12月のフィールドワーク予定 2022【感想メモ+】

4年まえ横山(iaku)作品を見始めたのは、軽快な場面転換と時間性の攪乱に魅せられたから。近年はいわゆる感動的なメロドラマ性が濃くなってきた印象。先月の俳優座作品もそう。新国立劇場だとどうなるか、確かめたい。『モデレート・ソプラノ』(2015)は4年前に新国立でやった『スカイライト』(1995)の作者だが、あのグラインドボーン(オペラハウス)を建てた男の話というので見ることに。昨年コロナで別作に差し替えられた北とぴあの《アルミード》は、一年越しの上演となる。三島の『サド公爵夫人 三幕』は32年前のベルイマン演出で震えたが、以来見ていない。それを鈴木忠志が第2幕のみ上演するという。久し振りの山崎広太新作ダンスで本年の打ち止め。

2日(金)19:00 新国立劇場演劇『夜明けの寄り鯨』作:横山拓也/演出:大澤 遊/美術:池田ともゆき/照明:鷲崎淳一郎/音響:信澤祐介/衣裳:西原梨恵/ヘアメイク:高村マドカ/演出助手:山田翠/舞台監督:川除学/出演:小島聖 池岡亮介 小久保寿人 森川由樹 岡崎さつき 阿岐之将一 楠見薫 荒谷清水 @新国立小劇場

4日(日)13:30 劇団民藝『モデレート・ソプラノ』作:デイヴィッド・ヘア/訳&演出:丹野郁弓/装置:堀尾幸男/照明:前田照夫/衣裳:宮本宣子/音楽:池辺晋一郎/効果:岩田直行/舞台監督:中島裕一郎/[キャスト]ジョン・クリスティ大尉:西川明/オードリー・マイルドメイ:樫山文枝/ルドルフ(ルディ)・ビング:齊藤尊史/フリッツ・ブッシュ:小杉勇二/カール・エーベルト佐々木梅治/ジェイン・スミス:日髙里美 @紀伊國屋サザンシアター

6日(火)18:30 新国立劇場オペラ《ドン・ジョヴァンニ》作曲:モーツァルト/台本:ダ・ポンテ/指揮:パオロ・オルミ/演出:グリシャ・アサガロフ/美術・衣裳:ルイジ・ペーレゴ/照明:マーティン・ゲプハルト/再演演出:澤田康子/舞台監督・斉藤美穂/[キャスト]ドン・ジョヴァンニ:シモーネ・アルベルギーニ/騎士長:河野鉄平/レポレッロ:レナート・ドルチーニ/ドンナ・アンナ:ミルト・パパタナシュ/ドン・オッターヴィオ:レオナルド・コルテッラッツィ/ドンナ・エルヴィーラ:セレーナ・マルフィ/マゼット:近藤 圭/ツェルリーナ:石橋栄実/合唱指揮:三澤洋史/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場オペラハウス

8日(木)19:00 アトリエ・センターフォワード『三人姉妹~愛と幻想と、残酷な時間~』作:アントン・チェーホフ/上演台本・演出:矢内文章/演出助手:岡村尚隆/美術:佐藤麗奈/音響:堀江 潤/音楽協力:瀬奈ヒロキ/照明:若井道代/舞台監督:タブチマサヒロ/制作支援:古元道広 加藤七穂/衣装:千葉奏子/ヘアメイク:渡辺真樹/宣伝美術:松田陽子/イラスト生成:Midjourney/映像製作・配信:鈴木カズオ 谷 若菜/制作・プロデュース:矢内文章 洪 明花/[キャスト]オーリガ:藤堂海/マーシャ:安藤 瞳/イリーナ:北澤小枝子/アンドレイ:矢内文章/ナターシャ:みょんふぁ/ヴェルシーニン:本郷弦/クルイギン:根本大介/トゥーゼンバッハ:岡田篤弥/ソリョーニ:山岡よしき/チェブトイキン:三瓶裕史/フェドーチク:今井 聡/ローデ:西澤香夏/フェラポント:堂下勝気/アンフィーサ:あさ朝子 @シアターX

9日(金)18:00 北とぴあ国際音楽祭 2022  オペラ《アルミ―ド》プロローグ+全5幕 1686年初演〈セミ・ステージ形式・フランス語上演・日本語字幕付・本邦初演〉指揮&ヴァイオリン:寺神戸 亮/演出&振付&バロックダンス:ピエール=フランソワ・ドレ/演出:ロマナ・アニエル/合唱・管弦楽:レ・ボレアード(オリジナル楽器使用)/歌手:クレール・ルフィリアートル、フィリップ・タルボ、与那城 敬、波多野睦美、湯川亜也子、山本悠尋、谷口洋介、中嶋克彦 ほか/バロックダンス:ニコレタ・ジャンカーキ、ダリウス・ブロジェク、松本更紗 @北とぴあ さくらホール

11日(日)14:00 劇団銅鑼 試演会2022『いかけしごむ』作:別役 実(1989年6月初演)/演出:館野元彦/装置:髙辻知枝/照明:福井夏紀/照明操作:亀岡幸大/音響:館野元彦/音響操作:村松眞衣/衣装:中村真由美/舞台監督:池上礼朗・村松眞衣/演出助手:竹内奈緒子・永井沙織/宣伝美術:早坂聡美・中村真由美/制作:齋藤裕樹/出演:吉野孝正(劇団員補) 鶴田尚子 横手寿男 @劇団銅鑼アトリエ

↑面白い。夜の街はずれにベンチ、背後に「ここに座らないでください」の立て看板、傍に占い師の机と椅子、その上から電話の受話器がぶら下がる。ここで籠を持つ女(鶴田尚子)が、通りすがりの男(吉野孝正)と可笑しな対話を始め、自分の〝リアリズム〟に男を巻き込んでいく。男が去ると刑事(横手寿男)が現れ、イカの入った袋を持つ男の死体が発見されたと。最後に女は幾晩も同じことを続けてきたという。一年前に家を出てのち、夫が一歳の娘を殺して自首した事を新聞で知ったとも。ならば、あの立て看は〝獲物〟をおびき寄せる罠なのか。男(一般)への復讐? 娘への償い? そんな心理的動機や因果関係の憶測は別役には場違いか。男女の珍妙なボケとツッコミをただ楽しめばよいともいえる。が、女の一見とぼけた対話の巧妙さは時節柄「洗脳」を想起させる。この怖さ、不気味さこそ別役作品の肝に違いない。鶴田の何事にも動じないゆったりした構えと、軋むように反応する吉野との対照がとても好い。横手は微細な演技で舞台に薬味を添えた。先般の『友達』も館野演出で見たかった。12/11ツイート

14日(水)19:00 N響 #1973 定演〈B-1〉グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18/ドヴォルザーク交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」/指揮:ファビオ・ルイージ/ピアノ:河村尚子サントリーホール

16日(金)18:30 『サド公爵夫人(第2幕)』作:三島由紀夫/演出:鈴木忠志/出演:SCOT/主催:SCOT/共催:(公財)武蔵野文化生涯学習事業団・(公財)利賀文化会議/文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業 @吉祥寺シアター

17日(土)14:00 役者の落語会「ごらく亭」presents.『人生悲喜劇案内』作:水谷龍二/演出:小宮孝泰コント赤信号/[キャスト]種村松五郎(役名):田村智浩/林原晴彦:仲道和樹/岡部一郎:田口智也/岡部道子:菊池夏野 @小劇場 楽園(下北沢)

↑ギャグで安易に笑いを取らず、物語も安易に解決しないで終わる。この点、近年の、これとは真逆のあり方(舞台・ドラマ等々)を図らずも批評しうる舞台だった。

本作に出てくる宗教は胡散臭いが、その実、極めて健康的かつまとも。いま問題になっている例のカルトとはむろんまったく異なるが、かつて千石剛賢が主催した求道的な「イエスの箱舟」とも違う(〝疑似家族的〟雰囲気は似ていなくもないが、こっちはもっといい加減!)。信者の妻とそうでない夫との間に、この宗教が波紋を起こす。社会的な価値観や約束事に縛られた夫の振る舞いが、妻に不信を抱かせ、本来の〝心〟(優しさ)を忘却した夫とそれを求める妻との決定的な齟齬が生じ、妻は家を出る。暗転後の場面で夫は改心し、入信したことが明らかになる。が、妻は戻って居らず、孤独な夫の暗い表情で幕となる。突然、怪しげな教祖が臆面もなく歌い踊るシーンは可笑しい。妻は青空一家の会に「優しさ」を見出していた。だが、家を出た傷心の彼女は、居酒屋(教会)に立ち寄ってはいない。なぜ作者はそうしたのだろう。妻の心より上司の意向を優先させた夫に、その行為の代償(ラストシーン)を支払わせるため? それとも…? 少し気になる。

岡林信康の「山谷ブルース」など懐かしさを随所に感じた。歌い踊る田村智浩の身体にはオーラが宿り、過去の行状が暴かれるシーンでは、人を殺した男に見えた。田口智也は安定感がある。菊池夏野は好い女優(新国立劇場研修所の5期だったのか)。仲道和樹は器用そう。初演はでんでんが教祖役? 本の選択や演出に、小宮氏の〝真面目さ〟を感じた。

18日(日)15:00 山崎広太 ダンスショーケース+プレゼンテーション —暗黒をすり抜ける、いつでもやってくる山崎!/ダンス:穴山香菜、小暮香帆、鶴家一仁、西村未奈、宮脇有紀、山野邉明香、山崎広太/音楽:大谷能生、永井健太 @Dance Base Yokohama←都合で行けず

23日(金)19:00 新国立劇場バレエ『くるみ割り人形』音楽:チャイコフスキー/振付:ウエイン・イーグリング/美術:川口直次/衣裳:前田文子/照明:沢田祐二/クララ&こんぺい糖の精:米沢 唯/ドロッセルマイヤーの甥&くるみ割り人形&王子:井澤 駿/指揮:アレクセイ・バクラン管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団/合唱:東京少年少女合唱隊 @新国立劇場オペラハウス

25日(日)13:00 新国立劇場バレエ『くるみ割り人形』クララ&こんぺい糖の精:柴山紗帆/ドロッセルマイヤーの甥&くるみ割り人形&王子:速水渉悟 @新国立劇場オペラハウス

25日(日)18:00 新国立劇場バレエ『くるみ割り人形』クララ&こんぺい糖の精:小野絢子/ドロッセルマイヤーの甥&くるみ割り人形&王子:福岡雄大 新国立劇場オペラハウス

28日(水)19:30 山崎広太 劇場プロジェクト 新作ダンス『机の一尺下から陰がしのび寄ること』振付:山崎広太/ダンス:穴山香菜、岩渕貞太、小暮香帆、鶴家一仁、西村未奈、宮脇有紀、山野邉明香、山崎広太/音楽:大谷能生、永井健太/美術:山村俊雄/照明:岩品武顕/衣装:GAZAA さとうみち代、山崎広太/音響:齊藤梅生/舞台監督:河内崇/制作:霜村和子/制作協力:岩中可南子、くわはらよしこ/Flier design:Suzuki Seiichi Design Office/主催:一般社団法人ボディアーツラボラトリー/協賛:蟻鱒鳶ル/助成:文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業/レジデンス協力:Dance Base Yokohama @BankART Station

↑初日。三部構成+エンディング?の80分。第三部の下駄踊りに心が動いた。素足女と下駄女のデュオで後者の木暮香帆がパドブレみたいにケタケタ進みながら上半身を嬉しそうに動かす。その喜びは即こちらに伝播した。初めてポアントで踊った時の喜びみたい。続く下駄踊りの群舞は壮観だった。男(鶴屋一仁)が下駄足を高く上げ、かけ声かけてステップし、見得を切る…。広太が奇声を発し意味不明の言葉を喋りつつ激しく踊る。あっという間にシモテから場外へ消え、怒濤のごとく再登場しエネルギッシュに踊る。グッときた。

かつて『Hyper Ballad』(01.3/新国立中劇場)『ショロン』(01.5/シアターコクーン)『浄められた夜』(01.6/芸劇小ホール)で広太が見せた岩石をドリルで穿つような〝ハチャメチャ〟ダンスを、この下駄ダンスが一瞬で照射した。この〝ハチャメチャ〟は実はとても繊細に分節化されている。そう感じた。

竹内敏晴は山崎広太を見て「これこそダンス」と言ったという。演出家の竹内によれば、「演劇は、日常のルールにのっとった行動を、新しく組み立てた約束事によってぶちこわし、その裂けめからなまなましく奔騰してくるものを突きつける装置」、「演技[アクション]とは、日常生活の約束事…によって疎外されている「生きられる世界」…をとりもどす試み」「からだを根源的にとり返す試み」のこと。竹内の演劇(演技)論は、ダンスにそのまま当て嵌まる。広太の下駄ダンスは、まさに「からだを根源的にとり返」し「からだを劈く」試みだった。単なるハチャメチャではこうはいかない。「これこそダンス」だ。12/29 ツイート

下駄履き8人の輪舞は盆踊りやアフリカの民族舞踊を想起させた。地霊と交歓する祭礼に見えたから。裏返った男2人を背景に西村未奈が語り踊る冒頭、四つん這いで始まる群舞、妖艶な仏像を思わせる西村のコーダは、気を蓄え噴出する下駄ダンスの工程/行程だったのか。キツい年の瀬に観られたのは僥倖だった。12/30 ツイート