横浜ボートシアター『新版 小栗判官・照手姫』秋の劇場20 日本劇作家協会プログラム 2025【加筆】

横浜ボートシアター『新版 小栗判官・照手姫』を観た(11月27日 木曜 14:00/座・高円寺1)。

説経節『をぐり』の詞章が見事に血肉化され、こころが動きっぱなしだった。以下、感想メモを記す。

脚本・仮面:遠藤啄郎/構成・演出・仮面:吉岡紗矢/総監修・舞台美術・衣装・仮面:堀尾幸男/音楽:松本利洋/衣裳協力:佐々波雅子/照明:竹内右史/舞台監督:三津久/舞台監督助手:嶋崎 陽/身体表現指導:ケイタケイ、ラズ・ブレザー/語り指導:説経節政大夫/制作:横浜ボートシアター(奥本聡、松本利洋、吉岡紗矢)、西山水木、古元道広/主催:横浜ボートシアター/提携:NPO法人劇場創造ネットワーク

[配役]丹下一:後藤、横山、漁夫の太夫、人買い、閻魔/増田美穂:女房、陰陽師、人買い、聞く耳童子/桐山日登美:大蛇、女房、鬼鹿毛、姥、亡霊/かわらじゅん:大蛇、殿原、三郎、鬼鹿毛、鬼次、君の長、亡霊、殿原の亡者、餓鬼阿弥(人形)/近藤春菜:小栗の母、女房、人買い、見る目童子/リアルマッスル泉:兼家、殿原、嗅ぐ鼻童子/柿澤亜由美:女房、大蛇、照手/奥本 聡:女房、家継、鬼鹿毛、鬼王、人買い、亡霊、お上人、餓鬼阿弥(人形)/松本利洋:小栗

舞台の三方に背丈より少し高めの帳幕が張られ、奥に大小の岩山が三つ、左右にはガムラン風を含む様々な打楽器類が並ぶ。幕の正面上部に小さな祠が三基みえるなか、演者らは種々の仮面を着けかえて語り、同時に、種々の打楽器(+笛やギター等々)を全霊で奏する。その呪術芸能民的と思わせるあり方に圧倒された。

…大蛇が小栗(松本)の笛に魅せられ美女に変じて契る場や、人喰いの鬼鹿毛を小栗が乗りこなす場等は、どう捌くかと思ったら、三人の演者が大蛇(桐山・かわら・柿澤)や荒馬(桐山・かわら・奥本)を表し語った。なるほど。

…小栗は「不調(ふじょう)の人」[常軌をはずれ時に淫らでだらしない等(荒木繁+山本吉左右篇注・東洋文庫)]ゆえ照手の父横山に毒殺される。一方照手については、父曰く「人の子を殺(ころ)いてに、我が子を殺さねば、都(帝)の聞こえもあるほどに」と兄弟に石沈めを命じるが、なんとか免れ流されていく条りで休憩。

以下の図版は『をくり——伝岩佐又兵衛小栗判官絵巻——』三の丸尚蔵館展覧会図録No.8(財団法人 菊葉文化協会 1995)より

…照手は流れ着いたゆきとせが浦横浜市金沢区辺り)で村君の太夫(漁師の親方)に引き取られるが、姥(妻)に妬まれ松葉で燻されて、もつらが浦金沢区六浦町)、岩瀨富山市能登の国、珠洲の岬、三国湊(福井)、大津…と、次から次へ売られていく。やがて美濃国の青墓の宿(遊女屋)に買われるが客を取るのを拒み水仕女となる…

死んだ小栗は冥途から閻魔(丹下)にこの世へ戻される。託された藤沢の遊行上人が餓鬼阿弥と名づけ、土車(演者が人形を中腰で遣う)に乗せて熊野本宮湯の峰を目指し「えいさらえい」と引かれていく、餓鬼阿弥(人形・奥本)と入れ替わった小栗役(松本)がシモテで叩く太鼓に合わせ「一(ひと)引き引いたは千僧(せんぞう)供養、二(ふた)引き引いたは万僧(まんぞう)供養」「えいさらえい」と[千/万人の僧侶に布施をして仏事を営むのと同じ功徳がある(兵藤裕己篇注・岩波文庫)]

餓鬼阿弥は多くの人に引かれつつ、小田原、足柄、箱根、富士の裾野、熱田の宮…やがて青墓の宿へ辿り着く。ここで照手は(それが小栗とはつゆ知らず)亡夫の供養に是が非でも引きたいと君の長(主人)に暇を乞い、物狂いの姿で「えいさらえい」と垂井の宿…「美濃と近江の境たる、長競(たけくらべ)」…武佐の宿…草津の宿…「三国一の瀬田の唐橋を「えいさらえい」と引き渡し」…大津まで引いていく。そこで餓鬼阿弥に文を添え、主人との誓いを守るため青墓へと引き返す。

照手役(柿澤)は仮面を外し、素早くシモテの太鼓に加勢する。両者(松本、柿澤)の体を揺する入魂の態は、太鼓を叩くエネルギーが車を後押しするかのよう。なんかグッときた。

太鼓に駆られた餓鬼阿弥は、客席の通路に沿って西へ西へと引かれていく…。熊野に着くと、開花した桜の樹を水墨で表したような熊野の森(堀尾幸男)が舞台奥に現出し…湯の峰の湯に四十九日間浸かった餓鬼阿弥は元の小栗として復活する。…

音楽(打楽器等)の使い方が素晴らしい(松本利洋)。丹下一前近代的な〝大きさ〟は印象的。演者らの「〜この由きこしめし」、「〜この由ごろうじて」、「〜の」等々の語りがじつに心地好く、なかでも照手役(柿澤亜由美)の明晰で古風な語り口は耳に残った。

海に浮かぶ「船劇場」を拠点とする横浜ボートシアターは潜在的に〝漂泊性〟を有しているはず。呪術宗教的な遊行(漂泊)芸能民が担った説経節を、このシアターが継承し舞台化する。これ以上の取り合わせがあるだろうか。1982年が初演という。遠藤啄郎(たくお 1928-2020)の初演版も見てみたかった。

整理券発行から開演までの時間に、ボートシアターの舞台模型を含む「堀尾幸男 舞台美術展」を見た(地下2階 Galleryアソビバ)。

なお、この日のアフタートーク吉見俊哉(大学教授)と堀尾幸男(舞台美術)+横浜ボートシアターの吉岡紗矢(新版の構成・演出・仮面)、松本利洋(音楽・演者)、奥本聡(演者)。吉見氏と堀尾氏の昔話は興味深かったが、演出の吉岡氏や出演した松本氏と奥本氏の話も聞きたかった。