パオロ・ファナーレ テノール・リサイタル

昨日やっと懸案の一件にひと区切りついた。溜まったメモを少しずつアップしていきたい。
パオロ・ファナーレのリサイタルを聴いた(10月1日 19時/紀尾井ホール)。本来は1月28日の予定が「本人の都合により」この日に振替延期となった。新国立劇場で16日から出演の《ドン・ジョヴァンニ》に合わせたかったらしい。

ファルコニエーリ:おお、限りなく美しい髪よ
A.Falconieri : O bellissimi capelli
スカルラッティ:私を傷つけないで
A.Scarlatti : O cessate di piagarmi
グルック:おお、私のやさしい熱情が
C.W.Gluck : O del mio dolce ardor
ジョルダーニ:カーロ・ミオ・ベン
T.Giordani : Caro mio ben
カッチーニ:麗しのアマリッリ
G.Caccini : Amarilli, mia bella
トスティ:魅惑 / 君なんかもう
F.P.Tosti : Malia / Non t’amo più
ベッリーニ:優雅な月
V.Bellini : Vaga luna che inargenti
    :私のフィッレの悲しげな姿
    :Dolente imagine di Fille mia
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モーツァルト:《ドン・ジョヴァンニ》〜“彼女の安らぎこそ私の願い”
W.A.Mozarto : «Don Giovanni» 〜 “ Dalla sua pace”
     :《コシ・ファン・トゥッテ》〜“いとしい人の愛の息吹は”
     : « Cosi fan Tutte» 〜 ““Un’aura amorosa”
     :《魔笛》〜“なんと美しい絵姿”
     :«Flauto Magico» 〜 “Dies Bildinis ist bezaubernd schön”
     :《皇帝ティトゥスの慈悲》〜“皇帝の主権にとって親しい神々よ”
     :«La clemenza di Tito» 〜 “Se all’ limpero amici dei”
ドニゼッティ:《愛の妙薬》〜“人知れぬ涙”
G.Donizetti : «L’elisir d’amore» 〜 “Una furtiva lagrima”
グノー:《ロメオとジュリエット》〜“ああ、太陽よ昇れ”
C.F.Gounod : «Roméo et Juliette» 〜 “Ah! léve toi soleil”

ピアノ:浅野 菜生子
Pianoforte:Naoko Asano

主催:東京プロムジカ
協力:アリタリア-イタリア航空

前半は曲が書かれた時代や様式に合わせ、抑えた歌唱が目立った。というか、つねに丹念に美しく歌う。そのため、いずれもテンポはゆったりめ。なかでもグルックのドラマティックな歌づくり、ジョルダーノの美しさ、トスティの静謐さが印象的(トスティでは拍手が少しフライング気味だったのは残念)。ベッリーニも素晴らしかった。
後半はモーツァルトの三つのアリアで魅せた。さすがに聞き応えがある。特に、昨年ファナーレを初めて聴いた《コシ・ファン・トゥッテ》のアリアはグッときた。さびでドラマティックな重量が加わる歌唱は、昨年もそう思ったが、必ずしもモーツァルト的とはいえないのかも知れない。でもファナーレの魅力はそこにある。ただ、オペラでは指揮者がこんなにたっぷりしたテンポは許さないだろうが【その後新国立劇場で《ドン・ジョヴァンニ》を振ったラルフ・ヴァイケルトはそれを許していた!】。ドニゼッティの「人知れぬ涙」では、例のルバートで強く響かせた後、思いっきり弱音でつなぐ。一瞬、途切れるかと思うほど絶妙なピアニッシモ。このときの水を打ったような沈黙はとても美しかった(一階後方の左で聴いたが、その右側から断続的に聞こえていたチラシを触るノイズがこの時だけ止んだ。この御仁が耳を澄ませたのはこの曲だけなのか)。《皇帝ティートの慈悲》のコロラトゥーラは、ピアノ伴奏同様、いまひとつ。速いテンポの音楽はあまり得意でないようだ。グノーの《ロミ・ジュリ》はダイナミックな歌唱で本領発揮。
アンコールの一曲目はトスティの「カワイイ口元」で軽く歌う。二曲目は《ラ・ボエーム》の「冷たい手を」。素晴らしい。やはりファナーレはこっちか。三曲目の「オー・ソレ・ミオ」ではサービス精神たっぷりに会場を沸かせた。最後は《リゴレット》の「女心の歌」。尻上がりに強い歌唱も聴かせたが、なにより美しさを優先させる丁寧で柔らかな歌いぶり。昨年6月《コシ・ファン・トゥッテ》の代役時より、さらに自信を深めて歌っていた。今度はいつ聴けるだろうか。