JAPON dance project 2018×新国立劇場バレエ団「Summer / Night / Dream」

「Summer / Night / Dream」の二日目(楽日)を観た(8月26日 14:00/新国立中劇場)。
「Cloud/ Crowd」2014「Move/ Still」2016 に続きこれが三回目。これまでも面白かったが(Cloud/ Crowd)、今回シェイクスピアの戯曲をフレームに用いることで最も纏まりのある作品となった。見応えも十分。

演出・振付・出演:[JAPON dance projectメイン・メンバー]遠藤康行 小池ミモザ 柳本雅寛
振付・出演:[ゲスト出演]服部有吉(元 ハンブルクバレエ団) 津川友利江(元 カンパニー・プレルジョカージュ)
新国立劇場バレエ団ダンサー:米沢 唯 渡邊峻郁 池田理沙子 奥田花純(怪我のため降板) 柴山紗帆 渡辺与布 飯野萌子 川口 藍  益田裕子 原田舞子
美術:長谷川 匠
照明:足立 恒
衣裳:ミラ・エック

セット(長谷川匠)はアテネ近郊の森というより水中のよう。37度超をくぐった身にはその涼感が心地よく、光の乱反射は想像力を刺激した。音楽はメンデルスゾーン以外にも各種サキソフォーンのアンサンブルによる舞曲やバグパイプ風のコミカルな曲等々、選曲が秀逸だった(音楽監修・編曲 井上裕二)。

二つの対照的なカップル。ハーミア(米沢唯)とライサンダー(渡邊峻郁)の踊りは優美なラインで正統的。ヘレナ(津川友利江)とデミトリアス(服部有吉)の方はかなり個性的かつ喜劇的。ミズスマシのようにポワントのまま滑る動きはミモザのトレードマーク。米沢も気持ちよさそうに滑っていた。新国立の女性ダンサーたちの群舞はいつになく(?)みな活き活きした踊り。服部の動きは見ていて楽しい。
道化の市松模様を着たパック(柳本雅寛)は魔法の花汁(惚れ薬)を塗る代わりに仮面を相手に被せる。すると二つのカップルに混乱が生じる。ヘレナ(津川友利江)が恋敵ハーミアの手のひらに頭をこすりつける動きは何度か繰り返されるが、面白い(プレルジョカージュの『ロミ&ジュリ』死の pdd を想起)。なるほど仮面をつけると誰が誰だか分からない。さらに自分が自分にも。アイデンティティが攪乱されるのだ。観客からも正体を隠す仮面の使用は、実に効果的だった。タイターニア(小池ミモザ)が仮面をつけて踊る四つ足の踊りは素晴らしい。トカゲなどの爬虫類(下等動物)を思わせる動きは動物に変身した悪夢か。カフカばりの実存の不安? 夫のオベロン(遠藤康行)が仮面を脱がせてやり悪夢から覚めさせる。原作には、ロバの頭を被った職人ボトム(一番下)に妖精の女王タイターニア(一番上)が惚れ薬で夢中になる場面がある。ミモザの踊りはここから着想を得たのだろう。その後、ほかのダンサーたちも登場し、ヴィヴァルディの「春」を歪めた音楽で、踊る。ほどなく奥から、道化服を脱いだ裸身のパックが登場。仮面もつけず天を見上げながらゆっくりと。やがて服部がダンサーたちの間を縫って直線的な動きで小走りし、中央の柳本からバトンのように仮面を受け被る。
後半は全員裸身のような出で立ちで登場。前半着用した衣装は頭上に吊されている。音楽は結婚行進曲のピアノ版、と思いきや、ここでもすぐにディストートされる(マーラー交響曲第5番冒頭の葬送行進曲みたいだ)。原作では三組の結婚で大団円を迎える。が、ここではそうはならず、アイデンティティの揺らぎから存在の深淵がのぞく。仮面をつけたまま不安定に立つダンサーたち。ひとりが仮面を外して辺りを見回し、また仮面をつけ、内股で両足をワナワナさせる……。ダンサーが間欠的に「プファー!」と声を出すのは、悪夢から目覚めるさまか。このとき前方から鼾が聞こえたが、あれはリアル? それとも効果音?
後半に柳本と米沢は不在だった。カーテンコールでは同じ衣装で出てきたが。狂言回しのパックは分かるとしても、ハーミアが出ない作品上の理由は思いつかない。あるいは、四日後の横浜みなとみらいホールの公演準備で前半部しかリハーサルに参加できなかったのか。
カーテンコールでの新国立劇場ダンサーたちの弾けぶり(特に飯野さん)は印象的。踊ることで気持ちが解放されたのかも知れない。特に後半の、内側が外に出てくるダンスには、精神療法的な効果があるのだろう。それほど普段の古典バレエではこころの表情を抑えて踊っていたということか。
今回は終演後に改めて幕が上がり、舞台美術の撮影が許された。どうせなら、海外のようにカーテンコールを写させてほしい。その方がダンサーにとっても制作側にとってもハッピーだと思えるが。