F/T14 さいたまゴールド・シアター『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』

さいたまゴールド・シアターの『鴉よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる』を初めて観た(11月23日 18時/にしずがも創造舎)。

作:清水邦夫
演出:蜷川幸雄
演出補:井上尊晶
出演:さいたまゴールド・シアター、さいたまネクスト・シアター
美術:中越
照明:藤田隆広
音響:友部秋一
衣裳:田邉千尋
ヘアメイク:佐藤裕子
擬闘:栗原直樹
演出助手:藤田俊太郎、塩原由香理
舞台監督:山田潤
プロダクション・マネージャー:山海隆弘
制作:松野 創・高木達也(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団)、十万亜紀子(フェスティバル/トーキョー)
企画・製作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
主催:フェスティバル/トーキョー

ペルトの「鏡の中の鏡」が流れる。幕が開くと、例の水槽を思わせる透明のボックスに老婆たちが身体を折り曲げて入っている。その中から「鴉よ・・・」の言葉が聞こえてくる。はじめは一人ずつ、やがて全員で。そこへ二人の若い男が階段席の通路から舞台へ乱入し、ボールを投げては受け取る動作を繰り返す。が、そのボールが上手の袖へ逸れ、ガラスが割れる大きな音。舞台はたちまち裁判所の法廷に転換する。鮮やかな場面転換は蜷川演出の魅力のひとつ。あっと驚く心地よさ。二人の若者が裁かれている所へ、二人の祖母の鴉婆と虎婆が入廷し、その後、大勢の老婆たちが客席の通路を降りてぞろぞろと入ってくる。みな背中に遺影を背負っているが、これは亡夫か、子供の写真は早世した孫か。老婆たちは法廷に茣蓙や毛布を敷いて煮炊きをしたり、団子を食べたりで、たちまちそこを占拠してしまう。仏壇と化した『NINAGAWAマクベス』で両袖手前に座る老婆を思い出す。やがて、鴉婆と虎婆は、裁判官や検事らの権威を笠に着た男たちを裁き、死刑判決を下す。大事な人質の彼らをナイフで刺殺、あるいは棒で撲殺するのだ。挙げ句に若者も。老婆らは当局の突入に備えてバリケードを築くが、結局、銃で皆殺しにされる。ただ、その直前、老婆たちは瞬時に若者たちに変わった。若者たちが皆殺しにされたのだ。あっと思った。
台詞の多い鴉婆を田村律子(75歳)が好演。虎婆を演じた最高齢の重本恵津子(88歳)は声に艶がある。最後まで生き残る弁護人の葛西弘(83歳)は文字通り裸の演技。
清水邦夫の芝居はさほど見ているわけではないが、ちょっと苦手。よく分からない。祖母(虎婆)と孫とのエロス的な関係はどうなのか。作品が初演された当時(1971)の若者といまの若者とでは当然ながらズレがある。そのためネクスト・シアターの役者が反抗する若者のコトバを吐いてもリアリティはない。ラストで反抗する老婆たちがネクスト・シアターの若者に変わるのは、鴉婆が言うように孫たちを〝喰って〟若返ったというよりも、ネクストの若い彼/彼女らに、この老婆たちのような反骨精神をもってほしい、当局に銃で皆殺しにされるだけの反抗者であってほしいという、蜷川幸雄の願いなのではないか。見ていてそう感じた。
チラシを見ると、彼らは一週間前に香港で三公演を終えてきたらしい。いまなお反政府デモで揺れる香港の当局は、法廷を占拠した老婆(若者)たちがまさに当局によって銃で殺戮される舞台をよく受け入れたものだ。現地の反応はどうだったのか。