「音楽×空間×ダンス」第二回公演/米沢唯・島地保武の即興【追記】

「音楽×空間×ダンス」第二回公演を見た(28日(日)14:00/音の降りそそぐ武蔵ホール)。

             

ホールは建物の5階と6階に造られ、高い天井に吹き抜けた八角形の空間。キャパは134席だが、宣言下のいまは50席に制限している由。アシュケナージが選んだとの話もある(?)ベヒシュタインのピアノがカミテに陣取るフロアには、間をあけて椅子が3列、上階は1列だけの贅沢さ。音を聞くには上がよいそうだが、ダンスを見たいので下の三列目に座った。 ピアノは少々強めに響いたが、ダンサーはまさに手が届く距離。今回の衣裳は酒井はなさんが選んだらしい(上階にその姿が!)。

木ノ脇道元「UKIFUNE」

フルート:木ノ脇道元/ピアノ:松木詩奈

平均律のピアノが打ちつける打音と、十二に等分割された音程のあわいを揺れ動くフルート。その対照の妙。洋と和、もしくは男と女の絡みのようにも聞こえる。演奏後、笠松氏に促され、木ノ脇氏から題名の説明があった。「浮舟」は『源氏物語』の最後「宇治十帖」の登場人物の一人で…。

笠松泰洋「The garden in the South, or Solitude for piano」

振付・ダンス:島地保武/ピアノ:松木詩奈

ピアノが奏されるなか、男(島地)がカミテのドアから登場。縦ストライプの黒いセットアップに柄入りの金茶半袖シャツに素足のいで立ち。客席の間をゆっくり通って観客を睥睨する。舞踏のような感触。山崎広太を想起させる激しい動き等々(彼を初めて見たのは広太の作品で新国立中劇場だった)。やがて音楽がわらべ唄調に変わると、動きや踊りもとぼけた感じに。大きさと存在感。作曲の素材は南米での体験が元らしい。(ピアニストの松木氏が素足なのはダンサーに合わせたのかと思った。が、笠松氏によれば、このピアノはペダルの踏み加減で音が繊細に変わる名器なので、自分も靴を脱いで弾くとのこと。)

 J. S. バッハ「無伴奏フルート パルティータ」よりCorrente

振付:島地保武/ダンス:米沢 唯/フルート:木ノ脇道元

シモテから米沢が登場。鮮やかな模様のパンツルックはアルレッキーノを連想させる。眼に見えない捉えられないなにかを掴もうとしているような動き等々。

ドビュッシー前奏曲集第1巻」より「デルフィのの舞姫達」「アナカプリの丘」「亜麻色の髪の乙女

ピアノ:松木詩奈

響きが強い。近いからなのか、ピアニストのパトスが強いせいなのか。 

即興演奏×ダンス

ダンス:米沢唯/ピアノ:笠松泰洋

ギリシャの巫女のようなアイボリーの衣裳。静かな動きのなかに精神の充溢が感じられる。長いドレスからニョキッと現れる鍛え抜かれた脚の美しさ。

ここで休憩20分。

木ノ脇道元「月は有明のひんがしのやまぎはに細くていづるほどいとあはれなり」

ダンス:島地保武/1stフルート:鎌倉有里/2ndフルート:畢暁樺/3rdフルート:棚木彩水/アルトフルート:中村淳/バスフルート:木ノ脇道元

トイレから出たら拍手が。ぎりぎりセーフ。間接外しのような動きや…あまり覚えていない。 というかコンテの動きは言葉にしがたい。 

シューベルト「三つのピアノ曲」D946より第二曲

ピアノ:松木詩奈

出だしと終わりに抒情的で少しメランコリックなフレーズがある。が、このピアニストは激しい中間部のパートに気持ちが入る印象。やはりパトスが強いのかもしれない。

即興演奏×ダンス

ダンス:米沢唯 島地保武/フルートなど:木ノ脇道元/ピアノなど:松木詩奈/ピアノ・オーボエなど:笠松泰洋

島地は朱色のパンツにベージュのノースリーブ。米沢は先の〝アレッキーノ〟風パンツにトップスはブルーのノースリーブ。どちらのトップスもイッセイミヤケ風のプリーツ付き。まず〝狂人〟島地の登場。身体の奥からこわばりの奇声を発し笠松が座るピアノの鍵盤を叩く。笠松がそれに合わせて…。カミテでそれをクールに見詰めていた米沢がゆっくりとそこに介入していく…。島地はピアノの突起か傷跡かなにかを何度も指さす。すると米沢もそこを指で押すと、松木がチーンと鳴らす機敏さ。…米沢は『ジゼル』のミルタみたいにアラベスク・パンシェ(見事!)したり、片脚を上げて、どこに向かうか分からないという風にふらついた自己放棄ぶり、それを後ろから島地が何度も受け止めサポートする。あるときはぎりぎりで受け止め「危なかった!」と胸を撫で下ろす。これは沼地のパ・ド・ドゥのパロディなのか。そうして彼女をモノみたいに抱き留めたまま客席の方へ近づき、なんかつぶやく(差し上げますとでも言ったのか)。これに米沢がすねてみせると、「もうしません」と島地。あるいは、米沢のふくらはぎをモミモミして、米沢にパシッと叩かれる。これは『眠り』の猫のパロディか(一週間前『眠り』の米沢を見に来たらしい)。呟きが止まない島地に、米沢が自分の口を手で塞ぐと、「喋らない?」「バレエは喋らない」と懲りずにつぶやく島地。ここからラップ風になり、なにかの拍子に「くるみ割り人形」とつぶやくと、すかさず木ノ脇がバスフルートで「くるみ」のメロディを。すると松木笠松の弾くピアノに参戦し、その伴奏をつける。米沢はそれらしい踊りを始める…(「中国」だったか「葦笛」か? 思い出せない)。【…色々あって、再び米沢がピアノを指さしながら近づき例の部分を押すと松木が「チーン」。これが終了の合図となった。】

拍手で何度も呼び戻されるアーティストたち。実に楽しい時間だった。こんな近くでダンスや演奏を享受できる機会はめったにない。笠松さん、ぜひまたやってください。

【米沢唯と笠松泰洋が初共演した「DANCE to the Future 2016 Autumn」のメモはこちら(フルートの木ノ脇道元氏も出演していた)。「DANCE to the Future 2019」の初日と楽日はこちら。】