簡単にメモする。

ソナタ第1番 ト長調 BWV1001
 1. アダージョ 2. フーガ:アレグロ 3. シチリアーナ 4. プレスト

パルティータ第1番 ロ短調 BWV1002
 1. アルマンド―ドゥーブル 2. クーラント―ドゥーブル(プレスト) 3. サラバンド―ドゥーブル 4. テンポ・ディ・ブーレ―ドゥーブル

ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005
 1. アダージョ 2. フーガ 3. ラルゴ 4. アレグロ・アッサイ


インターミッション(20分)


パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006
 1. プレリュード 2. ルール 3. ガヴォット・アン・ロンドー 4. メヌエットI II 5. ブーレ 6. ジー

ソナタ第2番 イ短調 BWV1003
 1. グラーヴェ 2. フーガ 3. アンダンテ 4. アレグロ

パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004
 1. アルマンド 2. クーラント 3. サラバンド 4. ジーグ 5. シャコンヌ

いずれの曲も素晴らしい演奏。今回、ソナタも興味深く聴いた。舞曲から成るパルティータは変化に富んだ面白さがあるが、一方ソナタは「教会ソナタの伝統に従」った「緩―急―緩―急」の「4楽章構成」(プログラム)から、カンタータなどの宗教的な展開に似たものを感じた。特にソナタ第3番 ハ長調。不安から安らぎを経て喜びに至る。もちろん、舞曲でもサラバンドや今回最後に弾かれたシャコンヌ(チャコーナ)などは別だが。とにかく佐藤俊介はすごい才能の持ち主。美点は沢山あるが、なにより音が透明でこのうえなく美しい。ピリオド楽器で奏される場合、総じてモダン楽器よりは抑制的に響きがちだが、佐藤の創り出す音はシャープで鮮烈。いつでも聴く者を刺し貫く美音を弾き出せる。テンポの速い曲がまた凄まじい迫力だが、乱れることは微塵もない。ユーモアが混じることも。特にパッセージが不意に途切れる時などがそう。
それにしてもエネルギーと集中力は尋常ではない。ラストのシャコンヌだけ聴いたら、それまで三つのソナタと三つのパルティータを2時間半に亘って弾いてきたとはとても思えないだろう。シャコンヌは、以前、ダンサーの柳本雅寛とのコラボで弾いた時より入魂度が深い分、軽快さは幾分減じはした(佐藤俊介の現在(いま) Vol.1 ヴァイオリン×ダンス―奏でる身体)。とはいえ、それなりのハイテンポでどんどん先へ進んでいく。その爽快感が心地よい。もちろん、途上では密度の濃い内面的世界が幾度か喚起され、こころに沁みた(若い頃ヴァイオリンで聴く以前にセゴヴィアのギター版レコードをずっと愛聴していた)。最後の長く伸ばした一音で、まだ弓を下ろす前に拍手が出たのは残念。だが、所沢の客は総じてよく耳を傾けていたと思う。カーテンコールではもちろんスタンディングで拍手を送った。アンサンブル「オランダ・バッハ協会」のコンサートマスターだった佐藤は、本年6月からその音楽監督に就任した。佐藤が率いるアンサンブルの演奏をぜひ聴いてみたい。