新国立劇場 2020/2021シーズン開幕バレエ『ドン・キホーテ』全6キャスト

以下のメモは配信収録の10月31日分まで書いて息切れし、放置していた。が、昨夜 吉田都に密着したNHKプロフェッショナル 仕事の流儀」を見て、書きかけを思い出し、楽日の手書きメモを転記しアップすることにした。

吉田都 新芸術監督の記念すべきオープニングは、当初ピーター・ライト版『白鳥の湖』の新制作が予定されていたが、新型コロナの影響で来秋(2021)に延期。代わりに、5月の上演がコロナ禍で中止となっていた『ドン・キホーテ』が選ばれ、その全6キャストを見た(10月23日19:00,24日13:30,25日14:00,31日13:00/18:30,11月1日14:00)。

 前回2016年5月の『ドン・キ』は手書きメモだけでブログにはアップせず。その前の回は新国立が初めて海外ゲストなしの『ドン・キ』を上演した記念すべき公演だった(2013年6月)。あれから7年か。 

コロナ禍で8ヶ月ぶりとなった本公演。生の舞台は何ものにも代えがたい喜びをもたらしてくれる。そのことを強く再確認した。

以下、例によって、だらだらとメモする。

音楽:レオン・ミンクス/振付:マリウス・プティパ+アレクサンドル・ゴルスキー/改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ/美術・衣裳:ヴャチェスラフ・オークネフ/照明:梶 孝三/芸術監督:吉田 都/指揮:冨田実里/管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

 まずは初日の幕開け公演から。 米沢唯と井澤駿は、幾重ものプレッシャーがかかるなか、初日を開ける大役を見事に果たした。

10/23(金)19:00 

キトリ(ドゥルシネア):米沢 唯 /バジル:井澤 駿 

ドン・キホーテ:貝川鐵夫/サンチョ・パンサ:福田圭吾

ロレンツォ:福田紘也/ガマーシュ:奥村康祐 

キトリの友人:奥田花純(ジュアニッタ)、飯野萌子(ピッキリア)

エスパーダ:木下嘉人/街の踊り子:寺田亜沙子

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:細田千晶 

ジプシーの頭目:中家正博 

二人のジプシー:井澤 諒、宇賀大将 

森の女王:木村優里/キューピッド:五月女遥 

ボレロ:益田裕子、速水渉吾

GPDD 第1ヴァリエーション:奥田花純/第2ヴァリエーション:池田梨紗子 

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

ここ数年、ダンサーたちの技量が上がり、層もいくらか厚くなってきていた。が、一方で、最後のひとはけ、というのか芸術的な仕上げに物足りなさを感じてきたことも確かだ(『ドン・キ』はそうでもなかったが)。今回はすみずみまで血が通った舞台。長い中断後ということもあるが、踊りも演技もコール・ドを含めて活気があった。

プロローグ

キホーテもパンサも好い加減さは見られない。

第1幕 バルセロナの街

第1幕の幕があがると、久し振りの明るいステージが眩しく、感慨深い。米沢はこれまでとは少し感触が違う。新芸監でのシーズン開幕とあって、さすがにのびのびとはいかない。その分、ナチュラルというより、フィクショナルな空間を作っていくようなあり方。井澤は踊りがきれいでキレもある。少し見違える感じ。中央で華やかな踊りが続くなか、カミテの隅で小芝居が展開されるのは、これまでと同じだが、そこに手抜きは一切見られない。

エスパーダの木下はキリリとした踊りと動き。初日の緊張が解けたらさらにのびのび踊れるだろう。

冨田の指揮は、これまで棒の振りが舞台を見る妨げになると感じたが、今回それはない。東フィルの演奏も悪くない。ただ、すべてが前景化され奥行きがさほど感じられない印象(バクランのパトスが身体に残っているのでつい)。華やかさが売りの本作ではそれでよいともいえるが。

第2幕

第1場 居酒屋

カスタネットの踊り(細田)はもっと内から情念が出てくる感じがほしい。初役のせいもあるのか、カスタネットのリズムがオケよりかなり速くなりがち。オケも盛り上がりがやや表面的か。

メルセデス(渡辺)は大きく華やかな存在感。バジル井澤、キトリ米沢、ロレンツォ福田紘也のコミカルなやりとりに、前方カミテの客から笑いが出た。

第2場 風車

ジプシーの頭目(中家)は上背があり、芝居もうまい。ジプシーたちのアップテンポの踊りはまずまず。キホーテが人形芝居の小屋を壊すシーン。風車との戦い等。OK

第3場 夢

 森の女王木村は大きくsure な踊り。悪くない。キューピッド五月女は、らしくない点もあったがまあOK。ドゥルシネア米沢のヴァリエーションはポエジーが出ていた(かつての吉田都みたい)。片脚けんけんで拍手するのはやめてほしい(スポーツやサーカスじゃないんだから)。コール・ドもよい。オケは木管クラリネット)の歪み音が。

 今日は客席の落下音がない!

 第3幕 公爵の館

 本島の公爵夫人はもったいない。

 原田舞子がenterし細部まできっちり音楽に合わせて踊る踊りに目を見張った。速水のボレロよい。アダージョ。米沢は色気がある。踊り、表情、とてもよい。町娘が恋人へ送る視線。井澤のサポートはずいぶんよくなった。例の角度。ラストの静止!

井澤のヴァリエーションはきれいなうえに、これまでより力強さが加わっている。米沢のヴァリエーションは、前と違う。上半身の傾斜が大きく、動きが娘らしいきびきびシャキシャキ感。フェッテは、なんだこれは! まったく軌道がずれない。舞台に突風が吹いた。客席からは思わず声が出ていた。井澤の回転もきれいかつキレていた。

奥田、池田のヴァイエーションは踊りの質が上がった。奥田は思い切りのよさに加え、丁寧さが。

カーテンコール。スタンディング。吉田都が出てくると、ほぼ全員がスタンディングで喝采した。

 

10/24(土)13:30

キトリ(ドゥルシネア):木村優里 /バジル:渡邊峻郁

ドン・キホーテ:趙 戴範/サンチョ・パンサ:高橋一輝

ロレンツォ:中島駿野/ガマーシュ:小柴富久修

キトリの友人:廣田奈々(ジュアニッタ)、横山柊子(ピッキリア)

エスパーダ:井澤 駿/街の踊り子:柴山沙帆

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:朝枝尚子

ジプシーの頭目:中家正博

二人のジプシー:福田圭吾、木下嘉人

森の女王:細田千晶/キューピッド:広瀬藍

ボレロ:益田裕子、速水渉悟

GPDD 第1ヴァリエーション:五月女遥/第2ヴァリエーション:廣川みくり

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

趙のキホーテは存在感がある。実際に本を読んでいるように見えた。騎士道に取り憑かれた感じがよく出ていた。大きさ、迷いのなさ。高橋パンサは軽め。

第1幕

木村キトリはよく踊っているのだが、こちらに響いてこない。バジル渡邊とのユニゾンの踊りがいまひとつ合っていない。ぴったり揃う必要はないが、強度が違いすぎる印象。渡邊のソロは少し軽いか。片手リフトの2回目はうまくいかず。

ロレンツォ中島はよい。友人二人もOK。ガマーシュは小柴だったのか。まずまず。エスパーダ井澤は大変よい。形がきれいで踊りは端正。白タイツがよく似合う。町の踊り子柴山はナイフを倒した(しっかり立っていなかった? そもそも立てる側に問題がある? リノリュームのせい?)。パンサのトランポリンは初日とは違った面白さがあった。

第2幕

第1場 居酒屋

カスタネットの踊りの朝枝は、音楽を身体で感じながらスパニッシュ風のフォルムで踊る。カスタネットのリズムも速すぎず、むしろ遅めで、とても感じが出ている。

エスパーダ井澤は、二人の女の間でそれらしい(いわくありげな)雰囲気を出しながら踊る。

第2場 風車

二人のジプシー木下・福田圭吾はキレキレ。ジプシーの頭領 中家とのやりとりはとてもよい。キホーテの風格と一途さ。

第3場 キホーテの夢(森)

森の女王、細田まずまず。ドゥルシネア木村よい。キューピッド広瀬、すごく合っている。

第3幕 公爵の館

ボレロの速水は今日の方がさらによい。アダージョ、あまり覚えていない。渡邊のヴァリエーションはしっかり踊っているが、もう少し重みがが出たらもっとよい。

木村はいつも通り。グランフェッテは最後までよくやり通した。ただ「やったあ!」といった表情はどうなのか。その場に捧げる気持ちがほしい。終演後のカーテンコールも同じ。

 

10/25(日)14:00

キトリ(ドゥルシネア):柴山沙帆 /バジル:中家正博

ドン・キホーテ:趙 戴範/サンチョ・パンサ:高橋一輝

ロレンツォ:中島駿野/ガマーシュ:小柴富久修

キトリの友人:廣田奈々(ジュアニッタ)、横山柊子(ピッキリア)

エスパーダ:井澤 駿/街の踊り子:木村優

メルセデス:益田裕子/カスタネットの踊り:朝枝尚子

ジプシーの頭目:速水渉悟

二人のジプシー:福田圭吾、木下嘉人

森の女王:細田千晶/キューピッド:広瀬 藍

ボレロ:川口藍、渡邊峻郁

GPDD 第1ヴァリエーション:五月女遥/第2ヴァリエーション:廣川みくり

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和 

 趙キホーテは大変好い。思い込みが強い堅物だが、芯が強く、真に善きものを見抜く老人。そんな感じ。

柴山キトリのバレエは本格的。彼女はターボエンジンを備えている(何度も言うが)。中家バジルも本格的。明確な意志。高いリフトへの意志。演技がすべてハッキリしている(目線がオーディエンスに向きすぎの感も)。デュエットのキメの箇所で、トランペット4人のうちのがひとりが上がりきらず(頼むよ)。ガマーシュ小柴は今日の方がよい。演技にすべて血が通っていて面白い。キホーテがキトリに求愛するときのマイムで「気」が舞台に横溢した。趙キホーテの一挙手一投足には明確な意図が感じられる。すごい集中力。中家バジルの友人二人を交えたソロは2回目のジャンプ・ピルエットで軸が少しシモテに傾いた。才能に見合った場が与えられ、生き生き踊る二人の姿は見ていて気持ちが好い。

第2幕

第1場

カスタネット朝枝は音楽をよく感じて踊る。次第に盛り上がっていくプロセスを身体と踊りで体現している、そう見えた。メルセデス益田はきめ細やかな感触。エスパーダ井澤は今日も二人の女と訳ありの関係を匂わせるあり方。踊りも気合いが入っていて格好いい。バジル中家は細かな演技で回りと生きた関係を作っていた。キトリ柴山もそこにうまく入っていた。

第2場

ジプシーの頭目速水は昨日とは違った演技。木下・福田は今日もキレキレ。キホーテはしっかり紐を切ったが人形劇の小屋は倒壊せず(以前の公演でもあった、仕込みのせいか)。

幕間で、風車と闘って傷つき気を失った趙キホーテは、悪夢に襲われる。そのさまを表現する動きは音楽と深く呼応して見事だった。

第3場

森の女王 細田は丁寧な踊りだが、他を慈しむ女王の風格や気品がもう少し出せたら。ドゥルシネア柴山はよいと思う。キューピッド広瀬はやはり合っている。キホーテとの絡みもよい。キホーテの夢から覚めた動きは素晴らしい。公爵夫人本島との対話にもノーブルさがある。

第3幕

原田舞子のアントレの踊りは音楽にきっちりフィットした踊りで目を見張った(吉田都ばり?)。ファンダンゴでシモテの女性にアクシデント。3日間で4公演目か。コロナ禍で中止が相次いだ後の全幕連チャンだから、疲れが出たのだろう。

アダージョでバジル中家は前回と同じところでバランスを崩した。やはり主演回数が足りないのか。怪我の影響か。その後の演技は慎重になり、やや精彩を欠いたのは残念。キトリ柴山は悪くない(もっと笑顔が欲しいが)。バジルのヴァリエーション。前半は少し引きずった印象だが、後半はよかった。キトリのヴァリエーションは軸が内側にぎゅっと凝縮したような好い踊り。フェッテは扇なし。最後は少し誤魔化したがよいと思う。強度が高く正統的に踊れる二人。ただ、中家はセンターでの場数が圧倒的に少ない。そのあたりを芸監はどう考えるか。

 

10/31(土)13:00

キトリ(ドゥルシネア):池田理沙子 /バジル:奥村康祐

ドン・キホーテ:趙 戴範/サンチョ・パンサ:高橋一輝

ロレンツォ:中島駿野/ガマーシュ:小柴富久修

キトリの友人:廣田奈々(ジュアニッタ)、横山柊子(ピッキリア)

エスパーダ:井澤 駿/街の踊り子:木村優

メルセデス:益田裕子/カスタネットの踊り:朝枝尚子

ジプシーの頭目:速水渉悟

二人のジプシー:福田圭吾、木下嘉人

森の女王:細田千晶/キューピッド:広瀬 藍

ボレロ:川口藍、中家正博

GPDD 第1ヴァリエーション:五月女遥/第2ヴァリエーション:廣川みくり

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和 

 趙キホーテは本当に本を読んでいるように見える。

第1幕

コール・ドは元気を取り戻した。池田キトリは町娘のあり方がよく伝わってくる。よく踊っている感じ。奥村バジルは元気いっぱいで思い切りがよく、二人の呼吸もよく合っている。明るく楽しいカップル。それが舞台上で周りに伝わっていく。キホーテがキトリに求愛するシーンはとてもリアル。キホーテのシリアスなあり方。キトリの戸惑い。バジルは「マジで?」 ちょっと遡るが、きれいな娘たちに囲まれたパンサのシーン。娘たちはほんとにきれい。二人のソロもよかった。エスパーダ井澤も。それにしても、ナイフは立たないな。片手リフトの2回目で、長く保ったが、この日もすぐに拍手が入り、タンバリンが聞こえない。残念。

第2幕

カスタネット朝枝、初めは二人がギターを持って踊り始め、朝枝はまだ見えない。やがてシモテの袖からゆっくり姿を現し、カスタネットを鳴らしながら、中央に出て踊る。まずはゆっくりと抑えて踊るが、やがて孔雀が羽を広げるように(あれは雄だが)情念を表に出しクライマックスを迎える。また静まって…。オケはやや物足りない。もっとパトスを吐き出すような響きがほしい。

 

いよいよネット配信収録の日。劇場内は異様な緊張感が漂う。

10/31(土)18:30

キトリ(ドゥルシネア):米沢 唯 /バジル:速水渉悟

ドン・キホーテ:貝川鐵夫/サンチョ・パンサ:福田圭吾

ロレンツォ:福田紘也/ガマーシュ:奥村康祐

キトリの友人:奥田花純(ジュアニッタ)、飯野萌子(ピッキリア)

エスパーダ:木下嘉人/街の踊り子:柴山沙帆

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:細田千晶

ジプシーの頭目:中家正博

二人のジプシー:井澤 諒、宇賀大将

森の女王:木村優里/キューピッド:五月女遥

ボレロ:川口藍、渡邊峻郁

GPDD 第1ヴァリエーション:奥田花純/第2ヴァリエーション:池田梨紗子

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

貝川キホーテはシャープでコミカル。かつヒューマン。やや戯画的。福田パンサが勘所を外さない巧みさで、バランスが取れている。

第1幕

米沢キトリはいきいきスマイルで劇場内の緊張感もなんのその。とてもチャーミング。速水は初っぱなから高いジャンプでみんな吃驚。芝居も動きもダイナミック。こんなバジル見たことない。リフトも高い。米沢とのからみもよい。が、キトリがバジルの肩に乗らず。なんとかフィッシュダイブの姿勢を作った。その後、米沢は速水を見て「やっちゃたねー」と茶目っ気たっぷりの表情。キトリとバジルの関係(ドラマ)は壊れなかった。さすが。(このときなにがあったのかは翌日知った。)

ロレンツォ福田紘也は、漫画のような顔。ガマーシュ奥村はまずまず。米沢との相性はよい。ソーセージを盗んだパンサをロレンツォが追いかけるシーンは、(福田)兄弟喧嘩か。エスパーダ木下。街の踊り子柴山は安定感が増した。それにしても、ナイフは倒れすぎ。バジルのソロは、ミスの直後だけに、少し抑え気味となった。もっとできるはず(とその時は思った)。

第2幕

カスタネット細田は初日よりはよいが、まだカスタネットのリズムが速すぎ、内に秘めた情念が見えない。メスセデスの渡辺は少し大味だが妙な面白さがある。木下エスパーダもよいが、別キャストの三人の方が、曰く付きのドラマを感じさせる。

速水はここで大技を見せた。もうひとつ、キトリが序奏をつけて身体を投げだし、それをバジルが受け止めるシークエンス。ここで速水はピルエットしたまま手拍子を打ったと思う。そんなことができるのか! キホーテが居酒屋の店主の足に槍でトンと突くシーンは、足から離れすぎ(趙を見習って欲しい)。バジルの狂言自殺のシーン。キトリの胸を揉み揉み(!)。キホーテがキトリに懇願されてロレンツォにうんと言わせたのちにバジルは立ち上がる。このタイミングはよかった(初日は早すぎた)。

ジプシーキャンプ。アップテンポの群舞は少し物足りない。キホーテはやや芝居がかりすぎの感。

夢のシーン

森の女王、まずまず。キューピッド五月女はいつものスムーズでキレのある踊り。ドゥルシネア米沢は、キホーテの理想の女性に見合う優美さがよく出ていた。

第3幕

ボレロの川口と渡邊。初日よりキレがあり、スペイン風の気が入っていた。

アダージョ。バジルの強さ、大きさから、キトリの感じが初日とはかなり違う。米沢は大人の色気が感じられる。第1幕にアクシデントがあっただけに、観客はみな息を詰めて見ている。そんななか、大きく華やかなパ・ド・ドゥが展開された。リフト、フィッシュダイブ。緊張感が迫力を増大させた。

速水のソロ。例の空中を蹴り上げる踊り。迫力はあるが、これ見よがしではない。キトリのソロ。初日より大人の踊り。フェッテ。初日より、厳しさが感じられた。この緊迫したなかで、よく回りきれるものだ。速水の回転も力強くかつきれい。

カーテンコール。まず、速水だけ出てきて、レヴェランス。あとから米沢。速水に拍手を送る。初日に続き、スタンディング。指笛が飛び交う。今日は茶髪の兄ちゃん姉ちゃんが多かった。速水ファンか。速水の高いジャンプや超絶のピルエットは、これ見よがしというより、どこか無償の、捧げ物の趣がある。そこがとてもよい。

翌日の千穐楽が終わった後、事情を聞いて驚いた。米沢は31日当日の朝から腰に痛みがあったらしい。第1幕のアクシデントは、てっきりパートナー(速水)とのタイミングのズレが原因かと思い込んでいた。二人が組むのは初めてだったから、つい、速水の経験不足なども頭に浮かんだ。が、そうではなかったようだ。速水渉悟には大変申し訳ない。第2幕の後、柴山・中家は万一のためスタンバイしていたという。知らなかった。そんな状態であのフェッテをやり遂げたのか! 速水も不安な様子など素振りも見せず、力強く、大きく、質の高い踊りと演技を見せた。脱帽です。

 

千穐楽 11月1日(日)14:00

キトリ(ドゥルシネア):小野絢子 /バジル:福岡雄大

ドン・キホーテ:貝川鐵夫/サンチョ・パンサ:福田圭吾

ロレンツォ:福田紘也/ガマーシュ:奥村康祐

キトリの友人:奥田花純(ジュアニッタ)、飯野萌子(ピッキリア)

エスパーダ:木下嘉人/街の踊り子:寺田亜沙子

メルセデス:渡辺与布/カスタネットの踊り:細田千晶

ジプシーの頭目:中家正博

二人のジプシー:井澤 諒、宇賀大将

森の女王:木村優里/キューピッド:五月女遥

ボレロ:益田裕子、速水渉悟

GPDD 第1ヴァリエーション:奥田花純/第2ヴァリエーション:池田梨紗子

公爵:内藤 博/公爵夫人:本島美和

 第1幕

二人とも〝安心して〟見ていられる。小野は明るく快活なキトリ。踊りもよい。福岡はキレがあり、sure。芝居もマンネリにならず、よく考えている。二人ともベテランの演技。二回目の片手リフトは長め。この日も拍手が邪魔してタンバリンが聞こえない。パートナーシップが長いだけにさすがの演技だが、その分ハラハラドキドキはない。カンパニーとしてはこういう日があってもよいか。

第2幕

カスタネット細田はリズムも速すぎず、今日が一番好かった。メルセデス渡辺はもう少し踊りの強度がほしい。エスパーダ木下は少し疲れが見える。小野・福岡は正統的と思わせる踊り・演技で申し分ない。狂言自殺のシークエンスはこれまでとは違ったやり方。好かった。

ジプシーキャンプのシーン。今日のコール・ドはまずまず。

夢のシーン。小野よい。木村よい。五月女は疲れか。夢から覚めたキホーテは元気よく立ち上がりすぎ(趙を見よ)。

 

今回音楽は特に問題ない。指揮者はいい仕事をしたとは思う。が、満足とまではいかなかった。バレエ音楽に+α (深い音楽性)を望むのは〝贅沢〟とみる向きもあろうが、今後も期待し続けたい。

今シーズンも販売プログラムが復活しなかったのは残念。公演中止が相次ぎ、そうした余裕がないのは分かっている。だが、国立と名の付く劇場で子供だましの無料リーフレットしかないのは、やはり異常である。オペラや演劇部門にできてバレエ部門にできないはずはない。