佐藤俊介の現在 Vol. 2 ドイツ・ロマン派への新たな眼差し/様式を自在に弾きわけるヴァイオリニスト

佐藤俊介の現在(いま)」 Vol. 2を聴いた(2月13日 15:00/彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール)。
昨年のVol. 1はダンサーとのコラボでとんでもない舞台だった(佐藤俊介の現在(いま) Vol.1 ヴァイオリン×ダンス―奏でる身体/至福の一時間 - 劇場文化のフィールドワーク)。今回はある意味オーソドックスなコンサートなのだが、期待どおり質は相当高い。以下、ごく簡単にメモする。

主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
助成:平成27年文化庁劇場・音楽堂等活性化事業

ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:ピアノ三重奏曲 ニ短調 作品11より第2楽章・第3楽章
佐藤俊介(ヴァイオリン)/鈴木秀美(チェロ)/スーアン・チャイ(フォルテピアノ


フェーリクス・メンデルスゾーン弦楽四重奏曲第6番 ヘ短調 作品80
佐藤俊介(第1ヴァイオリン)/岡本誠司(第2ヴァイオリン)/原麻理子(ヴィオラ)/鈴木秀美(チェロ)

前者は姉ファニーの音楽。ヴァイオリンというより、歌を聴いているよう。甘い幸福感。佐藤俊介は、ヴァイオリンを弾いているというより、役(様式)を自在に生きる俳優のよう。それを楽しんでいる。佐藤の自由な身体がそう告げていた。
鈴木秀美のチェロを聴いたのは久し振り。BCJの定演では、カンタータ全曲を演奏・録音し終えた後、姿を見せなくなっていた。激しい音楽。佐藤のアップ・ボウ(上げ弓)が印象的。
休憩20分

クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノのための3つのロマンス 作品22
佐藤俊介(ヴァイオリン)/スーアン・チャイ(フォルテピアノ


ローベルト・シューマンピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44
佐藤俊介(第1ヴァイオリン)/岡本誠司(第2ヴァイオリン)/原麻理子(ヴィオラ)/鈴木秀美(チェロ)/スーアン・チャイ(フォルテピアノ

クララの音楽はメロディーがくっきり自立している感じ。佐藤はそのように弾いている。
ローベルトの音楽は別格。一楽章はチェロ(鈴木秀美)とヴィオラ(原麻理子)の掛け合いが楽しく、美しい。対話を聞いているような感じ。第二楽章はエレジアックなリズムを刻む。葬送か。エロイカの二楽章を想起した。第3楽章はスケルツォで当然ながら快活。第四楽章は雄大で、壮大なフーガはブラームスのシンフォニーを連想させる。
今回使用されたフォルテピアノは、1830年制作とのこと。現代ピアノほど音量はないため古楽の弦楽器とのバランスがよい。
巧みなプログラミングにより、音楽ホールにつかのま形成された「ドイツ・ロマン派」のささやかなコンテクスト。そのなかでこのピアノ五重奏を聴くと、とても新鮮で独特の喜びがあった。
佐藤はなぜあのように作品の様式(スタイル)に応じて自在に弾きわけることができるのか。様式により変化しても、そこには紛まぎれもなく佐藤俊介の個性を感じさせる。高い技術と、楽曲が創作された時代や作曲家の個性について深く理解すれば、佐藤のように演奏できるのか。俳優やダンサーの場合はどうか。作品や役柄への理解と高度な技術があれば、役にふさわしいアクション(演技)は可能なのだろうか。