文学座9月アトリエの会 別役実『あの子はだあれ、だれでしょね――尼崎連続変死事件より』

別役実の新作『あの子はだあれ、だれでしょね』の初日を観た(9月16日 19:00/文学座アトリエ)。ごく簡単にメモする。

素材の事件がまだ生々しいせいか、さほど抽象度は高くない。ゆえに、「不条理」感よりも、ベタな、とまではいかないが、恐怖や不気味さがかなり優っていた。主犯役の女1(寺田路恵)は、相手がいわんとする言葉のうら側を、即座に言語化して返す。昨今の政治家の受け答え(詭弁)を聞いているようだ。女の言葉そのものは丁寧。その分、次々に「変死」が伝えられたのち、布団タタキで床を叩く女の動作が強い凶暴性を帯びる。女は「留置場」の場面で告白する、「私はやるべきことをやっただけ」と。首の折れたひな人形が不気味。事件の根源は愛情問題? 女3のハナ(長女)を演じた名越志保の、結婚式を前に白粉を塗る場面が秀逸。母――義理の方(女1)の隣に座り、その矛先が自分に降りかかり「被害者」になりつつあるのに、ある意味、淡々と顔を白く塗りながら台詞を吐く。「犯罪」が顕在化する前のありようとさほど変わらない。そこに、不気味さ、面白さがあった。白塗りは死への暗示だろう。
初日ゆえか、台詞の言い間違いが少々。近所に住む三人の未亡人を絡めた部分がいまひとつすっきり来なかった。事件からさらに時間が経てば違うのかも知れない。「あのこはだあれ だれでしょね/なんなんなつめの はなのした/おにんぎょうさんと あそんでる/かわいいい みよちゃんじゃ/ないでしょか」。そうか、名前が「みよちゃん」だからこの歌か。それでひな人形を思い付いたのか。演出は藤原新平。