新国立劇場「舞姫と牧神たちの午後 2021」初日と楽日

舞姫と牧神たちの午後 2021」の初日と楽日を観た(3月26日 金曜 19:00, 28日 日曜 14:00/新国立小劇場)。

照明:杉浦弘行/音響:河田康雄

印象的なのは『かそけし』と『Butterfly』。あとは『Let’s Do It!』。以下ごく簡単にメモする。

『Danae』(DANCE to the Future 2019 にて初演)振付:貝川鐵夫/音楽:J. S. バッハ「無伴奏チェロ組曲第6番」よりサラバンド、「ピアノ[チェンバロ]協奏曲第5番」よりアリオーソ[第2楽章]、フルート・ソナタ第2番よりシチリアーノ[第2楽章](ケンプ編)/編曲:笠松泰洋/演奏(録音):奥泉貴圭(vc.)松木詩奈(pf.)

出演:木村優里&渡邊峻郁

初日は二年前の初演と同じ印象——〈ゼウスの性愛が絡むギリシャ神話といえば、「レダと白鳥(ゼウス) 」が有名だが、これは「アルゴスの姫ダナエと全能の神ゼウスとの情事を描い」た作品。冒頭とエンディングで使われる金色の紙切れはゼウスが変身した黄金の雨か。「エロティシズムの世界に身をゆだねていく」(貝川)バレエに、あえて官能的でない音楽を選んでいる。二人の踊りや身体性からそこはかとなくエロスを立ちのぼらせる目論見か。が、それは実現せず。振付はいいし、踊り自体は悪くないのだが。貝川は振付家としての才能を開花させつつある。本作もよいと思うが、今回のペアは役柄にあまりフィットしていない印象。貝川と小野絢子で見てみたい〉(2019年3月のメモ)。四回目の楽日は好くなっていた。特に木村のからだがほぐれ自分を開くあり方に少し近づいた印象。

『かそけし』演出・振付:島地保武/音楽・演奏:藤元高輝(gt.)/衣裳:萩野 緑/振付助手:大宮大奨

出演:酒井はな&森山未來

面白い! ニジンスキーの『牧神の午後』を島地流に換骨奪胎したような作品。酒井はなの魅力が存分に発揮され、始終、頬が緩んだ。つなぎのようなブルーの衣裳(男は首回りが、女はパンツの裾が紫色がかっている)。横歩き。ユニゾン、掛け合い等々。途中で酒井は回転しながらシモテへハケルと奥でガラガラバッシャーン、酒井の奇声等々。森山と手を繋いでメヌエットを踊るシークエンスはなんか懐かしかった(酒井の主演バレエをこの劇場でずっと見てきたから)。それを徐々に崩していく島地(なんでも崩さずにはいられない?)。酒井がギタリストを邪魔した後、何か発しながらハチャメチャに踊る(山崎広太みたい)。森山はかなり息が上がっていた(楽日はそうでもなかった)が、酒井は平気に見えた。藤元高輝のギター演奏は驚くほど質が高い。乾いた音色とリズム、かと思えば瑞々しい叙情的メロディ、突然ギターを叩く、こする、足で床を踏み鳴らず、喋る等々、じつに効果的。ラストで街のざわめきが聞こえる。なんだろう。この営為を相対化したかったのか。ダンスの時間とそれを取り巻く日常的時間の「境界線」を「ぼやけ」させ、その「かそけき」さまを表出するためか。

『Butterfly』(「舞姫と牧神たちの午後2005」で初演)構成・演出:平山素子/振付:平山素子&中川 賢/音楽:マイケル・ナイマン、落合敏行/演奏(録音):蛭崎あゆみ(pf.)/衣裳:堂本教子

出演:池田理沙子&奥村康祐(26日・27日18:30) 五月女遥&渡邊拓朗(27日13:00・28日)

ノイズとピアノ。初日は池田と奥村の全力ダンスになんか圧倒された。二人のよさがよく出ていた。『ペトルーシュカ』(2019年1月)以来の感動。平山本人が踊るとH. アール. カオス風のハードさが前面に出るが、池田だとむしろ〝健気さ〟も感じられる。奥村はバレエの様式性を気にせず思い切り踊れるコンテの方が合っているかも。髪型や衣裳、きれいに汚したメイキャップなどから、虐げられた者が過酷な現実にもめず何度も立ち上がっていく、みたいなストーリーが想い浮かんだ。この感慨はコロナの影響か。

楽日は五月女の運動能力の高さに目を見張った。自然界の運動の法則。不屈さ。男が女にへばりついてキープするシークエンスは、二人の身長差が大きいため、大丈夫か、と心配に。ここからピアノがメロディを弾き…。

『極地の空』 /構成・演出:加賀谷香/音楽・演奏:坂出雅海/衣裳:清水典子/稽古代役:薄田真美子

振付・出演:加賀谷 香&吉﨑裕哉

 薄闇の奥の台上で鑿を打つような音。ギターを琵琶のようにもっぱら低音弦を弾く。録音の人声、女声…。踊りは…途中で二人羽織みたいな振りもあったがよく分からない。ちょっと古くないか。「天守物語」? 玉三郎主演の舞台は見たが、こんな話だったか。

『Let’s Do It!』/音楽:ルイ・アームストロングコール・ポーター/衣裳:池田木綿子

出演・振付:山田うん&川合ロン

 ルイ・アームストロングの温かみのある歌声に合わせて、二人が動き、踊る(あれは変型二人羽織か)。山田は短パン。川合はスカート。コメディア・デラルテのような感触。山田を見ていて『道』のジェルソミーナが浮かんだ。川合はザンパノではないが、どっしりとした安定感がある。山田の〝人間性〟がこの時空を充実させている、そんな印象。

『A Picture of You Falling』より 振付・テキスト:クリスタル・パイト/音楽:オーウェン・ベルトン/作品指導:ピーター・チュー/衣裳協力:ネザーランド・ダンス・シアター

出演:湯浅永麻&小㞍健太

 英語の語り(録音)と男女の踊り。初日はあまり感情が動かず。楽日は、二人の呼吸もよく合って、思い切りのよい動きが楽しめた。〝言葉と動き〟からサミュエル・ベケットの後期の小品やT. S. エリオットの “La Figlia Che Piange” の詩句などを想起した…。二人はいいダンサーだとは思うが、この断片をラストにもってくる意図がよく分からなかった。ちょっと西洋礼賛の匂いも…。