新国立劇場バレエ DANCE to the Future 2019 初日【+千穐楽】

「DANCE to the Future 2019」の初日を観た(3月29日 19:00/新国立小劇場)。アドヴァイザー:中村恩恵

楽日も見る予定だが、とりあえず簡単にメモする。

【初日はC5、楽日はD2列で。3列離れるだけで全体がずいぶん見やすくなった。】

第1部

ゴルトベルク変奏曲」振付:髙橋一輝

J.S.バッハ/出演:奥田花純、宇賀大将、益田裕子、渡邊拓朗

椅子が数脚倒れているのが見える。【ブルーが基調の】正面壁に【大小の】丸い赤色照明が【交互に】ゆっくり点滅【小輪→大輪の順に。重なる部分もあるが融合しないのは、二人の関係を表象するのか。】無音のまま椅子を倒す音が何回かリピートされる。やがて「ゴルトベルク変奏曲」冒頭のアリアがかなり速めで流される。音も最初は小さめ。四人の男女が変奏に合わせ、椅子を用いて次々に踊る。ソロありデュエットあり。特に男性のソロが面白い。宇賀の後ずさる踊りなど。最後に冒頭のアリアが回帰し、赤い光の輪が合わさってエンド。少し素人くさいか。【←この第一印象は消えた。ヴァリエーションごとに椅子を巧みに使い、男女のデュエットのみならず、男男、女女の踊りもあり、よく考えられている。以前、盆子原をフィーチャーした作品より前進した。対話、葛藤、調和…。】

「猫の皿」振付:福田紘也

出演:福岡雄大、本島美和、福田圭吾、小柴富久修

「Format」振付・出演:福田紘也

「公演が終わるまでSNSで細かな内容を書かないで」と振付家。あと一公演残っているのでネタバレしないようメモする。

紘也が座布団を持って中央手前に置き、手鏡を見ながら透けた赤いセロファン(のようなもの)を口元に貼って去る。カミテに照明が作り出す「縦の道」で本島がソロを踊る。その後、小柴がXXの出で立ちで登場。座布団に座る前、XXを履いた右足のつま先を…。振付家は異なるジャンルの表現を同時進行させる。音楽の代わりに別の表現を使ってダンスを踊らせる、というべきか。ダンスに注視すると、別の表現が意味を結ばず、後者に集中すると、ダンスを見ることができない。平田オリザの「同時多発会話」みたいだ(これは両方コトバ)。が、時折、両者の表現がぴたりと一致する。と、なぜか笑いが起きる。両者の表現が終了し、レヴェランス。ダンサーたちはにこりともしない。それにしても小柴はXXが上手すぎ(ツカミも堂に入ってる)。X研だったのか。

今度は紘也がカミテの「道」で本島の踊りを引き継ぐ…。ラストで例の赤いセロファンを口元から剥がし、別の表現と同じ締めで終わる。すっかり身体が緩んだ。

【初日とはツカミが違う。どうやら毎回変えているらしい。しかも変わらず面白い。小柴は落語の経験がない? ほんとか。それにしては巧すぎるぞ。初日にも書いたが、表現が同時進行すると、特に片方がコトバの場合、両方に注視し、理解するのは難しい(音楽とダンス/バレエでも、完全に同期すると音楽が聞こえないこともある)。ダンスに注目すると、噺(コトバ)は意味ではなく音として認知される。後者に耳を傾けると、ダンサーが見えない。物理的に見えてはいるが、動きの意味や効果が認識しずらくなる。福田紘也はコトバの人だと思うが、結果としてダンスの解釈学を解体させる作品を創った。紘也こそ「変な人」ではないか。】

第二部「Danae」振付:貝川鐵夫

音楽:J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第6番」よりサラバンド、「ピアノ[チェンバロ]協奏曲第5番」よりアリオーソ[第2楽章]、フルート・ソナタ第2番よりシチリアーノ[第2楽章](ケンプ編)/出演:渡邊峻郁、木村優

ゼウスの性愛が絡むギリシャ神話といえば、「レダと白鳥(ゼウス) 」が有名だが、これは「アルゴスの姫ダナエと全能の神ゼウスとの情事を描い」た作品。冒頭とエンディングで使われる金色の紙切れはゼウスが変身した黄金の雨か。「エロティシズムの世界に身をゆだねていく」(貝川)バレエに、あえて官能的でない音楽を選んでいる。二人の踊りや身体性からそこはかとなくエロスを立ちのぼらせる目論見か。が、それは実現せず。振付はいいし、踊り自体は悪くないのだが。【貝川は振付家としての才能を開花させつつある。本作もよいと思うが、今回のペアは役柄にあまりフィットしていない印象。貝川と小野絢子で見てみたい。】

「beyond the limits of...」振付:福田圭吾(「DANCE to the Future 2016」上演作品)

音楽:Tommy Four Seven/出演:奥村康祐、米沢唯、寺田亜沙子、奥田花純、木下嘉人、原健太、宇賀大将、玉井るい

バッコン、バッコンの音楽にフォーサイスばりの踊りが効果的な照明とフォーメーションで進行する。前回出演の堀口純から米沢に、林田翔平から宇賀に代わった。米沢は踊りにキレがあり、この手によくある妖しさよりも清冽で伸びやかな感触が勝った。寺田はフォーサイスっぽい踊りがよく似合う。奥田もこの手はお手のもの。【よく創っている。木下もいいですね。みなカッコイイ。】

「カンパネラ」振付:貝川鐵夫(「DANCE to the Future 2016」上演作品)

音楽:F.リスト/出演:福岡雄大

 空を切る福岡の気合いに圧倒された。さすが。袴のようなパンツ(?)に上半身裸の出で立ちはサムライのよう。ピアノのトレモロと同期した指の動きは面白い。本作は〝古典化〟してきた。

【楽日 出演:貝川鐵夫 自分はこれなんだ。これで生きるのだ。と言わんばかりに全身全霊で踊る。後半は歯を食いしばって。グッときた。かなり。ビントリーに振付の機会を与えられて本当によかったですね。】

第三部 Improvisation 即興

音楽監修:笠松泰洋/演奏:スガダイロー(pf.)、室屋光一郎(vl.)、伊藤ハルトシ(vc./gt.)/出演:貝川鐵夫、福田圭吾、池田理沙子、髙橋一輝

 面白い! 三人の男性振付家相手に、池田は迷いなく、どう見えるか(踊りになるか)など頓着せず、その場に嵌まり込んで動き踊る。貝川は音楽の変化を身体で感じ、フリージャズ風には山崎広太ばりのハチャメチャ踊りを見せる。池田との絡みも三者三様。圭吾は内側を介さず身体的に、高橋は相手を探りながら、貝川は〝気〟で対抗しながら。結果、池田がすべてを支配したように見えなくもなかった。即興の音楽と踊りは、見る/聴く側も想像力が刺激され大変面白いが、演る方は、掛け替えのない訓練になるのだろう。

明日の楽日が楽しみだ。

【楽日 演奏:林正樹(pf.)、佐藤芳明(acc.)、岩川光(quena)、笠松泰洋(oboe)/出演:米沢 唯、渡邊峻郁、福田紘也、中島瑞生】

【初日同様、ブルー系の照明。コスチュームもブルーのTシャツに金の模様付。紅一点の米沢は、鍛え抜かれた美脚が印象的。ケーナやオカリナ(岩川)のメロディは南米の風土を想起させる。ダンサーたちは、密度が濃く温度も高めの空間をゆったり泳ぐように動き踊る。渡邊と中島が積極的に動きを作る。米沢は彼らに呼応して絡んだり、動いたり。岩川が鳥の羽で羽音を作り出すと、ダンサーらは虚空を見上げる。何かが空を舞いあがっていくかのよう。アコーディオン(佐藤)がピアソラばりのフレーズを数回奏するが、他の楽器がさほど乗ってこない。持て余した佐藤から、米沢が音を引き出すような動きを見せる。思わず釣り出される佐藤。こうしたなか、紘也だけが取り残されたようにシモテの壁際でずっと座り込んでいる。ダンサーが働きかけると、紘也は応じず奏者らに「静かにしてもらっていいですか!」。やはり彼はコトバの人だ。ゆったりしたフィクションが壊れかけたが、渡邊や米沢が次々に指を口に立て、恐る恐る離れると、フィクションが保たれる。このあと、紘也も立ち上がり、乗ろうとするが乗り切れない・・・。紘也の言動は、「エア縄跳び」を想起させる。架空の縄を二人で回し、そこへ別の人がタイミングを計り入って飛ぶ、あのゲームである。参加者全員がイメージを共有すると縄があるように見えてくる。が、二人の間を別の人が平然と歩けば、一気にフィクションは壊れるのだ。紘也の意図は分からないが、舞台におけるフィクションのからくりに思いを馳せた(彼は四回の新作上演で、たんに〝頭〟が疲れただけかも知れない)。30日のマチネーではどうだったのか。】