ベートーヴェンと親交があったというシュポアのヴァイオリン協奏曲第8番は初めて聴いた。弾き振りする佐藤のソロはビロードのような音色で、派手さやロマンティックな味を抑えているようにも感じた。プログラムによると、シュポアはパガニーニのライヴァルで、「1820年頃に『あご当て」を考案したヴァイオリン近代奏法の始祖」だという。ちなみに佐藤はこの日「あご当て」のないヴァイオリンを弾いていた(3日前のバッハの無伴奏ソナタ&パルティータも同じヴァイオリンに見えた)。
凄まじい演奏だった! オケに対面し、けしかけるように弾き振りする佐藤のエネルギーが団員に直に伝わり、それが大きな熱量となった。佐藤の、運動の法則を思わせる絶妙なアゴーギクとピリオド奏法(ホルン、トランペット、ティンパニはピリオド楽器)から、オケ全体が打楽器と化したような独特の拍子感とグルーヴ感が生まれた。1番交響曲はこんな音楽だったのか。オケ全員でのお辞儀も含め、ちょっとクルレンツィス&ムジカエテルナを想起した(生では未聴)。
後半のメンデルスゾーンでは、佐藤はヴァイオリンを持たず、素手で指揮。この曲も初めて聴いたが、変化に富んだ面白い作品だと思う。特に第2楽章のヴィオラが主導するアンダンテは印象的だった。
ただ、素手で指揮するより、オケの反応は弾き振りの方がよさそうだ。その方が、奏者のからだ全体で反応しているように見えた。
佐藤俊介はオランダ・バッハ協会との契約を更新せず、今年の6月で芸術監督を辞任するらしい。理由は「ソリストとして多忙になったこと、バロック音楽に限らず19世紀や20世紀の音楽をもっと演奏したい」からという(ウィキペディア)。今回のコンサートを聴けば、それも納得できる。もちろんバッハも聴きたいが、それ以降のオケ作品もどんどん弾き振りしてほしい。
それにしても、佐藤は3日前にバッハの無伴奏パルティータ&ソナタ全曲を弾いたばかり(所沢ミューズ キューブホール)。東響にいたっては前日《ホフマン物語》のピットに入っていた(ニキティンはコンマスだったが、ここサントリーではフォアシュピーラー)。前者の感想はすでに書いたが、後者のオペラで最も心に残ったのは、歌手よりも、むしろ指揮のマルコ・レトーニャと東響が創り出す音楽だった。東響がこのオペラを演奏するのは今回初めてのはず。今頃(19日)はまた新国立劇場のピットで演奏しているだろう。佐藤も東響もすごい体力。