『God Bless Baseball』を観た(11月26日 15:00/あうるすぽっと)。
もう一ヶ月近く経ってしまったが、記録としてメモしておく。
作・演出:岡田利規
翻訳:イ・ホンイ
出演:イ・ユンジェ、捩子ぴじん、ウィ・ソンヒ、野津あおい
舞台美術:高嶺 格
衣裳 藤谷香子(FAIFAI)
ドラマトゥルク:金山寿甲(東葛スポーツ) 、イ・ホンイ
舞台監督:鈴木康郎
照明:木藤 歩
音響:堤田祐史(WHITELlGHT)
映像:須藤崇規
宣伝美術:野口路加
制:中村 茜、黄木多美子、ケティング菜々、兵藤茉衣、河村美帆香(プリコグ)
製:プリコグ、チェルフィッチュ
国際共同製:Asia Culture Center – Asian Arts Theatre, フェスティバル/トーキョー、Taipei Arts Festival,FringeArts, Philadelphia; Japan Society, New York; Museum of Contemporary Art Chicago; The Clarice Smith Performing Arts Center at the University of Maryland; Wexner Center for the Arts at The Ohio State University
リサーチ・ワークショップサポート:Doosan Art Center
協力:城崎国際アートセンタ一、急な坂スタジオ、サンプル
Asia Culture Center – Asian Arts Theatre 委嘱作品東京公演
制作:黄木多美子(プリコグ)、岡崎由実子、十万亜紀子(フェスティバル/トーキョー)
主催:フェスティバル/トーキョー
日韓の俳優が男女二人ずつ計四人出演。basemallを、野球文化の自明性を相対化する。野球のルールは実は複雑でわかりにくい。まったく知らない他者に説明してみるとよく分かる(むかし球場でブラジル人に試みたことがあるがお手上げだった)。サッカーのシンプルなルールと比較せよ。イチローのそっくり(捩子ぴじん)が介入。正面上部に設えられた大きなスピーカーのウーハーみたいな物体から聞こえてくる男の「声」。その「声」が英語で日韓での野球の歴史等を語る。baseballへの憬れ。そうならざるをえない歴史的・政治的な理由(プロセス)があった。baseballへの、51番(イチロー)への憬れは、実は「カサ」に入ることと密接に結びついていた。
バットがいかに自分の身体の一部となっているか自慢げに披露するイチロー(?)。今度は、反対に自分の身体の一部を自分ではないものにする「上級編」をやってみせる。手の指が、次に、手首から先が、自分の身体ではないように扱うのだ。次は肘から先が、肩から先が、等々。やがてイチロー(?)がインストラクターとなり、ワークショップみたいに出演者全員でやってみる。ダンス公演のようで実に面白い。自分が自分ではないものになるという状態。これは、アメリカの「カサ」に入ることで生じる〝われわれの現状〟を身体的に翻訳したものだった。しかもほとんどそのことに無自覚。"You are discouraging us. You are encouraging us." 女子B(ウィ・ソンヒ)が例の「声」が出てくる多角形の物体に向かって、ビニールのバットを両手で激しく振り回しながらこの言葉を吐き出す。
イチロー(?)が、白い粉のついたボールを何度も山なりに高く投げ上げる。男(イ・ユンジェ)はビニール傘を差し、落ちてくるボールに当たらぬよう二人の女性(女子Bと女子A=野津あおい)を守る。が、あえて傘から外に出る女子B役のソンヒ。少しグッときた。ソンヒはいい俳優だ。今度はホースで水を山なりに噴射し傘にかけるイチロー(?)。やがて、出演者が交替で正面上部の物体にホースの水をかけ始める。すると肌色のようなものが少しずつはがれ落ちる。これは、「カサ」を覆い隠していたキャラメルコーンではないか。「私を野球に連れてって」の歌詞に出てくる「クラッカージャック」。例の「声」が示唆したように、baseballへの憧れと郷愁を象徴する「クラッカージャック」が、ポップコーンをキャラメルでコーティングしたスナック菓子だったように、われわれを自分ではないものにする「カサ」はbaseballへの作り出された憧れでコーティングされていた。それを、いま、日韓の若い男女が放水により剥ぎ取ろうとしている。露わになった「核の傘」。だが、これはソンヒが言うように「まだ対応する現実がない想像」に過ぎない。それでも、あるべき未来の姿を、生きた人間が身体を使って提示できる点が演劇のよさだろう。韓国人俳優が日本人の役だったり日本人俳優が韓国人の役だったりと、国籍の覆いも無効にする仕掛け。常に前進する岡田利規。彼が創り出す舞台から目が離せない。