5月のフィールドワーク予定 2022

新国立劇場のバレエ『シンデレラ』の初日(4/30)、2日目(5/1)、千穐楽(5/5)を見て、自分がバレエに何を求めているのか再確認した。バレエ(ダンス)はいわゆる身体芸術だが、ミスをせず、ただうまく踊るだけでは芸術とはいえない。そこに身体を超える〝なにか〟が現出しなければならない。この10年間、米沢唯を見続けてきたのは、この奇跡的な時空間を共有したかったから。今回そのことに改めて気づかされた*1。「ダンスは、身体への注目と精神への注目が一つとなる、より高次の注目を命じている」(スーザン・ソンタグ「ダンサーとダンス」)。ソンタグに言われるまでもなく、ずっとそうしてきた。この「高次の注目」を米沢唯のダンスが命じていたからだ。

このところ同劇場の上演する演劇があまり面白くない(俳優を見る喜びはむろんあるが、満足できるのはごく僅か)。気になるのは、舞台(作品)と観客との間に文化的な地続き感が弱いこと。これは米英作品への偏りと無関係ではない。決定的なのは〝演劇的快楽〟の乏しさだと思う。これは選ばれた作品のテーマや物語というより演劇性の問題だ。そもそもテーマや物語(内容)は作品のかたち(形式)と不可分だが、前者が後者の革新を促したと思わせる斬新な作品があまりに少ない…等々。あれこれ考えているうちに、ついアップが遅くなった。

1日(日)14:00 新国立劇場バレエ団『シンデレラ』振付:フレデリック・アシュトン/監修・演出:ウェンディ・エリス・サムス/マリン・ソワーズ/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ/美術・衣裳:デヴィッド・ウォーカー/照明:沢田祐二/[主要キャスト]シンデレラ:米沢 唯/王子:井澤 駿/指揮:マーティン・イェーツ/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団 新国立劇場オペラハウス

5日(木祝)14:00 新国立劇場バレエ団『シンデレラ』/シンデレラ:池田理紗子/王子:奥田康祐新国立劇場オペラハウス

6日(金)19:00 新国立劇場 演劇『ロビー・ヒーロー』作:ケネス・ロナーガン翻訳:浦辺千鶴/演出:桑原裕子/美術:田中敏恵/照明:宮野和夫/音響:島貫 聡/衣裳:半田悦子/ヘアメイク:林みゆき/演出助手:和田沙緒理/舞台監督:野口 毅/出演:中村 蒼 岡本 玲 板橋駿谷 瑞木健太郎 @新国立小劇場

19日(木)19:00 新国立劇場オペラ《オルフェオとエウリディーチェ》〔新制作〕全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉作曲:クリストフ・ヴィリバルト・グルック/指揮:鈴木優人/演出・振付・美術・衣裳・照明:勅使川原三郎/アーティスティックコラボレーター:佐東利穂子/[キャスト]エウリディーチェ:ヴァルダ・ウィルソン/オルフェオ:ローレンス・ザッゾ/アモーレ:三宅理恵/ダンス:佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ、高橋慈生、佐藤静佳/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

20日(金)N響 #1957 定演〈池袋C1〉モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲/モーツァルト:ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K. 466/ベートーヴェン交響曲 第8番 ヘ長調 作品93/指揮:ファビオ・ルイージ/ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ @芸劇コンサートホール

22日(日)BCJ #149 定演 教会カンタータ・シリーズ vol. 80〈昇天祭オラトリオ〉S. バッハ:プレリュードとフーガ イ短調 BWV 543*/カンタータ第37番《信じて洗礼(バプテスマ)を受ける者》BWV 37/カンタータ第87番《今までは、あなたがたは私の名によっては何も願わなかった》BWV 87/昇天祭オラトリオ《神を讃えよ、その諸々の国において》BWV 11/指揮:鈴木雅明/ソプラノ:松井亜希/アルト:久保法之/テノール:櫻田 亮/バス:加耒 徹/オルガン:鈴木雅明*/合唱・管弦楽バッハ・コレギウム・ジャパン東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

24日(火)19:00〈コンポージアム2022〉ブライアン・ファーニホウの音楽/指揮:ブラッド・ラブマン/クラリネット:ヤーン・ボシエール*/アンサンブル・モデルン/ファーニホウ:想像の牢獄Ⅰ(1982)/イカロスの墜落(1987〜88)*/コントラコールピ(2014〜15)[日本初演]/クロノス・アイオン(2008)[日本初演]@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル→膝痛のため断念

29日(日)15:00 〈コンポージアム2022〉2022年度 武満徹作曲賞本選演奏会/審査員:ブライアン・ファーニホウ/指揮:篠﨑靖男/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/[ファイナリスト](演奏順)室元拓人(日本):ケベス ─ 火群の環/アンドレア・マッテヴィ(イタリア):円の始まりと終わりの共通性/オマール・エルナンデス・ラソ(メキシコ):彼方からの冷たい痛み/メフメット・オズカン(トルコ/ブルガリア):管弦楽のための間奏曲《無秩序な哀歌》@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

*1:この再認識は、濵口竜介の映画体験と無関係ではない。昨年の8月以来、濵口映画を14作ほど見た後『カメラの前で演じること』を読み、彼が言及するロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書——映画監督のノート』(20代に S.ソンタグの影響で見た『抵抗』『白夜』等の瑞々しさはいまでも覚えている)を紐解いた。濵口の方法には、自分が親しんできた竹内敏晴の著作群(特に「話しかけのレッスン」)や鷲田清一の『「聴く」ことの力——臨床哲学試論』等と共振する思想が随所に読み取れた。これには驚くと同時に、やっぱりかと納得もした。濵口やブレッソンの言葉では、先の〝なにか〟は〝真実〟ということになる。濵口は、カメラの前で俳優の〝真実〟が現出するよう、徹底的に環境を調え準備する。感情を抜いたセリフの本読みを繰り返すのもその一つ。