新国立劇場演劇『ガールズ&ボーイズ』2026

『ガールズ&ボーイズ』の初日を観た(4月9日 木曜 19:30/新国立小劇場)。新国立では初めてという一人芝居。

元々2020年5月に蓬莱竜太演出+長澤まさみの出演予定でチケットも取っていたが、コロナで中止となった。それが6年後の今回、稲葉賀恵+真飛聖(増岡裕子とダブルキャスト)でやっと実現した。

以下は、4/11にポスト(X)した感想の加筆修正版。【ネタバレ注意】

作:デニス・ケリー(1970- )/2018年初演/翻訳:小田島創志/演出:稲葉賀恵/美術:乘峯雅寛/照明:横原由祐/音響:池田野歩/衣裳:ゴウダアツコ/ヘアメイク:高村マドカ/演出助手:岩佐美紀/舞台監督:足立充章/出演:真飛 聖(まとぶ せい)

舞台は何もない空間。正面奥の壁は少し手前に傾き、その中央は窓の形にくり抜かれている。何かを象徴しているのか。

時間になると、シモテから真飛が椅子やボストンバッグなど小道具を持って現れる。明色のバギージーンズに白のTシャツ、ベージュのダブルジャケットにスニーカーの姿で、観客の方を見ながら、どうも〜(笑顔で)まだなんです〜、いろいろと準備があって… これを二三度繰り返したのち、客席に向かって「わたし」の話を語り始める。客電は点いたまま。

…このままじゃいけないと思って旅に出たら、ナポリの空港で並んで待ってるとき男と出会い、恋をして結婚し、妊娠。夫は嫌がってるのかと思ったら、すごく喜んでくれて云々… ときに卑俗な言葉も交えつつ語っていくが、奥行きのあるディテールがリアルで面白い。

やがて暗転し明転すると、フロアに子どもの玩具が入ったバケツが置かれ、二人の子どもと遊んでいるシーンに(「わたし」が木製のクルマを手で動かすとオルゴールが鳴り床に跡がつく)。このとき客席は暗くなるが、観客に向かって語るときは、また客電が点き、場面によって明度は微妙に変化する(照明 横原由祐。終始ほぼ無音だが、数回、微かなノイズのような音が聞こえた(音響 池田野歩

…映画制作(助手)の仕事に挑戦した「わたし」…  長い職種名のカタカナ(英語)コトバを繰り返し、これ知っている人いますか? 客席に聞く。知らない人は? 自分を含めて大勢が手を上げる。え? じゃ上げてない人はどっちなの?(笑)…夫も応援してくれて、…仕事はうまくいき、…独立後、作品が賞にノミネートされるが、夫の方の仕事は傾き…  人が変わってしまう。…不倫かと思ったら違った。…授賞式のスピーチは考えたのか、と…「わたし」が仕事で成功することを妬んでいたのだ。離婚を決意。お前に子どもはやらない? が離婚届にはサインした。「わたし」は子どもたちを母に預け、やがて別の家で子どもと生活…。数ヶ月間、彼から音沙汰がない。…お分かりでしょうが、子どもたちはもういません… この話は、あなたたち(観客)の話じゃない。今起こってる話でもない。…子どもたちは刺殺されました。彼に… そのときの陰惨な描写…  大柄な警官のこと… その優しさにやられた… 彼が「わたし」に会いたがってる? 冗談じゃない…  彼は刑務所で自殺した。…もちろん子どもたちの写真はどの部屋にも飾っている。が、ひとつだけ飾ってない部屋がある。…少しずつでも前に進むために。

客席を巻き込む種々の工夫から役者の生身とドラマの「わたし」の地続き感が強まり、いつの間にか「わたし」の世界に引きずり込まれていた。俳優の「わたし」が(舞台に現前しない)子どもたちと遊び、七歳の長女が居なくなると血相を変えて捜し回り…見つかって心底安堵し… さらに肺腑が抉られるような体験を語り、最後に、それでも前に進む「わたし」を舞台で生きた2時間。真飛聖の見事な一人芝居に圧倒された。

手前に傾くあの壁は、「わたし」に降りかかるカタストロフの象徴だったか。同時に、窓型の穴は、小道具の取り出し口であり、光(希望)が差し込む開口部でもあった(美術は乘峯雅寛)。

子どもと遊んだり子どもを捜したりするシーンは、子どもたちと共にある「わたし」の生活を〝語り〟とは別モードで演じているのかと思った。が、いま振り返ると、あれは、子どもの不在を、同時に、子どもを喪失した「わたし」の有りようを表出してもいたのだと思う。

「わたし」の置かれた社会的状況を俯瞰(客観)的に見る考えが、知人の言葉として「わたし」の語りに組み込まれ、それを「わたし」が批評したりする(「この社会のシステムは男のために作られている? 違う」とか他に統計的な話もあったか…)。結果、語りが立体化した。

別のキャスト(増岡裕子)だとまた違う印象を受けるのだろう。

ひとつ残念なことがあった。1時間ほど経った頃、通路を隔てた隣の客がスマホを見始めたのだ。集中を切らさぬよう暫く耐えたが、男のスクロールは際限ない。タイミングを見計らい通路越しに手で注意すると、少し謝る仕草。その直前、男の斜め後ろから伸びてくる別の手が見えた。後方の光害はさらに甚大だったかもしれない。恐らく2階席も。スマホ男は五十がらみでいかにものスーツにネクタイ姿。たぶん青券(招待)。このクオリティの上演中にスマホをいじるとは… 初台の演劇を40年以上見てきたが、こんな経験は記憶にない。企業の芸術支援は評価したいが、〝業界人〟も最低限のマナーは守ってほしい。