新国立劇場オペラ研修生によるオペラ・ガラ・コンサートを聴いた(12月23日 14時/新国立中劇場)。
出演:オペラ研修所研修生第15期生、第16期生、第17期生
ピアノ:河原忠之(オペラ研修所音楽主任講師)
オペラ研修所長:永井和子
モーツァルト作曲『フィガロの結婚』より「5、10、20」、「奥様がお呼びの時は」
フィガロ:大野浩司(バリトン)/スザンナ:竹村真実(ソプラノ)
大野を四ヶ月まえ初めて聞いたとき次はモーツァルトで聴きたいと思ったが、早速叶った。期待どおり温かみのある歌声。竹村もスザンナのキャラをよく出していた。
悪くないが、少し声に濁りが感じられた。体調か。
フランス語の発音は難しいと思うがよく歌っていた。
モーツァルト作曲『ドン・ジョヴァンニ』より「行って、むごい人、行って!」
ドン・オッターヴィオ:水野秀樹(テノール)/ドンナ・アンナ:原 璃菜子(ソプラノ)
ピアノの力もあるが、楽曲の素晴らしさがよく伝わってきた。二人とも悪くないが、水野はもっと感情が表に出てもよい。原は高い弱音でもっと伸びが出るとさらによい。
ドニゼッティ作曲『ドン・パスクワーレ』より「あの騎士の眼差しは」
ノリーナ:種谷典子(ソプラノ)
歌唱、身体性、衣裳、身振りが一体となり音楽を作っていた。ピアノもノリノリで素晴らしい。
新国立の本公演ではカットされるこの難曲によくチャレンジした。アジリタもなかなかのもの。ロッシーニ向きの、シラグーザを想わせる晴朗な声。聴いていて心が躍った。
プッチーニ作曲『つばめ』より「ドレッタの美しい夢」
マグダ:飯塚茉莉子(ソプラノ)
河原のピアノは一気に光り輝くゴージャスな世界を現出させた。この曲を聴くと、E. M. フォースター原作の映画『眺めのいい部屋』(1986)で使われたキリ・テ・カナワの歌声が甦る。
オペラの香りを放つ練達の伴奏に支えられ、懸命に歌う若者たちに思わずグッときた。
[休憩]
声はよく出るが感情の表出が若干モーツァルトの様式をはみ出し気味か。
変な癖がなく素直でよいと思う。ただ、このアリアで聴かせるには声質やニュアンス等でプラスアルファが欲しい。
力まず発せられるやわらかな歌声が気持ちよく響く。スケール感もあり、日本にはめずらしいタイプ。ピアノもノッていた。
R.シュトラウス作曲『ばらの騎士』より三重唱
元帥夫人:飯塚茉莉子(ソプラノ)/ゾフィー:城村紗智(ソプラノ)/オクタヴィアン:高橋紫乃(メゾソプラノ)
三重唱では、16列中央では近すぎたか、三声があまり調和して聞こえなかった。二重唱になって、はじめてハーモニーの霊妙な響きが立ち現れた。メゾの高橋は密度の濃い中音で音の輪郭がくっきり感取され、素晴らしい。城村はゾフィーにぴったりの甘い歌声。立体的かつドラマティックなピアノも聴き応えがあった。
マスネ作曲『マノン』より「甘い言葉をかけてきたら従えばいいのよ」
マノン:清野友香莉(ソプラノ)
表現力が素晴らしい。コロラトゥーラのテクニックもなかなかのもの。音色にいっそう艶が出せればよっとよくなる。
力みで音程が少し歪みがち。声量はあるのだからもっと楽に歌ってもよいのでは。
いわゆる〝発表会〟とはひと味違う。プログラミングが絶妙で「オペラ・ガラ・コンサート」の名に恥じない内容だった。出演者はみな堂々とした立ち居振る舞い。安易に観客に媚びず、プロ意識を感じさせる。今後が楽しみだ。河原は、音楽主任講師の立場から少し抑制気味だったかも知れないが、期待にたがわぬ素晴らしい伴奏を聴かせてくれた。ひとつ気になったのは観客聴衆の反応。総じて後方からは大きな拍手や喝采が聞こえたが、私の周囲ではあまり拍手をしない。というか、叩く手にメリハリがない。この人たちは本当に聴いているのか。舞台は客席と共に作り出すもの、という認識がもっと広く共有されるとよいのだが。その意味では、聴衆も〝研修〟が必要かも知れない。