佐藤俊介とオランダ・バッハ協会管弦楽団/驚嘆すべき音楽家

佐藤俊介とオランダ・バッハ協会管弦楽団」のコンサートを聴いた(10月5日 14:00/彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール)。

音楽監督/ヴァイオリン:佐藤俊介

ヴァイオリン:アンネケ・ファンハーフテン、ピーテル・アフルティト

ヴィオラ:フェムケ・ハウジンガ

チェロ:ルシア・スヴァルツ

コントラバス:ヘン・ゴールドソーベル

チェンバロ:ディエゴ・アレス

バスーン:ベニー・アガッシ

フルート:マルテン・ロート

オーボエ:エマ・ブラック、ヨンチョン・シン

質の高いアーティストたちによる優雅で活き活きとした演奏。600人収容のホールはこの手の音楽には最適で、聴衆のマナーを含め、大変気持ちの好い公演となった。以下、簡単にメモする。

J. S. バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV 1066

まさに舞曲だ。音はとても柔らか。メヌエットの中間部などは弦と管のコントラストを視覚と聴覚で楽しめた。

ヨハン・ゲオルク・ピゼンデル(1687-1755):ダンスの性格の模倣

初めて聴いた。ピゼンデルはドレスデン宮廷楽団のコンサートマスターとして活躍。22歳のとき若いバッハと知り合ったという(寺西肇「Program Notes」)。ピッコロが入り、バグパイプ風の響きも聞こえた。民族的な感触。が、あっという間に終わった。

J. S. バッハ:ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060R 

オーボエピリオド楽器とはいえ少し不安定か。第3楽章のアレグロで佐藤は伴奏と主題の別を明確に奏し分ける。装飾を入れるところでも実に軽々! とんでもないヴァイオリニストだ。

ここで20分休憩

J. S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV 1042

 第二楽章のアダージョでは、バッソ・オスティナートのうえにヴァイオリンソロが短調のメロディを奏でていく。その自然な美しさといったら。

ピエール=ガブリエル・ビュファルダン(1693-1768):《5声の協奏曲 ホ短調》より 第2楽章 

これも初めて。ビュファルダンはフルート奏者で作曲家。J. S. B.より八歳若い。この楽章はフルート変奏曲の趣きがある。チェンバロと弦のピチカートはリュートアルペジオのように聞こえた。マルテン・ロートのフラウト・トラヴェルソはまろやかな音色で、もっと聴いていたい。が、これもあっという間。

J. S. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV 1050/ヴァイオリン

 第1楽章。例のチェンバロ(ディエゴ・アレス)の長いソロは、これみよがしでなく典雅に進んでいき、後半でとんでもない名人芸を発揮した。が、どこまでも気品を失わない。第2楽章はヴァイオリンとフルートの掛け合いが楽しい。第3楽章は、飛び跳ねるようなテーマを各楽器が次々に受け渡していく。

アンコール一曲目は

管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 からバディネリー(バディヌリー)

フルートが速いテンポで戯れていく。二曲目は

組曲第3番 二長調 BWV1068 からアリア(エア)

佐藤が奏でるアリアは繊細だが神経質なところが微塵もない。虚飾は皆無で、限りなく優美。即興的に入る装飾に〝いまここ〟が刻印された。

楽曲・編成に応じて演奏家の立ち位置が様々に変わるため、視覚的にも変化があって飽きない。佐藤(コンサートマスター/音楽監督)と他の演奏者たちとのやりとりがとても興味深い。ヴァイオリンの技量はいうまでもないが、その〝対話力〟も尋常ではない(「佐藤俊介の現在(いま) Vol.1 ヴァイオリン×ダンス―奏でる身体 2015年」で実証済みだが)。

佐藤はヴァイオリンを弾くとき、その楽器と一定の距離があるかのように感じさせる。ピリオド楽器バロックヴァイオリン)は顎当てを使わないからそう見えるのだろうが、たぶんそれだけではない。佐藤の場合、弾いている人間と他の奏者の演奏を聴きながら指揮する人間が同時にそこに居るような錯覚に襲われるのだ。いったい彼の音楽脳はどうなっているのか。佐藤俊介は驚嘆すべき音楽家である。

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲」(2018年11月4日/所沢市民文化センター ミューズ キューブホール)

佐藤俊介の現在 Vol. 2 ドイツ・ロマン派への新たな眼差し」(2016年2月13日/彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール)