「日本の劇」戯曲賞2013 受賞 芝原里佳『マッシュ・ホール』

芝原里佳の『マッシュ・ホール』を観た(3月7日 19時/恵比寿・エコー劇場)。

日本の演劇人を育てるプロジェクト
「日本の劇」戯曲賞2013 最優秀賞受賞作品
作:芝原里佳
演出:上村聡史(文学座
美術:長田佳代子
照明:藤田隆広
音響:藤田赤目
衣装:伊藤早苗
舞台監督:尾崎裕
演出部:吉村恵子/西村敏光
演出助手:的早孝起
宣伝美術:印田裕之
プロデューサー:菅野重郎


出演
瀬田:牧田哲也(ワタナベエンターテイメント)
椎名:田川可奈美(クリオネ
徳島:今井聡(芹川事務所
斉藤:木場允視(文学座
聡美:瀬戸さおり(ワタナベエンターテイメント)
吉村:照井健仁(放映新社
加賀:永川友里(文学座
桜:板倉チヒロリコモーション

制作:公益社団法人日本劇団協議会
主催:文化庁公益社団法人日本劇団協議会
平成26年度 次代の文化を創造する新進芸術家育成事業

前日に岩松了の新作『結びの庭』を観たばかりだが、正直『マッシュ・ホール』の方が面白かった。芝原里佳は22歳でこれを書いたのか。
はじめは大学の研究室という場面設定や出入りの激しさから平田オリザの路線かと思いきや、中身は全然違った(作劇は平田の『演劇入門』に学んだかも知れない)。飲み会や論文や恋愛等々。学生間ではよくある対話にいつの間にか新興宗教の話が混ざっている。それが彼らの関係性へキノコ(マッシュルーム)菌のように入り込み、増殖し、ついには殺人まで惹き起こす。すべてはささやかで平凡な幸福のため。受け身で三枚目の徳島(今井聡)が、二枚目の瀬田(牧田哲也)に惚れていた椎名(田川可奈美)といつの間にか同棲し、揚げ句、その友人瀬田を穴に突き落とす。つまり、他の登場人物たちからエネルギーを一身に受けていた平凡な男(徳島)が、観客の感情移入を担う〝ヒーロー〟(瀬田)を最後に抹殺するのだ。直後に数珠を数え経文を唱えるシーンにはゾッとした。
壁に貼られたポスターの背後の穴(ホール)も、日常に穿たれた、深淵へと通じる入り口のようで不気味。聡美と斉藤(木場允視)の対話(争い)の場面で壁面や天井に映し出された複数の影も効果的。聡美(瀬戸さおり)の洗脳されぶりはとてもコワイ。発展家の加賀(永川友里)と会社をサボった桜先輩(板倉チヒロ)がロッカー内にしけ込むシークエンスは『フィガロの結婚』のパロディか。面白い。演出はサルトルの『アルトナの幽閉』(新国立小劇場)を手掛けた上村聡史。役者はみな適材適所のキャスティング。演技も清新で好感をもった。前半は回を重ねればもっと笑いが取れるだろう。
この作者は簡便なメディアが溢れる時代に不自由で面倒くさい演劇の特性をよく心得ている。キレのある日常的な対話から、オウムのようなカルト教団へ引き込まれうる若者の危うさが見事に表出されていた。ただ演出家によれば、初稿から三分の一をカットしたとの由(パンフレット)。なるほど、配布された第一稿の登場人物は10名だ。今回62歳の「教授」と50歳の「田中荘生」(教団の開祖)の部分は削除されている。カットなしのオリジナルを上演したらどうなるのか。それも見てみたい。