新日本フィル #562 トリフォニー定演/上岡敏之 本拠地 第一弾【追加】

音楽監督のホームでの初公演を聴いてきた(9月16日 19:00/トリフォニーホール)。コンマスは崔文洙。
新シーズンとあって客席の顔ぶれが少し違う。以前よりご婦人方が多い。ケフェレック目当ての単発客か、それともシーズン客?

モーツァルト交響曲第33番 変ロ長調 K.319

軽やかで美しい音たち。おそらく次のピアノコンチェルトへの前奏として選ばれたのだろう。共に変ロ長調だし。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595

オケの入り。ワクワク感。やがてピアノのアンヌ・ケフェレックが弾き始める。彼女の音は意外にぶっきらぼう、というと言い過ぎか。かつてフォル・ジュルネでショパン等を聴いた感触が残っていたためか、もっと神経をすり減らすような入念さときめ細かさを予想した。が、けっこう思い切りがいい、というか、予想とはかなり異なる印象。年齢的な理由か。とにかく聴き入ったが、頬はさほど弛まず。それでも大きな拍手とブラバー。アンコールは、弾く前に、自身で「ヘンデルメヌエット」と告げた(後の掲示にはケンプ編曲と)。もの哀しい音楽。奥行きを感じさせるとても好い演奏。モーツァルトよりも。ここで20分休憩。

ブラームスシェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op.25(管弦楽版)

不思議な感じ。ブラームス特有の重厚な旋律にそそられて身を任せかけると、シェーンベルクのカラフル(現代的)なオーケストレーションがそれを相対化し、阻まれる。異化効果? 面白い。第二楽章(Intermezzo: Allegro ma non troppo)では少し気を逸らされたが、第三楽章(Andante con moto)で、また厚みのあるうねりが襲ってくる。第四楽章は文字通り「ジプシー風ロンド」(Rondo alla zingarese)。一気に持って行かれた。prestoで始まり、少し遅めの中間部(meno presto)を経て、最後は超特急(molto presto)で駆け抜ける。ハンガリーの民族舞踊(チャルダッシュ)に特徴的なlassan(遅い)/friska(速い)の対比の妙。そこにグロッケンシュピール等のドライな音が加わるから面白い。中間部の終わり頃、クラリネットカデンツァ風のパッセージを披露した。リストの有名なハンガリアン・ラプソディ第2番のオケ版を想起。チャルダッシュの血を沸き立たせるような熱い音楽に、聞き手は体温がどんどん上昇し、フィニッシュ後は大歓声。【書き忘れたが、このオケ版はバランシンが Brahams-Schoenberg Quartet のタイトルで1966年にバレエ化していた。特に終楽章はハンガリアンな踊りが浮かんでくる。一度見てみたい。ちなみに、ニューヨーク・シティ・バレエ団が来日すると必ず新日本フィルがピットに入る。】
何度目かのカーテンコールののち、例によっていきなり指揮台に上がり棒を振り下ろす。アンコールは、案の定、ブラームスのハンガリアン・ダンス第1番。先の四楽章を聴きながら、アンコールするならこれかと期待していた。「ジプシー風」の後味にこの曲は打ってつけ(あとで調べたら同じくト短調)。それにしても、上岡は本当に才人だ。どこまでも音楽的な指揮者(当たり前だが、そうでない人もけっこう居る)。じつに見事にオケを嗾(けしか)け、駆動する。結果、四楽章のコーダやラプソディではヴァイオリン群、特にコンマスの崔が猛烈に弾きまくる。会場は熱いうねりに満たされた。
2009年4月、上岡は新日本フィルを初めて振った。曲目はR. シュトラウス組曲「町人貴族」と「家庭交響曲」だったが、どこかギクシャクしているように感じた。ヴェルディの「レクイエム」(2012年10月)では、特に険悪な感じはなかったが、アルミンクが引き出す明るい温色とは異なる印象を受けた(むろん曲目もあるが)。そして、今年の二度にわたるサントリー定演とトリフォニー定演。今後はどんな演奏を聴かせてくれるのか。とても楽しみ。
ヴィオラオーボエに新たな首席候補者が名を連ねている。少し遡ると第二ヴァイオリンもそうか。ヴィオラサントリーで聴いたが、期待できそう。オーボエも悪くはないが、少し控え目か。オケの顔とも言うべき重要なソロパートだけに、もっと全身的な鳴りが欲しい気もした。
配布される出演者一覧について一言。オケの配列が一目で分かる従来の形式から、矩形のそっけない表に改悪された。大変残念。これではどこに誰が座っているのか把握しづらい。ぜひ元に戻してください。あれは、聴衆を第一に考えるオケならではの美点でした。